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多面的施策で課題克服
『ワンアサヒ』で全体最適

2022年11月02日/物流最前線

20221101 asahilogi01 icatch - 物流最前線インタビュー/アサヒグループの物流改革

新型コロナウイルスの感染拡大により飲食店でのアルコール提供が禁止された2020年、物量が大幅に落ち込んだアサヒロジはあわや大赤字という窮地を物流体制の大変革によって乗り切った。さまざまな工夫を積み重ねて難局を乗り越える力は、同社の強みの一つだ。同社は次なる課題「物流の2024年問題」に対しても、倉庫の自動化や中継拠点の整備、さらにはグループ横断の物流改革で挑もうとしている。「工夫を積み重ねて新たなスキームを構築し、持続可能なものにしていくことが、これからの物流子会社のミッションだ」と語る児玉 徹夫社長に、改革に向けた同社の取り組みを伺った。
取材:9月27日 於:アサヒロジ本社

<アサヒロジ本社>
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<児玉 徹夫社長>
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コロナ禍でビールの物量が10%に

――  児玉さんの社長就任は2021年3月ということで、まさにコロナ禍真っただ中でのバトンタッチでした。当時はどのような状況でしたか。

児玉  これは私が社長に就任する以前の話ですが、コロナ禍に入った当初の2020年にはアサヒグループでは特にアサヒビールが大打撃を受けました。ビール事業者の中でも特に業務用に強みを持つ会社ですので、アルコールの提供禁止令で飲食店向けの樽や瓶の生ビールの出荷が止まり、一時は前年の10%まで物量が落ち込みました。インフラや人材が遊休化し、このままでは大赤字になるといったことで、その当時の柴田社長を中心に「なんとかしなければいけない」ということで、物量減に対応できるように車両台数や作業人員を抑制する大きな変革を行いました。これにより、コストコントロール力やマネジメント力が向上し、2020年度は何とか赤字を回避することができました。

――  抑制というのは具体的に何をされたのでしょうか。

児玉  例えば繁忙期に依頼していたスポット車両を、できるだけ自社の車両で賄うような運用にしたり、作業面では残業時間の削減や請負業務の人員適正化など、物流量にマッチした体制の変革を行いました。

また、これは私が事業会社に在籍していた時に実現した取り組みですが、グループの事業会社で「前々日受注」を開始しました。アサヒ飲料では2019年の4月、アサヒビールでは2020年10月から導入しています。従来、飲料業界やビール業界では前日に注文を受けて翌日に配送するスキームが一般的だったのですが、出荷作業や配送を深夜に行う必要があったり、当日にならないと配送計画を立てられないといった大きな課題がありました。そこで、物流危機を迎えてもお得意先へ安定した供給を行えるよう、前々日に注文を受けて翌々日に配送するという仕組みを卸企業さんの協力の元、導入できたことで、人員配置の計画や車両の運用が物量に対して合わせやすくなり、計画の精度が大きく向上しました。

コロナ禍による赤字をなんとか回避するために取り組んだ各事業所のマネジメント体制の強化と、前々日受注の効果による追い風を得たことで、事前に車両や人員を計画的に配置する運用に変えることができた効果が出たのだと思っています。

――  コロナ禍での従業員の感染状況と対策は。

児玉  感染防止を徹底していましたので、2021年の初期ぐらいまで感染者もクラスターもほぼ発生していなかったのですが、オミクロン株が流行し始めた頃からはさすがに感染者が増えましたので、その際には可能な限り在宅勤務などで職務に対応してもらいました。中でも、配車部門ではオーダーが電話やFAXで来ることもあって、なかなか在宅での業務が難しかったのですが、今回ばかりは背に腹は代えられないということで、顧客にも相談してオーダーをオンラインでお願いするなど、脱電話、脱FAXを進め、在宅での業務を可能にしました。

<アサヒビール名古屋工場内 自動倉庫>
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――  物流現場の自動化や省人化等について、取り組みの状況はいかがでしょう。

児玉  アサヒグループでは、特にアサヒビール社で過去から積極的に機械化に取り組んでおり、工場に併設した倉庫に自動化設備が多く設置されています。近年では名古屋工場ですね。同工場では2021年に清涼飲料の生産ラインを導入し、従来は関東の工場から輸送していた中部エリア向け製品の現地生産を開始したことで、運転手が不足する長距離トラック輸送を削減しています。

また、飲料の生産開始に合わせて、工場の敷地内に2万パレットを収容できる大型の自動倉庫を建設しました。自動倉庫は工場の各倉庫とコンベアで連結されており、製造した製品やピッキングした製品が自動で格納される仕組みになっています。荷役の面でも、20枚のパレットを大型車両へ一括で積み込めるトラックローダーと呼ばれる機器を導入しています。自動倉庫とトラックローダーを採用しているのは、吹田工場と茨城工場に次いで、名古屋工場が3拠点目です。

――  かなり大掛かりな設備投資ですね。

児玉  そうですね、特にビールは得意先からの注文が大型トラック1車単位という取引契約になっているので、だからこそ実現できる取り組みですね。これが飲料水ならトラックが大型車もあれば中型車もあるといった状況で非効率になりますので、飲料水の出荷も大型車の配送のみ名古屋工場に取り込む運用にしています。

――  そのほかでは、どのような自動化の取り組みを行っているのですか。

児玉  一つはレイヤーピッカーという自動荷役設備で、パレットに段積みされた商品を層単位でピッキングする装置を各工場に導入しています。

あと、これは吹田工場でのみ導入している設備ですが、オートケースピッカーですね。届け先ごとに行う製品仕分けを自動化する設備で、本来フォークリフトや人の手で行っていた仕分け作業を自動化したことで、フォークリフトによる製品のピッキング業務の作業時間を半減することができました。

――  工場併設の倉庫ならではの設備といった感じですね。

児玉  そうですね、これらの設備は工場構内での作業を極力短縮するためのもので、長期間使用することを前提とするグループの物流会社だから可能な設備投資だと思っています。

<アサヒロジ 西日本支社 広島支店>
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――  物流拠点の整備について、直近での取り組みは。

児玉  やはり2024年問題になると長距離で運べなくなります。今までは工場から200kmくらいを配送していたところが運べなくなるので、中継物流拠点の設置を急いでいます。昨年から今年にかけて鹿児島、広島、岡山に中継物流拠点を設置しました。

去年の11月に開設したのが鹿児島です。鹿児島エリアは福岡の工場からも距離が遠く、そこに中継拠点が設置できたことで大きな効果が出ています。

今年の1月に開設した広島の配送センターでは、博多工場からの製品移動を九州からの鉄道コンテナ輸送で実施しています。これは、日本通運さんやJR貨物さんと連携した鉄道コンテナ輸送の回送便を活用した取り組みです。鉄道コンテナ輸送では九州方面への下り便は満杯なことが多いのですが、広島への上り便は大半が空コンテナなんですよ。福岡ターミナルから広島ターミナルに回送する便を活用して製品を輸送することで、潜在輸送力を活用するとともに、鉄道コンテナ輸送によるCO2削減も実現しています。

今年の10月に開設した岡山配送センターは、元々あったアサヒ飲料の物流をしている日本通運さんの倉庫にアサヒビールの拠点を併設して、ビールと飲料の共同配送ができるような形に設計しました。

――  拠点整備の計画については、今後も中継拠点の整備が中心になるのでしょうか。

児玉  そうですね。現在は北東北や長野辺りを候補に拠点設置の検討を進めているところです。

次>目指すのは「運行効率」の最大化

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