ヤマトHD/櫻井社長に聞く業績回復への「選択」、価値創造への「打ち手」

2026年09月28日/SCM・経営

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今年4月にヤマトホールディングス(HD)新社長に就任した櫻井敏之氏による記者会見が、東京都内の本社ビルにおいて9月24日、行われた。

物流業界が大きな転換期を迎える中、「宅急便」という強固なインフラを維持しながら、持続可能な物流への成長戦略をどう描くのか。櫻井社長は記者陣とテーブルを囲み、具体的な打ち手や事業展開、そして経営者としての芯となる哲学まで、膝詰めで語った。

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2026年09月28日
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櫻井敏之社長

櫻井社長は1974年11月21日生まれ。1998年に入社し国際物流・通関部門で海運・通関から国内配送まで経験。上海、シンガポール勤務を経て、ヤマトフィナンシャルでは通販向け後払い決済サービスの企画にも携わった。2010年にはシンガポールで宅急便事業の立ち上げを担当。現場への権限委譲を通じた事業改善を経験し、「責任は自分が取り、現場を信じて任せる」というリーダーシップの原点となった。2022年以降は自治体などとの共創による社会課題解決を推進し、2026年にヤマトHD代表取締役社長に就任した。

業績回復への「選択と集中」、データとAI活用で高度化へ

櫻井社長が就任後、最も優先すべき課題として取り組んでいるのは、「足元の業績回復」だ。その核心は、業務量の増減に合わせたコストの「変動費化」にあるとし、「業務量をきちんと予測できない、もしくは予測していたが揺れ幅に対応できるオペレーション体制になっていなかったことがここ数年、業績の下方修正につながっている」と分析する。

これに対し、昨年の後半からAIを活用した配車計画と配送ルートの最適化を徹底している。これまでは配車担当者の経験や勘に頼っていた部分を理論値に近づけることで、首都圏では車両台数を3割削減するなどの成果が出ているという。

ラストマイルにおいても同様だ。営業所ごとに到着する荷物量をデータで予測し、自社社員と外部パートナーを最適に組み合わせる体制を構築。また最適な「停車位置」まで指示する専用自動ルートを導入することで、「データとAIがようやく機能し始めてきた」と手応えを語る。

トップライン(売上高)の向上については、「採算性」を重視したプライシングへの転換を明言。「これまでのようにコストプレッシャーの大きい荷物を無差別に受けるのではなく、適正価格を提示し、収益性の低い案件については断るというケースも出てくる。意図的に業務量をコントロールし、収益を確保することが重要だと考えている」。

また中期経営計画でも示した宅急便以外の事業領域、コントラクトロジスティクスやグローバル事業に、継続的に注力していく方針を明らかにした。

フレイター撤退と「聖域なき見直し」

ヤマトHDは今年9月、日本航空(JAL)グループと共同運航している国内線貨物専用機(フレイター)について、2027年6月をめどに運航を終了(撤退)すると発表した。櫻井社長は、この決断について、円安によるコスト増に加え、想定していた市場環境との乖離を挙げた。

「2024年問題によって長距離トラックの運賃が上昇し、結果として航空運賃との逆転現象が起きると予測していた。しかし、実際には航空運賃が高止まりし、差は広がる一方。モーダルシフトをきっかけにフレイターのニーズもあるが、当初の事業計画ベースに乗せることが困難であると判断した」と説明。

今回のフレイターに限らず、櫻井社長は今年1月の社長交代会見から、「聖域なき見直し」に取り組んでいる。

その一環として、事業を取り巻く外部環境が変化する中、過去に行ってきた投資やコスト構造の在り方については順次見直し、社長直轄のプロジェクトとして進めている。一方で、「インフラとしての責任」と「物流の手段(配達方法など)」は明確に分けて考える必要があるという。

「全国に荷物を届け、ヤマトに預ければ安心だと言っていただける状態を継続することは、我々のミッション。一方で、それを行うためのオペレーションや配達のやり方は、時代に合わせて柔軟に変えていくべき」だと語った。

「物流統括管理者(CLO)」の選任と物流の未来

今年4月に本格施行した物流効率化法により、荷主企業において「物流統括管理者(CLO)」を設置する動きが加速しているが、物流事業者側はどう変わっていくべきか。櫻井社長はこの流れを「物流業界の立ち位置を向上させる最大のチャンス」と捉えている。

「荷主企業にとって、物流はかつて『コスト』として捉えられていた。しかし、地政学リスクや人手不足の中で、持続的にモノを運ぶことは経営課題そのものになっている。物流統括管理者(CLO)の方々は、持続可能な輸送網の維持がミッションになっており、我々は単に運ぶだけの業者ではなく、国内外のサプライチェーン全体を設計し、顧客の経営課題を一緒に解決するパートナーを目指していきたい」。

こうした方針のもと、法人向けビジネスにおいては、これまで注力してきた通販や医療機器関係に加え、製造業の領域を強化していく。具体的には、得意分野である小回りの利く小口配送と、ヤマトが窓口となって大物物流を最適化する輸送モードを組み合わせる。例えば、建機や自動車といった製造業において、補給部品の物流をヤマトが一括して受託する事例がその代表例だ。

「当社に限らず、『あと100円頑張ります』と価格を下げるのではなく、逆にお互いが100円上げて、その価値を顧客側に買っていただく業界になっていかなくては。お客様の経営課題に資するような、継続的な物流を提供することが、価格競争からの脱却を可能にする」と、業界の変革も促す。

また社会共通の課題である人手不足をふまえ、注目する技術として「自動運転」を挙げた。近年、注目されているAIロボットといった先端技術に対しては、冷静かつ戦略的な視点を持っている。

「幹線輸送における拠点間の無人トラックや、ラストマイルでの自動走行車両導入には着目しており、今のうちから検討を始めている」としつつ、「物流の現場には、必ず人の判断と調整が必要になる。自動運転が進んでも、無人トラックへの積み替えや、現場での細かな配車調整は人が行う。技術はあくまでオペレーションを標準化し、効率化するための手段であり、ヤマトの強みである『現場力』と融合させてこそ価値が出る」と話す。

現段階では、物流に即したヒューマノイドやフィジカルAIの導入については慎重な見方を示し、地に足のついた技術投資を行う構えだ。

会見では、櫻井社長の経営哲学についても聞くことができた。「苦手な人を作らず、人の長所を見て対話する」姿勢は、法人営業や海外事業での交渉の現場で培われたものだという。また「重要な判断をする時には必ず2~3人の意見を聞き、事実確認をする」という客観性を持ちながら、高校時代に学んだ仏教の教えに基づく「ぶれない芯」を、経営判断の軸に据えている。

最後に、就任半年を経た今の思いをこう締めくくった。

「私が目指すのは、社員がヤマトを『好き』でい続けられる会社。社外に対しては、100年以上の歴史で培った安心と信頼のブランドを大切にし、さらに輝かせ、社会になくてはならないインフラとして、次の飛躍につなげていきたい」。

取材・執筆 吉坂照美

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