CLO特集 アスクル/物流をさらなる競争力へ、DXと共創による次世代EC戦略

2026年09月09日/物流最前線

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アスクルは事業所向け「ASKUL」と個人向け「LOHACO」を両輪にEC事業を展開している。社名の由来である「明日来る」を象徴するスピーディーな配送と全国の物流網を活用した安定供給に強みを持ち、その中核に据えるのが「DXと共創で実現するサステナブルなEC物流」だ。今年3月にはCLOとして池田和幸執行役員 ロジスティクス本部長が就任。現場起点の改善とテクノロジーの融合により、物流をさらなる競争力へ、進化させようとしている。於:アスクル本社 取材:8月4日

IT×物流の経験生かし
現場起点で「全体最適」目指す

――  CLOとしてのミッションを教えてください。

池田  物流部門の責任者として期待されているのは、ロジスティクスを経営の競争力に変えていくことだと考えています。物流をコストセンターとして捉える企業もあると思いますが、アスクルは物流を価値創造の中核として捉え、社名の由来も「明日来る」(あすくる)です。サービスそのものが社名になっている以上、そこを支える物流の役割は非常に重要です。

――  米国のAmazonは、まさに物流を競争力の源泉とし、戦略化していますが、アスクルでも物流の高度化や効率化は、確実に強みとなっています。IT知識を持つCLOとして、会社からの期待も大きいのでは。

池田  デジタル系のリテラシーがあることは、期待されている部分だと思います。もう1つ重要なのは、ITと物流部門を行き来してきた経験です。

1つの部署で専門性を極める方もいますが、技術的なことを理解したうえで、いったん外から物流を見る。そして、再び物流に戻る。そうすると、以前担当していた時にはできなかったことに対して、新しいアプローチや気づきが生まれます。

別の部門で培った知見から、改善案が出てくることもあります。スキルだけでなく、一度離れてから戻ってきた経験そのものが重要だと考えています。

――  CLOとして今後、様々な判断が求められます。ビジネスで大切にしている価値観を教えてください。

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池田CLO 執行役員 ロジスティクス本部長

池田  3つあります。1つ目は、現場起点で考えることです。実務をある程度理解していなければ、机上の空論で設計した仕組みは、機能しません。

2つ目は、テクノロジーを使いこなすことです。AIやデータを活用するには、自分自身にも一定のスキルが必要です。

3つ目は、「全体最適」を考えられるかどうかです。物流はアスクルだけで完結しません。配送パートナー、商品を供給するメーカー、さまざまな関係者がいます。それぞれの立場を踏まえたうえで、サプライチェーン全体として最適な状態を考えることが重要だと考えています。

――  法律で求められる物流統括管理者とCLOの役割は異なる部分もありますが、御社では区別していますか?

池田  アスクルでは、CLOが物流統括管理者に求められる役割も一体的に担う体制としています。荷待ち対策や倉庫のバース予約、デジタル技術の導入、物量情報の可視化などにも早い段階から取り組んできました。現在は、物流統括管理者の責務に着手し、ロジスティクス全体の最適化を進めるステージに入っています。

――  荷待ち時間や荷役時間について、現状を教えてください。

池田  具体的な時間は公表していませんが、入荷は事前予約を前提に運用しています。2019年からバース予約システムを導入した当社の大規模物流センター「ASKUL関西DC」(大阪府吹田市)では、トラックの1時間以上の待機は10%以下に低減しており、社会課題になっているような長時間待機といった状態は、数年前からないと認識しています。

自動化×AIによるDX戦略
商材拡大と物流高度化で事業成長へ

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ASKUL関西DC

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最新設備を導入した庫内

――  DX戦略について、お伺いします。ASKUL関西DCはじめアスクルでは、自動倉庫やピッキングロボットなど様々な最先端機器を導入されています。今後の自動化についてはどのように進めていきますか。

池田  近年、アスクルが提供する商品数は1500万超に増加しています。方向性としては、特定のピッキングロボットの対象SKUを増やすというより、物流全体を見て、どこに自動化設備を導入すれば最も効果が出るのかを考えています。

――  人手不足も加速するなか、多品種化へ対応するためには、どのような設備が必要でしょうか。

池田  事業戦略と連動して、物流ソリューションを選定しています。2025年7月に発表した中期経営計画では、飲食店や医療・介護を含む重点6業種を対象に品揃えを強化する方針を掲げており、そのためには多品種の商品を扱いやすい物流設備が必要です。一例としては、多品種化に対応しやすいAGVです。

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AGVが稼働している様子

人手不足への対応においても、完全に人をなくすことを目指しているわけではありません。目指しているのは、人に頼らないオペレーションではなく、少人数で高品質なオペレーションを実現することです。

――  物流効率化へAI活用も注目されています。アスクルではどのように取り入れていますか。

池田  全社的にメールやデータ分析などの日常業務でAIを活用しています。物流では、以前から需要予測などに取り組んできました。最近では配送の配車計画や、10拠点ある物流センターに、どの商品をどれだけ配置するかといった計画にもAIを活用しています。

物流でAIが最も効果を発揮するのは、「計画系」だと考えています。いわゆるオペレーションや先述したピッキングの領域ですね。ロジスティクスには非常に多くの反復作業があり、正しい在庫配置や配送計画など、繰り返し回数の多い業務を改善していくことが重要です。

AIを活用し、条件を設定して計算し、結果を出す。その結果を学習し、実際との差異を確認し、誤りがあれば再計算する。こうしたサイクルを繰り返すことで、昨日より明日、1か月後はさらに良くなるという世界が創れます。

――  今後の物流戦略投資については、どうお考えですか。

池田  AIや自動化設備はもちろん大切ですが、まずはお客様に近いところに高度自動化された物流センターを作るというのが基本的な考え方です。ご注文を受けてからお届けするリードタイムが短い方が良いですし、タッチポイントが少ない方が商品の痛みも起こりません。

直近では、埼玉県上尾市に「ASKUL関東DC(ディストリビューションセンター)」を開設し、2025年6月から稼働しています。

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ASKUL関東DC外観

――  ASKUL関東DCは、AVC関西に次ぐ10.4万m2の大型物流拠点だとか。この施設によりアスクルの物流はどう変化していますか。

池田  ASKUL関東DCは、当社の中期的な物流戦略において重要なミッションを担う東日本のマザーセンターという位置づけです。 ロングテール商品を本センターに集約することで、様々な商品を1箱でお届けし、配送費比率の低減を図っています。

マザーセンターをAVC関西と東西2拠点化し、同時に既存の物流センターを再編することで、お客様のご注文内容に応じて、物流センターから商品をまとめてお届けできる体制を整えます。

――  お客様に近い拠点から、出荷するという仕組みですね。

池田  そうです。在庫についてもAIを活用した「在庫配置計画アルゴリズム」開発を、電気通信大学とタイムインターメディアと産学連携で取り組んでいます。1つのオーダーにつき複数の出荷による荷物の小口割れを解消するため、全国の物流センターの在庫配置を、常に最適化し続けています。

エシカル物流とレジリエンス
危機を「変革の加速装置」に

――  CLOには、調達部門も含めたサプライチェーン全体の最適化や社外との連携・共創なども期待されています。どのように取り組んでいきますか。

池田  物流は、個社だけで完結することが極めて少ない領域です。他社や業界と協調しながら、全体の効率化や最適化を進める必要があると考えています。

ラストワンマイルでは、自社開発した配送管理システム「とらっくる」を、グループ会社や外部の配送パートナーに開放し、配送管理やルーティング、お客さま対応ができるようにしています。このシステムはアスクルの荷物以外にも利用できるので、配送の効率化やドライバーさんの負担軽減に役立てていただいています。

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配送管理システム「とらっくる」の仕組み

サプライヤーとの連携では、複数の企業と入荷車両や仕入れ計画に関する情報を共有しています。企業ごとに入荷車両を手配するのではなく、発注量を平準化し、入荷車両をより効率的に運用します。

――  アスクルでは「エシカルeコーマース」を推進していますね。重点的に取り組んでいることは?

池田  商品そのものを通じて、お客さまやサプライヤーと一緒にエシカル(人や社会、地球環境、地域に配慮した考え方や行動)な取り組みを進めることが重要です。例えば、当社オリジナルの「LOHACO Water」では、2リットルの水を5本平置きできる箱を採用しています。配送用ダンボールの一番下に置き、その上に別の商品を重ねることで、配送効率を高める設計です。

飲料では、ラベルレス商品も増えています。ペットボトルの形状や材質を工夫し、軽量化した商品もあります。サプライヤーが運びやすい商品をつくり、お客さまがそれを選び、アスクルが効率的に届ける。それぞれ参加することで、新しいエシカルな価値を創ることができます。

今後は、配送資材にもできることがあると考えています。商品設計、荷姿、配送資材、在庫配置を一体で考えることで、物流の効率化と環境負荷の低減を両立できる領域は広がります。

――  EV車両の導入状況はいかがですか。

池田  新しい車両が出るたびにトライアルを行い、少しずつ増やしています。現状のEV車両は、バッテリーが重く、スペースも取ります。そのため、運べる量が減り、かえって効率が悪くなる場合があります。より良い車両が開発されれば、情報を得ながら積極的に活用していきたいと考えています。

――  他社の物流統括管理者またはCLOへ、メッセージをお願いします。

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池田CLO 執行役員 ロジスティクス本部長

池田  一定規模以上の特定荷主には物流統括管理者の選任が求められますが、義務だから置くものではないと思います。物流は、非常に重要な経営機能です。物流を理解し、経営も理解し、現場を動かせる人が就くことが望ましいと考えています。

物流課題には、個社だけでは解決できないものが多くあります。物流統括管理者(CLO)同士が知見を共有し、共同で解決に取り組むことができれば、物流業界全体の発展につながります。

――  最後に、レジリエンスの観点から一言、お聞かせください。

池田  火災やサイバー攻撃など、危機の種類にかかわらず、元に戻すだけでは十分ではありません。「元に戻す」のではなく、「より強くなって戻る」ことが重要です。危機そのものを「変革の加速装置」と捉え、危機から学び、仕組みや体制をより強くする。そうした姿勢で取り組むことが、物流のレジリエンスを高めるうえで重要だと考えています。

取材・執筆 吉坂照美

■プロフィール
アスクル CLO 執行役員 ロジスティクス本部長
池田和幸(いけだ・かずゆき)
大手IT事業会社、大手流通小売業を経て、2003年アスクル入社。IT部門での基幹システムの構築、物流部門では物流ロボット導入プロジェクトなど、ITからロジスティクスまで幅広い分野で多数のプロジェクトに従事。2016年、執行役員として物流本部を統括。テクノロジー本部長などを経て2026年より現職。

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