東京大学先端科学技術研究センター先端物流科学寄付研究部門は6月18日、シンポジウムを都内で開催した。
今回は「サプライチェーン最適化に向けたネットワーク構造-協調はなぜ進まないのか どこから始めるか-」というテーマのもと、官民学を問わずさまざまな有識者が登壇し、講演およびパネルディスカッションを行った。
冒頭のあいさつでは、2020年~2024年に経済産業省の物流企画室長として、物流効率化法の改正を主導した経済産業省経済産業政策局地方創生担当の中野剛志政策統括調整官が登壇。
2026年6月に同法が全面施行されたことに触れ、「この法律はデマンド(荷主)からコントロールするという考え方。荷主に規制が課せられるのは世界でも例がない」と述べたほか、2020年当時と現況を比べ「当時物流企画室長をやっていたころとは隔世の感がある」とも語った。
さらに今後の業界について「国が示す強い物流の実現に向け、トップ層の意識が変わってきている点が大きい。今後は分業ではなく協業をうまく進められるよう、アカデミックとの協業も重要になってくる」とした。
「垂直・水平協調のネットワークで物流システムを考える」というテーマで、東京大学先端科学技術研究センターの江崎貴弘特任准教授による基調講演も行われた。
従来行われてきた、一連のサプライチェーンにおける異なる階層(供給・製造・小売)による協調を「垂直協調」と定義。これに対し、昨今少しずつ動き始めている、同業・競合を含む同レベル帯の異なるサプライチェーン同士の協調を「水平協調」として、これらを総合的に行うことで補完的に効率を高める効果があると論じた。
コンビニ大手3社による共同配送を「水平協調」の例として挙げつつ、コスト削減や生産性向上といったメリットを示す一方で、信頼できる調整役が必要なことや、利益の公平な配分ルールづくりが難しい、といった課題にも触れた。
また、同氏が専門とするデータ分析から、協業における最適な物流ネットワーク構造についても言及し、すべて異なる条件の12シナリオのいずれでも、「協調すればコストが下がる」という結論を示した。
続く問題提起では、東京大学先端科学技術研究センターの井村直人プロジェクトリサーチフェローが、「サプライチェーン協調はなぜ進まないのか」をテーマに講演。
異なる業界同士での協業が進まない現状について、商慣習や契約といった制度面、利益の可視化が難しいために個社が動きにくい利得面、メーカー・物流・流通同士の分断といった情報面での3要素を「協調を阻む壁」とした。
現在、共同配送・幹線共同化、共同利用拠点などにより、限定的ではあるが別業種同士の協調が進みつつあることから、こうした壁が徐々に取り払われつつある状況にも言及し、今後サプライチェーンがどう変化していくのか、多様な接続形態モデルの可能性を示した。
後半のパネルディスカッションでは、モデレーターとして東京大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻の西成活裕教授が登壇。4名のパネリストとともに「協調の可能性と制約」をテーマに討論を展開した。
パネリストには、江崎貴弘特任准教授、鈴与総合研究所の瀧良太課長、三井物産戦略研究所の高島勝秀シニア・エコノミスト、霞ヶ関キャピタルインフライノベーション事業本部の堀内丈治新規事業部長が登壇。
協調が進まない理由について、経済学博士でもある三井物産戦略研究所の高島シニア・エコノミストは、日本と海外での事情の違いに言及。寡占化が進んだ海外とは異なり、国内ではまだ競争が激しく、生き残ることを優先して協調する状況ではない、という指摘を行った。
鈴与総合研究所の瀧課長からは、そもそも誰の視点からの物流最適化なのかが定義されていない、といった厳しい意見も飛び出した一方で、物理的・時間的制限がない荷物の共同輸配送は、原単位での価格把握をした上で進め始めている、といった現状を語る場面も見られた。
情報伝達の壁が協調の課題になっている点について江崎特任准教授は、方法を示すことがアカデミアの役割ではあるが、まだ十分ではないとした上で、協業のメリットを理屈で理解できても、抜本的な見直しを伴う導入には心理的な負担もあると現実的なハードルを示した。
会の終盤には会場との質疑応答も行われ、会の後援であるGROUNDの宮田社長は、ヤマト運輸を例に、すでに一定の協調は成立しているとの見解を示し、3PLの果たす役割の重要性を説いた。
産学官の各立場からさまざまな意見が交わされるなか、個社最適には限界があり、全体最適を実現するためのオーケストレーションと、産学官の連携による物流改革が不可欠であるとの認識で一致した。
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