カバー/今をときめくVTuber業界を切り拓くEC物流戦略

2026年04月06日/物流最前線

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駅や街頭の広告で、見ない日は無いほどに浸透しつつあるバーチャルYouTuber(VTuber)。その中でも多くのファンを抱えるVTuberタレント事務所の一つとして、「ホロライブプロダクション」は世界中で人気を博している。
「ホロライブプロダクション」を運営するカバーは、所属するタレントのグッズ企画や受注販売を自社ECで展開。ECによるグッズ販売は、年間数百万件のオーダーを受け、企業収益の過半を占める主力事業へと至っている。
同社は近年、物流体制の高度化・改革にも取り組み始めている。黎明期からECに携わり、爽快ドラッグマレーシア、モノタロウインドネシアの社長を歴任したのち、2024年からカバーでEC・物流を担当する前田 執行役員に、エンターテイメント業界におけるEC物流のノウハウと、ECの今後を聞いた。
(取材日:2026年2月17日、於:カバーオフィス)

<「ホロライブプロダクション」所属のVTuber・バーチャルアイドル「ときのそら」(ホロライブ公式サイトのタレント一覧より引用)>
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※バーチャルYouTuber(VTuber)とは
2Dや3Dのアバターを使って、YouTubeならびに各種配信サイトで動画投稿や生配信などの活動を行うYouTuberを指す。近年のVTuberは、自身の配信だけでなく、商品宣伝やタイアップにも採用されるなど、プロモーションへの露出も増加傾向にある。
個人で活動をする人物が大半を占める一方、一般的なタレントと同様、事務所に所属しているVTuberも多く、カバーが抱える「ホロライブプロダクション」もその事務所のひとつ。「ホロライブプロダクション」には、海外出身で日本語を母国語としないタレントも所属しており、世界中から配信が視聴されるなどグローバルな需要を生み出している。

ファングッズ販売という特殊な環境
周期的でも物流予測が難しいワケ

――  カバーにおける自社EC成立の経緯と現状を簡単に教えていただけますでしょうか。

前田  もともとはファンの皆様からのご要望が始まりです。ただ2021年当時は新型コロナウイルスが流行した時勢もあり、グッズを店頭に並べることが難しかったため、自社で通販体制を構築し、直接お届けする手法をとることになりました。

結果的にではありますが、現在カバーの売上高の約5割程度がグッズ販売となっています。今でこそ、外販や公式店舗などがありますが、それでもグッズ販売の8割ほどはEC経由の購入ですね。

――  この数年で国内外含め物流改革を進めていると聞きますが、具体的にはどう変わってきているのでしょうか。

前田  これまでEC開始以後の急成長に対し、本来であれば物流の投資計画や拡張計画を進めていくべきところを、倉庫を増やすことで物流に対応する状態が続いていました。私が入った2024年以降、6か所ほどに分散していた倉庫を集約して、規模のメリット追求と物流生産性を上げていく、といったことに着手しています。

集約化により、見える化が進んできたこと、ラストワンマイルの個別交渉を一括化したことでボリュームディスカウントが取れるようになってきたことは、倉庫運営において改善が進んできた点ですね。

われわれの場合、出荷の生産性を上げるにあたり、製造発注の効率アップも重要ですから、製造委託先も含めQCD(品質、コスト、納期の3要素)を改善していく、というのが国内のEC物流で徹底しています。

<改善の効果を語る前田大輔 執行役員(EC・SCM・プラットフォーム管掌)>
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――  VTuberは世界的にファンが多くいる業界ですが、海外へのグッズ展開はどのような状況でしょうか。

前田  全タレントのYouTubeチャンネル登録者数が全世界で9000万以上(2025年12月時点、85名のタレントが所属)いるのですが、3割程度が海外視聴者となっています。そのため海外ニーズも非常に多く、現段階で70~80か国ほどに出荷実績があります。

越境ECでは、コンプライアンスや関税、決済方法が課題となります。昨年からは配送料の軽減策を進めていて、梱包サイズの縮小や空積率の低減といった工夫を通じて、送料原価を下げることができました。これにより、海外向け発送を固定送料で出荷する形式に変更できたので、20%ほどコンバージョン率も上がっています。

1月28日から、購入しやすい環境づくりを目的として、国際配送で配送方法を選べるサービスも開始しました。従来の最短配送を優先したプランに、より安価で配送日数に余裕を持たせたプランを追加した形です。より安価な選択肢には、国際物流サービスのECMSを利用してコスト削減を図っています。

このサービスについては、現場のメンバーといかに届けやすくするかを考えて、採算が合うような提案をしていただきました。トライアルでも結果が出たことを踏まえて、実現に至っています。

<ホロライブプロダクション事業とグッズの関係性>
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――  VTuberのグッズとしてさまざまな商品を展開するにあたり、特に気を付けている点などはありますか。

前田  実のところ、グッズ販売は目的ではないんです。例えばスポーツ観戦をするとき、観客はメガホンやタオルを持って一体感を持って楽しみますよね。われわれにとってのグッズは、タレントの音楽ライブやイベントなどで一体感を楽しんでもらったり、日常でもタレントを感じてもらうための大事なツールなんです。

ですから、配送の正確性や早さはもちろん、スペシャルな物が届くのを楽しみに待つ人のため、荷姿についても形を整えて出さなければなりません。そういう意味では、Amazonや楽天といったビッグデリバリーとは違う形の物流サービスになるとは思います。

ファンの皆様には、YouTube配信以外にも、店舗や音楽ライブ、イベントへ足を運んでもらい、それをソーシャルメディアで発信してもらう。グッズというのは、それらをつなぎとめるチェーンのようなものです。物流はそれを支える基盤となるので、リアル店舗・ECを問わず、グッズの供給を途切れさせないための物流サービスが必要だと考えています。

<「ホロライブプロダクションオフィシャルショップ」の販売例(兎田ぺこら誕生日記念2026)。大小さまざまなグッズが1セットとなる例もある>
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※画像の商品は、現在すでに受注生産の受付を終了。

――  イベントに合わせてのグッズ展開などは、受注の変動も大きいかと思われますが、その辺りの課題はありますか。

前田  タレントのアニバーサリーや誕生日記念グッズは、毎年決まったタイミングで出ますから、季節変動のようなものはあまりありません。一方で、どの程度グッズの需要があるかは、正直事前の予測が極めて難しいと言わざるを得ません。

受注生産になるので、それまでの準備で予測を立てつつ、人員をタイムリーに割り振るようにしています。即日出荷を求められる商品ではないのですが、2~3日の猶予の中でどう発送していくかがポイントですね。

ただ起こり得る具体例として、ある日は5000件の出荷だったところ、翌日は5万件のオーダーが入ることがあります。常にモニタリングをしてはいますが、具体的にマテハンを増やすだとか、人員統制をするだとか、処理速度を上げる方法についてはまだ改善の余地があると思っています。

2026年は刷新の1年間
機材投資の前に見直すべきこと

――  2025年6月に自社の物流センターの運用を開始されていますが、成立までの経緯をお聞かせください。

前田  最大の理由は、物販事業の急激な成長と、多種多様な商品特性や「推し活」特有のニーズに応えるためです。倉庫が分散したままでは、管理コストや配送効率、さらにはオペレーションの統制に限界があると考えていました。

そこで、2024年末頃から倉庫の統合に向けて動き出し、最終的には、私たちの事業特性を理解し、中長期的な視点で共に歩んでいけるパートナー企業様と契約を結ぶに至りました。

今後、年間で数百万件規模にのぼるオーダーを安定して皆さまにお届けしていくためにも、これからを見据えたかなり大きな投資になったと思います。

――  物流センターの設備はどのようなものがありますか。

前田  6階建て倉庫の1階、5000m2程度の広さを利用していて、拡張を進めているところです。バックヤードも入れています。現在は1フロア全面を借りている形ですね。

機材は台の上を走る自動仕分けロボット「t-Sort」と搬送コンベア、あとはオートラベラー、自動製函機を使っています。床を走るAGVについては、もっと業務フローを極めてからでないと入れても無駄になってしまうので、今の段階では導入していません。

<自動仕分けロボット「t-Sort」が走る自動倉庫の様子>
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――  まだ検証段階ということですね。

前田  検証段階というのもありますし、梱包サイズなどの規格統一をしないと、さらなる自動化は難しい。ロボット、マテハン導入が必要かどうかの判断をするためにも、マスターの整備から全部やり直しているところです。

まずは初歩的ながら業務フローの整備による生産性改善と、歩留まりの削減を進めています。あとは根本的解決として、取引先のQCD改善をやっています。

今のところ、人員調整で現状回っている部分はある程度あって、1日6000件くらいの出荷を1週間、分散させて平準化することで生産速度を安定化させています。梱包ラインがボトルネックになるので、可変的に人員を増やせる状態にはしています。1日5000件程度のオーダーであれば、ピックもt-Sortで十分な仕事量です。

今後、出荷数がもっと増えるかどうか、これからの成長を正確に観測できないと、さらなる自動化の必要性は判断できない。まだ投資を回収できる段階ではないですから、少し生産性が悪くなっても、当面は現状の設備と人手で回していこうという考えです。

この辺りの調整に関しては、物流業界のプロフェッショナルであるL2コンサルティングの吉野宏樹 代表取締役をアドバイザーに迎えて、次への計画を作っているところです。2026年の1年間が物流の刷新期になると思います。

<機械化されたラベリング工程>
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――  海外の倉庫拠点の展開はいかがでしょうか。

前田  海外倉庫は、米国への輸出にも活用している保税倉庫を、中国に確保しています。物量がまだ少ないので、米国あてなどは現地に倉庫を用意するよりも日本から送ったほうが安いですからね。

関税や物流費がかかってしまうので、中国の保税をベースにして進めていく予定です。輸入体制や海外物流を確保して、余計なコストや無駄なリードタイムをなくすことをやろうとしています。ただ、税務面の問題もあり、簡単な話ではないので、慎重に考えて物事を進めているところです。 

ECにも押し寄せるAIの波
業界に感じられる課題

――  前田さんはこれまで数多くのECに携わっておられますが、カバーのEC業務にこれまでとの違いを感じた部分はありますか。

前田  あまり変わらないですね。モノタロウや爽快ドラッグでもプライベートブランドを扱っていたので、製造から見ていたことは過去にもありましたが、フェーズと業界の違いくらいで、やっていることはあまり変わらないと思います。

違いがあるとすれば、カバーのグッズ売上の7割くらいが受注生産なので、製造プロセスが絡んでくる際に、工業製品とコンシューマー向け製品では品質基準が全く異なるところでしょうか。ただそこを除けば、私が20年くらいやってきたことと何も変わってはいません。

――  意外なお答えです。では20年間、EC分野を突き進んできた前田さんから見て、昨今感じる業界の潮流などはありますか。

前田  やはりAIの進歩です。10年前にAGVを初めて目にしたときは衝撃を受けましたが、今では当たり前になっている。AIにも同じような「一般化」が起き始めていると感じています。

AIによる自動発注も現実になってきて、それがスタンダードになってくる。導入しないと歩留まりも下がり、品質も上がらなければコストも下がらない、といった世の中になりつつあります。

どこまでAIを活用できるのかはちょっとしたチャレンジかなと思っています。

――  AI活用が生きてくる部分には具体的にどのようなものが考えられますか。

前田  これまで100時間かかった内容が、1分でできるようなものがどんどん出てきています。例えば、2つの施策を比較するABテストは、通常1週間かけていたものが、AIでは1時間で結論を出せてしまう。検索もエージェンティックに変わってくる以上、販売者側も検索基準のSEO(検索エンジン最適化)ではなく、AI基準のAEO(回答エンジン最適化)、いかにAI最適化を進めるかが課題になってくるはずです。

試行回数をどれだけ回せるかがマーケティングにおいては重要なので、AIを組み込むことで今後のEC業界は大きく変化するでしょうね。

――  最後に、エンターテイメント業界でのECの今後についてコメントをお願いします。

前田  エンタメにおけるEC物流は、これから伸びていく業界になることでしょう。だからこそ、物流や商取引の人材に高いニーズがあると感じています。

ただ一方で、業界内では物流の重要性に対する理解が十分とは言えませんから、なかなかサプライチェーンに詳しい人が集まりません。ほかに物流を重視する業界はいくらでもあるから、そちらに人材が流れてしまう。

エンタメ事業はどうしてもキャラクターブランドの強さを優先してしまいがちなので、そうした風土の中で、いかに人材を確保していくかが大きな課題になってくると思いますね。

取材・執筆 鳥羽啓太 稲福祐子

<前田大輔 執行役員(EC・SCM・プラットフォーム管掌)>
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■プロフィール
カバー 前田大輔 執行役員(EC・SCM・プラットフォーム管掌)
慶應義塾大学理工学部を卒業後、住友商事にて複数のインターネット事業の立ち上げに携わり、その後、爽快ドラッグマレーシア、モノタロウインドネシアの社長を歴任。帰国後、ラクスルに転じ、印刷集客事業執行役員等を経て2024年カバーに執行役員として参画。EC・SCM・プラットフォーム領域を管掌。元スタンフォード大学客員研究員。

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