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コロナ禍の現代描く
ヒロインは宅配ドライバー

2022年09月22日/物流最前線

20220920 nhk icatch01 - 物流最前線/NHK「あなたのブツが、ここに」インタビュー

8月22日からスタートしたNHK夜ドラ「あなたのブツが、ここに」(月~木、午後10時45分~11時、全6週)が好評だ。宅配業と飲食店をテーマに、2020年春からのコロナ禍をリアルに描き、ヒロインはキャバクラから宅配業界に転職してきたバツイチのシングルマザー・山崎亜子(仁村紗和)。舞台は多くの大型物流施設が建つ兵庫県尼崎市だが、亜子が働くのはラストワンマイルを担う下町の運送会社だ。亜子が奮闘しながらプロの宅配ドライバーになっていく姿とともに、緊急事態宣言で「新しい生活様式」へと物語が進むなか、顧客や学校、同僚や親子関係などがどう変わっていくのか、時代とシンクロしながら人間を描いたドラマとして、回を重ねるごとに反響が大きくなっている。そして、いよいよ9月26日~最終週を迎え、ドラマは2021年夏の東京オリンピック、お中元シーズンへ。未だコロナは終息しないが、物語はどう進むのか。制作を手掛けたNHK大阪・櫻井壮一チーフプロデューサーにドラマの展開や企画意図、物流・宅配業界について感じたことなどを聞いた。
取材:9月15日 オンライン

<「あなたのブツが、ここに」メインビジュアル>
20220920 nhk02 520x293 - 物流最前線/NHK「あなたのブツが、ここに」インタビュー

<ヒロインの活躍と宅配シーンも見どころ>
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<ラストワンマイルを担う尼崎市の運送会社が舞台>
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宅配ドライバーが「怖い」、がヒロインに

――  今回のドラマは宅配ドライバーの女性が主人公ということで興味深く拝見しています。そういった企画はどこから生まれたのですか?

櫻井  去年の初夏の頃、いくつか企画案があったなかで、「宅配ドライバー」と聞いたときに、まず思い浮かんだのはコロナになって宅配の数が急激に増えたということと、コロナが怖いということに関連して「宅配ドライバーが怖い」と悪者のような扱いをされてしまうというニュース。僕の身近な中でも宅配の人が「ちょっと怖い」という声も聞かれていて、そういうことが僕の中で印象に残っていたんです。

今も、引き続きコロナ禍ですが、宅配ドライバーをドラマで取り上げるのであれば、そういうことを無視して、ないものとして描くのはとても不自然ではないかと思いました。医療関係者など「エッセンシャルワーカー」という言葉もコロナ禍ではしきりに使われていますが、宅配業も我々が生活するうえで、絶対に必要な存在。にもかかわらず「怖い」といったイメージがみんなの意識のなかにある、ということに自分のなかでひっかかりがあった。逆に、宅配ドライバー側からみたら、そういう世の中ってどう見えるんだろうかということが、ドラマになるんじゃないかなと。

宅配業界も今、非常に大きな変化の時期にあると思いますが、ドラマの時代設定も、2020年の10月からスタートして、2021年の4月から5月ぐらいの時期を描いています。ドラマの中で今後、夏の東京オリンピック、お中元シーズンへと描いていくのですが、今まさに僕らが生きている時代の変化をドラマにできないかなということで、宅配ドライバーを主人公に物語を構成してみました。

――  なるほど、ドラマを見ていると、まだ生々しいというか、リアルな感じがします。制作にあたって大切にされたことは?

櫻井  実際、宅配ドライバーを主人公に設定して物語を作っていく時に、自分がバイ菌扱いされたり、ちょっと怖がられたりされる側っていうことが、どう見えるのか、どう感じるのかが、まず大切かなと思います。主人公の亜子は、生活のためにキャバクラ嬢から宅配ドライバーに転身するんですが、最初は亜子自身も宅配ドライバーという仕事に対し、ある種偏見というか「そんなに自分がやるべき仕事ではない」というか「恥ずかしい」と思ってしまっていた。逆に、先輩宅配ドライバー武田(津田健次郎)の方も、キャバクラ嬢という仕事に偏見を持っている。誰しもたぶん、どこかにそういう偏見や先入観があると思いますが、それがちゃんとお互いを知り、関わっていくことで何か変わっていく、という物語がいいんじゃないかと思いました。

――  目に見えない相手(ウイルス)を恐れる、先が見えないコロナ禍だからこそ、のテーマでもありますね。

櫻井  そうですね、僕自身において、コロナ禍だからやはり、荷物を運ぶ人の大切さが、際立つことになったのかなとはやってみて思います。普段、僕らは宅配ドライバーについてよく知らない、ほとんどの人にとって、玄関先で荷物を受け取るくらいしか接点がありません。コロナ禍だからこそ、ドライバー側の視点に立った時に、どういう世界が広がるのか。宅配ドライバーの人から見た、それぞれの景色もいろんなものがあると思うし、ドライバーの視点を通じて僕らが見つめ返されるという構造も、とても面白いんじゃないかと思います。

<実話をもとに構成しているシーンも>
20220920 nhk05 - 物流最前線/NHK「あなたのブツが、ここに」インタビュー

<物流の現場もリアルに再現>
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<物語の舞台となった尼崎市>
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リアル?演出?宅配業界は、ドラマティック

――  制作にあたっては、実際に宅配事業者などを取材されたのですか?

櫻井  運送会社さんにも、いろんな種類の会社があるんですね。宅配のなかでも大手企業から個人事業主中心の会社だったりいろいろで、そのごく一部の方にですが、宅配業についてのお話やエピソードを伺いました。こんな変わったお客さんがいたとか、本当にコロナで2020年の4月から夏、世の中がピリピリしていて、お客さんの対応も今と違って、とかそんなお話をドラマのなかにいくつか取り入れました。

―― ドラマにはいろいろな届け先の顧客が登場しますが、実話もあるんですね。

櫻井  取材しているなかで、実際にドラマのシーンにあったように除菌スプレーをかけられたり、という話もありましたが、もちろんドラマなので誇張されています。もしかしたら、もっとひどい人もいるかもしれないし、それに近いことはあったとは思いますが。リアルさは大切にしていて、宅配の仕事についての指導には2人、入っていただいています。1人は物流考証として立教大学の首藤若菜教授に、労働環境的なことでこのドラマが逸脱していないかということをチェックしていただきました。それとは別に宅配指導として、個人事業主を取りまとめている会社で、自身も宅配ドライバ―をされている山崎妃美香さんに、実際の荷物の仕分けや持ち方、積み込み方などをきちんと教えていただいて、そのうえで皆さんにお芝居をしていただいています。

―― ドラマの舞台を尼崎市にされたのは、この場所に大型物流倉庫がたくさん建っていることから、そのあたりも加味されたのでしょうか?

櫻井  物語の舞台として、尼崎市は港も近いし、倉庫もたくさんありますね。でも町の空気感がちゃんと出せるのが一番の決め手でした。舞台をどこにするのかについてはいくつか選択肢がありましたが、荷物を積んで宅配トラックで町をまわって、という話になるだろうな思った時、都会なのか田舎なのか、下町がいいのか。ロケ先の町のにおい、人がちゃんと感じられる場所がいいなということで、尼崎を選びました。映像的にも町の実景が、宅配の運転席から見えたり、亜子が自転車で会社に向かう時に見えたり、なるべく町の空気感が出せるような編集になっている。そういうのもこの番組においては大切だと思っています。僕自身も一時期、尼崎市内に住んでいたこともあるので、僕のなかでは身近な場所であり、非常に良かったかなと思います。

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