連載/世界物流のフロンティアを歩く第5回 人口減少時代の離島交通

2026年07月08日/コラム

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日本の離島は、国土保全や海洋資源の確保、文化的多様性の維持において重要な役割を担っている。しかし、その存続を支える離島航路は、人口減少と高齢化の進展により深刻な危機に直面している。利用者数の減少、船員不足、燃料費の高騰、船舶の老朽化といった複合的要因により、離島航路における多くの定期航路は維持することが困難となっている。従来の離島交通は、大型船による定期航路を中心とした「単一構造型」であった。このモデルは一定の安定性を確保する一方で、需要の変動に対応できず、人口減少社会においては非効率が顕在化している。特に利用者の少ない時間帯や区間においても運航を維持することは、コスト増大と赤字拡大を招き、多くの航路が公的補助に依存する結果となっている。このような状況を打開するためには、従来の単一モデルから脱却し、複数の輸送手段を組み合わせた新しい交通モデルの構築が必要である。

単一モデルから多層型交通システムへ

人口減少社会に適応するためには、従来の単一型輸送モデルから脱却し、複数の輸送手段を組み合わせた「多層型海上交通システム」への転換が不可欠である。本稿では次の三層構造による離島交通モデルを提案する。
・第一層:定期航路(幹線)
・第二層:小型船によるオンデマンド輸送(支線)
・第三層:ドローンや空飛ぶ船などの新技術(ラストワンマイル・特殊輸送)
この三層構造により、輸送の効率性、柔軟性、公共性を同時に確保することが可能となる。

第一層:基幹輸送を担う定期航路

第一の層は、従来から存在する定期航路である。これは離島交通の「幹線」として、大量輸送と高い定時性を担う中核的役割を持つ。通学時間帯や観光シーズンなど、一定規模の需要が存在する局面では、大型船による効率的輸送は依然として不可欠である。また、災害時や緊急時における基幹輸送機能としても重要な役割を果たしており、定期航路は今後も離島交通の基盤として維持されるべき存在である。

第二層:海上版ライドシェアなどオンデマンド輸送

第二の層は、小型船によるオンデマンド輸送、すなわち「海上版ライドシェア」である。これはデジタルプラットフォームを活用し、需要に応じて柔軟に船舶を配船する仕組み。従来の固定ダイヤ型とは異なり、利用者の予約や需要データに基づいて運航が決定されるため、空船運航を削減し、効率的な輸送が可能となる。特に需要の少ない時間帯や小規模離島間輸送においては、このオンデマンド型輸送が大きな効果を発揮する。

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「海上版ライドシェア」の仕組み

この仕組みの本質は、「空気を運ぶ輸送」から「人がいるときに動く輸送」への転換にある。さらに、小型船は機動性に優れ、漁船や地域保有船舶など既存資源の活用も可能であるため、地域経済への波及効果も期待できる。ただし、離島交通は生活インフラである以上、完全な市場原理に委ねることはできない。したがって、一定の安全基準やサービス水準を確保する「公共型ライドシェア」として制度化することが不可欠である。

第三層:次世代モビリティが拓く新しい海上輸送

第三の層は、ドローンや「空飛ぶ船」と呼ばれる新しい輸送技術である。特に近年注目されているのが、シンガポールで開発が進む水面効果翼船「AirFish8」だ。水面近くを滑空することで航空機に近い速度と船舶の安全性を両立する次世代モビリティで、離島間の高速移動手段として大きな可能性を有している。

また、ドローンは医薬品や緊急物資の輸送、さらには小口貨物配送において有効であり、特にラストワンマイル領域での活用が期待される。これらの技術は、従来の船舶では対応が難しい時間・距離・緊急性の課題を補完する役割を担う。

特に注目すべきは、水面効果翼船である AirFish8 の存在だ。同機は、水面すれすれを滑空することで空気抵抗を低減し、従来の船舶を大きく上回る高速性と、航空機に比べて低い運航コスト・高い安全性を両立する新しい海上モビリティである。この特性により、離島間の移動時間を大幅に短縮しつつ、港湾インフラへの依存を抑えた柔軟な運用が可能となる。

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岸壁に停泊中のAirFish8(シンガポール):著者撮影

重要なのは、同機が単なる高速輸送手段にとどまらず、「定期航路とオンデマンド輸送をつなぐ中間層」として機能し得る点である。すなわち、大型フェリーほどの需要はないが、通常の小型船では時間効率が悪い区間において、AirFish8は極めて有効な選択肢となる。これにより、従来は成立しにくかった中距離・中需要の航路においても、新たなサービス設計が可能となる。

将来的に自律運航技術やデジタル運航管理システムと組み合わせることで、AirFish8は離島交通における「高速・柔軟・省人化」を同時に実現する中核的存在となる可能性を持つ。ドローンがラストワンマイルを担い、小型船が需要対応型輸送を担う中で、AirFish8はそれらを結ぶ“高速ハブ”として機能し、多層型海上交通システム全体の価値を飛躍的に高める鍵となるだろう。

デジタルと制度改革が支える新しい離島交通

これら三つの輸送手段を「競合関係」ではなく「補完関係」として統合することが重要である。
・幹線:定期航路(大型船)
・支線:オンデマンド小型船(ライドシェア)
・末端・特殊:ドローン・空飛ぶ船
という役割分担により、全体として最適な交通ネットワークを構築することが可能となる。このような多層構造により、効率性と柔軟性、そして公共性を同時に実現することができる。

この多層型システムを支える基盤として、デジタル技術の活用が不可欠である。AIによる需要予測、配船最適化、運航管理、さらには複数交通手段を統合するMaaS(Mobility as a Service)の導入により、利用者は一体的な移動サービスを享受できるようになる。これにより、離島交通は単なる移動手段から「統合型モビリティサービス」へと進化する。

今後の離島交通においては「人流」と「物流」を一体として捉える視点が重要である。人口減少により輸送需要が減少する中で、旅客と貨物を別々に運ぶ従来の仕組みは非効率となる。小型船によるオンデマンド輸送やドローン配送を組み合わせることで、貨客混載を前提とした柔軟な輸送が可能となり、輸送効率の向上とサービス維持の両立が期待される。また、医薬品や生活必需品といった「社会的に重要な物流」を優先的に確保する仕組みを組み込むことで、地域の生活基盤としての機能を一層強化することができる。

こうした新しい離島交通を再構築するにあたっては、何より制度面の改革が重要である。現行制度は定期航路を前提とした設計が中心であり、オンデマンド輸送や新技術の導入には必ずしも適合していない。したがって、安全規制の見直し、補助制度の再設計、データ共有の標準化など、技術革新に対応した制度改革が求められる。特に、成果連動型補助制度や広域連携による運営体制の構築は、持続可能性を高める上で重要な施策となる。

離島航路は「維持」から「再設計」の時代へ

人口減少時代において、すべてのインフラを従来通り維持することは難しい。しかし、発想を転換し、複数の技術と制度を組み合わせることで、新たな持続可能モデルを構築することは可能である。離島交通はその最前線に位置しており、多層型海上交通システムは、人口減少社会における公共インフラの新たな標準となり得る。

離島航路はもはや「維持するもの」ではない。未来の地域社会を支えるために「再設計するもの」である。定期航路、オンデマンド輸送、そして次世代モビリティを統合した多層型交通モデルこそが、離島の未来を支える鍵となるであろう。

注)AirFish8は、シンガポールのST Engineeringグループ傘下のWigetworks社が開発する水面効果翼船(Wing-in-Ground Effect Vehicle)である。水面から数メートルの低高度を滑空飛行することで、高速性と省エネルギー性を両立し、最大速度約90ノット(約167km/h)、旅客8名または約1トンの貨物を輸送できる次世代海上モビリティとして注目されている。

<離島航路概況>

項目 数値(目安) 備 考
有人離島数 約416島 全国の有人離島総数(近年資料)
離島航路数 272航路 本土–離島・離島間の定期航路推定数(2025年4月現在)
補助対象航路数 127航路 2025年4月現在。2025年の補助金予算額70.5億円。補助対象航路の欠損額は179億円(2023年)。
就航船舶数 約500隻 離島航路における旅客船数の目安
事業者数 170~190社 民間企業、自治体(公営)、一部事業組合など
船齢15年以上船舶割合 約25% 船舶老朽化が進行しているとされる割合
年間輸送人員 約3,000万人 観光客を含む延べ人数
赤字航路数 多数(詳細統計困難) 多くが赤字経営にあるとの傾向あり

出所:国土交通省、JRTT各HPなどを基に著者作成
※上表の数値は国土交通省や関連団体が公表している資料を基にした目安であり、正確な航路数や船舶数は年度・集計方法により異なる可能性がある。

連載 物流の読解術 第36回:積載効率の留意点 -積載効率の向上を考える(6)-

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