参画企業30社超、今後は受入体制拡充へ
―― テクラムではこれらの問題をどうやって解決するのでしょうか。
網 まず、荷主がどのような自動化機器を選んで良いのか分からないという問題についてですが、テクラムでは当社が全体をまとめる事務局の役割を担っており、そこで荷主企業との窓口になって物流課題の抽出を支援しています。荷主企業も課題の設定や問題認識の状況がさまざまだと感じています。事業がどんな状況にあって、それを支える物流がどのような姿であるべきか、現状のパフォーマンスやオペレーションなどを適切に設定して課題を明確に定義している企業もいれば、物流の部分のみに焦点が当たっていて「人手の作業を機械化したい」といった具合で、手段を置き換えることだけに視点が集まっている企業もいます。ただ、やはり適切な課題の設定というものが無いと本質的な問題解決にはつながりませんので、そこを荷主企業と一緒に取り組むことで、自社の物流課題を解決するために適した自動化の手法を選ぶ手助けをできればと考えています。
―― テクノロジー企業が荷主企業と接点を獲得するうえで抱えている問題に対しては。
網 テクラムでは自動化ソリューションを開発する上での前提として、まず解決すべき荷主の課題があります。テクノロジー企業はテクラムに参画することで、荷主企業との直接の接点を得ることができるのです。また、PoCに関しても「PoC Hub」という効果検証の場を提供することで解決できます。PoCによってソリューションを実用レベルまで磨き上げることで、荷主企業が安心してソリューションを導入できるようにもなります。
―― テクノロジー企業にとってテクラムへの参画で得られるメリットは大きいですね。
網 ありがとうございます。テクラムでは4月からパートナーとなるテクノロジー企業を募集しているのですが、反響が非常に大きく、9月末の段階で26社が参画しています。募集は継続しており、現時点では内定分も含めると30社を超える数になっています。
―― パートナー企業の構成は。
網 すでに参画済みの企業では、ロボットメーカー、ソフトウエア、人材派遣、通信関連、ファイナンスといった分野まで多様な業種が集まっています。参画が内定している企業はロボットメーカーが中心ですね。
―― 荷主企業側の取組み状況は。
網 9月の時点で三越伊勢丹グループの物流事業を手がける三越伊勢丹ビジネス・サポートさんとの取組みを発表していますが、現時点ではこのほか2社と話が進んでいます。
―― パートナー企業の受け入れに上限は設けないのですか。
網 テクラムの取り組みはまだセットアップ段階のため、どうしても受け入れられる数に限りがあります。ですので、あまりにも参画を希望する企業が多い場合は一旦予約のような状態で待ってもらい、体制が整い次第、本格的に参画して頂くことになるかも知れません。
―― 今後の受け入れ拡大に向けた体制の整備は。
網 施設面では効果検証拠点である「PoC Hub」を拡張します。2022年の1月頃には隣接する倉庫区画を利用して、広さを現在の約2倍となる5300m2程度に拡張する予定です。それ以降は「Landport習志野」以外の物流施設でも「PoC Hub」の設置を視野に入れています。習志野ではECチャネル向けの自動化ソリューションを中心に開発していく予定ですが、今後展開していく施設では流通業向けなどEC以外の他ジャンルに求められる自動化ソリューションの開発にチャレンジできればと考えています。
―― 人員の拡充も必要になってきますね。
網 そうですね。これまでも、物流の専門的な知見のある人員を増やしてきましたが、更に人員を増やしていく必要があります。当社の一員としてテクラムに取り組みたいという方は、是非ご連絡頂ければと思います。ただ、これから陣容を拡充するうえでは外部から人を雇い入れるだけではなく、物流事業部内で新規物件の開発にあたっているチームや、施設の運用を担っているチームなど、荷主やテナント企業と接点を持つメンバーとも連携しながら体制を強化していければと考えています。
開かれた枠組みで企業の参画促す
―― テクラムはなぜオープンコンソーシアムにしたのですか。
網 そもそも、自動化が進まないと物流自体が人手不足によって停滞してしまうというリスクがあります。物流に対する荷主企業や消費者からの需要自体は今後も伸びていくとしても、物流を請け負う人が足りなくなれば結果として当社が物流施設を提供する顧客の分母が縮小し、物流不動産市場の成長も留まってしまう。自社だけではなく、もっと広い目でこの問題に取り組み、多くの荷主企業や物流会社が自動化によって省人化を実現し、結果として市場の需要にしっかりと応じていけるような物流の環境を作っていくってことが、広くは当社の市場を生んでいくということにもなります。それに、テクラムのパートナー企業にとっても当社や各社の事業の枠に縛られるより、「一緒にその市場を作りに行きましょう」というオープンな設定の方が気軽に参加してもらえると思いますので。
―― 自社の利益に還元される仕組みが必要だと思いますが。
網 ある程度分かりやすい利益効果としては、テクラムでいろいろな荷主企業の問題解決に取り組むことによって、荷主企業が必要としている物流倉庫像や、自動化に適した倉庫というものがどういった仕様や立地なのかといったことを、当社として適切に把握できるようになります。例えば、立地やスペックを理由に賃料設定を下げなければならないといったリスクを減らすことができますし、逆に自動化に適した倉庫の仕様で、かつテクラムで開発した自動化ソリューションを組み込んだ倉庫となれば、高付加価値化によって賃料設定を上げることも可能です。
―― カテゴリーマルチの深化につながると。
網 そうですね。しばらくは投資が先行する形になりますが、テクラム単独での収益化を目指すのではなく研究開発的な側面も含めて取り組みを進めることで、カテゴリーマルチの深化などの物流事業の発展に活かしていければと考えています。
―― パートナー企業との資本提携は考えていますか。
網 現時点でテクラムを通して資本提携を実施した事例はないです。ですが、いろいろな取り組みをしていく中で当社としてもCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)などは広くやっているので、手段として資本提携が適切でより効果を生み出せそうだということであれば十分にあり得ると思います。