低温物流では国内最大手のニチレイロジグループの一員であるロジスティクス・ネットワークは、2024年問題が騒がれる20年近くも前から冷凍食品の共同物流に取り組んでいる。中四国エリアにおける共同物流のコーディネートから始まり、2015年からは本格的に関西エリアでニチレイフーズとテーブルマークの共同物流を開始した。直近ではマルハニチロを加えた3社による取組みへと発展させ、更なる効率化を実現している。「10年目の節目を目前に控え、これらの共同物流実績をもとに東名阪を中心に同様の取組みを拡大していきたい」と話すのは、ロジスティクス・ネットワークの林 正徳取締役専務執行役員と熊谷 敦営業開発部長。共同物流に至った経緯から、課題、困難さ、そしてその効果と今後の展望を伺った。
取材:10月28日 於:ロジスティクス・ネットワーク
売上の9割以上が外販
約100社の協力会社と冷凍輸送担う
―― まず、ニチレイグループとニチレイロジグループ本社との関係をお聞かせください。
林 ニチレイグループは、加工食品事業のニチレイフーズ、低温物流事業のニチレイロジグループ本社、水・畜産素材を調達・販売しているニチレイフレッシュ、そしてニチレイバイオサイエンスの各事業会社で構成されています。従いまして、ニチレイロジグループ本社は、他の事業会社と同列ということになります。
―― ニチレイロジグループ本社とロジスティクス・ネットワークとの関係は。
熊谷 ニチレイロジグループ本社は、低温物流の実業を担う各事業会社を束ねる中間持株会社の位置付けです。その傘下に連なる国内外の各事業会社の中で、最大規模を誇る基幹会社として事業展開しているのが、ロジスティクス・ネットワークになります。当社は、保管事業、輸配送事業、リテール事業、3PL事業を行っており、そのなかでも、我々が属するソリューション開発本部では、輸配送事業の柱の1つである幹線輸送と3PLを中心に手がけています。幹線輸送においては、安全と品質にこだわりながら、全国規模で展開していることが強みです。また、3PL事業においては、決して自社アセットにこだわらず、時に外部アセットを活用しながら、顧客にとって最善・最適な物流をご提案するフレキシブルな対応が特徴です。
―― 一般的なメーカー専属の物流子会社という位置付けではないのですね。
林 そうです。ニチレイロジグループの顧客は、商社、メーカー、卸、小売、外食、中食と幅広く、ニチレイグループ外の比率が9割以上です。
―― ニチレイロジグループの運送体制はどのようになっていますか。
熊谷 NKトランスという会社が一部の特定エリアで実運送を手掛ける事例はあるものの、基本的には利用運送体制です。全国約100社の協力会社と「ロジネット協力会(以下、協力会)」を組織しており、パートナーとしてご協力いただいています。
―― 全国約100社の実運送会社をまとめるのは大変でしょうね。
林 3PL事業者として国内における低温物流サービスを広範囲に提供するのが当社ソリューション開発本部の役割ですので、物流品質を高いレベルで維持することが必然的に求められます。通常、100社もあれば、各社で品質基準はバラバラになります。そこで、協力会としての輸配送品質基準を設け、各エリアにある協力会の支部や部会で、品質会議や研修会を定期的に実施、時には運転・点検技術コンテストを行なうなどして、高い品質を保っています。利用運送とは言え、協力会とは連携を密にしながらやっていますので、まるで一つの会社のような形で運営していると言えるでしょう。そこが我々の大きな特色だと思っています。
―― この1年、協力会社100社との会議や対話の中で、2024年問題が大きな話題になったと思いますが。
林 物流を任せて頂いている中で、やはり夏以降、急速に冷凍輸送車を確保し難くなってきたことは確かですし、年末に向けて、よりいっそう厳しくなることが予想されます。そのため、顧客には配送計画や物量計画の事前提供をお願いしており、協力会社と連携して調整・準備を進めている段階です。
熊谷 2024年問題については、ネガティブな側面が強いことは確かですが、この問題によって新たな困り事や課題が顧客側に生じるとすれば、例えば、長距離幹線輸送の維持・安定化といった新たなニーズも生まれるということです。我々としては、そうしたニーズにしっかりと対応していくべく、「SULS(サルス)」と称する次世代輸配送システムを開発しました。ある意味では、こうしたサービスを展開・拡大していく良い機会になったのではないかとも思っています。
2005年に始めた3社共同物流
共同物流のメリットが実績として認知
―― さて、御社が冷凍食品の共同物流を始めてから10年が経過すると聞きました。その経緯からお聞かせください。
林 関西エリアでは2015年に開始しましたから、確かに10年目の節目の年です。しかし、実はその前から中四国エリアで共同物流に取り組んでいました。2015年に当社と事業統合したロジスティクス・プランナーという会社が、2005年から中四国エリアで大手冷食メーカー3社の共同物流をコーディネートしており、4社へ拡大したうえで今でも運営しています。
―― なぜ、中四国エリアだったのですか。
林 中四国エリアは、配送エリアが広範囲に及ぶ一方で荷量が少なく、各メーカーはとても困っていました。そこで、ロジスティクス・プランナーが幹事会社となり、種々の条件面を整理、取りまとめのうえ、3社の共同物流をスタートさせた訳です。
―― そして、2015年に関西エリアで共同物流を始められた訳ですね。
林 これについては幾つかポイントがあります。まず、冷凍加工食品の需要の高まりを受けて、ニチレイロジグループ全体でも、基盤整備のほか、顧客ニーズに応える物流スキーム最適化などのサービスを拡充する動きがありました。つまり当時から加工品の取扱いを新規で手掛けていこうというコンセプトがまずあったということです。一方、ちょうど当時、テーブルマークさんから、関西エリアの物流で困っているという話があり、それなら一緒にやりましょうとなったのが二つ目のポイントです。そして三つ目のポイントは、既に当時から乗務員不足は恒常化しており、輸配送車両の大型化も含め、配送車両自体の積載率を高めて効率化を図る必要があったという点です。
―― 問題なくスムーズにスタートしたのですか。
林 話が決まってから4〜5か月で稼働しましたが、基本的に冷凍食品メーカーの納品先は同じですし、テーブルマークさんにも、配送曜日の調整など全面的な支援を頂けたので、問題なくスタートしました。センター運営は当社の強みでもあり、大きな混乱は無かったですね。
<業務用冷凍食品の共同物流拠点であるニチレイ・ロジスティクス関西 大阪埠頭物流センター ※2015年当時はロジスティクス・ネットワークの運営>
熊谷 こうした経緯で、2015年11月より、大都市圏での物流効率化の一環として、関西エリアの自社拠点を活用した、ニチレイフーズとテーブルマークさんによる業務用冷凍食品の共同物流を開始しました。
―― その効果はいかがでしたか。
熊谷 1納品先あたりの配送物量が増加したことで、配送車両の大型化による運送効率はもとより、積載率の大幅な向上を実現しました。その後、物量も確実に増え、効率化はいっそう進んでいます。
―― 直近3年では他社拠点を利用した家庭用冷凍食品の共同物流も始めたということですが、これについては。
林 これは、ニチレイフーズとテーブルマークさんの物流を、家庭用と業務用に分けたうえで、それぞれを共同化した取組みです。当時、テーブルマークさんの家庭用については、業務用を扱っていた拠点から引き続き出荷されていましたが、2020年、家庭用物流の共同化に際し、業務用と家庭用のセンターを分けたうえで、業務用は引き続き当社拠点を活用し、家庭用は協力パートナー会社の拠点を活用するかたちで2社の共同物流を実現しました。
―― この時も問題なくスムーズに稼働したのでしょうか。
林 家庭用と業務用を分けた時は、システム面の構築が大変でした。ニチレイフーズとテーブルマークさんの2系統のシステムを当社と繋ぐだけでなく、協力パートナー会社のシステムも含めた3つのシステムを繋ぎ合わせるのに苦労した訳です。2社分の配車データをもとに作業データを作成し、実際の作業と連動させるシステム構築には半年ほど掛かりました。
―― 共同物流では違ったシステム同士を繋ぐ必要があるので、かなり困難があるようですね。
林 長年培ってきた立ち上げの実績が豊富にあり、注意すべき点にはチェックを入れていきますから、多少の時間は掛かっても、問題なく構築できたと思っています。
―― その後、この取組みにマルハニチロさんが参加されたそうですね。
熊谷 実は、前段として、中部エリアにおいて、2017年からニチレイフーズとマルハニチロさんの家庭用物流を共同化しており、この時に共同物流のメリットを十分にご理解いただけたことが、関西エリアへの参画に繋がっています。3社による共同物流というご提案を評価いただくことができました。
短・中・長距離輸送の組合せ
次世代輸配送システム「SULS(サルス)」を展開
―― 2024年問題について、先程、次世代輸配送システム「SULS」を展開・拡大していく良い機会と話されていましたが、この「SULS」とはどういうものでしょうか。
熊谷 基本的な発想は、長距離輸送を中距離もしくは短距離輸送の組合せに置き換えて、全国を繋いでいくというものです。「SULS」の名称は、「S&U Logistics System」の頭文字からとっており、「S」には「3つのS」、Speedy(よりスピーディに)、Sustainable(持続可能な)、Solution(課題を解決する)、そして「U」には「3つのU」、Utility(より効率よく)、Usability(より使いやすく)、User Experience(高い体験価値)、という意味を込めています。ニチレイロジグループの強みを掛け合わせることで「3つのS」を生み出し、社会や顧客に「3つのU」を提供していきたいと考えています。
―― 確かに2024年問題と大きな関係がありますね。
林 まさにその通りです。トラックドライバーの業務は、純粋な運転行為に加え、物流拠点での手待ち時間や運転以外の付帯作業も実質的に請負う商慣行により、長時間労働が常態化していました。2024年4月1日以降、トラックドライバーの時間外労働時間上限が年間960時間に制限されたことで、荷主業界・物流業界が対応を迫られることになった訳です。
熊谷 「SULS」の特徴ですが、長距離輸送の短・中距離化のほかにも「パレット輸送」と「一括大量輸送」が挙げられます。まず、2024年問題を踏まえ、原則、パレタイズされた荷物のみを扱うこととしています。また、45ftコンテナを採用しており、1回の運行で最大24パレットを積載することが可能です。
林 45ftコンテナについては、当社が全て購入しています。エリアをまたがって様々な協力会社にご利用いただいていますし、コンテナ仕様の標準化を図る意味でも、そうしています。
―― パレットの標準化については、2024年問題でも大きな課題になっていますが、なかなか実現が難しいようですね。
熊谷 確かに難しいですね。自社所有のパレットだけでなく、荷主からお借りしているものもあり、業務ごとに入り混じることが多々あります。また、我々のような冷蔵倉庫業では、従来からT12型での運用が行なわれており、倉庫内もT12型で設計されている場合がほとんどです。しかし、現在はT11型が推奨されていますし、我々もT12型へのこだわりを捨てないと、世の中の動きから取り残されてしまうのではと感じています。
―― ガイドラインの指針ではレンタルパレットが推奨されていますね。
熊谷 これまでは自社でパレットを購入して保有するのが当たり前でしたが、パレット輸送の進展に伴って、パレットはどんどん流動化していきます。ですので、所有から利用へ変換を図るタイミングと捉え、今後3年くらいでレンタルに切り替えていきたいと考えています。
―― 実際の「SULS」事例にはどのようなものがありますか。
林 ニチレイフーズや当社小口混載便「Nねっと便」の例ですと、10t車で東京から福岡まで輸送する場合、従来は、ドライバーは寝ずに運転して、着地の福岡で休むことが多かったのですが、「SULS」を導入したことで、東京を出発したトレーラーが名古屋でコンテナを切り離し、それを別のヘッドが関西まで、また別のヘッドがその先の広島まで、といったリレー方式で運び、着地の九州まで運べるようになりました。
―― 各拠点はどこに設けられているのですか。
林 北から言いますと、仙台、埼玉県の上里、神奈川県の厚木、浜松、名古屋、大阪、広島、福岡にあり、それぞれをハブとして活用しています。ここにトレーラーの自社コンテナを持っていくと、そこに切り離せる場所があり、それを新たなヘッドが取りに来るという仕組みです。
止まらない物流を高品質で提供する
物量平準化と配送リードタイムが鍵
―― これまで御社の取り組みを説明してもらいましたが、その困難さや現在までの達成度については。
林 日本で小口の輸配送をトレーラー化していくためには、それなりの荷量が必要です。1社では難しいので、複数社を組み合わせていくことが必要ですし、パレット化も課題です。最低、これらをクリアしないとトレーラー輸送ができないので、我々がそこをコーディネートしていき、全国を繋いでいくということを推進していきたいと思っています。今はまだ幹線輸送の1割強がトレーラー輸送に切り替わっている程度ですが、これを5割程度まで引き上げたいと思っています。
―― 早期というと5年程度ですか。
林 5年くらいすると、おそらく相当量がトレーラーに切り替わっているものと思いますので、自社コンテナの購入計画もそのように立てています。本年度で自社コンテナの保有台数が50本程度まで増える計画です。
―― 荷物の量からすると、まだまだ共同物流の仲間を増やせそうですね。
熊谷 ニーズはあると思っています。ただ、新たな共同物流の取組みを開始する場合、取り扱えるだけのスペースを空けなければならず、空けるためには既存の荷物を別の場所に移動しないといけませんね。なかなか難しいのですが、そのあたりをコーディネートしていくのが我々の役目だと思っています。
―― 冷凍輸送では顕著だと思いますが、季節波動についてはどうでしょうか。
林 今後は、これまでやって来たような量はとても捌き切れないと思います。そうすると、前倒しするとか後ろ倒しするといった、物量平準化に向けた調整機能が必要になりますが、我々は、顧客から商品の移動計画業務を請け負っていますので、顧客のご要望に沿いつつ物量平準化へ繋がる調整をスムーズに行なっていけると思っています。今後は、この移動計画業務自体も増やしていきたいと思っています。
―― 最後になりますが、LNEWS読者へのメッセージを。
林 現在、2024年問題の影響が出始めていることは確かです。「物流を止めない」という物流事業者の使命からすれば、あらかじめ先の事象を予期して手を打っていくということが非常に大切な要素になってきます。そのお手伝いをコーディネートできるのが我々の強みであり、大きな役割だとも思っています。
熊谷 まさに「物流を止めない」に尽きると思います。2024年に入り、輸配送のリードタイムが注目されるようになりました。いわゆるD1(翌日配送)なのかD2(翌々日配送)なのかの議論です。常温物流ではD2が定着しつつありますが、低温物流ではまだまだD1が当たり前といった感じです。しかし、遠方や過疎エリアへの輸配送はもとより、拠点作業の人手不足を補う意味でも、時間的な余裕が必要となりますので、ここは顧客と丁寧に対話し、少しずつ理解を得ながら、物流を止めないための一策として、取り組んでいけたらと考えています。
―― ありがとうございます。2024年問題に真摯に取り組む様子が理解できました。
取材・執筆 山内公雄
<右が林専務、左が熊谷部長><ニチレイロジグループのマスコットキャラクター(左がレイちゃん、右がロジロジくん)>
■プロフィール
ロジスティクス・ネットワーク
取締役専務執行役員 ソリューション開発本部長
林 正徳(はやし まさのり)
1990年4月 ニチレイ入社
2014年4月 ロジスティクス・ネットワーク 執行役員 関西支店長
2020年4月 ロジスティクス・ネットワーク 執行役員 営業開発部長 兼 SCM推進部長
2021月4月 ロジスティクス・ネットワーク 専務執行役員 物流事業本部長
2023年4月 ロジスティクス・ネットワーク 取締役 専務執行役員
ニチレイロジグループ本社 執行役員
現在に至る
ソリューション開発本部
営業開発部長兼営業第一グループリーダー
熊谷 敦(くまがい あつし)
2001年4月 ニチレイ入社
2021年4月 ニチレイ・ロジスティクス九州 那覇新港物流センター 所長
2024年4月 ロジスティクス・ネットワーク 営業開発部長
現在に至る
ニチレイ・ロジグループWebサイト
https://www.nichirei-logi.co.jp/