企業間の垣根を超えた「共同輸配送」による物流効率化に向け、荷主や物流事業者など多様な企業が参画できるオープンプラットフォームを提供する「Sustainable Shared Transport(SST)」。ヤマトホールディングス(HD)が出資し2024年5月に設立、今年2月から標準パレットを中心に混載・中継・定時で運行する「SST便」18線便(福岡―宮城間)を稼働している。民間発のオープンプラットフォームをどう運営していくのか、舵取りを任された髙野茂幸社長は、「サステナブル(持続可能)を事業化する」というミッションに挑む。現状や課題、展望を聞いた。(取材:5月21日 於:ヤマト運輸本社)
ドライバーが日帰り可能な
“新幹線の座席予約 物流版”に
―― 2024年問題から1年、会社設立からも1年ですね。現在の手ごたえは?
髙野 輸送力不足は明確に続いていますし、荷主や物流事業者の課題も顕在化しています。そういうなかで前向きなお話をいただく機会も増えており、ニーズはある、と感じています。
顕著なのは地方発着の長距離輸送ですね。東名阪エリアではまだ影響が少ないようですが、九州や東北への輸送に困っているという相談が多い印象です。今まで運んでくれた人が事業を閉じられて運んでくれなくなったとか、運べますが、かなり運賃を上げてくださいとか、そういった話をよく聞きます。
―― ニーズはあるということですね。参画企業の進捗については。
髙野 事業としては物流事業者と荷主、双方で利用が数社ずつ増えています。出資面ではSSTのデータ連携基盤を構築した富士通が今年1月に資本参加し、荷主としても「SST便」を活用されています。3月には国交省物流出資事業の第一号案件として鉄道・運輸機構、同時に日本政策投資銀行、みずほ銀行、流通経済研究所も資本参画され、ヤマトHDの資本比率は現在、72.9%という状況です。
―― 「SST便」はオープンなプラットフォーム、つまり誰でも参画できるというコンセプトですが、仕組みについて教えてください。
髙野 「プラットフォーム」という単語は、デジタルなイメージが強くなりますので、まずはリアル、フィジカルな物流のプラットフォームという意味で、ご説明します。
<SSTが目指す姿(リアル×オープンプラットフォーム)>
「SST便」は、物流事業者の得意なことを集めてつなぎあわせるという輸送モデルです。例えば、得意な地域や運び方、大型か中小型トラックか、そういったリアルな物流のリソースを集めて、つなぎ合わせて使っていただく。いわば新幹線のように物流の幹線を新たに敷く形で、ドライバーが長距離の運転をしなくていい、日帰りできる距離感で駅(拠点)を配置し、駅の間は毎日定時に大型車を走らせる。そこにパレット単位で混載する、これを「SST便」として提供しています。
それを支えるのがデジタルのオープンプラットフォームです。今走っている「SST便」の幹線トラックの空きスペースを、新幹線の座席予約のようにリアルタイムで、あらゆる人が空き状況を確認し、予約できる仕組みです。
―― 新幹線のインターネット座席予約システムのようなイメージですね。
髙野 その通り、“新幹線の座席予約の物流版”のようなシステムを目指しています。まだ初期段階で、使い方には説明が必要なため、今は営業店、例えばヤマト運輸の法人営業担当がお客さまの代わりに、プラットフォームに入力するという形をとっています。
―― 料金は、時間や季節、スペース等により変動があるのですか?
髙野 今のところ国内で18線便という規模感ですので、時間によって料金に差は付けていません。ただ、我々が目指すところは物流全体の需給を平準化していくこと。標準化を通じて平準化し、効率化していくというストーリーですので、必然的にニーズに応じたダイナミックプライシング(需給による価格変動)の考え方も提示していくことになるかと思います。
―― 「SST便」の運行状況は。
髙野 福岡から宮城の間で、拠点とダイヤを決めて毎日18台が定時に走っています。今後そこにフェリーやJR貨物を、区間の線便の一つとして組み込んでいくことを検討、調整させていただいているところです。
―― トラックや中継拠点施設等はヤマトのリソースを使っているのですか。
髙野 スタートとしては、ヤマトグループのヤマトボックスチャーターおよびヤマトマルチチャーターの車や拠点を活用していますが、既に施設等は他社から借りているものもあります。そもそものコンセプトは、SSTが自社の車を持って走らせるのではなく、走っていただくのはパートナーの物流事業者です。幹線については、例えば「ここの区間を3か月お願いします」という形で、ヤマトグループに関わらず公平にお願いしていきます。域内配送の部分、ラストマイルについては、基本的にオプションで提供します。予め地域ごとにパートナー契約しておき、荷主から希望があればパートナーに輸送を依頼する形となります。
―― 国でも中継輸送や積載率向上を推進していますが、積載率は上がっていますか。
髙野 積載率は、まだ改善の余地がある便もあります。ただ大事なのは、我々のプラットフォームを利用すれば1社で運ぶより確実に積載率は上がるということ、これは明確なメッセージです。従来の、荷主側の需要ありきで運び手を探すというやり方では、どうしても積載率は低くなってしまう。復路を含めて考えると尚更です。それが今の現実であり、持続可能ではありません。そこで我々は最初から荷主や物流事業者が復路の荷物を考えずとも集まれるプラットフォームを作るというコンセプトで、新しい運び方を提案しています。
中小の荷主も物流事業者も一緒に
目指すのはフルオープンな世界
―― 共同輸配送の取り組みは各業界や個社間では進んでいます。同様のプラットフォームを作ろうとしている企業もあるなか、SSTをどう差別化してくのでしょうか。
髙野 例えば大手物流事業者がプラットフォームをつくる場合、自社のメイン顧客と路線をもっていて、それに合わせられる他社の荷物を積み合わせます、というパターンが多いかと思います。これだと既存のオペレーションは崩せないため、合わせられる人だけ集めるという形になりがちで、フルオープン化は難しい面があると思います。
我々は荷主や物流事業者の規模に関わらず連携し、定期路線を作ることで、誰でもどの駅からでも載せることができるという形の、全方向のプラットフォームです。中小規模の荷主も含めて共同輸配送をしていくという思想は我々の特徴だと自負しています。
―― 荷主と物流事業者をマッチングさせる、求貨求車システムもありますね。
髙野 求貨求車の仕組みは、主に車単位のニーズだと理解しています。「パレット単位も可」というサイトもありますが、現実的には車単位で探すので、積載率向上にはなかなか結び付かないという課題感もあると思います。我々が大事にしたいのは、荷主のニーズありきでは改善しづらい商習慣に対して、ひとつの「選択肢」を示し、いかに行動変容に繋げていただくか、というところです。
―― なるほど、対応しているのは標準「T11型パレット」ですか?
髙野 標準パレット一択ではありません。標準パレットは全体の中ではまだマイノリティーな存在、過半数には至っていないので、現時点ではフォークリフトで荷役できるサイズ感であれば基本的に対応しています。
―― 現状、どのような荷物が多いですか。
髙野 機械系、メーカー系のものが中心です。今は特に業種を絞っているわけではないのですが、リードタイムや荷姿、製品単価などの要因と、混載前提ですので匂いや温度に影響しないものが初期段階では向いていると思っています。
―― 今後、青果や食品など冷凍冷蔵ニーズに対応していくというお考えは。
髙野 冷凍冷蔵のニーズは間違いなくあります。我々ができることを考えていますが、まずは常温でしっかりとニーズに応えて、プラットフォームをつくることが優先になるかと思います。
―― ところでSSTプラットフォームでは、各社とどのようにデータ連携するのですか。
髙野 我々はスタート段階から、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の思想を受け継いでいます。富士通が作ったSIP基盤を利用したプラットフォームになっており、「物流情報標準ガイドライン」に準拠したデータ連携を行っている点がポイントです。各社がバラバラのルールで管理している物流や商流の情報を、このプラットフォームにAPI連携させることで、情報を共有することができ、効率的な共同輸配送が可能になります。
―― すると、今後大手物流事業者同士がつながる、という可能性もあるのですか。
髙野 前提としてオープンプラットフォームですので、誰が使ってもいいものです。ただ我々のアプローチとしては、物流事業者のマジョリティーである中小事業者にご利用いただき、一緒に新しい運び方を作っていきながら、積載率や輸送効率を高めていきたいと思っています。
―― 物流業界では多重下請け構造も課題となっていますが。
髙野 SSTでは、発注先については基本的に1次もしくは2次請けで、お約束しています。きれいごとに聞こえるかもしれませんが、物流事業者の待遇や労働環境を良くしていかないと、リソースがどんどん減ってしまう。適正な運賃をもらえるという世界観をしっかり作っていきたいと思っています。
サステナブルを事業化する
業界の壁を越え「共創」へ
―― 法改正により2026年4月、特定荷主にCLO(物流統括管理者)設置が義務付けられます。CLOが誕生すれば、共同輸配送の話も加速度的に進むでしょうか。
髙野 物流を効率化するという機運が高まる大きなきっかけにはなると思います。現時点では荷主側にも温度差がありますが、共同輸配送への動きも出てくるでしょう。その時、SST便の受注が増えるというより、SST便を選択肢として持つことの大切さというのを共感いただける荷主、物流事業者は増えていく環境にあると思っています。
―― フィジカルインターネットのような世界がくると?
髙野 「フィジカルインターネット」という言葉がいろいろな捉えられ方をするので一概には言えませんが、経産省と国交省が主導してフィジカルインターネットを実現していこうという取り組みには賛同しています。SSTはある意味、それを体現している会社の1つだとも自負しています。私自身もヤマト運輸に入社した人間です。社会的インフラとして仕事をしているヤマトグループの一員として、世の中のサステナビリティという流れに対し、向き合っていかなくてはならない責任や意志は、根幹にあると思っています。
―― ヤマトHDは中計で「サステナビリティ・トランスフォーメーション2030~1st Stage~」を掲げていますね。
髙野 ヤマトグループのサステナビリティの取り組みをどう事業化し、社会と顧客に還元できるのか、ヤマトが伸ばしていこうとしている法人事業にどう貢献していくのか、非常に高い期待と責任があると思っています。しかし数値目標を追うとなると主従が逆転してしまう。他業種の事業者や物流事業者と「共創」し、新しいビジネススキームを作っていく。そのために、ヤマトグループのノウハウや経営資源を活用しながら、世の中で求められる物流効率化というミッションを達成していくところにフォーカスしていきたいです。
―― 今後、SST便をどう拡大していきますか。
髙野 2026年3月末に80線便まで拡大という目標を掲げています。高いハードルですが、日本では毎日何万台も(トラックが)走っているので、実現可能な数字だと思っています。一方、物流事業者に還元していくために、安売りをしてはいけない。スケールありきではなく、共感いただけるお客様と対話し、Win-Winな関係を増やしていきたいですね。
―― 髙野社長が大切にしている言葉、座右の銘は。
髙野 松下幸之助さんの「学ぶ心あれば、万物すべてこれわが師である」という言葉が昔から大好きです。仕事やプライベートでの楽しいことや悲しいこと、いろいろな経験が全てビジネスや人生につながっていくと思っています。この事業をスタートしてから、様々な業界や行政の方々と話すなかで、我々のやりたいことと必ずしも合致しない話も多々ありますが、それも一つの真実。そこからどう学びを得て、変わっていけるチャンスがあるか、と考えています。
―― 最後に、LNEWS読者にメッセージを。
髙野 日本の物流を持続可能なものにしていくためには、物流事業者と荷主の双方が行動を変えていく必要がある。様子見では進まないという状況にきていると思っています。「変化」していくことに、ぜひ恐れずに一歩を踏み出していただきたい。例えば物流の確保に苦慮されている区間でSST便を1回使ってみるというだけでも、それは1つの変化です。できるだけハードルの低い一歩目をご用意しているつもりですので、1パレットを1回出してみるなど、気軽に使ってみてください。持続可能な物流を構築していくことを目指して、我々はオープンな形で取り組んでいますので、ぜひご一緒させていただければうれしいです。
取材・執筆 吉坂照美 山内公雄
■髙野茂幸(たかの・しげゆき)社長プロフィール
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