Zetes(ゼテス)、Blue Yonder(ブルーヨンダー、世界81か国、3000企業以上を相手にビジネスを展開)といった海外ソフトウェア事業者を取り込みながら、SCM事業を進めてきたパナソニック コネクト。「現場から始める全体最適化」を国内の事業コンセプトに、海外で培ったノウハウを活用して、物流ソリューションを提供している。日本企業のSCM変革の現状と、標準化を軸としたソリューションの強み、それぞれの課題を、奥村康彦 シニア・ヴァイス・プレジデントと小笠原隆志 現場ソリューションカンパニー ダイレクターに語ってもらった。
取材:11月13日 於:パナソニック コネクト本社
<小笠原隆志 ダイレクター(左)、奥村康彦 シニア・ヴァイス・プレジデント(右)>

現場が強い日本マーケット
それゆえに進まぬ全体最適
―― 物流現場のソリューション開発を行うパナソニック コネクトの立場から、まずは日本国内における物流業界の現状と課題をお聞かせください。
小笠原 パナソニックは1918年に創業しましたが、この約100年間で人々の生活は、物流の進化で劇的に利便性が向上しました。ただ、これからの100年、同じ利便性を維持するのは非常に危機的な状況と認識しています。労働力不足が顕在化する中で、多くの企業で従来サービスの現状維持が困難になっていることが課題ですね。最近は、サービスの見直しや適正化など、課題が目に見えて出てきているのかなと。
こうした中で、法改正による規制強化やCLO(最高ロジスティクス責任者)設置の動きなどが後押しになり、経営層の危機感は確実に高まっていると感じています。CLOやCSCO(最高サプライチェーン責任者)の配置を積極的に進めている企業も増えてきていて、物流に対し権限を持つ役員も増えてきているのが現状です。
物流の効率化は今や業界全体の経営アジェンダで、サプライチェーン全体の最適化は企業の競争力に直結する重要課題になっている、という認識です。
―― 御社の国内SCM事業コンセプトに「現場から始める全体最適化」とありますが、現場での課題についてはいかがでしょうか。
小笠原 日本の物流現場は、現場で働く人の創意工夫で成り立ってきたものであり、現場の柔軟性や対応力に代表される非常に優れたオペレーション力が、サプライチェーンのリードタイム短縮に大きく貢献してきたと考えています。裏を返せば「属人化」や「個人最適の塊」になっていて、デジタル化や全体最適化への大きな障壁になっていると考えています。このような日本企業と先進的なグローバル企業の差は、業務の標準化がなされて、サプライチェーンの複雑化に対応できるだけの土台があるかどうか、という点にあります。日本では、データ基盤の構築が本当の出発点ですね。
奥村 2017年に欧州のZetes、2021年に米国のBlue Yonderをグループとして仲間に入れてから、彼らの顧客と接すると、日本との違いが非常に鮮明です。いい意味でも悪い意味でも、日本は現場が強すぎてボトムアップが多い。それゆえに全体最適で遅れるという、共通の課題が見えてきます。
特にアメリカでは、現場の人はレイバー(労働者)として位置付けられることも多く、今日初めて来る人もいる前提でオペレーションが成り立っています。日本は、現場の人はベテランで、すべての運用が頭に入っているという前提で回っている。「あと5年で誰もいなくなりますがどのようなオペレーションを考えていますか」と聞くと、「そこが課題なんですよね」で終わってしまう状態。なんとかお役に立てないかと。
個人的には、欧米の真似をすればいいとも思っていません。日本の強みである現場力を生かしながら、全体最適を目指せないものか、と小笠原とずっと考えていて、それがこの一見矛盾する「現場から始める全体最適化」というコンセプトになっているわけです。
―― 新たなソリューションの導入に際して、「現場が強い」特性はどう影響してくるのでしょうか。
奥村 よく聞くのは、CDO(最高デジタル責任者)やCIO(最高情報責任者)が経営トップにDXを提言すると、「現場の意見をよく聞いたのか」などと言われてしまう例です。現場の意見を無視するというわけではありませんが、トップがそう言ってしまうと導入に際した優先順位が定まらなくなってしまいます。
これに対しては、CLOの制度がひとつのきっかけになる可能性があるかと考えています。
そもそも物流業務の領域を定義すると、結局はサプライチェーンという大きな枠組みの中、実行領域の一部でしかない。そこだけでソリューションを入れようにも、結局全体がつながっている以上、大きくは改善しないわけです。物流領域だけでは限界があるので、ロジスティクスやサプライチェーンという概念で全体をとらえていくトリガーになるよう、CLO設置には期待しています。
<国内SCM事業コンセプト「現場から始める全体最適化」のイメージ>

経営と現場をつなぐ提案
標準化で現場同士をコネクト
―― 改めて、ZetesやBlue Yonderを取り込んだ経緯や、いかにして物流改善を事業に切り込むに至ったのかお聞かせください。
奥村 理由は大きく三つあります。まずサプライチェーンは課題が顕在化している成長市場であったことが一つ。二つ目は、これまでパナソニックのBtoB事業が国内中心だったので、海外の仲間を入れてグローバルな伸び代を確保しようとしたこと。そして最後は、ハードウェアのDNAが強い企業だったので、ソフトウェアの遺伝子を取り込もうとしたことです。
私たちにはない遺伝子を取り込んだわけですから、最初は面食らうことも多かったです。パナソニックは縦の指揮命令系統で事業を進めてきた傾向が強いのですが、サプライチェーンやソフトウェアは横串なので、最初は違和感を持つ人も多かったです。私も最初は少し戸惑いました。
一方で気づきも多く、彼らのコンセプトから日本のマーケットを見ると、今までとは違う景色が見えてきて、日本の産業がグローバル市場において競合他社に劣後していく危機感を抱きました。その観点もあって、先ほど申し上げた日本と海外の違いをベースとした課題を強く意識するようになりました。
<2017年にZetes、2021年にBlue Yonderの全株式を取得>

―― 国内は独自性が強いとのことですが、海外の実績を国内で転用するにあたって、特定の指標などはありましたか。
小笠原 海外ですでに展開して実績があるパッケージには、業務プロセスなどの成功事例が組み込まれているのですが、それを今の日本市場に当てはめて「これなら日本でも展開できそうだ」と私たちが判断したものを、優先順位を付けながら国内展開しています。
最初はZetesの「ZetesChronosTM」 という輸配送の進捗管理システムで、今年に入り「ZetesMedeaTM」というWES(倉庫実行管理)や「ZetesZeusTM(ゼテス ゼウス)」という配送業務改善向けのデータコラボレーションプラットフォームの提供を順次実施し、その後にBlue YonderのWMSである倉庫管理システムを日本で展開しようという流れで進めています。
奥村 ちゃんと使えば正しく効果が実証されているわけです。すでに使いこなして経営成果につなげられている顧客が、欧米に存在している。これはやはりセールストークになります。
―― 国内で導入を検討する際、海外との違いによる懸念点はありますか。
奥村 たくさんあります。基本的に導入は本社の経営層と現場の両面でアプローチをしていますが、日本ではボトムアップの文化が強いことが多いので、同時に両方を進めなければなりません。現場から積み上げても経営層から「ノー」が出れば止まってしまうし、経営層から進めても「現場に行ってヒアリングして」と言われてしまうこともよくある話です。
―― 経営層も「現場の意見を聞いたのか」と社長に聞かれるのでしょうね。そのためには「現場の意見です」と言えるための材料をそろえなければならない、と。
小笠原 ええ、やはりその時に私たちが「現場のこの方と話して、こういう反応をもらっています」と言うと、経営層・本社の方はとても安心してくれます。現場の方に聞くと、本社に直接言いにくいことも、私たちには話してくれるのです。
そのためにも、必ず経営層と現場の両方で直接お話を聞くことを大切にしています。
<小笠原 隆志 現場ソリューションカンパニー ダイレクター/SCM事業センター センター長>

―― 現場の実務という視点での課題には、どうアプローチしていますか。
小笠原 やはり日本独自の部分がどうしてもありますから、そこだけは別途開発しなければなりません。例えば、海外のラベルは国際規格が軸となるものの、日本のラベルは企業毎に仕様が異なり、どうしても追加開発が必要となります。
あとは、パッケージの展開時に業務プロセスをパッケージに合わせてもらう、いわゆる「Fit to Standard」という言い方をしているのですが、このやり方について、いかに現場の理解を得るかが苦労するポイントになりますね。
奥村 日本の顧客の場合、自分たちの業務にシステムが合わせるものだと思われていることも多く、それをこちらが受け入れるとカスタマイズしか道が無くなってしまう。するとコストもかかり、時間もかかる。そうなると、世界で日々進化するDXやAIの技術も取り込めません。
ただ現場では、これまで知恵を出して改善を積み上げてきている背景があります。その結果として、各工場それぞれプロセスが違っても、それを良しとする文化がある。でもこれは、標準化とは真逆の方向なのです。標準化できる部分は既存の成功例があるパッケージを活用した方が良い、と顧客にも伝えて回っています。
小笠原 顧客には、基本的に標準化していきましょうというアプローチでお勧めしています。少し事例のお話をさせていだくと、こだわりが強い顧客の場合はシステムを入れる要件定義だけで3~4か月ほどかかります。一方で、パッケージに業務を合わせましょう、とご理解いただけると、3か月あればシステム導入が完了します。
―― 理解を得られるほど迅速な導入が可能ということですね。6月の発表から約半年ですが、国内ではどの程度の導入例が出ていますか。
小笠原 今、具体的には製造と小売業界で6社ほど、すでに導入していただいています。もともと課題意識を持っている企業が多かったので、導入はスムーズに進みました。輸配送から倉庫まで含め、業務横断で利用できる拡張性の高いシステム、ソフトウェアの提供を特徴にしているので、そこを評価していただいています。
―― システム化して、コネクトすると。荷主へのアプローチも課題になりそうですね。
小笠原 そうですね。最初の導入事例が、製造荷主を中心とする製造物流だったというのは、意識が向き始めていることの表れだと思います。
奥村 製造物流は荷主と物流の担い手が近いですよね。製造者と物流事業者が受発注の関係ではないので、意思統一しやすいことが多い。製造物流は、荷主の要求が巡り巡って自分に返ってくるので、自分ごとになりやすいのが特徴です。
さらにこれからは、共同配送も影響してくる。もう自社だけですべての物流をまかなえる会社は、世の中におそらくないでしょう。タイムリーな車や人の手配も必要になる中で、データ連携が必須になります。共同配送は、一つの変化のきっかけになっていると感じます。
小笠原 一気に全部を共同配送、というのは難しいにしても、局所的な例が出てくると思います。それを最後につなぐとき、やはりデータの有無は肝になってくるので、いかにデータを連携させていくかを重要視しています。未来を見据えて、今後は他社のシステムとの連携、顧客との調整も進めていきます。
<奥村康彦 執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント/現場ソリューションカンパニー プレジデント/Blue Yonder Japan協業推進担当>

システム開発は冒険
既存の成功例が説得力に
―― システムの標準化に際して、これからの課題などはいかがでしょうか。
奥村 メンバーのマインド改革ですね。これまで、社内のメンバーもカスタマイズをする前提で開発してきたものですから、頼まれると引き受けてしまう。そうなると「本当に標準化なの?」と。彼(小笠原氏)が一番苦労しているのは、そこだと思います。
日本独自の伝票の発行など、変えるわけにはいかないところもある。全く商慣習が異なるところに標準化を押し付けると、業務が回らない。これは競争力以前の問題です。ある程度見極めて、必要な部分は開発する。さじ加減が難しいですね。
小笠原 海外の形のまま売るのではなく、日本はここが必要だというのを見極めて、開発して、実装していく。ラベル、伝票のほかに、国に求められる形式もあるので、国ごとの調整もある程度出てきます。
―― 金額面も、システムの浸透には影響する部分かと思いますが、その辺りはいかがでしょうか。
小笠原 従量課金制、いわゆる利用料のモデルで提供しています。一気に投資するよりも利用しやすい形態かと思います。システム開発よりはコストが低いですし、導入規模に合わせて請求するので、課題解決のプロセスに特化したスモールスタートも可能です。
―― 局所的な利用も、システムパッケージの選択肢に入っていると。
小笠原 そうですね。ピッキングだけデジタル化したいとあれば、その形のソフトウェアを提供します。
奥村 SaaSなので、1ライセンスに対して月々いくら、という計算になります。アカウント数が増えれば請求額も増えるので、私たちもあらかじめ規模感を定めて提案しています。
―― システム開発は冒険だと耳にします。その点、成功例を提供できるのは強みですね。
奥村 おっしゃる通りで、システム開発は冒険です。一から開発すると、顧客はずっと同じベンダーを使うことが多くなる傾向にあります。システムに手を加えるとリスクがあるのでベンダーを変えることもできず、属人化も進みます。
その点パッケージの場合は、システム開発よりハードルを低く設定できるのが強みだと思います。ただ一方で、顧客がスイッチングをしやすいということは、私たちが顧客を失いやすいことにつながります。
Blue Yonderのユーザーカンファレンスなどへ日本の顧客をご案内すると、既存の海外顧客が成功例などを共有してくれるので、導入を検討している方が熱心に聞かれたりします。
―― 定期的な海外でのお仕事は、そういう部分なのですね。
奥村 現在使っていただいている顧客に「こんな新機能を用意しています」とか、「いただいた要望をもとにこういうロードマップで開発します」といったことを、絶えずシェアできる環境を作っているわけです。こうしたやり方は、以前のパナソニックにはなかったものなので、非常に勉強になっていますね。
―― 最後になりますが、今後に向けての思いなどを読者へお願いします。
奥村 日本の顧客の競争力を強くしていきたい、という強い思いから、私たちはシステムの提供をしています。
私たちの創業者である松下幸之助が残した言葉に「無理に売るな。客の好むものも売るな。客のためになるものを売れ。」という言葉があります。最近この言葉がものすごく胸に響くようになっています。
カスタマイズを受け付けるよりも「これを使ったほうが絶対にあなたの会社の競争力は上がります」と言える存在でありたいと思います。
小笠原 私もサプライチェーンの持続性に危機感を強く感じているので、いかに変革を実現できるか、共に取り組んでいきたいと思っています。現場の良さを失わさずに、現場の方が力を最大限に発揮できるような環境にしていきたいですし、魅力的な物流現場は、様々な人が働ける環境にもつながると考えているので、一緒に実現していきたいと思います。
取材・執筆 鳥羽啓太 山内公雄
<小笠原 ダイレクター(左)と奥村 シニア・ヴァイス・プレジデント(右)>

■プロフィール
パナソニック コネクト
執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント
現場ソリューションカンパニー プレジデント
Blue Yonder Japan協業推進担当
奥村 康彦(おくむら やすひこ)
1988年4月 松下電器産業 入社
2003年4月 松下電器産業 パナソニック システムソリューションズ eソリューション本部 統括プロジェクトマネージャー
2006年10月 松下電器産業 パナソニック システムソリューションズ ユビキタス事業推進センター所長
2008年4月 パナソニック システムソリューションズ ジャパン 執行役員(経営企画 担当)
2011年11月 パナソニックモバイルコミュニケーションズ 経営企画グループ グループマネージャー
2017年4月 パナソニック システムソリューションズ ジャパン 取締役 専務執行役員 社会システム本部 本部長
2019年4月 パナソニック システムソリューションズ ジャパン 代表取締役副社長 パブリックシステム事業本部 本部長(官公庁・警察・道路・空港・自治体・エネルギー・交通・通信・放送メディア 営業、システム開発、製造部門担当)
2022年4月 パナソニック コネクト 執行役員 常務 メディアエンターテインメント事業部長
2023年1月 パナソニック コネクト 執行役員 常務 現場ソリューションカンパニー社長
2024年4月 パナソニック コネクト 執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント 現場ソリューションカンパニー プレジデント、Blue Yonder Japan協業推進担当、食品加工ソリューション総括部担当、建設業・安全管理担当
現場ソリューションカンパニー ダイレクター
SCM事業センター センター長
小笠原 隆志(おがさわら たかし)
2003年4月 松下電器産業 入社 官公庁アカウント営業担当
2012年1月 パナソニック システムネットワークス システムソリューションズジャパンカンパニ― 物流会社様アカウント営業担当
2016年4月 パナソニック システムネットワークス システムソリューションズジャパンカンパニ― 物流ソリューション開拓担当 課長
2017年4月 パナソニック システムソリューションズ ジャパン 物流会社様アカウント営業担当 課長
2021年4月 パナソニック システムソリューションズ ジャパン 同担当 部長
2024年4月 パナソニック コネクト 現場ソリューションカンパニー 現場サプライチェーン本部 SCM事業センター ダイレクター
ジャパンモビリティショー/商用車・物流企業も出展、31日より一般公開
