あらゆる規模・業種の企業にとって、サイバー攻撃からシステムを完全に防衛することは困難な時代となった 。物流業界もその例外ではなく、膨大な商材を預かる倉庫・物流センターの心臓部である「WMS(倉庫管理システム)」が停止した際の影響は、経済全体に波及しかねないほど甚大だ 。こうした差し迫る脅威に対し、長年蓄積した技術ノウハウと絶え間ないアップデートにより、盤石な安定稼働を提供し続けているのが、1992年創業のシーネットである 。クラウド型WMSで豊富な実績を誇る同社は今、巧妙化するサイバー攻撃への即応体制を強化するとともに、AIを活用した自律的な次世代システムの構築を加速させている 。安定したセンター運営を司るWMSの真価と変革への展望について、同社の佐々木孝洋 執行役員に詳しく聞いた 。
(取材日:2026年3月24日、於:千葉市内シーネット本社)
単一障害は約10分、複合障害でも
1時間以内の復旧を想定した運用体制
―― 近年はサイバー攻撃を受けた物流事業者やメーカーに大きな被害が出ており、流通・物流の分野でもシステムに対するセキュリティーへの要求が以前にも増して高まっていますが、御社ではどのように対応されているのでしょうか。
佐々木 近年、サイバー攻撃に関するお問い合わせは極めて多くなっており、当社でも対策を一段と強化しています。
特に注力しているのが、ランサムウェア攻撃への対応です 。攻撃を受けても防御するための基本的な対策はもちろんしています。ただ、万一攻撃をうけてしまった際、バックアップが不十分では復旧の可否さえ不透明な状況に陥りかねません 。そのため、迅速な復旧を最優先し、バックアップを複数の場所かつ多世代で保持する体制へと刷新いたしました 。これは大規模災害でデータセンター障害などの際の事業継続にも有効です。
また、これらを実現するために明確なサービスレベル目標を策定しており、毎月の監視運用を通じてその遵守を徹底しています
―― サービスレベルとは、具体的に水準が規定されているのでしょうか?
佐々木 ケースにもよりますが、基本的に稼働率については99.9%以上であることが最低限のラインだと思っています。仮に予期せぬ障害があったとしても、単一障害であれば10分以内、複合障害であっても1時間以内に復旧する、というような指標を設け、それを前提としたサービス設計・運用を実行しています。
それでもどうしても全てが100%という訳にはいかないのですが、細かく一つ一つを追究し、レベルを上げていく不断の努力をしています。
―― 近年のWMSが担う役割、求められる機能などに変化はありますか?
佐々木 実を言えば、WMSが担う「入荷・在庫・出荷」という基本オペレーションや、マテハンへのデータ連携、実績管理といった一連の流れは、長年大きな変化がなかったのが実情です 。しかし、今まさに私たちはAIの活用によって、この「変わらなかった常識」を根底から覆そうとしています。
今、特に注力しているのが「AIエージェント」の導入です。単に効率化するだけでなく、システムが自ら判断し、人間が画面を操作せずともデータをコントロールできる。あるいは、現場の人間が次に何をすべきかをAIが即座に提示してくれる。そうした、自律的に動く次世代のWMSを目指して研究開発を加速させています 。
将来的には、WMSの膨大なデータをAIが解析し、経営層が必要とする判断軸や報告書を自動生成するような、経営の意思決定に直結する役割も担わせる方針です。
WMSはもはや単なる「管理ツール」ではなく、AIによって現場と経営の両方を支える「インテリジェントな基盤」へと進化していくべきだと考えています。
輸送管理分野への拡張も想定
―― 今後注力されたい分野、高まると想定されるニーズなどについて教えてください。
佐々木 当社の成長を牽引する戦略的ドメインは、やはり食品流通分野です 。特に消費者接点に近い「下流工程」のオペレーションには長年の知見があり、現在は3PL事業者様を含め、数多くのプロジェクトが進行しています 。この分野でのシェア拡大は、今後も当社の最優先事項として推進してまいります。
また、最近の顕著な傾向として、小売業や外食チェーンの本部自らがシステムを保有し、物流をコントロールしたいというニーズが急速に高まっています 。こうした荷主企業様側からの引き合いが非常に増えており、営業部隊としても、お客様が主体的に物流を管理できる体制構築を強力に支援しています 。
―― 小売・外食の本部が、自社で物流の主導権を握ろうとする背景には何があるのでしょうか。
佐々木 物流に対する要求水準が高度化し、経営戦略における物流の重要性がかつてないほど高まっていることが背景にあります。
物流業務を外部に委託する場合、現場の生産性やコスト構造が見えにくくなる「ブラックボックス化」は従来からの課題です。
ただし、情報や運用を一方の主体が過度にグリップする状態は、3PL事業者にとっても運用の柔軟性や付加価値創出の観点でリスクとなる側面があります。
こうした背景から、荷主・物流会社が対等な立場でデータを共有し、共通の基盤のもとで可視化・改善を進めていく、いわば協調型の物流運営へのシフトが求められています。
現在、多くの企業様が目指しているのは、まさにこのような「自律的な物流ガバナンス」の確立であり、私たちのシステムがその基盤として選ばれているのだと自負しています 。
不確実性が増す時代でも 組織で対応し安定運用を
―― CLO(物流統括管理者)設置義務化の時代に突入していく中で、物流関連のデータは経営層こそきちんと把握する必要がありますね。
佐々木 そうですね。「ci.Himalayas/Compass」という物流KPI分析のサービスがあるのですが、これがまさに戦略的なデータ把握の領域をカバーしていくものだと思っていますし、AIが自動的に報告書を作成するようなことも想定しています。
―― 世界情勢が不確実性を増す中、システムを安定的に稼働させるのは大変な苦労が予想されます。
佐々木 お客様へ永続的にサービスを提供し続けることは、当社の責務です。現在、全国1400以上の物流センターが当社のシステムで稼働しており、一瞬の停滞も許されません 。
世界情勢を含めた不確実性が増す中で、真に安定的なインフラを提供するためには、システムという技術基盤の強靭化だけでなく、それを支える「人」と「組織」の強化が不可欠であると考え、ここ数年、特に注力してまいりました 。
―― 不確実な時代だからこそ、組織の力で安定供給を全うするという使命感ですね。
佐々木 その通りです。組織づくりには並々ならぬこだわりを持って取り組んでいます 。もちろん、まだ改善すべき点や成長途上の部分はありますが、属人的な対応に頼るのではなく、あくまで「組織」として最適解を出し続ける体制への移行を断行しています 。
―― 社内業務におけるAI活用についても、積極的に進めていらっしゃるのでしょうか。
佐々木 はい。すでにAI活用のための環境を整備し、実務への導入を始めています 。現在はこれをいかに「社内の標準的な仕組み」として定着させるかが重要なテーマです 。現在は個々の効率化の段階ですが、今後は提案・要件定義・設計・開発・テスト・運用・サポートなどの工程にオペレーション上のルールとして組み込み、組織全体の生産性を飛躍的に向上させていく計画です 。
一歩ずつ着実な積み重ねが必要ではありますが、AIを武器にした新たな組織像を構築していきたいと考えています 。
―― 生活や経済の基盤である物流を、WMSの安定運用を通じて支え続けていただけることを心強く感じます。本日は貴重なお話をありがとうございました。
■シーネットHP
https://www.cross-docking.com/
AIデータ/大手から中小企業まで、物流AI基盤のデータ連携を加速



