長距離輸送における貨物の特徴
人が乗用車で家族旅行に出かける場合、往路も復路も同じ人数が乗車して家に戻ってくるので、往復の乗車人員や乗車率は変わらない。一方で物は、農場や工場で生産された生鮮食品やビールが購入者により消費されてしまうように、同じ商品や貨物が出発地に戻ることはまれである。
貨物船による国際輸送では、日本から海外にセメントを輸出し、海外から石炭を輸入したりする。コンテナ輸送でも、海外に電器製品を輸出し、食料品を輸入したりする。このように輸送する商品や製品は異なっても、往復で輸送貨物があれば採算上も望ましい。
国内の長距離輸送でも同様であり、片荷(往路ないし復路だけの貨物輸送)になることは仕方ない面がある。我が国における長距離の貨物運送会社の多くが地方発祥である。この背景には、貨物の偏在がある。高度経済成長期において、地方の運送会社は地方発大都市向けの往路の貨物を地縁により集めることができ、復路の大都市発地方行の貨物は格段に量が多かったために容易に集めることができた。このため、往復で貨物を獲得できた地方の会社が大きく発展したという説である。
積載効率(=積載率×実車率)の考え方
国土交通省では、積載効率を、「(輸送トンキロ)÷(能力トンキロ)×100」としてパーセントで表示している。また、国土交通省では、積載効率を、「(積載率)×(実車率)」とも示している。
前回(第32回)示したように、総走行距離に対する積載時の走行距離を「走行距離比」とすれば、積載効率は「積載率」と「走行距離比」の積となり、上記の2つの式は変形により同じになる。さらに「走行距離比」を用いれば、輸送途中で積みおろしがある場合でも、「全走行区間の積載効率」を求めることができる。
積載率が異なる複数の区間での積載効率
長距離貨物輸送において片荷を避けて積載効率を上げるためには、往路の貨物と復路の貨物が異なることを前提に、往復で貨物を確保することが重要である。
このためにも、往復での積載効率の適切な算出方法が必要になってくる。
補論では、長距離輸送の往復での積載効率について、いくつかの事例で考えてみることにする。
積載効率の計算式
国土交通省が提示している積載効率は、「積載率と実車率(トラックの総走行距離のうち、貨物積載時の走行距離の比率)の積」である。ここで積載率とは「積載可能量に対する積載量の比率」のことである。実際の輸送では、トラックの運行途中で積みおろしをすることもあり、そのたびに積載率も変わる。
前回(第32回)の補論で述べたとおり、途中で積みおろしがある場合の積載効率を算出するためには、「実車率」の代わりに「走行距離比」を用いると便利である。「走行距離比」とは、「総走行距離に対する、ある積載率で走行している区間の走行距離の比率」のことである。これにより、積みおろし地点で区切った走行区間ごとの積載効率は、「各区間の積載率と各区間の走行距離比の積」として計算することができる。いま、全走行区間を積みおろし地点で区切ったときに、n 個の走行区間に分かれるとする。このとき、各区間の積載効率を計算して合算することで、「全走行区間での積載効率」を求めることができる。(式1参照)。
たとえば、往路と復路で積載率が変わる場合については、式1において n=2 とし、区間1を往路、区間2を復路とみなせば、往復での積載効率を求めることができる。
なお、ここで設定している積載率や走行距離の数値は、実態にそぐわない可能性があるが、計算の過程がわかりやすいように定めたということでご容赦願いたい。
往復で運行する場合の積載効率(図1参照)
長距離を往復で運行する場合の積載効率は、往路と復路の積載効率を足し合わせて求めればよい。同一経路を往復で運行する場合には、往路と復路の総走行距離に対する比率(走行距離比)はそれぞれ0.50となるので、往路と復路の積載率がわかれば、往復での積載効率を算出できる。
図1の(1)は、往復100kmにおいて、往路(50km)の積載率100%、復路(50km)の積載率100%の場合であり、積載効率は1.00になる。これは理想的な状態ではあるが、現実にはなかなか起こりにくい。
図1の(2)は、往復100kmにおいて、往路(50km)の積載率100%、復路(50km)の積載率0%の場合であり、積載効率は0.50になる。たとえば、工場への原材料の納品や建設現場からの廃棄物輸送などで、往路と復路の積載率が100%と0%の組合せになる。
復路の途中で貨物を積む場合の積載効率(図2参照)
図2は、同一経路を往復する輸送のうち、復路の途中で貨物を積込む場合である。
たとえば、往復100kmにおいて、往路(区間1:50km)では積載率100%、復路の半分の距離(区間2:25km)では積載率0%、復路の残り半分の距離(区間3:25km)では積載率100%とする。
区間1は積載効率0.50(積載率100%、走行距離比0.50)、区間2は積載効率0.00(積載率0%、走行距離比0.25)、区間3は積載効率0.25(積載率100%、走行距離比0.25)となる。この結果、全走行区間(区間1~区間3)の積載効率は、0.75(=0.50+0.00+0.25)となる。
ラウンド輸送の場合の積載効率(図3参照)
図3は、ラウンド輸送の場合である。輸送途中での貨物の積みおろし箇所が2か所となれば、1回の運行が3つの区間で構成されることになる。
たとえば、総走行距離100kmで、区間1(40km)の積載率100%、区間2(20km)の積載率0%、区間3(40km)の積載率75%とする。
区間1は積載効率0.40(積載率100%、走行距離比0.40)、区間2は積載効率0.00(積載率0%、走行距離比0.20)、区間3は積載効率0.30(積載率75%、走行距離比0.40)となる。この結果、全走行区間(区間1~区間3)の積載効率は、0.70(=0.40+0.00+0.30)となる。
参考資料
1) 国土交通省 自動車輸送統計調査
https://www.mlit.go.jp/k-toukei/jidousya_yougo.html
2) 「物流効率化法」理解促進ポータルサイト 積載効率、荷待ち時間、荷役等時間について
https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/faq/#sekisai_koritsu
連載 物流の読解術 第32回:トラック運送の生産性向上と積載効率 -積載効率を考える(2)-





