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JR貨物の物流戦略

2021年01月08日/物流最前線

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ここ数年、日本では数多くの自然災害が発生し、各地に大きな被害をもたらしてきた。当然、物流業界にも少なくない影響を及ぼし、特に貨物鉄道輸送を主とする日本貨物鉄道(JR貨物)は、路線の長期不通による対応や代替運行に悩まされてきた。しかし今、JR貨物の攻めの戦略が始まっている。12月10日にはレールゲートシリーズ第2弾となる東京貨物ターミナル駅直結の物流施設「東京レールゲートEAST」の着工を発表した。17万4404m2の延床面積を持つ巨大なマルチテナント型物流施設だ。真貝康一社長は「環境特性と労働生産性に優れるという特徴を持つ鉄道輸送と他の輸送モードを組み合わせ、物流の最適化を進めていきたい。モーダルシフトを越えたモーダルコンビネーションの時代だ」と語る。同社が目指す総合物流企業グループへの変革に向けた今後の戦略を伺った。  
取材:12月10日 於:日本貨物鉄道本社

<東京レールゲート完成予想図 右側がEAST、左側が竣工済みのWEST>
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<東京貨物ターミナル駅動画>

コロナ禍、輸送量は5月に底を打ち、徐々に回復

―― 新型コロナ感染の影響で経済状況が悪化しています。

真貝 そうですね。新型コロナ感染の発生以降、企業の生産活動や個人の消費活動に大きな変化が起き、物流も大きな影響を受けています。しかしながら、物流量は大きくは減少していないのです。人の流れが大きく制約を受ける中でも、人々は生活を続けていかなければなりません。その生活の源となる生産活動との間を物流はつなぎ支えているからです。

―― 輸送量の落ち込みは全体的にみるとそれほど大きくなかったと。

真貝 そういうことです。当社ももちろん2020年の輸送量はある程度落ち込みました。対前年同月比で4月は10%減、5月は21%減と大幅に落ち込みました。ただ、この5月を底に6月14%減、7月16%減、8月14%減、9月10%減、10月7%減、11月2%減と少しずつ回復傾向にあります。

―― 物量の下落を押しとどめた要因とは。

真貝 品目別では、宅配便を含む積合せ貨物が、BtoCの「eコマース」の伸びが、部品などの工場間輸送(BtoB)の減少をカバーし、前年同月比並みをキープしています。BtoCの伸びは対前年で10%~20%と急伸しています。荷主側の個別の生産・出荷見通しを聞くと、全体としては2021年3月までにはほぼ前年同月並みまで輸送量が回復すると見通しているとのことです。ただ、ここ最近の感染再拡大傾向を見ると、収束には相当時間がかかる見通しが強まっており、雇用情勢悪化や先行き不安による個人消費の回復が遅れることが懸念されるなど、むしろ輸送量の回復が後ろ倒しになるリスクが高まっていると認識しています。

―― こういったコロナ禍の中、御社では何か対策を打たれていますか。

真貝 新型コロナ感染発生後、1月24日には社員に注意喚起し、1月30日には新型コロナウイルス感染症対策本部を設置しました。各職場では、社員発案によるアイデアも取り込んだ様々な感染防止策を講じ、家族も含め感染防止に万全な取り組みを行っています。2020年は新型コロナウイルス感染という今まで経験のないパンデミックスが猛威を振るった1年でした。我々は指定公共機関として、コロナウイルス感染防止策に細心の注意を払い、これからも平常通りの運行を確保していきます。

―― 営業面で苦労されたのでは。

真貝 確かに、対面営業では制約が生じているものの、Webによる面談・打合せや3密を避けた駅見学会を実施する等、コロナ禍の中でも工夫を施し、日々営業活動を続けています。

―― コロナ禍の中でも企業活動は続けなければならないですからね。

真貝 コロナ禍が物流にどこまで影響を及ぼすかについては極めて不透明な状況が続いていますが、人々の移動が制限・自粛によって大きな影響が出る中で、物流が人々の生活を支え続けており、影響はあるものの、この程度に留まっている状況です。eコマース等、コロナ禍の中でも伸びている業種については、顧客の基幹物流を担うべく営業活動を実施するとともに、不要不急の経費を抑え、2020年度の残された期間に挽回していきたいと考えています。
そして、「JR貨物グループ中期経営計画2023」に掲げた成長・戦略投資や必要な維持更新投資、必要な費用については計画通り実行していくつもりです。これがグループの将来につながることだと考えています。

―― コロナ禍の前にはここ数年多くの自然災害がありました。

真貝 そうですね。特にここ3年は毎年、自然災害で大きな影響を受けています。2018年7月の西日本豪雨では山陽線が100日間不通になりました。輸送量の30%程度が運べなくなりました。2019年10月には台風19号で東北線等が17日間不通、2020年7月の九州豪雨では肥薩おれんじ鉄道線が121日間不通になり、物流に大きな支障が出ました。予防保全といった国の工事が追い付いていないということです。

―― 鉄道貨物輸送の泣き所ですね。

真貝 在来線のルートを見ると、その多くが明治時代の技術をもって開発された路線ルートです。海沿いや川沿い、山の尾根伝いといったルートを通ることが多く、高度な土木技術が必要だったトンネルは短距離に限られています。そのようなルートはやはり自然災害の影響を受けることが多く、在来線の課題となっています。

―― 確かに、在来線は風光明媚ですが、新幹線はトンネルだらけで、景色を楽しむ面では残念なところがありますね。その分、自然災害には強いと。

真貝 そういうことです。新幹線等は昭和の技術で作られたもので、高架と長距離トンネルで閉鎖空間が確保されているので、自然災害にも強いのです。国の方でも、国土強靭化計画などで、鉄道インフラの強靭化を進めるとしていますが、次々に訪れてくる自然災害に対しては追いついていないというのが現状ですね。当社も災害が発生した場合の迂回輸送・代行輸送体制の拡充等の取組みを行っていきますが、予防保全これは今後に向けても大きな課題です。 

―― Withコロナと同様With自然災害ということですね。

真貝 コロナ禍が無くなっても、自然災害は引き続いてやってきます。しかし、自然災害が起きた時、異常事態になった時こそ、物流が平常時と同じように機能し活躍しなければならない役割と責務を持っていますので、様々な技術の導入や知恵を絞って対応していかなければならないと思っています。

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