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物流最前線/トランコム・事業を磨き鍛えるチャンス到来

2024年04月12日/物流最前線

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名古屋発祥の物流大手トランコムとそのグループは「はこぶ」仕組みの創造で先駆的な企業だ。3PL、求貨求車、共同配送、静脈物流などさまざまな事業を行っている。神野裕弘社長は2023年6月に社長に就任し、約9か月が経過した。2024年問題に直面している今、「物流に詳しい荷主のトップやサプライチェーンのトップと話すことはとても有意義ですね。一方で2024年問題は物流事業者だけで解決していくことは難しいと考えています」と懸念する。物流事業者からの率直な物流課題、そして2024年問題に対する取り組み等を伺った。                              取材日:3月14日 於:トランコム東京オフィス

<東京オフィスの外観>
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<東京オフィスの執務室>
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東京駅間近に新オフィス開設
営業活動、採用活動でプラス

――  コロナ禍も一段落しましたね。

神野  確かにコロナ禍は落ち着いてきましたが、各社ともに多くの罹患者がでて、社内でもやはり大変な時期は続きました。ドライバー含め、全従業員が物流を止めないという使命のもと、感染対策をしながら頑張ってくれました。物流が社会インフラを支える重要な役割であることを再認識しました。

――  昨年の6月に社長に就任され、2024年1月には東京オフィスを移転するなど活発な動きです。

神野  以前の東京オフィスは品川駅から10分ほど歩いた場所で、広さは200坪程度ありました。今のオフィスは100坪程度ですが、東京駅から数分の距離と立地的には良い場所です。東京駅近くに拠点を移したのは、日本の真ん中で事業を拡大させていこう、成長させていこうと考えたからです。

――  企業の成長を目指してと言うわけですね。

神野  以前の場所も悪くはなかったのですが、やはり日本の中心は東京なので、東京駅に拠点があった方が営業活動、IR活動、そして採用面でも有利ではないかと考えました。本社オフィスも名古屋の中心エリアである新栄町駅に直結したビルに構えていますし、求貨求車サービスを行う情報センターは、全国どこの拠点も駅近くのオフィスです。実際、採用面でも効果を上げていて、リクルートで訪れる学生の数もすごく伸びたとのことです。

――  社員の評判はどうですか。

神野  東京駅に移転したことで、東京に出張する幹部社員も立ち寄りやすくなったと言っています。常駐者は約30名程度、執務スペースの多くをフリースペースにしています。ミーティングルーム(会議室)を多数揃えています。多くの来客に対応できるようにと会議室にかなりスペースをとったので、社内外でコミュニケーションをとる場として、大いに活用を期待しています。

――  今年の採用面ではいかがでしたか。

神野  高卒を含め、新規学卒者を56名採用しました。人数は昨年並みでしたが、採用困難な中、善戦したと思っています。大卒採用者は5月末まで現場研修の後、本配属。高卒採用者は、既に各地に配属されています。2024年4月という物流業界にとって歴史に残る年に入社した方々には、新しい視点で業界を変革してくれることを期待しています。

<神野社長>
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2024年問題を物流事業者だけで
解決することは難しい

――  現在2024年問題は、物流業界並びにすべての産業に影響するものとして広く警鐘が鳴らされていますが、御社はどのように現状を見られていますか。

神野  テレビや新聞等で2024年問題がよく報道されていますが、まだ2024年問題が物流事業者だけの問題だと認識されているように思います。一部の大手の企業は既に様々な対応策を打ち出されていますが、この1年の中でいずれ運んでもらえなくなる危機に直面し、徐々に荷主も実効策を取るようになるのではないでしょうか。

――  一部の大手企業では専門の人材を物流担当者に据え、さまざまな改革を果たしていることは報道されますが、それ以外はやはりまだまだ旧態依然としたままなのでしょうか。

神野  そうだと思います。物流コストが主題になることがまだ多いと感じています。物流担当者やサプライチェーン担当者と、ああしませんか、こうしませんか、こんなのどうですかと協議を重ね物流の改善提案をしていく。それを実行して結果が出れば、その利益を荷主と分け合い、従業員やパートナーにも還元する、このサイクルを回すことが重要です。今回の2024年問題の解決に向けた取組でも荷主と物流事業者が協力してWinWinの関係にならない限り解決には至らないものと考えています。

――  2024年問題の多くは荷主側に問われる部分がありますが、荷主側がそれに応えてくるようになると、逆に物流事業者側も一段とレベルアップが求められます。

神野  そうですね。オペレーションのサービスレベルを含めて他社よりもどれだけ良いサービスを提供できるか、荷主側にどれだけ喜んでもらえるか、それを保ち続ける会社にならないと淘汰されると思います。今がまさにその分水嶺だと思っています。

――  物流事業者は規制緩和で一気に増え、公式には物流事業者の数は6万数千社と言われています。中には休眠・廃業企業も含まれています。

神野  当社の求貨求車サービスでは1万3000社と取引しています。多くの物流事業者との関係構築に力を注いできました。

<アジャスターの勤務の様子>
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多重構造も荷待ち時間も
課題は多いが最初の一歩

――  2024年問題で課題の一つになっているのが、物流業界での多重構造の問題です。御社の特徴の一つに求貨求車サービスの展開がありますが、マッチング等での対応ではいかがでしょうか。

神野  今の日本の物流業界では、車両を集めきれずに幾重にも下請けを重ねることでその業務を全うしようとすることから多重構造になっているのではないでしょうか。見方として、当社の求貨求車サービスがその多重構造の弊害という一面もあるのかもしれません。
しかし、当社のサービスは、主に中長距離を対象にしており、例えば、九州や四国から関東に貨物を運んだが、関東エリアに営業拠点がなく、顧客開拓が出来ていない運送事業者も少なくありません。そのため、約700人のアジャスター(マッチングオペレーター)が代わりとなって営業をかけ、情報を集めているわけです。

どうしても繫閑があるので、貨物の提供をお約束しても、条件の合う貨物情報を見つけられず運賃だけお支払いする場合もあります。逆に、貨物の量が多くどうしてもトラックが足りない場合はA社だけでなく、他の運送事業者にもお願いすることで多重構造になることもあるでしょう。このように不定期の貨物においては、この求貨求車サービスが運送事業者を支え、国内の輸配送の効率化に繋がっているのです。

――  ただでさえ、積載率の悪さが問題になっているときです。

神野  現在の日本では、行きと帰りの積載率の平均積載率は40%ですからね。60%は空気を運んでいます。今後どう規制されるかわかりませんが、何とか帰りの貨物を提供できる仕組みをつくっていきたいですね。これはもう当社が長年大切にしているポリシーです。

――  今、長距離輸送で運んできた生鮮食品や農産物の輸配送も問題になっていますね。

神野  生産拠点が地方にある農産物や生鮮食品などはその多くが巨大な消費地である都会に運ばれてきます。しかし、その物流事業者の多くに帰り荷を営業できる力はありません。往復分の運賃を払えば、空で帰ってきてもいいのですが、それは無理ですからね。その意味では、この求貨求車サービスは積載率の向上にも繋がり、地方の運送事業者のためにもなっています。

――  求貨求車サービスを始められたのはいつからですか。

神野  求貨求車サービスは1980年頃に始め、同じ時期に共同配送も始めました。当時は求貨求車サービスが一般的ではなく、営業担当が得た情報を個人のノートにメモし、条件が合うものをマッチングさせていました。個々が獲得した情報を閲覧できるシステムを導入し、今のようなエリア別のチーム制で情報共有しながら行うスタイルに変えたのは2002年です。名古屋で始めたこの求貨求車サービスを関東や関西、九州まで、全国50拠点ほどある情報センターで均質なサービスが提供できる仕組みをつくりました。システムの中には、莫大な量の 情報が蓄積されています。

――  先ほど求貨求車サービスのデータは相当な量になり、ビッグデータと表現されていましたね。

神野  まさにビッグデータと言っても過言ではないですし、重要な財産です。私も入社当時はサービスエリアに停まっているトラックのナンバープレートと都道府県と社名を控えて、翌日その事業者に電話して「昨日、何時ごろ〇〇SAにいましたね」と「帰り荷は何を積んでいましたか」と尋ね、もし積んでいないようでしたら、「帰り荷は任せてください」とよく電話したものです。コツコツ積み上げてきたものが実り、今や年間150万件ほどの成約実績となりました。先人たちの着眼点に感心します。

――  2024年問題では、荷待ち・荷役時間2時間までというのも打ち出されています。

神野  バース予約システムを入れて倉庫での荷待ち時間を縮小しようという試みにより、業界全体では、大体の積込時間が予測できるようになったので、以前に比べると良くなりました。当社も、荷待ち時間縮小に向け取り組んでおりますが、まだご迷惑をおかけしております。しかし、倉庫に入って出ていくまでを2時間未満にしようということだけでは、本質的な解決には至りません。その日の運行行程を効率的にすることが大切であり、荷主と協力して解決に取り組んでいきます。

――  4月1日から、物流現場では様々な課題があぶりだされてきますね。

神野  国土交通省・経済産業省とも連携しながら、先んじて一つ一つの課題解決に取り組み、その結果として多くの物流事業者と共により良い物流環境をつくっていきます。

――  欧米では輸送を考慮した商品づくりをしていますが、日本では製造と販売中心で輸送のことはほとんど考えられていないという声もありますが。

神野  そうですね。「作って売る」という概念から「作って運んで売る」という概念に改善しないと難しいですね。今後私たち物流事業者はより高度なことが求められるようになり、高度な物流サービスを提供できる会社こそが生き残れるのではないかと。

<C-AREA東海>
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<C-AREA厚木>
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<C-AREA一宮>
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<DX化を進める アームロボットとAGV>
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<DX化を進める 自動倉庫>
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C-AREA構想はほぼ完成
会社を鍛える絶好の時期

――  さて、昨年10月に「物流情報」「物流」「情報」の三つ軸で進めていくとお話されていました。

神野  これは現在当社グループがやっている情報(求貨求車サービス)と物流(3PL)をそれぞれ強くする。そしてそれぞれの事業とDXを組み合わせトランコムならではの物流サービスを展開していこうという方針です。加えて、先ほど話したビッグデータを使ったパートナー向けの新たなサービスを展開する予定です。

――  具体的には。

神野  もう少し詳しく説明すると、当社がやっている事業、3PL、求貨求車、共同配送、静脈物流等の事業をもっと磨き上げ、さらにはそれらの結集を図る事で、新たなサービスを生み出そうというものです。そこに当然DXも絡んできます。パートナー企業、顧客との関係では、まず自分たちが強くないと信頼されるサービス提供ができませんからね。

――  C-AREAの展開は。

神野  C-AREAとは、消費地に近い場所で当社サービスを結集させたプラットフォームを提供する複合機能拠点のことで、2021年7月に開設した埼玉県蓮田の拠点では、日用品業界のプラットフォームを構築しました。そこから、日用品、食品、自動車部品のプラットフォームを2023年7月に神奈川県厚木、2023年10月に愛知県一宮、そして今年開設予定の大阪府茨木と、既存拠点と合わせ、6つのC-AREA で展開しています。これにより、2025年には全国で当社のサービスを結集できる体制が構築できることになります。

――  静脈物流の展開は。

神野  実は5年ほど前からレンタルパレットの回収を行っており、パレットの清掃機も用意しています。初めは求貨求車サービスの中ロット貨物になり得るということで始めたのですが、メーカー側にも結構なニーズがあったので回収の仕組みを構築しサービス化しました。今後、荷待ち時間の短縮やドライバー・庫内作業者の作業負荷低減を進めていくにあたり更にパレット化が推進されることが予想されます。それに伴いパレット回収サービスのニーズも高まることでしょう。

――  海外展開も行っていますね。

神野  現在は中国とASEANのタイ、シンガポール、マレーシアですね。今後インドネシアとベトナムなど、経済成長によりさらに消費市場拡大が見込まれるASEAN諸国への進出を考えています。

――  最後になりますが、今後の抱負と神野社長の座右の銘をお聞かせください。

神野  2024年問題はトランコムの社員一人一人が、どう動くかで、追い風にもなるし逆風にもなると思います。要は私たちが提供するサービス次第で我々のポジションが3年後には決まっているということです。人並みのサービスしか提供できなければ人並みの会社で終わるでしょうし、まさに自分たちが試されている時です。入社して約30年ですが、こんなポジティブな環境は今までありませんでしたからね。最近、「物流をどう変えていこうか」「どうすれば解決できるだろう」と物流に関心の高い荷主企業の方が増えてきています。その声に応えていける企業でありたいです。

座右の銘は山本五十六の「男の修行」。有名な「やってみせ、言って聞かせて~」ではなく、「苦しいこともあるだろう~」の方です。ある時ご迷惑をおかけしたお客様へお詫びに伺った際、お客様の応接室にあった額縁に書かれていた言葉です。これを見た時は本当に泣きましたね。

――  現在の物流現場の実情がよく理解できました。また、社長のビジネスに対する情熱も強く感じられました。ありがとうございました。

取材・執筆 山内公雄、近藤照美

<山本五十六の男の修行>
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<東京オフィスのエントランス前の神野社長>
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■プロフィール
氏名:神野 裕弘(じんの やすひろ)
生年月日:1971年3月8日
出身地:愛知県名古屋市

略歴
1995年  トランコム入社
2005年  執行役員
2014年  取締役 執行役員
2016年  取締役 上席執行役員
2017年  取締役 常務執行役員
2018年  取締役 専務執行役員
2023年  代表取締役 社長執行役員(現任)

■トランコム
https://www.trancom.co.jp/

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