SUBARUでCLO(最高物流責任者)として物流本部を率いる村田眞一氏は、生産、販売、広報、経営企画などを経験してきたゼネラリスト。その視点を武器に、分断されていた物流機能の統合や全社最適に挑む。就任から1年、自動車製造のサプライチェーンを支える現場改革や社内外との連携、今後の方針を聞いた。(取材:4月15日、於:SUBARU本社)
ゼネラリストからCLOへ
就任から1年の現在地
―― 村田さんは昨年4月にCLOに就任、物流本部も新設されました。当時のお話から伺えますか。
村田 私はゼネラリストとして、工場の生産管理からセールス、広報、人事、経営企画と、いろいろな部門を経験してきました。その中で新しい領域に関わることも多く、性格的にもあまり抵抗がない点から、CLO(最高物流責任者)を任されたのだと思います。
物流本部についても、発足以前から役員会議で議題として共有されていたのですが、自動車業界の変革や法改正といった社会環境が後押しとなり、「今こそ本格的に取り組むべきだ」という認識が社内で共有されたということです。
―― CLOとしてのミッションをどのように捉えていますか。
村田 「全社最適」という言葉に尽きると思います。これまで物流は、営業、生産、サービスといった各部門にそれぞれ紐づいていて、個別最適で改善が進められてきました。
ただ、会社全体で見たときに、本当にそれが最適なのかというと、必ずしもそうではないケースもあります。ある部門ではコストが上がっても、別の部門で大きく下がれば、全体としてはプラスになる。そうした視点で改革を進めることが求められています。
―― SUBARUでの生産体制、モノの流れはどのようになっていますか。
村田 完成車工場は群馬県東部の太田、大泉といった辺りに集中しており2工場3ラインあります。部品を作っていただいているサプライヤーさんがそちらへ部品を運び、組み立てるという流れですね。
海外では米国インディアナ州に工場があり、こちらは日本から送っているものに加え現地のサプライヤーさんからも部品を調達しています。完成車の生産は国内が約6割、米国が約4割を占めており、一方で販売台数の約9割は海外、そのほとんどが米国です。
―― 物流改革を進める中で、 具体的な課題は何でしたか。
村田 一番大きかった課題は、物流費が見えていなかったことです。会計上も『物流費』としてまとまっておらず、各部門に分散していました。そのため、会社全体でどれくらいのコストがかかっているのか、正確に把握できていなかったのです。そこで、各部門からデータを集めて整理し、「全体でこれくらいかかっている」というのがようやく見えてきたところです。
―― 物流費を見える化されたと。その後、改革の方向性は。
村田 「リーンでシンプル」という考え方を軸にしています。リーンとは薄い、という意味で、無駄を削ぎ落として、物の流れをできるだけシンプルに整流化する。そうすることで、結果的にコストも抑えられるはずです。
例えば、在庫を持ちすぎると、保管場所が増えたり、移動が発生したりして余計なコストがかかります。完成車を一度別の場所に置いて、また戻して出荷する、といった非効率な事象も起きてしまう。そうした無駄をなくしていくことが重要です。
―― 一方で在庫の必要性もあります。
村田 その通りです。モノがなくなれば物流は整流化するかもしれませんが、単純に減らせばいいという話ではありません。生産を止めないためには一定の在庫が必要ですし、販売の観点でも在庫は重要です。
例えば米国では、店頭にある車をそのまま購入するケースが多いので、在庫がなければ販売機会を逃してしまいます。つまり「どこに、どれだけ持つことが最適なのか」を見極めることが重要になります。サプライヤー、倉庫、工場、それぞれが在庫を持っている状況をどう最適化していくのか、どうプラットフォーム化していくかが、今後の大きなテーマです。
自動車業界の商慣習を変える
ドライバー自主荷役廃止へ
―― 自動車業界には多種多層なサプライヤーが属しています。2024年問題の影響については、どのように感じていますか。
村田 正直なところ、自動車業界としては比較的影響は薄かったのかなという印象です。というのも生産領域においては、サプライヤーさんから部品を集める、あるいはOEM側がミルクラン的に回収するなど、もともと効率化された仕組みがある程度整っているからです。しかも荷量が非常に多いので、効率化を追求するというより時間厳守で確実に運ぶことが重視されてきました。「必要な量を確実に運びきるためにトラックを手配する」という考え方です。
また、完成車の輸送についてもキャリアカーという専用車両が中心で、基本的には車しか運ばない構造になっています。そうなると、他業界のようにドライバーを奪い合うような状況にはなりにくい。そうした意味で、小売やECのラストワンマイルとは課題の性質が異なると感じています。
―― 今後、2030年問題への懸念もあります。
村田 そこは決して楽観視しているわけではありません。将来的にドライバー不足が深刻化するのは間違いないと思っていますので、今のうちからしっかり備えていく必要があります。
特に重要なのは、「運びたくない荷主」にならないことです。負担が大きい、リスクが高いといった印象を持たれてしまうと、ドライバーさんから敬遠される可能性があります。そうなると、いざという時に輸送力が確保できなくなる。そうしたリスクに対する危機感は強く持っています。
―― 「選ばれる荷主」になるために、具体的な取り組みについて教えてください。
村田 一つの大きな取り組みが、生産部品物流での自主荷役の廃止です。これまでは工場の軒先での受け渡しだけでなく、その先の荷役作業までドライバーさんにお願いしているケースもありました。ただ、それでは負担が大きく、敬遠される要因になりかねません。そこで、できるだけ荷役をドライバーに依存しないように変えていこうと取り組んでいます。
―― 現場の反応はいかがですか。
村田 実際にドライバーさんからは「負担が軽くなった」というお声をいただいていますし、「できればスバルの輸送担当を続けたい」といった評価もいただいています。非常にありがたいことだと思っています。やはり荷役作業というのは、体力的な負担だけでなく、精神的なプレッシャーも大きいのです。特に自動車部品は重量物も多いですし、フォークリフトの操作にも注意が必要です。
―― 生産ラインとの関係も大きそうですね。
村田 そうですね。自動車の生産ラインは分刻みで動いていて、ほぼ1分に1台のペースで車が完成していきます。その中で部品を遅れずに供給しなければならない。もし遅れれば生産ラインが止まる可能性もありますし、作業中のミスは安全面でもリスクがあります。
そうしたプレッシャーの中で、少しでも負担を軽くすることでドライバーの確保や定着につながれば、自主荷役廃止の意味は大きいと考えています。
―― 自主荷役廃止は他の拠点にも拡大しますか。
村田 進めたいですね。一方で、荷下ろしについては当社側で人員を確保し対応しなければならず、製造現場側と部門を越えて変革に取り組む必要があります。トラックの供給力を確保するために、物流本部としてそこをきちんと交渉しながら、拡げていければと思っています。
変革は社内・社外とともに
メンバーのモチベーションにも変化
―― CLO設置により社内の意識も変化していますか。
村田 そうですね。物流本部が設立し、自分たちの仕事が会社のいろいろなプロセスを変えていく可能性があり、その成果が感じられることは、メンバーのモチベーション向上につながっています。社内で実施しているエンゲージメント調査でもその数字に反映されていて、皆さんの「やる気スイッチ」が入っていることがわかります。うれしいですね。
―― 社外との連携についてはどうお考えですか。
村田 非常に重要だと思っています。物流は自社だけで完結するものではありませんので、パートナー企業との協業は不可欠です。実際に、倉庫を活用した集約輸送や、幹線輸送ネットワークの活用など、外部と連携した取り組みも進めています。
西濃運輸様との協業を通じて、2026年2月より中京地区の取引先からの自動車部品を西濃運輸豊川支店に集約のうえ幹線輸送し、全国へ配送する取り組みを開始しています。これにより、積載率の向上および長距離輸配送の効率化につながっています。
―― CLOとして、どのように交渉したのですか。
村田 私が就く前から既にお話は始まっていたのですが、CLOになってすぐ、西濃運輸さんに行きました。「ぜひ一緒にやらせてください」と。パイロットケースやトライをした上で準備を重ねてスタートを切りました。完成車輸送についても、トヨタ自動車との共同輸送が3月から動き出しています。
―― 最後に、今後の抱負をお願いします。
村田 私は物流に関しては「素人」と公称していますが、これは自分に言い聞かせている部分もあります。やはり勉強も必要です。ただ心がけているのは素人だからこそ、バイアスをかけずにフラットに話を聞いて、客観的に判断していくことです。
これまで築いてきた安定した物流をしっかり守りながらも、新しいやり方にも挑戦していきたい。全社最適という視点と、社外との連携を通じて、より効率的で持続可能な物流を実現していきたい。そのためにも間口を広く、「スバルにこれを提案してみようか」と思ってくださる皆さんとつながっていけるとうれしいですね。
取材・執筆:吉坂照美
■プロフィール
SUBARU執行役員CLO(最高物流責任者)・物流本部長
村田眞一 (むらた・しんいち)
1990年4月富士重工業株式会社に入社。工場における生産管理支援、アフターサービス領域の支援、広報部、経営企画部などを経験。執行役員渉外部長、執行役員リスクマネジメント・コンプライアンス室長を経て、2025年4月より執行役員CLO(最高物流責任者)に就任。物流本部長を兼任。
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