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関通/「2024年問題で困ったことない」 達城社長が語るEC戦略の極意

2025年05月29日/物流最前線

20250520icatch 710x399 - 物流最前線/関通の達城社長に聞くEC物流の生存戦略 根幹に「お客様第一主義」

関西を中心に日本全国で20以上の拠点を持ち、EC物流のパイオニアとして業界を切り開いてきた関通。「世の中の潮流を理解して先手を打つ」ことで、2024年問題にも揺らぐことのない盤石な経営を進めてきた。そんな「準備、実行、後始末」を座右の銘に掲げる達城(たつしろ)社長でさえも、想定外とした2024年の1件とは――。創業40余年、EC物流の最先端を走り続けられる関通の秘密を、語ってもらった。
取材:4月7日 於:池袋某所

<関通の達城久裕社長>
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「2024年問題で困ったことない」
先手を打つ関通の生存戦略

――  まず「関通」という会社の事業についてご説明ください。

達城  eコマース企業のバックヤード、庫内オペレーションを専門にやっているのが一番の中核事業ですね。次にシステム、WMSの販売が第二の軸としてあります。今後伸びていく部分としては、システム関連の自動化になると思いますので、そこに注力していけたらなと思っています。

――  公式サイトでひときわ目を引くのが、御社が経営理念として掲げる「お客さまに喜ばれる仕事を通じて」ですよね。

達城  そうですね。本当の意味でのお客さま第一主義を社内で教育しています。迎合するだけでなく、よく話を聞いて適切な提案をし、安定した物流サービスの提供をしていく。お客様に選択されることが我々の成長と維持に必要なので、そういう意味で「お客さま第一主義」は一番重要だと思いますね。

――  では2024年問題が進行中の現在、問題や変化はありましたか。

達城  我々は何事もいち早く世の中の潮流を理解して、先手を打っているんです。そこで大事なのが、eコマースにとって本当のお客さま満足度が何かということ。それは、安定した出荷量・物流サービスで、安定した価格で大きな変動がなく、日数も含めた物流品質のズレがない、というところです。おかげさまで集荷時間に関しては全然問題ないですね。逆に、だからこそお客さまにも大切にしてもらっている部分があります。

――  そうなると、この1年間を通じて2024年問題は平常通り、新たな対策を打つことはなかったと言い切れるわけですね。

達城  そうですね。我々自身は現在トラックを持っていないので、すべて外の業者にお願いしています。引き渡しのトラック待ち時間については、弊社の担当者が残業することになるので、2024年問題の前から対策して、解決していました。

――  その対策の早さは、社長自ら現場を把握しているからなのでしょうか。

達城  着眼点という部分では、私がずっとやっていますが、対策を進められるかどうかはお客様が一緒になってやっていただけるかどうかも大きいところです。

――  ご自身で顧客ともよく話されるのでしょうか。

達城  おっしゃる通りです。ただ、お客さまの「要望」をよくよく聞くと、担当者の話す「要望」とは違った内容のことがあります。

――  そういうことがあるんですね。

達城  本当に全然違いますよ。担当者の要望は、自分の利便性なんですよ。だから我々は、主要なお客さまに定期ミーティングをした結果を、経営者に送るんです。すると最終的に「本当の要望」、つまり安定した物流サービスの提供というところに着地する。その上で、会社の要望とは何だろう、と考えるためにしっかりとお伺いを立てています。

――  それはすごい。非常にインパクトがあるお話です。

達城  そうですね。でも違って当たり前なんです。担当者には2種類いて、面倒くさいことが大好きな人と、できるだけ仕事を押し付けてくる人がいる。ただ、会社としてのお客さまも、そういった人材を物流担当に置くことが大きな問題になることは、重々理解されています。特にeコマース、通販なんかは、物流の占める割合が大きいですから。

やっていることは受注産業ですが、お客さまとのパートナーシップが成り立っていないと、どうしても無理が出るんです。

――  これまで無理をしてきた反動が、今いろいろな問題になっているということですものね。

達城  まさにその通りです。分かりやすく端的に言えば、担当者の言う面倒事、例えば細かいサービス面の事業等と、会社の言うコストダウンの両方にイエスを出していたら、物流会社はしんどくてやっていられませんよ。そういう意味でも、お客さまとの適切なコミュニケーションは大切ですね。

<顧客との対話の重要性を語る達城社長>
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物流現場に外国人は必須
人が辞めないシステムを作る

――  人材不足についてはどういった手を取られていますか。

達城  外国人技能実習生制度を使って、今ミャンマーの人たちが250人ほどいます。10年くらい前に「物流に人が来なくなる」と思ったので、ミャンマーへ行って日本語学校をつくるところから始めました。ミャンマーはここ数年でいろいろあったので、今はネパールに学校をつくっています。

――  なぜ最初にミャンマーを選ばれたのですか。

達城  インドネシア、ベトナム、中国、東南アジア、フィリピンもすべて現地視察しました。実際、現地のスーパーに行くと、ほとんどの国が万引き防止策をしていた中で、ミャンマーだけはなかった。「あっこれはええな」と。我々は商品を扱っていますから、信用の点で大正解でしたね。

<ミャンマーの学校で学ぶ現地の人々>
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――  海外からの実習生は今後も引き続いていくのですか。

達城  そうですね。将来、物流の専門知識を持った外国人が、日本で永住許可を得られるような仕組みは作っていきたいですよね。もう、物流現場は運転手さんも含めて外国人がいないと機能しないところまで来ています。

――  ドライバーについては5年の期限付きで特定技能での受け入れが可能になりましたね。外国人の待遇や教育制度は、具体的にどんな形をとっていますか。

達城  みんな良い働き手です。その中からきちんと評価して、2・3人はもう役職に就けています。最初はミャンマーの学校で面接して、入国までに半年から10か月くらいかかりますので、その間に物流用語の定義から、ハンディターミナル、ピッキング、梱包などすべて体験してもらって覚えてもらいます。人材紹介や人材派遣のビジネスを今年度から始めますので、企業ごとのマニュアルさえ教えてもらえれば、現地で教育して派遣する、なんてことも可能です。

<社内で活躍する外国人従業員>
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――  国内の新卒採用についてはいかがですか。

達城  もちろん普通にやっていますよ。ただ、新卒もそうですが、何よりも「人が辞めない雇用体制」を重要視しています。うちで離職率が一番低いのはパートさんのチームですが、それは女性が辞めない戦略を取っているから。存在感を感じてもらうコミュニケーションとか、社内食堂とか。パウダールームはだいぶ前から入れていますし、そういったところを清潔にしておくことも意識しています。

――  人が辞めないための施策というわけですね。一方で人口の自然減は止められませんが、そうなってくるとやはり……。

達城  そこは自動化です。とはいえ、我々は人を辞めさせてまで自動化することは考えていません。人が少なくなってからの自動化というスタンスです。変化に柔軟に対応していくことを大切にしています。

――  ものすごく思考が柔軟ですよね。

達城  そうなんですよ。めちゃくちゃ柔軟です(笑)。社長業ではあるけども、自分でも何の仕事をやっているのか分からないくらいに。

――  こういったタイプの経営者にお目にかかるのはあまりないものですから。

達城  それは本当に感じます。だからこの業界で生き残っていけるのでしょうね。

「もう国内での進出は考えていない」
3PLとして業者間を取り持つ意義

――  御社は関東や九州への進出が目覚ましいですが、今後も全国展開を狙っておられるのでしょうか。

達城  いや、全国展開は今、建設費高騰も含めてもう無理があると思っているんです。東北とかも考えていない。関西・関東はもともとデベロッパーさんが土地調達の段階でお話を持ってきてくださって、それなりの条件でお借りさせていただいていた。九州は外注の業者さんと仲が良いのでお願いしている形ですね。ですから、今後はこれ以上倉庫を増やすよりも、今の倉庫の中で利益率を上げていく戦略を取っていきたいと考えています。

<埼玉県新座市の東京主管センター>
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――  今後は今あるサービスに徹するという意識ですか。

達城  そうですね。我々みたいな3PLの位置づけは重要です。例えばお客さまが佐川さん等と直接契約するとして、年度ごとに更新を見直すとなるとこれは大変です。我々3PLであれば、取捨選択をしてお客さまの要望のために提案をするなど、臨機応変な対応ができますよね。

――  その中での新規事業の計画などはありますか。

達城  実は今後、海外展開として中国に倉庫前倉庫 (ここでは、大手の物流倉庫の近くに設置される一時保管用の倉庫)をつくる予定です。日本でやってきたことを全部中国で済ませて、西と東に振り分けられるように。極端な話、今Temu(中国の新興ECサイト)等がやっているシステムを、日本でも作ろうとしています。西と東に保税倉庫の申請を進めていますし、上海と青島(チンタオ)で中国の現地企業と組んで業務を進める準備をしています。中国から直接送れるようになれば、なお良いですね。

――  となると、成田空港や関西国際空港の近くに、そういった倉庫を持っていらっしゃるのでしょうか。

達城  今はないです。持つ必要性があるかどうかですね。空港からの運送はキャリアさんにやっていただけることもありますから、そこはそちらにお任せする形にすれば良い。あまり人の手を介在させないように進めることの方が重要ですから。

技術を取り入れる柔軟さ
先進性を求める本当の理由

――  デジタル化が物流業界の課題になってきている中、かなり先進的にDX化を進めている印象ですが、そのポイントは何ですか。

達城  DX化の目標は、定時定刻通りに物流現場が動くことですよね。我々はその点を課題として意識してきていたので、圧倒的にDX化を進めることができています。残業にしてもすべて計画残業ですからね。ここは強みになっていると思います。

わざわざデジタルトランスフォーメーションと言っても、あまり響かないですよね。ITやAIといったものは、いろんなところに散りばめてはいますけれども、やはり改善って何気ない小さなものが何万と積み重なって大きな改善になっていく。その結果として、物流現場の定時定刻化になってきているのだと思います。作業負荷を軽減するといった、シンプルなところの積み重ねを大切にしています。

――  今もっとも物流でDX化が遅れているのがピッキングと言われていますが、これに関してどうお考えでしょうか。

達城  当社で導入を考えているのが、歩数削減です。今ピッキングで働く人は1日2万歩くらいが多いですから、これを5000歩くらいまで削減できれば仕事もかなり楽になります。ただ、歩数を削減すると生産性は上がるんだけども、トータルの費用的にはそこまで大きくはない。じゃあ何が目的かといえば、やはり人が定着しやすくなるような部分への投資ですね。生産性はそう上がらなくとも、投資する効果は十分にあると思っています。

――  先日発表された新サービス「GAOW(ガオウ)」についてもお聞かせください。

達城  まず、eコマースの形を作ったのは当社だと思っていて、当社のあり方、やり方、広告の出し方などもすべて、EC物流のスタンダードになっています。その中でお客さまの声を聞いたとき、「最低限機能のみの物流サービス」を求める声が多くあったので、シンプルなサービスとして「GAOW」を用意しました。これまでのように、物流のすべてを担うサービスと、低価格で「これだけ」と絞るサービスの二極化ですね。

――  これも顧客の要望が発端ですか。

達城  そうですね。コストとか、早く導入とか、そういった需要が一番多い。規模的に小さなところでも使えるサービスを提供する時代になったと最近感じているところです。今、こういう柔軟なサービスを進めているところはお客さまを増やしているでしょうし、当社も問い合わせを数多くいただいています。

――  顧客の話を聞くことで、柔軟な発想が生きているわけですね。

達城  そうなんですよ。だからお客さまの要望に向けて、多くの新規事業をやります。特に今の時代は、既存サービスだけで他社との差別化を図るのは難しいですから、新しいサービスを次々提供していくことが使命だと思っています。

<4月1日より提供を開始したシンプルな低価格帯の物流サービス「GAOW」>
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サイバー攻撃がもたらした影響
物流事業者へ本当に伝えたいこと

――  社長業は激務かと思いますが、ストレスがたまるようなことなどはありませんか。

達城  楽しく過ごせるように過ごしてきたので、あまりたまっていないんです。ただ、去年9月12日のサイバー攻撃は一番のストレスでしたね。でも、学ぶところは多くて強くさせてもらったと思っています。

――  どういった部分が特にストレスになりましたか。

達城  座右の銘が「準備、実行、後始末」なんですよ。これは40年以上も社長を務められる理由にもなっていて、特に準備にたけているところが大きいんです。ところが、サイバー攻撃ではその準備ができていなかった。これは反省点です。

――  サイバー攻撃の件は、最終的に解決に至っておられるのでしょうか。

達城  今はすべて賠償に向かっています。結論から言うと、我々はブロックされただけなんです。今のところ中身を抜き取られた形跡はあるか分からないレベルで、情報漏えいの被害も出ていません。ただ、それでも賠償は大変な被害です。

――  経験者として、周囲に伝えたいことなどはありますか。

達城  まず、今後もこういったことは起こりうる、ということです。そして、特に物流会社さんに伝えたいのは「あなたが思っているよりも賠償額は伸びます」ということです。結果的に我々は乗り越えられましたけど、倒産する可能性も出てきますから。

――  乗り越えられた要因は何なのでしょうか。

達城  どれだけスピーディーに復旧できるかが大切ですが、我々は秋葉原に20~30人のシステム開発部を持っているんです。これが大きかった。もしこれが外注だったら、大変なことになっていると思います。

――  システム部はいつごろに作られたのですか。

達城  6年くらい前です。外注しても、完成するころには事情が変わっているじゃないですか。だからシステムは内製化が必須だなと。結果的に、サイバー攻撃の復旧にかなり早く対応できた形になりましたね。

<秋葉原に居を構えるシステム部>
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――  最後になりますが、LNEWSの読者にメッセージをお願いします。

達城  被害にあったからではありませんが、とにかくサイバー保険に入りましょう。今国内のサイバー保険の加入率は、まだ10%未満なんですよ。それだけ自分事と思われていない。

でもサイバー攻撃は国家レベルですから、アメリカではものすごい加入率なんです。もらい事故でも効くので、サイバー保険は物流業者さんにこそ加入してほしい。

我々はサイバー攻撃を受けて、おそらく今、サイバー保険を使っている賠償額では日本一だと思います。そんな会社が今後、同業者の方へ向けていろいろ発信していきますから、その辺りも含め乞うご期待ください。

取材・執筆 鳥羽啓太 山内公雄

<達城社長 近影>
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■プロフィール
達城 久裕(たつしろ ひさひろ)
関通 代表取締役社長

1960年生まれ。
創業から40年以上、EC物流のパイオニアとして業界を牽引。
「準備・実行・後始末」を座右の銘に掲げ、
時代の変化を先取りしながら柔軟な経営を続けてきた。
ECバックヤード運営、WMS開発・販売を軸に事業領域を拡大中。
2024年にはサイバー攻撃という逆境を経験しながらも、
迅速な復旧と経営判断で危機を乗り越えた。
自らの経験を業界の未来に還元し続けている。

物流最前線/総合力を存分に発揮 大和ハウス工業の物流施設開発の肝

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