「2025年の崖」から落ちる物流システム
―― どのようにデジタルツールを導入していくか
佐々木 宮田さんにぜひお聞きしたかった点があります。レガシー領域のDXという文脈の中で、どうやってデジタルツール、ソフトウェアを入れていくかという論点です。スクラッチ(手組)なのか、パッケージなのか、それともクラウド型で提供するのか。これまでパッケージを推進してきたのがSAPさんでしたが、現在はクラウド型で展開されています。Hacobuもクラウド型で提供しています。パッケージであれば個社ごとにパッケージのカスタマイズが可能でしたが、クラウドになるとカスタマイズできる部分が少なくなると思います。クラウド型で個社対応するとコストが上がり、ユーザーメリットが提供されにくくなるからです。SAPではどのように考えているのでしょうか。
宮田 重要なご指摘ですね。例えが適切かどうかわかりませんが、住宅の建売を例に考えてみましょう。最大公約数で仕上げたけれども全く増改築できないツーバイフォー、それがいうなればSAPの従来のERPです。これだと同じ規格の建物か、もしくは世界に1棟だけの建物か、という選択しかできませんでした。しかし今は外付けできる何万個もの部品があり、色やデザインも多種多様に用意しています。中心部分は変えることなく、外付けできる部品でカスタマイズしていく。これをIT用語で「開発プラットフォーム」と呼びます。そして、この住宅の隣に離れを作ろうとすると、そこは部品でつなげてビジネステクノロジープラットフォームとします。これにより40年の実績を積み重ねたSAPのビジネスプロセスの塊である中心部分を変えずにクラウド化することができます。
佐々木 よく理解できます。現在周りのシステムとの連携とかで、経営者の方たちからも「APIで連携すればよいのでは」と簡単に言われます。認証はどうするのかといったような細かいところを考えていくと簡単ではないんですね。連携していると言っても、CSV(Comma Separated Value)ファイルで取り込み、それをこっちでアップロードして連携しました、なんていうのも連携と言ったりしているわけです。それだと本当のリアルタイム連携とは言えません。今回SAPさんと連携させてもらった部分は、まさにAPI連携なんですね。SAPの受注モジュールに受注が入ると、在庫引き当てされ出荷指示が出ると、MOVO Vistaにプッシュで送られてくるという連携です。こういうAPIをたくさん用意されていること、そこの部分は本当に驚きました。部品として出来上がっているわけですから。
<MOVO Vista とSAP S4/HANAの連携についての動画>
<MOVO Vistaについて>
https://movo.co.jp/movo-vista
宮田 APIとはどちらかというと、準備しておくものもあれば、必要に応じて作ることもあります。Hacobuさんと連携するときには、以前に作成したAPIを使用しました。我々は何か新しいERPのシステムを作るというよりは、外側とちゃんとつながる仕組みを作るほうが重要な開発のミッションだと思っています。
佐々木 一方で、スクラッチや、昔のテクノロジーで情報システムを作ってしまうと、APIで簡単にはつながりません。いまだにそのレベルで作っている物流システムは多いですね。今後やっていく中で、とても大事なことがDXだと思っています。いろいろなモノがソフトウェアでつながる時代に、そこから取り残されてしまいます。2025年まで残ってしまうといった会社がでてくると、物流に関わる企業の競争力に大きな影響を与えることになります。
宮田 そうですね。経済産業省の「2025年の崖」では、7割の企業が崖を落ちると指摘していますね。なぜかというと、企業内の物流機能を含めたシステムの再構築ができなくなるからですね。外の世界のシステムが変化しており、見直さなくてはならないし、業務自体も変わるかもしれません。そういったところまで想定していかなければなりません。再構築しようにも、相互依存性が高すぎて、手を付けられない会社が7割あるということで、崖から落ちるというストーリーなのです。
佐々木 ロジスティクスの周りは特に深刻ですね。このままいってCOBOLのメンテナンスしている人たちも退職しますとなると、システムが止まりモノを運べなくなります。本当は経営アジェンダとして、ロジスティクスの仕組みをどうするのかを経営者が考えなければならない、そのフェーズまできています。
宮田 その通りですね。基幹システムはそれでもまだ予算が付きやすいのですが、部門向けのシステムだと「そんなにお金を掛けなくてもいいじゃないか」と。そうではなくて、組み込まれ、絡み合っているものの一部だからこそ見直しが必要なんです。絡み合った部分を解決するためには全体を見なければならないということですから、経営者にとっては本当に分かりにくいことだと思います。