キリングループの物流を支えるキリングループロジスティクス。昨年5月に就任した同社の安藤 弘之社長は、社長業の傍ら週末には少年野球の監督もこなす「二刀流」だ。「野球も仕事も勝利至上主義だけでは駄目。ワクワクすること、楽しむことが大事」と語る安藤社長。2023年は『2024年問題』への最終準備の年と位置付け、現場と一丸になって対策に取り組む。就任1年目の振り返りや、今後の取り組みなどについて広く話を伺った。
取材:3月23日 於:キリングループ本社
物流の役割の大きさを実感した一年
―― KGLの社長就任から間もなく1年が経過しますね。
安藤 そうですね、昨年の5月に着任しましたので、間もなく1年ということになります。就任は3月30日付ですが、当時はまだ上海におりロックダウンの真っ最中で身動きが取れず、やっと飛行機に乗れたのが4月26日でした。それから自宅隔離を経て実際に着任したのが5月6日ですね。ですから、22年度は新入社員への挨拶も上海からオンラインで行いましたし、色々な会議や研修なども全てオンラインでしたね。今年の入社式では新入社員に直接会って挨拶できるので、とても楽しみにしています。
―― KGLの以前に在籍していた麒麟(中国)投資会社とは、どのような会社なのですか。
安藤 キリングループで中国におけるアルコール系の販売を統括する会社です。ビールやウイスキー、RTDなど、日本で販売している商品のうちアイテムを絞り込んで、主に一番搾りを中心に香港・台湾・マカオを除いた中国本土への販売を全て取り仕切っています。あと、私は投資先である中国浙江省のビール会社の副総経理も兼任していたので、そちらの経営のサポートもしていました。
―― 中国にはいつ頃からいらっしゃったのですか。
安藤 2017年の2月からですので、2020年からはコロナ禍を中国で迎えたことになります。新型コロナウイルスのパンデミックが始まった当時は、ロックダウンで現場に従業員が出られないような時期もありましたが、オンラインを活用したり、中国は広いので省単位で制限が異なりますので、制限が緩和されている場所には極力出向いたり、何とか事業を継続していました。
―― KGLにとって2022年はどのような年でしたか。
安藤 私がKGLの社長に着任した5月以降、街中にはだいぶ人が増えてきましたが、日本では依然として飲食を中心にルールが厳しい状況が続いていました。コロナ以外でも、昨年は豪雨や豪雪、地震もありましたが、なんとか社内やグループ会社、協力会社さんと協力し、みんなが1つになって商品を運びきることができました。物流の役割の大きさを改めて実感した1年間でしたね。
―― 毎年のように大規模な災害が発生していますが、御社では自然災害等の危機管理にどのような対策をとっているのですか。
安藤 BCPも含めて事前の準備や対策を採っていますが、自然災害は都度内容が異なります。準備したからよしではなく、現場や状況に応じた対応力を全国の現場で働くそれぞれの従業員が身に付けておけるよう、研修などを通して現場の対応力を高めています。
それに、協力会社の皆さんの力も不可欠ですので、日頃の関係づくりにも気を配っています。そうでないと、非常時の助け合いは絶対に生まれませんからね。2024年問題にも言えることだと思いますが、ピンポイントで効果のある施策などありません。協力会社の皆さんとのコミュニケーションを欠かさず、考え方のベクトル合わせるというか、当社としての方針をパートナー会などを通じて協力会社の皆さんに丁寧に説明し、理解を得ることが、不測の事態における助け合いにつながると思っています。
―― 現場レベルや日々の積み重ねが大事ということですね。
安藤 なかなかゴールがないというか、安全や品質の改善はやり続けるのが当たり前といった部分がありますが、その中でいかに中身をレベルアップしていくかが重要だと思っています。そのあたりは、人事・総務が毎年のように研修の内容を工夫してくれています。当社はグループも入れると2000人弱の従業員がいますので、リーダーが研修で得た内容を各々の現場で広めることに加えて、近年ではオンラインを使ってより多くの従業員が研修に参加できるような体制を採っています。
<コロナ禍を機にフリーアドレスを取り入れた本社オフィスの執務スペース>
―― オンラインの活用はコロナ禍以降、積極的に推進していますね。
安藤 そうですね、コロナ禍以前は対面で行っていた従業員同士の各種交流会や、年に1度開催している「キリングループロジスティクス大賞」の発表会などを、コロナ禍以降はオンラインで実施しています。KGLは全国に拠点が50か所程あり、なかなか一堂に会する機会が作れません。直接会うことも大事だと思いますが、オンラインによってより多くの従業員が参加できるというメリットはコロナ禍の中で発見した点ですね。
―― オンラインは今後も活用していくのですか。
安藤 オンラインだけではなく、リアルとの融合というのが必要だと思います。仕事の働き方も、在宅ワークをうまく活用してもらって、ワークライフバランスをしっかりと確保できるような働き方を目指しています。
―― こちらの本社オフィスもコロナ禍以前とはだいぶ様変わりしましたね。
安藤 そうですね、現在ではリモート勤務と出社の併用を前提としたオフィスにリニューアルしています。出社率3割を想定した造りになっていて、全従業員が個人のデスクを持たないフリーアドレスで業務に就いています。
―― 社長室も設けていないのですか。
安藤 そうなんです、私も皆の中で一緒になって仕事をしています。出社すると、各々が好きな場所で働いている状態ですね。
―― それだけ出社率が低いと、まだ直接顔を合わせた事がない従業員の方もいるのでは。
安藤 フリーアドレスでいつも周りにいるメンバーが変わりますので、多くの従業員と交流できるのですが、逆にいつも違う人と、しかもずっとマスクを着用した状態で接しているので、顔と名前が一致しないことがあります(笑)。それに、私は社長就任からずっと地方の拠点を出張で巡っており、本社にいる時間もあまり多くはないのでなおさらですね。
―― 自ら現場へ出向いて交流を図っているのですね。
安藤 私自身、物流に携わるのは当社が初めてですし、できるだけ拠点も含めた現場へ行くようにしています。中国にいた頃もそうですし、それ以前のキリンビールでの営業時代から、やはり現場が一番大事だと思っています。経営者が現場に行き過ぎるのはどうかという声もありますが、現場の事実を知り過ぎて悪いということは一つもないですよ。
―― 現場回りで大切にしていることは。
安藤 経営で迷った時に現場へ行くことで、色々なヒントが見つかることがあります。あとは従業員の生の声を聞くことですね。現場の声をできるだけ真摯に受け止めるように心がけています。社長として経営を判断する際に、できるだけ多くの意見を聞いたほうが間違いが起こらないと思いますし、自分の目で確かめて判断することも必要ですから。
―― 全国の拠点を視察すると移動が大変なのでは。
安藤 中国に比べると日本は最高に現場回りが楽ですよ(笑)。飛行機なら1時間と少しで全国どこでも行けますから。そういった意味では、中国にいたことで逆に日本の便利さや動きやすさを実感していますね。
―― 年間にどの程度現場へ行っているのですか。
安藤 中国にいた頃も、KGLでも、年のほぼ半分は現場に行っています。私の意見としては、100日以上現場を回らないと現場のことを分かったとは言えないなと思っています。そのくらいの頻度で現場は日々変わっていますから。今年も新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いていれば、各拠点に行って現場のみんなと話す時間を増やしていきたいと考えています。
本社に近い拠点は結構話す機会もあるので、遠方の拠点から順に巡っていきたいですね。1年間でちょうど全国を一巡したのですが、前回は挨拶程度でしたので、今度はもう少しゆっくりと私や会社の考えを伝えたり、逆に現場で起こっている事実や悩み、改善のリクエストなどを聞いて、それらを反映することでワクワクする働きやすい職場作りを実現していきたいです。
それと、出張の際は自社の拠点だけでなく、協力会社の皆さんにもお会いしています。厳しい意見も頂きますが、協力会社の皆さんとのコミュニケーションや情報交換はとても有意義ですね。当社は約1000の協力会社の皆さんに支えて頂いておりますので、これからも協力会社皆さんとのコミュニケーションを大切にしていきたいと考えています。