佐川急便は7月9日、神奈川県横須賀市で「電力データを用いた不在配送回避システム」の実証実験を実施すると発表した。
このシステムは、家庭に備え付けられたスマートメーターから得られる電力データをAIが分析し、居住者の在不在を判断するとともに、これを元に作製した配送ルートを提示することで、不在再配達の低減を目指すもの。
日本データサイエンス研究所が、東京大学大学院の越塚登研究室・田中謙司研究室と連携して開発し、2018年9~10月に東京大学内で行われた配送試験では不在配送を9割減少させた。
また、2019年9月には佐川急便の配送実績データを用いてシミュレーションを行い、不在配送率を75~89%、総配送時間を10~20%削減できることが確認されたことから、同10月から佐川急便を加えた3者共同研究へと至っている。
今回、このシステムの社会実装へ向けて、神奈川県横須賀市とグリッドデータバンク・ラボ有限責任事業組合が新たに研究に参画し、5者共同で問題解決に取り組むことを合意した。
今後は、10~12月にかけて横須賀市の池田町・吉井地域(総世帯数6600世帯)で同システムを用いた実際の配送による実験を行い、結果をもとに実運用向けのシステムを構築、2022年度中の実運用開始を目指す。電力データを不在配送回避に用いるシステムのフィールド実証は、世界初の取り組みとなる。
国土交通省によると、個人向け配送の「不在配送件数」は全宅配件数の約2割で、走行距離の25%は再配送のために費やされている。これは、年間9万人の労働力に相当し、1.8億時間が1年間の不在配送に費やされていることになる。
横須賀市で行われるフィールド実証によって、システムが初回の実証実験のように不在率を大きく減少できれば、国土交通省が2019年1月に「総合物流施策推進プログラム」で設定した目標である宅配便再配達率13%削減の目標値を大きく上回る結果が期待できそうだ。
佐川急便の本村 正秀社長は、「現在、新型コロナウイルスの影響でEC関係の荷物の取り扱いが増加しており、個人向けの荷物が年末の繁忙期並みになっている。一時は外出自粛や在宅勤務の増加によって在宅率が向上し、配送効率が大きく好転したが、緊急事態宣言が解除されて以降は徐々に在宅率が低下しており、不在再配達件数が増加している」と、宅配業界の状況を説明。
そのうえで、「このシステムは、物流業界の課題であるトラックドライバー不足の解消、労働環境の改善、走行距離短縮によるCO2排出量の削減効果等を期待できる画期的なソリューションだ。電力データを有効活用し、不在宅への訪問を回避できれば、高い品質と安定した輸送サービスを提供することができる。今後は、このシステムだけでなく、置き配サービス等さまざまな方法を組み合わせることで再配送ゼロを目指す。システムは、同業他社に利用してもらうことも今後検討する」と語った。