サービスの多様な意味
サービスという言葉は、多様な意味で使われている。たとえば、「あの店はサービスが良いね」というときは、小売店での価格の割引や商品のおまけを指すこともあれば、飲食店での丁寧な挨拶や配膳での気遣いを指すこともある。
西欧であれば、気遣いに対してチップを置くところだが、日本にはその習慣はない。また、割引もおまけも、回りまわって商品価格に跳ね返ってくるはずだが、ついつい自分だけが得をした気分になってしまう。
有形財(商品)と無形財(サービス)
一般に、商取引には、所有権が移転する商品(有形財)の売買と、移転しないサービス(無形財)の売買がある(表1)。
商品(有形財)の売買の例として、小売店での買い物がある。コンビニでおにぎりを買うと、その所有権が購入者に移転するからこそ、食べることもできる。サービス(無形財)の売買の例として、美容院での髪のカットや病院での診療などがある。髪のカットでは美容師の技術に対価を支払い、診療では医師の診察や治療に対価を支払っている。
物流(輸送、保管、荷役など)も「サービス(無形財)の売買」であり、行為や技術に対価を支払っている。よって、宅配便では配送料を支払うものの、運ぶ荷物の所有権が、配送業者に移転することはない。
表1 商品とサービス
商品(有形財) :商品や物資の取引
(所有権が、移転する)
サービス(無形財):精神・態度、行為・知識・技術の取引
(所有権は、移転しない)
無形財(サービス)における無料と有料
サービスについて、清水滋は4つに分類している(表2)。精神的サービス(1)とは、「サービス精神が旺盛」というような場合であり、精神的なあり方を示す場合である。態度的サービス(2)とは、「小売店での店員の配慮の行き届いた接客態度(表情、動作、身だしなみなど)」である。犠牲的サービス(3)とは、「価格の割引きやおまけ」であり、商品の値下げや一部の無料提供である。業務的サービス(4)は、「サービスという無形財を、有料の業務として提供すること」である。
4つのサービスのうち、「有料」なのは、唯一業務的サービス(4)だけである。そして、先の美容師の髪のカットや医師の診療とおなじく、物流(輸送、保管、荷役、包装、流通加工など)も有料の業務的サービスということになる。
物流は、有料の無形財(サービス)
このように、物流はそもそも有料のサービスであるが、サービスの意味が混同されてしまい、ときには理不尽な扱いを受けることがある。
たとえば、「サービスで、ついでに棚入れしておいて」などという「作業の押し付け」や、「サービスとして、もう少し値引きして」などという「価格割引きの強要」もありそうだ。
しかし、押し付けや強要などは、公正な取引とは言えないだろう。法令順守や社会的責任という面からも、改めて「サービスの意味」を考え直す時期に来ているように思う。
表2 4つのサービス
1.精神的サービス:精神的あり方
2.態度的サービス:表情、しぐさ
3.犠牲的サービス:価格の割引き、おまけ
4.業務的サービス:行為や技術の提供
(医療、理容・美容、医療、物流など)
清水滋:『サービスの話』、pp.9-43、日経文庫(105)、日本経済新聞社、1990