特積みや貸し切り貨物など、全国ネットワークを生かしたトラック輸送をベースにしたビジネスを基盤に、近年はロジスティクス事業にも力を入れている西濃運輸。その西濃運輸の持ち株会社であるセイノーホールディングス(HD)では、「オープン・パブリック・プラットフォーム(O.P.P.)」を旗印に、業種・業態を超えて土地や建物、車両などのリソースを共有・活用して効率的で持続可能な物流プラットフォーム構築を進めている。2019年にはコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を立ち上げ、スタートアップへの支援を進めており、これまで38社に出資を実行。出資した企業とのプロジェクトには、自動運転トラックやドローンなど社会実装の段階に入りつつある技術やソリューションも少なくない。セイノーHDでCVCをはじめとするオープンイノベーションを担当する河合秀治専務執行役員にスタートアップ支援の背景や狙い、成果などについて聞いた。(取材日:2026年3月25日、於:都内メディアビズ本社)
「特積みだけで生きていくのか」
問いかけた先に見えたCVC設立
―― トラックの特積み事業などを軸にビジネスを展開されてきた西濃運輸がグループの中心的な存在となっているセイノーHDですが、どのような流れでスタートアップへの支援を行うことになったのでしょうか。
河合 10数年前のセイノーグループは、「今後も特積みだけで生きていくのか」という強い課題認識のもと、ラストワンマイルやコールドチェーンなどの会社を少しずつ取り込んでいる局面にありました。そうした中、外部の方々と一緒にオープンに取り組む必要があるではないかとの判断に至り、いわゆるスタートアップファンドに資金を預けるというアクションを起こしたのが2016年でした。
外部から提案をいただきながら約100社とプロジェクトの検討を進めてきましたが、プロジェクトごとに予算を確保する必要があるなど、スタートアップとの協業に求められるスピード感に十分にこたえきれない場面もありました。
CVC(Corporate Venture Capital)は、事業会社が自己資金でファンドを組成し、シナジー(相乗効果)を目的として未上場スタートアップへ出資・支援を行う活動。財務的リターン重視のVCとは異なり、本業との関連性や事業連携を重視して投資を行う。
さまざまな方法を検討した際に、メーカー系などのオープンイノベーションやスタートアップ投資では、CVCが活用されているケースが多いということが分かったので、これを実行してみようということで、2019年の12月に第1号ファンド「Logistics Innovation Fund(LIF)」を70億円規模で組成しました。
2023年には第2号ファンドとなる「Value Chain Innovation Fund」(VIF)を100億円規模で立ち上げ、今はCVCとして二つのファンドを用意しています。
―― CVCファンドによってどのような企業の成長につながりましたか。
河合 LIFについては、2018~19年にかけて進めていたプロジェクトも数件あったことから、物流系のスタートアップに相当出資しており、現在では「NEXTユニコーン」との評価を受けるようになった企業にも出資しています。そのほか、駐車場の管理クラウドや物流プラットフォーム、国際物流DX、人材マッチング、配送最適化などの領域で、現在では広く認知されるようになった企業の成長を後押ししてきました。
VIFでは、物流周辺も含めたバリューチェーン全体の領域へ投資範囲を広げていこうという考え方で進めてきています。
―― これまでに出資した企業の件数はどの程度でしょうか。
河合 現在までに38社に出資をさせていただいていており、1か月に1件程度のペースで増えているという感じですね。このペースで増加している背景には、やはり直接投資ではなくCVCファンドによる出資に切り替えたことで、プロジェクトに入るまでの期間が圧倒的に短くなったことがあると思います。
コロナ禍では、多くのファンドで投資活動が一時的に停滞する動きも見られる中、われわれのファンドは継続的に出資を実行し、並行してプロジェクトも着実に推進してきました。その結果、この期間を通じて出資・共創のスピード感を高めることができたと思います。
出資先の選定では、経営者の
信頼感と創出シナジーを重視
―― 出資先を選定される時に重視される点は、どういったところでしょうか。
河合 大きく二つあり、一つは経営者の資質です。スタートアップですので、途中で方向転換や軌道修正をすることもありますし、うまくいかないことも出てきますので、経営者に信頼感があるかどうかという部分は重要視します。
もう一つは、やはり私どもの事業とのシナジーや新しい価値をどう創出できるかという点です。資金面でのリターンも大事ではありますが、事業シナジーを生み出すために、しっかりと議論できる相手かどうかという部分は重要なポイントとして見ています。
中には販路紹介や営業支援への期待が先行するケースもあり、そうしたこともシナジーの一部だとは思いますが、一緒に何か新しいものを作るなり、新しいプロジェクトを作って世に出していく。それが「業界の効率化につながる」「働く人が楽になる」「荷主が喜ぶ」「社会のためになる」、そういったアウトプットにつながっていくことが重要だと考えています。
<出資先の一つであるT2の自動運転トラック(右)と西濃運輸のトラック(左)>
―― すでに実用化に近づいている技術、サービスもかなり出てきていますね。
河合 分かりやすいところですと、VIFの出資先であるT2が自動運転のプロジェクトを進めていますが、すでにレベル2(ドライバー監視のもとに行われる特定条件下での高機能自動運転)で高速道路を運行しています。
「実際に顧客の荷物を積んで自動運転をしています」と説明すると驚かれることも多いですが、かなり現場に組み込まれていて、T2が2027年ごろに実現を目指すレベル4(完全自動運転)も現実味を帯びてきていると感じています。
東京~大阪間では現在、1日当たり何百本とセイノーグループの定期便が走っており、無人化が実現すれば、時間も関係なく休憩も取らずに、トラックが動き続けることができます。そうすると、顧客から出荷をしていただくタイミングや、倉庫のオペレーションなどが変わる可能性もあり、見方を変えるとわれわれが爪はじきにされる恐れだってある。ですので、「大変革が現実のものとなることを見据え、今のうちからオペレーションのあり方を一緒に考える必要がある」という発想で、取り組んでいます。
毎日運行することでデータが蓄積していきますし、高速道路の点群データもおそらく世界トップクラスで保有しています。たとえ海外企業が参入してきたとしても、「日本の高速道路では負けない」という強みになるわけです。
自動運転もドローンも
同業他社などとともに
―― 自動運転トラックの実用化は特積み運行事業者にはメリットが大きいですね。
河合 同業間の差別化軸も変わってきますので、自動運転に関しては最初から同業他社に声を掛けて、同じ技術で最初からみんなで相乗りしていこうというプロジェクトの建て付けになっています。
T2は当初、自動運転の技術だけではなくて、運送というサービスもセットで提供しようと計画しており、次世代の運送会社になる可能性もありました。そうなるとライバル関係になりますので、一緒にやったほうがいいだろうということで、出資を決めたという側面もあります。
<エアロネクストがプロドローンと共同開発した「4D GRAVITY」搭載の物流専用ドローン ※出典:エアロネクスト>

―― 自動運転以外で実用化に近づいているものはありますか。
河合 エアロネクストというドローンのスタートアップですね。2021年ごろからプロジェクトをいろいろと展開し、過疎地域でのドローン輸送などを一緒に進めています。
機体メーカーのように捉えられることも多いですが、「空のインフラ提供会社」という感覚です。例えば、「4D GRAVITY」という、機体内貨物の重心制御技術に関する特許を保有していますので、こうした特許をそれぞれの機体に埋め込むというビジネスモデルですね。
ドローンの機体がどこのメーカーのものかというようなことよりも、空の道だとか、着陸ポイントなどを含めた全体のマネジメントが、エアロネクストのビジネスの肝になっています。
ドローン運航では、1人が遠隔で5機まで監視することができますから、山梨県小菅村に管制の拠点を置き、北海道や北陸など全国のドローンを見ています。今後は、20機ぐらいまで遠隔で見られるような状況になってくると思いますので、そういう領域をエアロネクストが受け持つことになるものと考えています。
ただし、現時点ではドローンが軽自動車の代わりになるかというと、まだ難しい面があります。軽自動車は350kg積める一方、ドローンの積載量は10kg程度ですし、機体価格も高い。そうすると、何度も往復しなければならず、採算も合いにくくなってしまいます。
このあたりについては、車の方が効率のよい輸送と、ドローンの方が向いている輸送、これらをうまく織り交ぜて生産性や採算を判断するという取り組みを各地域でやっています。
先日、新たに策定された総合物流施策大綱の中には「ドローン」という単語が多く入っていますが、これはエアロネクストとわれわれで進めてきたロビイングの成果の一つと認識しています。
山梨県小菅村とともに2021年から実施している取り組みをベースにした自治体とのドローンの社会実装が、「物流の集中改革期間」に位置付けられている2030年までに国土交通省としても必要だ、ということを認めていただいたのだと捉えています。
ドローンについてもT2の例と一緒で、オープンな取り組みとして、同業他社と連携しながら共同配送の形で進める枠組みになっています。
AIで集配ルートを効率化
現場とのすり合わせ欠かせず
<AIの活用による配送効率化の効果を強調する河合専務執行役員>

―― AI関連はいかがでしょうか。
河合 オプティマインドは、名古屋のスタートアップですが、AIを活用した効率的な配車組みや、どういうルートを回ると無駄が少ないか、というようなシステムの開発・運用に取り組んでいます。
われわれのBtoBの輸送網は、平日に荷量が多く、顧客が休んでいる土曜日と日曜日は物量が下がります。物量に合わせて、平日より少ないドライバーで平日と同じエリアの配達をすることになりますが、その場合3~4コース掛け持ちになってしまうんですね。そうすると1つのコースは自分の担当なので全部覚えていても、3コースになると、どんな順番で回っていいか分からなくなる。
こうした場面で、オプティマインドの仕組みに最適ルートを出させて、順番に積み込みをしてから支店・営業所を出ていくと最も効率的にナビゲーションしてもらえる、というわけです。
最初は、「AIに配車なんか」という感じで現場のドライバーたちは見ていたのですが、いざやってみると簡単に効率化できるということがすぐに理解される。一般的なナビゲーションシステムだと、中央分離帯のことは意識せずに距離でルート作成してしまいますが、オプティマインドの仕組みでは、左側に止められるような順番を組める機能なども備えています。
先輩ドライバーの教えとAIをうまく組み合わせて最適解を出す。オプティマインドのスタッフも現場に張り付いてくれて、どんどん現場に即したシステムにレベルアップしている感じですね。
―― 関係者間での情報交換はどのように行っているのですか。
河合 例えばT2ですと、自動運転トラック輸送実現会議という場があって、ここには同業他社や学識経験者もいらっしゃいますし、セイノーHDのメンバーも入って議論しています。セイノーHDのメンバーにとっては、同業他社の話を聞くことができますし、最新鋭のテクノロジーについても目の当たりにしますので、「目線」が大きく変わります。
自動運転に自分たちの仕事が取られるという発想はこれまでなかったわけですが、今はかなり現実味を帯びていますから、意識改革につながる部分がとても大きいと感じています。
われわれは、現実的で確実性のある「意思決定積み上げ型」で物事を進めがちですが、スタートアップは理想の未来から逆算して現在の行動や計画を決める「バックキャスト」を当たり前のようにやるので、このあたりはすごく勉強になっているかなと思いますね。
―― これまで積み上げてきたやり方を変える必要性をどう伝えていくかというのも重要な点だと思いますが、どのような工夫をされていらっしゃいますか。
河合 今は出資先企業がセイノーHDの社内外に向けてウェブでプレゼンテーションする場を半期に一度設けています。セイノーグループのほとんどの幹部がそろっているので、実際にオープンイノベーションをどう進めるかなど、基礎的な話も含めて、毎回2社ぐらいに出ていただいて、話をしてもらっています。
オープンに多様な関係者と
組んで社会や国家に貢献
―― 新たなビジネスを社会実装していくにあたって、行政などに対する要望はありますか。
河合 行政とは、本当によくコミュニケーションを取らせていただけるようになってきたという印象で、国がさまざまな施策を進めようとする時に、ご相談をいただく機会も多くなってきています。
直近ですと、国土交通省のラストマイル配送の効率化等に向けた検討会の中で、宅配の再配達や過疎地域をどうするかなどについて、しっかりとした議論を交わさせていただきました。議論の内容の大枠が、総合物流施策大綱(2026-30)にも組み込まれており、今後5年間で取り組むべき方向性を決めるにあたって、非常に重要な議論だったと思っています。
過疎地域での自家用有償運送の活用の弾力化のような案件についても、柔軟にご対応いただくことができました。
<新たな総合物流施策大綱では自動運転トラックの早期実装などが取り組むべき施策に盛り込まれている>

―― 最近は国も物流政策について相当積極的に取り組みを進めていますね。
河合 そうですね。自動運転トラックを1000台入れるというような目標が明確に出るとは思ってもみませんでした。
国としても、自動運転や国産ドローンに前向きな姿勢が示されていますから、そういう意味ではわれわれの意見に耳を傾けていただいているという感じはありますね。国家社会への貢献は、われわれだけでも一部はできるとは思いますが、全部はできませんので、オープンにいろいろな方と組んでいく。
スタートアップは「とがった技術に命がけ」なので、この熱き思いとスピード感みたいなものは、われわれのような事業会社と一緒に取り組むことで、国交省などにも伝わりやすくなるのだと思います。そうすると、国交省としても業界全体への波及や、技術の組み込みなどのイメージを持ちやすくなるのではないでしょうか。
日本は人口減少でどんどんGDPが下がっていきますし、どうやって効率化していくかという話になった時には、やはり田口義隆社長が言い続けているオープン・パブリック・プラットフォーム(O.P.P.)という構想が一番大きなベースになってきます。
多くの方々を巻き込みながら「O.P.P.」の実現に向けて、今後も積極的に取り組んでいく覚悟です。
―― 今後も新たなパートナシップや、これまで以上に幅広いO.P.P.の構築で、地域や社会、日本経済を支えて下さることを期待しています。ありがとうございました。
取材・執筆 奥田岳人
■プロフィール
セイノーホールディングス
専務執行役員 オープンイノベーション推進室・ラストワンマイル戦略部・コールド戦略部担当
河合秀治(かわい・しゅうじ)
1974年11月生まれの51歳。
1997年 西濃運輸入社
単独ドライバー乗務研修を経て現場営業後、本社各プロジェクトに従事
2011年 社内ベンチャーとしてココネットを設立、のちに社長に就任
2016年 オープンイノベーション推進室が発足、室長に就任
2024年 セイノーラストワンマイル社長に就任
※このほか、セイノーHD傘下のリビングプロシード、LOCCO、地区宅便、日祐の代表取締役も兼務している。
MOL PLUS/インドのファンドへ初出資、エネルギー領域など対象

