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連載 物流の読解術 第1回 東京海洋大学名誉教授 苦瀬 博仁

2023年04月21日/コラム

20230402rensai2 01 - 連載 物流の読解術 第1回 東京海洋大学名誉教授 苦瀬 博仁

回:「物流」と「物の流れ」の違い 
-物流の本質を考える

東京海洋大学 名誉教授 苦瀬博仁

「物」と「流」の意味

物流を初めて学ぶ学生向けの第1回目の講義では、「物流とは、何のことでしょうか」と、問いかけることにしていた。最も多い解答は、「物を移動させること」、「物を運ぶこと」などであり、「トラックの交通」という解答もあった。そして何人かの学生から解答を得た後で、「今日は、『物流と物の流れが異なること』だけ覚えてください」と話すことにしていた。
「物流」という漢字を分解すれば、「物」と「流れ」になるから、「物流を、物の流れ」と解釈することは、至極当然のことかもしれない。しかし、このことが混乱を招くことも多い。

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ロジスティクスと物的流通と物資流動
 ロジスティクス =商取引流通(商流)+物的流通(物流)
 物的流通    =輸送+保管+包装+流通加工+荷役+情報
 物資流動    =輸送+荷役+情報
 貨物車交通   =貨物車交通量

「物の流れ」は、物流の一部(物的流通と物資流動の違い)

物流には、3つの意味があると考えている。
第1の物流は、「物的流通」(Physical Distribution)の意味である。「物流」の語源である「物的流通」は、「流通の概念」として、昭和32年(1957)に米国から輸入された英語の直訳である。そして筆者が物流を学び始めた昭和40年代後半には、「現代の物的流通」というベストセラーがあった。このように当時の書籍のタイトルでは、物流と略さず「物的流通」のままだった。この物的流通は、「流通から派生した概念」として、6つの機能(輸送、保管、流通加工、包装、荷役、情報)で構成されている。よって、物流を輸送(移動)に限定することは誤りとなる。
第2の物流は、「物資流動」(Freight Transport、Goods Movement)の意味である。「物資流動」は、物資がどのような施設(工場、倉庫、流通センターなど)で生産保管され、どのような施設(店舗、オフィスなど)に運ばれるかに、着目している。このため、流通加工や包装を考慮することは少ない。また、保管施設(倉庫など)を対象にしつつも、輸送量に着目しているため、保管施設での在庫量を対象にしていないことが多い。

貨物車交通と物流の違い

第3の物流は、「貨物車交通」(Truck Traffic)の意味である。テレビでレポーターによる「今日はトラックの交通量(台数)が多く、物流が盛んです」というコメントに似ている。
交通計画の分野では、交通の渋滞予測や道路設計に必要なデータは、貨物を積んでいない貨物車も含めて「自動車交通量(台数)」になる。だからこそ、貨物の積載量の多少は無関係ということになるので、これは「物の流れ」というよりも「車の流れ」ということになる。

「物流」の正しい使い分け

同じ業界であれば、アレとかコレで通じるように、どの意味の「物流」であっても話は通じることだろう。しかし、業界が異なると途端に誤解が生じて、混乱してしまうことは多い。
自らが使っている「物流」が、3つの物流(物的流通、物資流動、貨物車交通)のどれに相当するのか、そしてどのように使い分けているのかを、考え直すことも良いかもしれない。

プロフィール
苦瀬博仁(くせ ひろひと)
1973年早稲田大学理工学部土木工学科卒業、同大学院博士課程修了、工学博士。日本国土開発(株)を経て、1986年東京商船大学助教授、1994年同教授、2003年大学統合により東京海洋大学教授、理事・副学長を経て、2014年から流通経済大学教授。現在、東京海洋大学名誉教授。この間、社会資本整備審議会臨時委員など、政府自治体の委員を多数。代表的な著書に、「ソーシャル・ロジスティクス」、「物流と都市地域計画」、「ロジスティクス管理3級・2級」など。

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