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コロナ禍の現代描く
ヒロインは宅配ドライバー

2022年09月22日/物流最前線

ドラマでは、描ききれない物流課題

<現実とシンクロする切実なシーンも>
20220920 nhk08 - 物流最前線/NHK「あなたのブツが、ここに」インタビュー

<亜子の娘、咲妃は母の仕事を応援する>
20220920 nhk09 - 物流最前線/NHK「あなたのブツが、ここに」インタビュー

<3世代の親子関係も見どころ>
20220920 nhk10 - 物流最前線/NHK「あなたのブツが、ここに」インタビュー

――  ラストワンマイル配送には人手不足などさまざまな課題がありますが、ドラマのなかでどう描いていますか?

櫻井  今、働く環境の問題や、人手不足も含め大きな問題になりつつあるんだろうなと認識しています。でも正直、そこの部分にはまだドラマでは踏み込めていない。ちょっと問題が大きいので、そういう状況があるということは、私も話を聞いたり調べたりして分かってはいても、ドラマのなかでそこまで描くのは難しい。亜子が勤める「マルカ運輸」も、かなりリアルにやっていると思いますが、あくまでドラマの中での設定。物流業界そのものの課題には踏み込みきれていない。ちょっと難しいですよね、いろんなことが絡みすぎていて。それはそれで、大きなドキュメンタリー、報道番組のテーマになるようなことだと思います。

ただ、ドラマのなかでは毎回、すごく際どいラインを攻めているというか。お客さんとの関わり方や接し方、クレームの対応の仕方とか、これをドラマで描いたことが正解っていうことでは全くないとは思っているんですが、何がこれ正しいのっていうのはすごく難しいと僕は思っています。ただ尼崎という町が大都会ではなく、下町の風情が残る町であるからこそ、そのへんがゆるく捉えらえる、ドラマにできる余地があったのかなと思います。

――  ドラマのなかには先輩ドライバーの「(配る)数じゃない、みんな切実で、この荷物の1つ1つが、お客さんにとって大切な荷物なんや」というセリフ、配達時間に少し遅れただけなのに「遅い、遅い!アンタ遅川さんか?」と怒られたり、理不尽なクレームに社長が土下座したり、「危うく、コロナに足元すくわれるとこやった」と娘・咲妃と駆け出すシーンなど、時勢を映す場面がいくつもありました。

櫻井  ドラマのセリフや描き方が、そういう切実さ、っていうところに象徴されていると感じていただけるなら僕自身はよかったかなと。脚本の櫻井剛さんがうまく書いてくださったのかなと思います。物流・宅配関係は難しい、これでよかったのかと思いながらやっています。つい、消費者マインドでいうと、こっちがお金払っているんだから、相手に対し少々失礼な言い方をしてもいいんじゃないか、というのがあるような気がするけど、荷物を運ぶのも1人の人間がやっていて、リスペクトされるべき。働いている人がそこでちゃんと誇りをもって、ちゃんと報われるといいなという想い、というか願いを込めているつもりです。

――  櫻井さんの願い、ちゃんと伝わっていると思います。ところで、脚本を書かれた櫻井剛さんとは苗字が同じですがご親類とか?

櫻井  全くの偶然なんですよ、同じ苗字で現場では呼び方に困ったみたいですが(笑)。櫻井(剛)さんが、僕が以前手掛けた連続テレビ小説『おちょやん』をよく見てくださっていた、というのを事務所の方から聞いて、今回初めて脚本をお願いしました。

――  そうだったんですか、今後のドラマの展開が気になります。

櫻井  最終週(9月26~29日)は、2021年の7月、東京オリンピックがあり、超多忙なお中元の季節でもあり、ワクチンがまわってくるのか、みたいな時期を設定していて、改めて「マルカ運輸」の人たちが危機をどう乗り越えていくのかが見どころです。以前取材をした時に、宅配っていうのは、もちろん個人プレイの部分もあるけれど、チームプレイなんだよっていうことを言われたこともあり、ちゃんとドラマで「マルカ運輸」の人たちがチーム一丸となって危機を乗り越えていく、という話になっています。それに、主人公・亜子のいろんなプライベートな話、元夫がらみのことも少し出てきて、今後どう向き合っていくのか。亜子自身がどうこれから生きていくのか、というのも見届けていただきたい。

――  撮影秘話などあればお聞かせください。

櫻井  ドラマのもう一つの大きな見どころとして、僕は亜子(仁村紗和)と母親・美里役のキムラ緑子さん、娘・咲妃役の毎田暖乃ちゃんの3人の女性のシーンというのが、本当にいいなと思っていて。仁村さんと毎田さんはちゃんと親子の関係を作っていて、撮影前にも一緒に遊びに行ったり、ママと咲妃っていう関係を作って、そこにキムラさんが入って。撮影の合間にも一緒にお絵描きをしてたりとか、カメラがまわっていない時でも、ちゃんと関係づくりをしていたので、それがシーンに表れているのかなと思います。

<さまざまな困難を乗り越え、チームとなっていく>
20220920 nhk11 - 物流最前線/NHK「あなたのブツが、ここに」インタビュー

<シングルマザーの亜子が今後どう生きてくのかも見どころ>
20220920 nhk12 - 物流最前線/NHK「あなたのブツが、ここに」インタビュー

ちゃんと頑張っている人が報われる、願いを込めて

―― 改めて、櫻井さんがドラマを通じて伝えたいことは?

櫻井  ちゃんと一生懸命頑張っている人、頑張って働いている人が報われるといいなと思います。ちゃんと敬意をもって接せられて、自分自身が仕事に誇りをもって報われる、ドラマでは言ってないですけど報酬の面でも。シンプルに、そういう願いを込めているつもりではあります。それはドライバーだけの話ではなく、コロナ禍の子どもたちもそうだし、シングルマザーとしての母親もそうだし、いろんな大変な状況って時々であったりしますが、頑張っていると、いい方向に向かってくれるといいなと願っています。

―― 視聴者の反応はどうですか?

櫻井  視聴者の方の反応もしっかりとみていただける方が多く、好評な意見が多いと思っています。業界の人がドラマを見て、これはない、変だと思われるのが一番嫌だったので、それなりに見ていただけているのであればホッとしました。すごく難しいテーマを毎回出しているので、ドキドキしながら反応を見ています。今では減ってきましたがドラマが始まった当初は、「出演者のマスクの仕方が気になる」という反応もありました。鼻マスクというのか、お叱りの連絡があったこともあります。

マスク自体、不織布が浸透するまで時間があったと思うんですね。ドラマでは、ウレタンのマスクを亜子がしていて、飲食店を経営している母親・美里(キムラ緑子)も布マスクをしていますが、その時の情勢を反映させていて。やっぱり周りを見ていても、大きな声で喋って動いていると鼻って出てくるんですよね。あえて、いつも鼻まで完璧にマスクをした状態も不自然な気もするし、自然にやるのがいいんじゃないかなと。そういう反応も含め、コロナ禍なんだな、とは思ってますね。僕もドラマを見ていて、確かに鼻マスクになってるな、と思う時もありますが、それも今のリアル。1年前、2年前のことだけど結構忘れていて、「子どもがマスクをしてない」って声が、学校に寄せられたことも普通にありました。どっちが正しい、間違いって言いにくいことですが、ひとつの現実として、改めてドラマで描くことで、皆さんはどうですかっていう投げかけにはなっているかと思います。

――  今回、夜ドラの新しい試みとしてダンス動画を入れていますね。

櫻井  厳しい状況、シビアな話になることが予想されていたので、社会派の問題提起のドラマではなく、楽しんでカタルシスをもって見ていただきたいという演出の思いもあり、ウルフルズの『バカサバイバー』という曲に合わせてダンス動画をつくりました。今、いろんなダンスバージョンがアップされていますが、一緒にダンスをするドライバーさんたちも、どこかの運送会社で見たことあるようなリアルな制服を着ていますので、楽しんでいただけたらと思います。サバイバー=生き残りという歌のタイトルもドラマぴったりで、好評をいただいています。

――  先の見えない時代、ドラマを作るお仕事も大変なのでは?櫻井さんのストレス解消法やサバイブする方法はありますか?

櫻井  そうですね、僕は鈍感な方なんでしょうが、飲みに行ったりカラオケで歌ったりするよりも、ストレスを感じたら、一人にさせてほしいっていう感じです(笑)。生き残り法?ドラマのようにはいかないかもしれないけど、シンプルに「正直に生きる」ことじゃないでしょうか。実際、正直に生きられているかどうかわからないけど、僕はそうありたいと思っています。

■櫻井壮一(さくらい・そういち)プロフィール
1997年、NHK入局。初任地は大分。主な制作作品に、ドラマ10「愛おしくて」、「お母さん、娘をやめていいですか?」、三重発地域ドラマ「ラジカセ」、大河ドラマ「西郷どん」、連続テレビ小説「おちょやん」、よるドラ「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」など。

■NHK夜ドラ「あなたのブツが、ここに」
【放送予定】
2022年8月22日 放送開始
総合 毎週月~木 午後10時45分(各話15分) 全6週
【脚本】
櫻井剛
【音楽】
森優太
【出演】
仁村紗和 佐野晶哉 毎田暖乃 岡部たかし 津田健次郎 ゆうちゃみ キムラ緑子 ほか
【制作統括】
櫻井壮一 村山峻平
【プロデューサー】
橋爪國臣
【演出】
盆子原誠 梛川善郎 佐原裕貴

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