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日本郵船/コーポレート部門の競争力を強化

2010年01月04日/3PL・物流企業

日本郵船が1月4日に発表した「2010年商事始め式 社長あいさつ」によると、工藤泰三社長は、「昨年1月に開始した『宜候プロジェクト』は着実に進捗している。仕上げの年となることしの課題は真の『営業力強化』を図る」と述べた。

昨年は、過剰が顕在化したコンテナ船、自動車船、航空機、倉庫、トラックは、とにかく過剰部分を返却あるいはスクラップし、それができないものは稼動させずに燃料代や港費など稼動・運航にかかわる固定費を徹底的に削減することが緊急課題だった。同時に、コンテナ船・自動車船の減速運航も徹底させた。

その結果、減速運航も加味した実質的な稼動運航規模は、「宜候プロジェクト」を開始した昨年1月と本年1月との比較でコンテナ船が115隻・41万TEUから約90隻・35万TEUへ、自動車船は130隻が約90隻へと大幅な削減を達成した。また、航空機に関しても保有10機中2機の駐機を継続中だ。特に欧州で余剰が顕在化した倉庫とトラックについて、85万平方メートルから76万平方メートルへ、1,500台から1,100台へとそれぞれに大幅なスリム化を実施した。

これらのスリム化努力をさらに徹底し、とにかく本年度下期の黒字復帰を是が非でも達成せねばならない。

ただ自ら対応可能なスリム化だけでは、特にコンテナ船事業、航空運送事業の経常黒字化は不可能だ。極端に下落した運賃水準を適正な水準に修復することが必要であり、そのためには顧客の理解が欠かせない。さいわい昨年の夏場以降、運賃修復に一定の成果があがり始めている。加えて荷動きも回復しつつあることから、赤字幅は縮小傾向にあるが、額は依然として大きく、この状態が続けば事業継続が困難な状況にあることに変わりはない。

従って、当面はさらなるスリム化とあらゆるコスト削減を徹底し、顧客の理解を得る努力を継続しつつ、一方で航空運送事業、コンテナ船事業をサステナブルな事業モデルへ転換するため、体質の改善を急ぐ必要がある。これが「宜候プロジェクト」2年目の最大課題の1つだ。詳細については今後さらに検討していくが、おおよその方向性は昨年10月の中期経営計画の見直し時に示した。すなわち、海上・航空フォワーディングという利用運送業とコンテナ船・航空機による実運送業、いわゆるノンアセット事業とアセット事業とを車の両輪とする事業モデルの構築だ。

航空運送事業およびコンテナ船事業は、完成品やその生産・補給のための部品が主要な輸送品目だが、大半が消費財であるため、資源・エネルギー輸送と違い、運賃水準・輸送数量を保証する長期契約が存在しない。その結果、いったん需給が逼迫(ひっぱく)すれば運賃は急上昇し、逆に緩和すると運賃が急速に下落する大変ボラティリティーの高い事業だ。

コンテナ船事業や航空運送事業は、世界人口の増加に比例して需要が拡大する成長産業だが、このボラティリティーの大きさを持ったまま事業拡大することがいかに危険であるかは、昨年経験したとおりだ。従って、今後当分の間はコンテナ船事業、航空運送事業の拡大はノンアセット事業に軸足を置いて対応すべきだと考える。

ただしコンテナ船や航空機を持たないということではない。ハード・アセットを持たなければ、創意工夫を生かしたコスト低減による他社との差別化の源泉をなくしてしまうし、顧客の要望するサービスを、機動的に構築することもできない。例えば、最近の航空貨物荷動きの回復を受け、顧客からチャーター便の引き合い、成約が急増しているが、これはハードがなくては対応できない。また中長期的に成長産業である以上、各オペレーターの今回の苦い経験の学習効果と、燃料代高騰や環境問題を背景とした減速航行の常態化とにより、将来、需給ギャップが適正な水準で推移する可能性も十分にある。その時にハード・アセットを持つことで得られる期待利益、アップサイド・ポテンシャルを完全に失うつもりはない。

問題は長期固定アセットの持ち過ぎだ。長期固定アセットは極力絞り、足りない部分は短期で借り、常時下方柔軟性を持つことを心掛けねばならない。コンテナ船隊はこの長期固定の部分を2015年までに隻数で半分、スペースで3分の2にスリム化する予定だ。

それでは、いかにフォワーディング部門を拡充するか。すでに当社グループには、日本郵船の物流事業であるNYKロジスティクスと郵船航空サービスという二つの物流会社が存在する。 
 
NYKロジスティックスは倉庫、貨物集配の内陸輸送、通関、コンソリデーションなどのコントラクト・ロジスティクス事業が主体だが、課題である海上フォワーディング事業拡張のためには、航空貨物を同時に引き受けるなど、利便性を高めて取扱量を増やす必要がある。 

他方、郵船航空サービスは航空フォワーディング事業が主体だが、若干出遅れていた海上フォワーディング、コントラクト・ロジスティクス事業に対する顧客からの引き合いも増えており、それに十分対応できないことが課題だった。
   
その一方で、顧客の視点に立てば、同じNYKグループの別の2つの会社がコントラクト・ロジスティクスと航空フォワーディングというそれぞれ異なるサービスと、海上フォワーディングという同一のサービスを、別個にセールスに来るという顧客不在の営業体制であったことは間違いない。  

両社を統合すれば、この状況を解消でき、航空・海上フォワーディングとコントラクト・ロジスティクスの全てにワンストップで対応できる、顧客から求められる体制の構築が可能だ。

先般、両社統合の協議開始を決めた背景は以上のとおりだ。ただし、両社を統合すれば問題が全て解決するわけでは決してない。必要なのは、航空、海上、コントラクト・ロジスティクスの全てに精通する物流のプロを育成し、顧客の抱える問題対応力を高めることだ。

これができて初めて、統合の効果が現れるわけで、むしろこれからが勝負であり、「画竜点睛」を欠いてはならない。一環として、昨年夏より当社のコンテナ部門、NYKロジスティックスジャパン、郵船航空サービスほか、これらの部門の関係各社の間で積極的な人材交流を開始している。

一方、もう1つの柱である「攻め」、あるいは将来の攻めのための準備も昨年1年間、着実に進めてきた。本年1月1日現在、新造船の発注残は約190隻ある。この内、約140隻がバルクキャリアーとエネルギー関係の船であり、発注残の大半を占める。
 
発注済みのこれらバルクキャリアーを引き当てに、中国やインドの主要鉄鋼メーカーや、ブラジルの資源会社などとの長期契約ビジネスを拡大中で、今後も長期契約を前提に製鉄原料やエネルギー輸送分野への投資を積極的に展開していく。発注残の中には昨年成約した大水深掘削船(ドリルシップ)も含まれるが、現在さらに他のオフショア事業への参入も積極的に展開中だ。

ただし、世界的な金融情勢混乱の中にあって、これらの成長分野に積極的に投資していくには、堅固な財務体質が不可欠だ。昨年末、増資を実行したのもさらなる成長のための下準備だ。

このように振り返ってみると、昨年1月に開始した「宜候プロジェクト」は着実に進捗している。仕上げの年となる本年の課題は真の「営業力強化」を図り、それをベースに適正なリターンが期待できる事業の拡大と投資案件を発掘しながら、将来のあるべきポートフォリオを考えることだ。

すなわち「成長戦略たる次期中期経営計画の構築」だ。この課題こそ今回の「宜候プロジェクト」の最重要かつ大変困難な課題でるが、NYKグループ・バリュー「誠意・創意・熱意(Integrity、Innovation、Intensity:3 I’s)」をもって達成せねばならない。

コーポレート部門の競争力強化も「宜候プロジェクト」における重要課題だ。コーポレート部門でもコスト削減が順調に進捗しており、財務体質の強化も達成した。

ことしは、コーポレート部門にとってのサービス提供先である営業部門の視点に立ち、コーポレート部門の組織がどうすればムダのないスリムな、使い勝手の良い組織となれるのかをさらに徹底検証させたい。

スリム化によって供出できる貴重な人材には営業部門を含めた他の部門で活躍してもらい、組織をさらに活性化させる。人材のスリム化はコーポレート部門に限ったことではなく、営業部門にもあてはまる。非効率な人材活用は、社員にとって一番不幸な状況であることを全員で認識する必要がある。

安全運航は、引き続き当社にとって最優先の課題だが、この安全運航能力がエネルギー輸送部門、オフショア事業への参画・拡大に今や必要不可欠だ。この能力は当社にとって他社を凌駕(りょうが)する得意領域であり、この力を最大限発揮し、オフショア事業などをさらに拡大していきたい。

また、燃料費の高騰と地球温暖化防止に向けた環境問題への対応は当社にとっても死活問題だが、この分野でも他社に対しハード・ソフト両面でのさらなる差別化が進んでいる。

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