加工食品業界において、先駆けて物流改革を取り組んできたキユーピー。物流効率化法施行以前から、「S&OP(Sales and Operations Planning )」「DFL(Design For Logistics)」、「ASNを活用した検品レス」などの具体的なSCM(サプライチェーンマネジメント)戦略を推進している。その舵を取るのが、デジタル×連携で最適化を目指す物流統括管理者 執行役員 ロジスティクス本部長の前田賢司氏だ。
取材:7月22日、於:キユーピー本社
「成果が見えにくい『下請け的存在』」からの脱却
経営の土台としてのロジスティクス
キユーピーは1919年に設立、創始者である中島董一郎氏が1925年に日本人の体格向上を願い、外国製品の約2倍の卵黄を使った栄養豊かなマヨネーズを日本で初めて製造・販売を始めた食品メーカーである。昨年3月マヨネーズ発売100周年を迎えた。
近年、人手不足や自然災害など物流環境の急激な変化は、個社では対応しきれない産業構造の課題を顕在化させている。特に長時間荷待ちや厳しい検品条件、付帯作業などからドライバーに敬遠されがちな加工食品業界においては、物流統括管理者(CLO)の担う役割は大きい。
そんな中、2026年4月からキユーピーの物流統括管理者を任されたのが、執行役員ロジスティクス本部長の前田賢司氏。1986年にキユーピーの業務用を扱う三英食品販売に入社し、その後1990年にキユーピーへ。営業畑で経験を積み、2000年からは物流・ロジスティクス一筋、この道26年のベテランだ。
取材で訪れた東京都渋谷区の本社受付に1人で現れた前田氏は、こちらが思い描いていた「大企業の役員像」とは少し違っていた。物腰が柔らかく、散歩でもするような足取りで会議室へ案内してくれた。
これまでのキャリアを振り返り、前田氏は「昔は社内で物流は『下請け的存在』なんて言われていたんですよ」と笑う。
2000年当時、現在のロジスティクス本部の名称は「情報物流本部」。若くして異動になった前田氏は、「何とかして物流の立場や位置づけを上げたい」という思いが強かったという。その頃、物流には明確なルールがなく、とにかく注文を受けたものを運ぶ。在庫量を多く持ち、欠品しないことが良いとされ「経営目線」など全くない状況だった。
そこで、まず取り組んだのが在庫削減。BS(貸借対照表)を改善し経営にインパクトを与えることを目標に、「前任の藤田(現:Fujita Office代表の藤田正美氏)を中心に皆で立ち上がりました。営業や生産とも折衝しながら、可動率を下げず、いかに在庫を適正化していくか。そこが原点ですね」。そこからスタートしたキユーピーの物流改革が、今につながっている。
社内での位置付けとともに、名称も変化した。「情報物流本部」は情報企画室と物流管理室に分かれ、その後、「ロジスティクス推進室」、2013年から「ロジスティクス本部」として、現在では流通・販売、消費に至るサプライチェーン全体(SCM)を統括し、グループ全体の需要予測や在庫調整、持続可能な物流改革を推進する中核組織となっている。
中計で掲げるChange&Challenge
需給計画にAIを活用し最適化
キユーピーでは「2025-2028年度中期経営計画」で、「Change & Challenge」を旗印に、重要戦略の一つに「ポートフォリオ変革とSCM生産性向上」を掲げている。この中で、特に注力しているのがS&OP(Sales and Operations Planning)とDFL(Design for Logistics)だ。
S&OPとは、企業の経営目標を達成するために、営業(需要)と製造・調達(供給)を同期化させ、売上や利益という「お金」の視点を入れて、全社で共有・調整する経営プロセスのこと。
DFLは、製品の企画・設計段階からあらかじめ物流(輸送・保管・荷役)の効率を考慮して、商品の形状や包装をデザインするアプローチ。
前田氏によると、「S&OPは例えば、マヨネーズはどのくらい売れそうで、それに対して生産がその数を作れるか、運べるか、そして経営貢献できるか(利益が高まるか)。DFLは、より効率的な物流に向け、パレットに無駄なく積むためにはカートンサイズはどれくらいか、スーパーの棚に並べるにはどれくらいの大きさがベストか等、を考えること」と説明する。
キユーピーではS&OPとDFL推進へ、生産や販売、マーケティングなど部門を跨いで横断的に目標を決め、そこに向かって全社で取り組みを進めている。
そこで必要となるのがデジタル・AIの力。他部門の経験豊富な主力メンバーを集結し「デジタル推進部」を中心に、社外ベンダー企業とも連携し、自社でAIエージェント立ち上げようとしている。
S&OPとDFLにより、物流DXは一気に加速する。DFLでは2024年頃から取り組みを開始し、来年にはほぼ完成予定、S&OPもまずはドレッシングを対象に、今年中のスタートを目指している。
さらにその先に見据えるのは、「フィジカルインターネット」。究極のオープンネットワークによる物流効率化の構想だ。経産省が2040年実装へのロードマップを示しており、実現へ向けて必須となるデータ化を着実に進めているという。
「共通のプラットフォームで、究極の共同配送を行うフィジカルインターネットと考え方は同じだと思っています。そのためにはデータ、届け先のコードを合わせなきゃいけない。そのための標準化を行政とともに製・配・販一丸となって進めている。我々も社会課題解決と企業価値向上へ、経営戦略としてコミットしていきたい」。
物流をテーマに製配販で協議
LT2化から連携の輪が広がる
改革とはある意味、前例否定でもある。キユーピーは加工食品メーカーとして、その最前線を走ってきた。2018年からリードタイム延長(LT2)に積極的に取り組み、2019年末にはLT2恒久化を宣言。しかし実際に了承してくれたのは、全配送先の約5割だったという。
キユーピーの物流を担うキユーソー流通システムからも「中途半端な量だけやらないでくれ」「9割くらいはないと運用は難しい」と、厳しい声もあった。
それでも諦めず取り組みを続けていると翌年、全日本トラック協会がドライバーの長時間労働や夜間作業是正へLT2化を強く要望する提言を発出。また日本加工食品卸協会でもLT延長化への行動指針を発表するなど、「ロジスティクス最適化」の流れへと、時代がシフトした。
こうした動きに呼応し2020年6月、経産省や関係省庁が主導し「製配販連携協議会ロジスティクスWG」を開催。各業界(メーカー・卸・小売)のリーダーが、利害が対立しやすい商習慣に踏み込み、協議を開始した。
前田氏は確信を持って言う。「実際にお互いの言い分を言い合うと分かってくるんです。なぜLT2が受け入れられないのか、とか。しっかりとコミュニケーションをすれば、課題は明確になり、課題解決に向け連携が進み、改善できる、という話になり、思うよりLT2実現が早かったんですよ」。
現在、加工食品の卸大手6社を含め、約9割強がリードタイム延長(LT2)に応じており、キユーソー流通システムからの要望に応えた形となる。
製配販3層の連携の輪はさらに拡がる。キユーピーをはじめキッコーマン、F-LINE参画企業8社で構成するSBM会議(食品物流未来推進会議)で物流課題を共有し、2020年からは卸売業(日本加工食品卸協会)と連携し、リードタイム延長や長時間待機、付帯作業の削減に取り組んできた。
小売業には1.定番商品の発注前倒し、2.特売商品のリードタイム6営業日確保、3.納品期限の「2分の1ルール」への統一を卸売業とともに協力を依頼。納品期限の統一でメーカーの確認作業を削減し、受注締時間の後ろ倒しによるリードタイム確保を目指した。その後、SBM会議と日本加工食品卸協会、小売業3団体が合同で「FSP(フードサプライチェーン・サステナビリティプロジェクト)」を発足、また首都圏のスーパー4社が「首都圏SM物流研究会を設立」するなど、メーカー・卸・小売が一体となった物流改革が大きく進展している。
前田氏は、今までなかなか陽の目を見なかった物流改革を進めるうえで最も重要なのは、経営トップの後押しであり、コミットメントだったという。
2024年問題から持続可能な食品物流の構築に向け、小売業では首都圏SM物流研究会を発足、「物流は競争領域ではなく協調領域」と宣言し、改革を進める方針を明記。メンバー拡大に伴い全体名称を「SM物流研究会」とし、今では24社へ拡大。関西SM研究会も発足している。
その中で小売とメーカー各社が継続的に議論する体制が全国へ広がり、キユーピーでも首都圏・関西の両方にオブザーバとして参画。今後、物流統括管理者ないしCLOには、そうした「外交官」的な役割も求められることになる。
物流効率化法への対応
ASN活用した「検品レス」の展開
物流統括管理者に求められる中長期計画の進ちょくについても聞いた。
キユーピーでは計画の柱として、1.積載効率の向上、2.待機時間・付帯作業の削減、3.納品頻度の適正化を掲げ、その実現のカギを「ASNを活用した検品レス」に置いている。前田氏は「この3つにはすべて検品レスが効く」と説明する。
ASN(事前出荷情報)を活用して従来の「1パレット・1商品・1日付」という運用を見直し、複数商品を1枚のパレットに積むことで「ミルフィーユ積み」(少ないケース数でもアイテム別にパレット積みを求められパレット枚数が激増する積載状況)を回避すれば、積載効率は向上する。
検品作業を省略できるため、荷下ろし後すぐに作業が終わり待機時間は基本的にゼロ。1納品先で約50分かかっていた荷役が約5分に短縮された事例もあるという。
さらに前田氏は「一番狙っているのは納品頻度を減らすこと」と話し、配送回数を減らすことで積載率の向上や荷受け側の負担軽減に加え、ドライバーの拘束時間や残業時間の削減にもつながると考えている。
同社の「検品レス」はキユーピー独自のもので、東日本大震災後の2013年、リードタイム延長を実現する取り組みの一環として加藤産業との実証から始まった。その後三菱食品にも展開。当初は人手を要する運用だったが、現在は荷役作業を工夫し、商品バーコードを活用し、ASN(事前出荷情報)を作成、活用した仕組みへと進化し、より多くの取引先への展開が可能になった。
さらに、共同配送を担う物流事業者(キユーソー流通システム)からファイネット(VAN会社)へ直接データを連携できるようになり、共同配送(他荷主)でも検品レスを広げられる環境づくりを進めている。
その背景には「今後、加工食品は共同配送をしないと生きていけない」という危機感がある。キユーピーでは、既にライオンやサンスターなどとの協働を展開し、今後菓子、飲料メーカーのほか油脂、製紙メーカーとも協業を検討している。
着荷主としても、自社工場の荷待ち時間可視化に取り組み、当初目標の120分以内に対し90%以上で対応済。2026 年6 月からはドライバーの荷役廃止を目指しレンタルパレットに完全移行するなど、物流効率化法対応には万全の構えだ。
最後に、他社の物流統括管理者(CLO)への、メッセージをいただいた。
「自社だけの取り組みでは持続可能な物流にはならない。他社に広がって初めて全体の効率化につながります。物流効率化法やトラック新法、取適法など相次ぐ制度改正を踏まえ、行政も本気で物流構造改革に取り組み始めています。物流はモノを運べばいいという時代ではない。物流効率化に本気で向き合わなければ、会社が淘汰されるかもしれません。しっかり取り組んでいきましょう」。
取材・執筆 吉坂照美
■プロフィール
キユーピー 執行役員 ロジスティクス本部長
前田賢司(まえだ けんじ)
1986年 三英食品販売 入社
1990年 キユーピー 入社
2012年 同社ロジスティクス推進室 グループ企画部 部長
2018年 同社ロジスティクス本部推進統括部 部長
2020年 同社ロジスティクス本部 本部長
2022年 同社執行役員 ロジスティクス本部 本部長
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