2006年に物流施設開発事業に参入し、これまで全国に51棟を開発・運営してきた野村不動産。今では施設内の自動化・省人化ソリューションを提案するTechrumのデモ会が、毎回大盛況となる存在感を放つ。Techrum拡大の背景には「人手不足への危機感がある」と分析する井戸 常務執行役員に、野村不動産の強みや今後の事業拡大に向けた戦略を語ってもらった。(取材日:2026年4月14日、於:野村不動産本社)
年1000億円ペースで投資
「供給過多」は一時的現象
―― 2023年から物流部門を担当しておられます。まずは野村不動産の物流施設ブランド「Landport」の開発実績や今後の計画について、お聞かせください。
井戸 野村不動産は2006年から物流事業に参入しまして、「Landport」を中心に消費地近接、幹線道路の結節エリアを主にマルチテナント型施設に注力し開発・運営してきました。2026年3月末で51棟、約280万m2の物流施設が稼働済みです。竣工予定を含めると、2028年3月末には61棟まで増える計画となっています。
2025年度~2027年度の開発状況を見ると、関東はつくばみらい(茨城県)や野田(千葉県)など4棟。東北は仙台岩沼(宮城県)と北上(岩手県)に2棟。特に北上は東北3県をカバーする新たな中継拠点となります。北上は太平洋と日本海の結節点となり、高速道路で両方に行くことができて便利です。
中部は東海大府(愛知県)が2棟で計約38万m2と大規模にもかかわらず、昨年竣工した「東海大府I」の一般倉庫棟は満床です。関西もニーズが大きく、京都伏見(京都府)と北伊丹(兵庫県)に2棟。九州は事業拡大中で古賀や苅田など福岡県に5棟と、自動車工場があるエリアなどに力を入れています。また中国で中継拠点となる岡山県での事業化を決めました。
2024年問題やドライバー不足を踏まえ、全方位にアンテナを張りエリアをきめ細かく見ています。
これらは投資額で言うと3年間で8000億円になります。今後も年間1000億円ペースで投資していく予定で、2031年3月期には累計1兆3000億円となる計画です。
―― 今後も攻めていく方針ですね。しかし多くのデベロッパーが参入して物流施設が増え、「供給過多」とも言われます。
井戸 物流施設開発は参入障壁が低いと思われているのでしょう。2023年に一斉に施設が竣工しました。空室率を見てみると1都3県で10%、圏央道では15%と足元は空いています。一方、ベイエリアや外環道は4%台。国道16号沿いは微妙で、勝ち組も負け組もいます。
ただ東京圏で言えば、都市型配送のニーズもあり底堅い。ニーズを捉えて場所を選定すれば、まだチャンスはあると見ています。また、既存の顧客とは契約期間満了で再契約や賃料改定ができ、濃淡はあるものの全物件がアップ改定できています。そういう意味では全然、悲観的ではありません。
現状、中部では一部のエリアを除き空きがありません。関西はもっと空きがありません。九州もほぼ空きがない状態。地方部はまだまだ開発のチャンスがあります。
2023年に供給ラッシュは起きましたが、2027年には供給が激減し逆転します。今度は「需要超過」となり、おそらく一気に施設が足りなくなるはずです。ご承知の通り建築費が高騰していますので、そこもコントロールしながらつくっていくことが大事です。
人手不足で自動化ニーズ増大
ソリューション提案が武器に
―― 物流施設が増える中、「Landport」を他社ブランドと差別化し選んでもらうための強みとは、何でしょうか。
井戸 野村不動産の強みは、ユーザーオリエンテッド(本位)でものづくりをしていることに尽きます。その象徴的な取り組みがTechrum(テクラム)だと思います。
Techrumとは、テクノロジー(技術ソリューション)とスクラム(協力連携)を掛け合わせた造語です。自動化機器の効率的な活用により物流オペレーションを最適化するための企業間共創プログラムとして、2021年始動しました。
マテハン・ロボットメーカー、リース会社、システム会社、コンサルティング会社など、さまざまな立場の企業が参画しているのが特長で、現在137社。われわれはメーカーでも販売代理店でもないので、パートナー企業の組み合わせによって自動化ソリューションを提供する仕組みをとっています。
野村不動産は物流施設をつくって貸すことにとどまらず、庫内オペレーションの領域に踏み込んでいるわけです。
―― 具体的には、どのようなことを行うのですか。
井戸 取っかかりとして「省人化したいが、どうすればいいか分からない」といった、まだ漠然とした相談を受けることが多いです。現状のデータなどを見せていただいて一緒に分析し、「例えば、こういうマテハンを入れてはいかがですか」とパートナー企業をご紹介したりします。
同じメーカーのマテハンをそろえる方法はありますが、コストもかかります。そこで、「A社とB社の安いマテハンを組み合わせて、何とかできないか」といった相談も出てきます。こういう時、Techrumは「A社とB社のマテハンをC社のシステムでつなぐと自動化できます」といった提案ができるんですね。
―― おもしろいですね。Techrumを始めて5年、初めからうまくいったのですか。
井戸 当初はTechrumのコンセプトが浸透せず、2022年、Landport習志野内に開設したマテハンのショールーム「習志野Techrum Hub」も来場者数は鳴かず飛ばずでした。
そこでショールームを2024年に大幅リニューアルし、「入庫」「ピッキング」「梱包」「搬送」など一連の流れで見ていただけるよう、デモンストレーション形式に変えました。するとこれが「2024年問題、待ったなし」という状況とマッチし、月2回のデモ会の来場者数が爆発的に増加。2023年度は92人だったのが、2025年度は665人と7倍に増えました。
われわれは物流向け展示会にもよく出展しTechrumをアピールしていますが、そちらも盛況です。やはり物流業界は人手不足で切羽詰まっているのだなと実感します。
―― 自動化しなければ人手不足を乗り切れないという危機感が、Techrum人気の背景にあると。
井戸 そうだと思います。Techrumからの提案件数も2023年度は10件だったのが2025年度は284件と、かなり増えています。さらには昨年初めて、デモ会参加を機にLandportへの入居成約につながるケースが出てきました。
Techrumを通じ、しっかり自動化と省人化のお手伝いをすることによって、選ばれる物流施設でありたいですね。Landportの直接成約率は9割超。自らリーシング部隊とテナント営業部隊を持ち、顧客と直接対話しニーズを拾っている点も強みと言えます。
―― ところで、Techrumが始動した当時、多くのデベロッパーがメーカーを囲い込もうとする中、オープンプラットフォームの形を取られたことには正直驚きました。
井戸 すべては顧客のあらゆる物流課題の解決策を提案していくためです。特定のメーカーを応援することになれば、それを売ろうとしてしまいますし、顧客の選択肢を減らすことになってしまいます。
それに企画当時は多種多様なサービス提供者が存在し、どこが顧客にとって最適か分からないし、いま最適なソリューションでも数年後は分からないという技術進化の著しい時期でもありました。
われわれとしては、常に客観的な立場で顧客の状況を見極め、適切な自動化・省人化ソリューションを提供したい。また必要以上の自動化、省人化をお勧めすることのないポジションでいられるよう、オープンな場として立ち上げました。
エネルギーなど領域拡大
物流施設とシナジー狙う
―― 一貫して、お客さんに寄り添う姿勢ですね。さらなる一手はありますか。
井戸 Techrumは大きな武器となりましたが、もっとアイテムを持ちたいとも思っています。そこで「インフラ・インダストリー・デベロッパーでありたい」という方針につながります。
4月に組織改編があり、部署名が「都市開発第二事業本部」から「インフラ・インダストリー事業本部」に変わりました。
第二事業本部では物流施設と商業施設を担当していましたが、商業を切り離し、新たにインフラ・インダストリーと呼ぶことにしました。核となる事業は物流施設ですが、データセンター、工場、エネルギーなど周辺領域にも施設開発を広げたいという狙いです。
エネルギーで言うと、Landportの屋根には太陽光パネルを敷き詰めて発電し電力活用していますし、大規模蓄電設備の開発にも近々、着手します。行政によっては農地を残したいという地域もありますので、営農型太陽光発電事業などにもチャレンジしたいです。
物流施設とシナジーがある新たな領域を広げながら、物流施設についてはTechrumを通じて「保管」以外の領域へ事業を拡大していく相互成長の構想です。
―― アイテムを増やしたいとのことですが、具体的には。
井戸 例えば共同配送のプラットフォームをつくれないか、同じ業種で集まって一つの物流施設に入居するのはどうかなど、もっと提案できることがないか常に考えています。
共同化という視点では、「Landport横浜杉田」(横浜市)にシェアリングできる立体自動倉庫をあらかじめ設置しました。3・4階を吹き抜けにした構造で、高さ約10m、10レーン・5段のスペースに4020パレット保管できます。入居企業が季節波動による繁忙期など、必要な時に必要なだけパレット単位で予約して入出荷に使えるサービスです。
―― 新しいですね。横浜杉田では地域住民向けに施設見学会や防災イベントが行われ、好評でした。地域に開かれた物流施設にもなっています。
井戸 やはり地域に愛される施設でなければと考えています。特に住宅地が近い物流施設では、地域にどう溶け込み、地域の役に立てる施設とするかが大事です。BCPの観点から自治体と災害協定を結び、有事の際には施設を開放できるようにもしています。
これからつくる住宅地近接型のLandportは、そこにこだわりたいと思っています。人手不足は深刻化しており、住宅地が近ければ雇用確保の面でも有利になるので荷主企業にも喜ばれます。
中部や九州は工業材に期待
中継地、冷凍冷蔵にも注力
―― これまでは消費財が多かったと思われますが、今後の展開は。
井戸 中部では4割ぐらいが工業材を扱うテナントです。コロナ禍を経てジャスト・イン・タイム方式から少しストックを持つ形に変わってきていますし、工場の国内回帰も影響しています。これまで荷物の中心はなんだかんだ言ってEC含め消費財でしたが、九州や東北でも工業材の物流ニーズが期待できます。
―― 2024年問題で注目された中継拠点の開発は、いかがですか。
井戸 今のところ北上と岡山で着手していますが、今後たくさんできるかは正直分かりません。ある程度の需要があることは分かっていますが、無尽蔵につくるとまた供給ラッシュが起きるので、引き続き立地については全方位にアンテナを張っています。
―― 冷凍冷蔵分野については、いかがでしょう。
井戸 もちろん注力します。冷凍食品などの需要拡大を背景に、マルチテナント型でも冷凍冷蔵に対応できるようにしています。立地としては都心近郊、消費地に近い場所を狙っていきます。
―― 東京湾沿岸の古い倉庫群の再開発は、どのデベロッパーも関心を持っているところですが。
井戸 チャンスがあればやりたいですね。築40~50年たつ倉庫がたくさんあり、かなり老朽化が進んでいますから。
ただ、オフィスビルなら土地の高度利用化(高層化)は簡単ですが、冷凍冷蔵倉庫となるとそうもいきません。例えば、特区にして国がある程度一定基準を設けて割り増し容積を認めるなど、ひとひねりしないと一企業では湾岸倉庫群の再開発は難しいでしょう。このまま老朽化が進むと、いずれ大きな社会問題になると思います。
―― Landportもそうですが、労働環境の改善を目指し施設内にカフェテリアを設けるなど、多くのデベロッパーがアメニティを充実させていますね。
井戸 それはもう必須です。シャワーブースや空調などが備わり、昔と比べてかなり快適性は良くなっていると思います。そこもやはり野村不動産としてはユーザーオリエンテッド。結果的に雇用に結びつき、テナントも喜んでくれます。
人手不足に関しては本当に深刻で、国も問題意識を持って臨んでいます。3月末に総合物流施策大綱が閣議決定されましたが「待ったなし」です。
Techrumから派生して、野村不動産が主催となり、物流統括管理者(CLO)設置義務化に伴う入居企業のコミュニティ支援として「CLOサロン」を開催しています。また「Techrumアカデミア」といって、CLOなどの経営層だけでなく物流現場のリーダーや若手にも、自動化の実践的な学びの場を提供しています。情報交換やネットワーキングに活用していただきたいですね。
―― さまざまな立場の企業と接点を持てるTechrumは、ますます活発になりそうです。最後に、LNEWS読者に向けて一言メッセージをお願いします。
井戸 われわれは、とにかく顧客に寄り添うことが基本です。課題解決に向け、ぜひ一緒にやっていきましょう。この姿勢は野村不動産に染みついているカルチャーです。
―― もう一つだけお聞かせください。休日はどんな過ごし方をされますか。
井戸 筆頭はゴルフです。北海道や沖縄にも行きますし、ゴルフも全方位型です。それからランニング。最低月100キロ走っています。1人で黙々と走ってアイデアが浮かぶこともあります。加えて57歳になって初めて、筋トレのため週1回スポーツジム通いを始めました。意外と使えていなかった部位や筋肉があることを悟り、毎週、感動しています。
取材・執筆 稲福祐子 山内公雄
■プロフィール
井戸規昭(いど・のりあき)
1992年
野村不動産入社 資産運用事業部・人事部に従事
2008年
野村不動産インベストメント・マネジメントに出向
同社 商業施設事業部長・オフィス事業部長を歴任
2011年
野村不動産投資顧問に出向
同社ポートフォリオ・マネジメント部長・営業部長・資産投資部長を歴任
2014年
同社 執行役員に就任
2017年
同社 取締役兼常務執行役員に就任
2021年
野村不動産執行役員に就任 オフィスビル事業を担当
野村不動産パートナーズ 取締役
野村不動産熱供給 取締役
2023年
野村不動産常務執行役員 都市開発第二事業本部長
開発部・物流事業部・物流営業部・西日本支社 物流事業部を担当
野村不動産ライフ&スポーツ 取締役
野村不動産コマース 取締役
2026年
野村不動産常務執行役員 インフラ・インダストリー事業本部長
兼 業務推進部、DX推進部、事業部、営業部担当(現職)
■野村不動産 Webサイト
https://www.nomura-re.co.jp/
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