日本GLPが推進する新たな物流施設「ALFALINK(アルファリンク)」シリーズにおいて、トータルプロデュースを手掛けたクリエイティブディレクターの佐藤可士和さん(SAMURAI代表)。ユニクロや楽天のブランド戦略や国立新美術館のシンボルマークなど数多くのデザインワークで知られるクリエイターに託されたのは、「次の物流をつくりたい」という帖佐義之 社長からの難題。ALFALINKプロジェクトは相模原を起点に始動から5年、相模原・流山は満床稼働中、茨木(2025年7月全棟竣工予定)・尼崎(2026年6月全棟竣工予定)も着工時点で6割が成約済み(2023年末現在)、さらに昭島にシリーズ最大規模のプロジェクトを進行中だ。海外からの注目度も高く、「GLP ALFALINK相模原」はドイツの国際的な建築デザイン賞で最高賞に輝いた。佐藤氏が導き出した「次の物流」の答えとは―。取材日:2023年11月9日 於:SAMURAI
物流は社会最先端の課題
ユーザー視点で問い直す
―― 物流業界にどんな印象を持っていましたか。
佐藤 GLPのプロジェクトがスタートした2019年は、宅配ドライバーの再配達の問題など、物流クライシスという言葉がメディアを賑わせていました。その当時、僕は宅配ボックスの製造販売をしている企業のディレクションに携わっており、本当に現代社会の重要なトピックでプライオリティーが非常に高い、そういう意味で「社会課題の最先端」の業界だという認識がありました。
―― 物流施設のプロデュースという仕事は珍しいのでは。
佐藤 ちょうどALFALINKの前に、大手食品メーカーの工場見学をデザインする仕事をしたのですが、企業として信頼と安全性はとても重要な情報で、その環境をどう「見せて」いくかということは、コーポレートブランディングとしてとして非常に大切なことです。工場見学を通して、普段目にしないものを「見せていく」ことによる効果を実感していたところでもあったので、物流施設を新しく作るなら、地域や社会に対して「開いていく」ことを前提にデザインしていくことが鍵になるのではないかという確信がありました。
―― 帖佐社長からの反応は。
佐藤 すごく新しい考えだと思う、真逆だと。大げさにいうと今までどちらかというと見せたくない施設だったのでとおっしゃっていました。倉庫の使い勝手の話も議論して、帖佐社長は大きな課題意識を持っておられて、「物流の次を作ってほしい」と。すごく抽象的で難しかったですね。あれほど広い土地を入手して物流施設を作るわけですから何かメッセージがなくてはいけない。日本では最大級、街ひとつ分ぐらいの大きさです。物流の未来を提示するような、今までの物流の常識を覆していくような新しいもの。「倉庫」という概念が「物流」という概念になり、その「物流」の次の何か―。1つのキーワードで表すのは難しいですが、今後、ALFALINKを皮切りに言語化されていくのかもしれません。
―― 物流のその次―、難題へのアプローチ方法は。
佐藤 半年ぐらい帖佐社長をはじめ、プロジェクトメンバーにヒアリングとディスカッションを続けました。僕がずっと問い続けているような感じですが(笑)。毎回毎回、脳みそから汗をかいて、可士和さんに質問攻めにされてつらいと、おっしゃっていました。何が問題なのか、なぜそうなってしまうのか、帖佐社長もずっと感じていながら意識下に入っていたような本質を、対話を通じて引き出すのが僕の仕事なのです。
もちろん質問すること自体が目的ではありませんが、最初は物流業界のことを僕は何も知りません。本当に外側から、普通の生活者としてスタートします。しかし、その視点が非常に重要なのです。僕は初めての仕事をするとき、仕事をする前の状態、感じている事を大切にしています。今まで関心がなかったなとか、全然知らなかった、ということを忘れてはいけない。それが世間一般の感覚だと思うのです。仕事をするので当然、その業界について勉強しなくてはいけないので情報を収集していくと、最初に思っていたことと絶対にギャップがあるのです。それこそが課題そのものだったり、何か解決する糸口であることが多いです。
―― 糸口を見つけたのは、どんなやりとりから?
佐藤 「物流施設をコストセンターからプロフィットセンターにしていきたい」と帖佐社長はおっしゃっていました。コストセンターというと、只々経費がかかっていく場所として捉えられ、業界全体も価格競争みたいになってしまう。1円でも安いほうがいいとなると、業界全体としても良くない。でも、今の状態で同じような機能のままプロフィットセンターにすると言ってもなかなか難しい。何か新しい価値を付加して、「これなら投資する価値がある、何かを生み出す場である」という方向にしていくにはどうしたらいいかをずっと議論し続けて、「創造連鎖する物流プラットフォーム」と「Open Hub」というコンセプトが生まれました。「創造連鎖」というのはかなり重要なキーワードで、ALFALINKの新しい物流というものに対する答えの一つであり、そのためにOpen Hub化していくという思考に繋がりました。
―― ALFALINKという名前の由来は。
佐藤 「創造連鎖」「Open Hub」というキーワードを考えた後で、それを社会にコミュニケーションしていくにはどうしたらいいか。物流施設全体に名前を付けて、ロゴを作り、ブランドにしていきましょうと提案しました。何もしなければ「GLP相模原」という名前になったかもしれませんが、ALFALINKという名前を付けてブランドにすること自体がメッセージになります。「物流に未来のプラスαを」というコンセプトで、オープンにすることにより、様々なモノやコトがリンクしていく。ブランドネームはコミュニケーション上、非常に大きなアセットです。
ALFALINKは共通のコンセプトとして、価値・事業創造の拠点となる「Open Hub」、サプライチェーンを1か所で統合する「Integrated Chain」、最先端技術を提供する「Shared Solution」の3点を掲げている。「Open Hub」では敷地内にユニークな環状の共有棟「リング」を設置し、カフェやコンビニのほか各棟をつなぐ歩廊を備え、地域にも開放している。
リング棟の誕生秘話
人が集い、繋がる物流施設に
<現場を視察する帖佐社長(左から3番目)と佐藤さん(右から2番目)>
―― 施設デザインでSAMURAIが携わったのはどの部分ですか。
佐藤 リング棟と外構デザインですね。入り口から大きいロゴのオブジェがあって、遊歩道があって。あとは1番倉庫の上からリングが見える物見台を作ったり、ランドスケープを含めた共用部をデザインしました。どうしても倉庫自体は四角いというか、それが使いやすい形なので、そこはあまり変わったことする必要はないと思っていました。四角に対して、リング棟は丸という一番対照的な形にしました。
―― リング棟は佐藤さんのアイデアですか。
佐藤 そうですね、みんなが集えるような場所を創ろうと。最初はある大きな倉庫の一部を共用部にするアイデアを出していました。新しいものを建てる計画ではありませんでした。建築を同時に進める中、コンセプトができて、ネーミングが決まり、ロゴができてくると、「ん?なんか違うな」と。自分がそこで働くならなど、いろいろなことを想像してシミュレーションしていったとき、もっといい答えが出せそうだと思ったので、「やり直させてほしい」と言いました。
―― 四角から丸に?現場の反応は?
佐藤 四角が丸にどころか別棟で、コストのこともありますし。全体のデザインもかなりできていたので現場は「ええっ?今からもう一回やり直すんですか?」と驚いてました。帖佐社長は「いいんじゃないですか、可士和さんがベストだと思うアイデアを考えてくれてたら全然いいと思います」とおっしゃって下さって。僕としてもやり直しは珍しいことなのですが、それだけ大規模で、やったことがないことばかりで、いろいろなファクターが絡み合い複雑でした。
―― 何かアイデアが出てくるとき、佐藤さんの頭の中はどのような感じですか。
佐藤 左脳と右脳のキャッチボールをずっとやっている感じですね。インプットするときはすごくロジカルに、社会問題や物流課題の整理をして、こうでなくてはいけないと。それにプラスして重要なことはもっと感覚的なことですよね。例えば、もし僕がそこの物流施設で働いていたら、どんな場所だったら毎日行きたくなるかなとか。誰だって気持ち良くないより気持ち良いほうがいいですよね。そこは本当に、年齢とかターゲットとか、あまり関係ないんです。その施設で働くならとか、もし近所に住んでいたらどうだろうとか、そういう目線です。それはビジネス課題を整理することとはもっと別の視点です。
―― そういう視点が今までの物流施設には欠けていた?
佐藤 たぶん、そうですね。あらゆるクライアントに対してそうなのですが、例えばセブン-イレブンの仕事だと、街を歩いていて、ふらりとセブン-イレブンに寄ったらどう思うだろうとか、その時に何が目に入ったら買う気になるんだろうとか、徹底的なユーザー視点というか生活者目線から見て、社会問題とクライアントの課題を結びつけながらデザインに落とし込んでいくというのが僕の役割だと思っています。
―― 完成後、周囲の反応はいかがでしたか。
佐藤 GLP ALFALINK 相模原のグランドオープンイベントで、入居企業のトークセッションを聞いて本当に嬉しかったです。まさに、創造連鎖が行われていました。ブランドムービーでもいろいろ方のインタビューを撮らせていただいたので聞いてはいたのですが、セッションではかなり具体的な話もされていました。JPロジスティクスさんと西濃運輸さんの対談で、「2024年問題は1社で解決できるようなことではない」とおっしゃっていて、本当に業界全体で手を組んで、みんなで解決していかなくてはならないという言葉もすごく納得できたというか、素晴らしいと思いました。
―― Open Hubが機能し始めているのですね。
佐藤 そうですね、本当に人と人の繋がりをつくる。まさに、そのために空間のデザインというパワーをフル活用して、そういう気分を醸成するというか。今までと何も変わらない場所で、そうしてくださいと言っても、なかなかそういう気にならないかと思いますが、環境の影響はすごく大きいと感じています。今までかなり長い時間かけてそうなったものが、言葉だけを考えても一足飛びにはいかないですよね。これまではせっかくさまざまなテナント企業が入っているのに、なかなか連携も行われていませんでした。西濃運輸さんは、競争相手が共創相手になったとおっしゃっていましたが、本当に素晴らしいコメントでした。
■ALFALINKグランドオープンイベント(相模原/流山)ダイジェスト
―― 地域からの反応は。
佐藤 運動ができるところがほしいとか託児所があれば、というアイデアはGLPの方々ともずっと話していましたが、地元の高校生が学校帰りに立ち寄って勉強してくれているそうです。嬉しいですね、それはちょっと想像もしていなかったです。あとはマルチコートでのフットサルも人気で、予約がとりづらいくらい埋まっていたり、少年サッカー教室も大人気です。
―― 海外からも評価され、ドイツの建築賞で最高賞を受賞されたとか。
佐藤 本当に嬉しかったのは、今僕が話していた、大きな社会課題の解決の糸口になっているということを感じ取っていただいての“Best of Best”(最高賞)だということです。今までデザインとか、クリエイティブの力があまり入っていないところ(物流)に着手して、かなり大規模にチャレンジしているということを評価していただいたのだと思うのです。GLPの「ICONIC AWARDS」を見て今、複数の海外の建築のウェブサイトなどから取材の申し込みが来ていて、影響力の大きさを感じます。
物流は「みんなのもの」
変化に対応しアップデートを
―― 今後の物流施設開発についてはどう考えていますか。
佐藤 僕が日本中の物流施設を全部デザインすることはできないと思いますが、そのきっかけを作るということは、ぜひやりたいと思っています。今までなかったところに一石を投じて、その最初の一歩、石がごろっと動き始めるところを。一番大変なところなのですが、そこに携われたら本当に嬉しく思います。ALFALINKをきっかけに、物流業界がもし本当にそのように動いていって、「10年後、20年後を見たらずいぶん変わったよね」となればいいなと思います。
―― 先進的な物流施設は日本にまだまだ少なく今後、東京湾岸沿い再開発も話題になるのでは。災害拠点としての役割も求められそうです。
佐藤 必要ですよね。東京湾岸沿いの再開発は機会があればぜひ関わりたいですね。何でも多機能がいいとは思いませんし、全ての物流施設にはそれぞれの特性がありますが、ある程度の規模感を持っている施設なら街の一部ですよね。よく、ブランドとか企業は誰のものかという話で、株主のものとか社員のもの、とかいろいろありますが、やっぱり「みんなのもの」というか、社会のものだと僕は考えています。ですからその視点を導入することが、僕のようなクリエイティブディレクターの役割ということだと思います。
―― 社会における物流の未来形というか、提言などあればお願いします。
佐藤 ALFALINKで構築した「創造連鎖」ですね。本当にいろいろなテナント企業が壁を越えて創造連鎖していくと、ものすごく新しいことが多々生まれるのではないかと思うので、まさに「創造連鎖」のコンセプトが日本中、世界中に広がってくれたら、本当にそれが「物流の次」になるのではないでしょうか。まだ言語化されていないかもしれませんが、それを無理やり作るのではなく、例えば創造連鎖がどんどん進んで、気付いたら10年後、昔の物流施設とはもう全く違うものになっている、たぶんそうなるのではないかと思います。
例えばスマートフォンの登場も、ALFALINKの誕生に影響していると思います。デバイスは同じ機種でも3人いたら入っているアプリが全部違うというようにパーソナライズされている。それはやっぱり昔のハードとだいぶ違うというか、ガラケーだとそれはできなかったですよね。だからハードが変われば相当やり方が変わるというか、考え方そのものが変わっていくのではないかと思います。
―― あと10年もたてば、物流施設の自動化もかなり進んでいると思いますが。
佐藤 そうですね、ただ物流業界だけでは変わっていかないと思います。もうまさに物流業界と自動車業界など、いろいろなことが創造連鎖しないと。
―― そこも創造連鎖ですね。
佐藤 そうでないとイノベーションが起きない。違う価値観に出会うのはすごく大事なことで、イノベーションは本当に全く違う価値が結合しないと生まれないでしょう。似たようなものが集まっても、似たようなもののままですよね。だから全然違うものが結合して初めて新しい価値が生まれる。そのためには出会わないと結合すら起きないし、そのために出会う場を設定したり、場を作ったりというのが大切ですね。まさにそれがALFALINKそのものです。
本当に、あらゆる業界がそうだと思いますが、物流だけではなく、今の世の中で問題になっていることは、ほとんど「業界の常識が社会の非常識」になっていることに起因するとも言えると思います。だからこそ、業界の壁を取り払わないと。同じだと思っていたら違う水になっているわけですから、そこを取り払って混ざっていくことは大切ですね。
―― 最後に、座右の銘などあれば教えてください。
佐藤 座右の銘は「整理」です。整理は面白くて、ぜひ『佐藤可士和の超整理術』という本を読んでいただきたいのですが「整理」は視点がないと、整理できないのです。つまり、ここに今あるものもどういう視点で整理するかによって並び順が変わるわけです。例えば、色で整理しようというのと、大きさで整理しようというと順番が変わりますよね。整理するコンセプトによって最終形が全然変わる。そういうことを考えながら、どういう視点で物事を整理していったらいいかというふうにやっていくと、自分の住んでいる環境や働き方も変わりますし、ひいては人生そのものも変わっていくと僕は思っています。
―― いわゆる、断捨離とはちがうのですか?
佐藤 不必要なら捨てればいいと思いますが、整理とは、捨てることではなくプライオリティーを決めること、要するに何が一番重要なのかというのを見つけることだと思います。それは本質を掴むということでもあるので、今までとはがらっと見え方が変わる可能性があるのです。
―― これだけの情報化社会で順位を付けるのは難しいですね。
佐藤 だから、すごく面白いんですよ。
―― それはずっと変わらないものですか。
佐藤 視点は変わると思います。時代も進んでいるし、自分も年を取って、ステージも変わりますから。変わるからこそ面白いというか。例えば、学生のときと、就職したときと、結婚したり、子どもが生まれたりしたら全然違います。その変わり目が来ているのに変わらないと今までは起こらなかった問題が発生したりするのですよね。だから変わり目が来ていると感じたなら、整理の視点を見直したりすると、環境もアップデートされて問題解決がスムースになるもしれません。というように日々の生活にも整理は有効なのです(笑)
―― 物流業界も今、変わり目なのかもしれません。ありがとうございました。
取材・執筆 近藤照美 山内公雄
■GLP ALFALINK 相模原ブランドムービー
■佐藤可士和
Kashiwa Sato
クリエイティブディレクター
ブランドをアイコニックに体現するクリエイションを幅広い領域で展開する日本を代表するクリエイター。主な仕事にユニクロ、ふじようちえん、日清食品関西工場、GLP ALFALINK相模原など。京都大学経営管理大学院特命教授としてクリエイティブ人材の育成にも尽力している。Red Dot Design Award 2022 BEST OF THE BEST、ICONIC AWARDS 2023 BEST OF BESTほか多数受賞。文化庁・文化交流使(2016年度)。著書「佐藤可士和の超整理術」(日本経済新聞出版社)、展覧会「佐藤可士和展」(国立新美術館/2021年)ほか。
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