連載 現場が変わる人財育成(最終回) 菅田 勝

2025年12月16日/コラム

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Z世代の活かし方・育て方(24)

2年半近くにわたる連載も、とうとう最終回になりました。当シリーズの狙いは、実践的な人材育成法を紹介することでした。まとめの回として、「強い会社は良い物流現場から!自分たちの役割を再確認しよう」というテーマで4点、整理したいと思います。

(1)リーダーに必要な3つのスキルバランスとヒューマンスキル

前回は、まず私たちがメンバーから親近感と信頼感を抱いてもらえるような組織運営への改善努力が必要だと述べました。

<図1>
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図1をご覧ください。右下に「ヒューマンスキル」とあります。相手の立場を理解し、チームマインドを鼓舞して人的総合力を発揮できる組織の器をつくる能力、すなわち対人関係能力を意味します。人間力とも呼べます。

人生や仕事への向き合い方、取り組み姿勢、周りの人と接する時の応接態度やマナー、さらには荷主に対するビジネスマナーや身だしなみマナーも含まれます。

人に信頼感・安心感を与えられるように、人徳の発揮の仕方にも努力する必要があります。ここでつまづくと、リーダーとして社内組織を束ねるのは困難となり、お客さんとも良いビジネス・パートナーシップを築けません。

(2)テクニカルスキル

次に、図1の左下にある「テクニカルスキル」の役割について述べます。

この部分は、業務遂行に必要な物流専門基礎知識の習得(例:ビジネスキャリア検定試験、ロジスティクス管理3級・2級試験、同ロジスティクスオペレーション3級・2級試験等)や、業務問題点の抽出・分析技法の習得(IE分析、品質管理、コスト原価分析、採算管理、在庫管理・SCM分析、経営財務分析)、IT技術・情報セキュリティ・DX、マテハン・ロボット自動化機器、輸送機関・建屋構造、事業法や関連法規制への対応、数値・KPI分析管理能力などなど、実務遂行能力を意味します。

しかし領域も広く、広範な専門知識が必要、かつ日進月歩ですから、とうてい私たちだけですべて習得するのは無理です。広く所属メンバーの参画を得て、事業環境変化への対応策の検討が必要です。物流はサービス業であり、荷主の新商品やビジネス方針・形態の変化を素早くキャッチアップする必要もあります。

私の場合、これらテクニカルスキルの全部の要件をリストアップしてチェックリスト形式にし、項目ごとに担当者(正副)を任命、探求するよう要請していました。協力を仰ぐことで担当者のモチベーションアップや知識習得インセンティブにもなりました。荷主との面談の場では、彼らに同席してもらい、お客さんの関心・困りごと・問題意識の共有化にも努めました。職場を見る彼らの視座も広く高くなり、人財育成が進みました。

(3)コンセプチュアルスキル

その次は、図1の真ん中にある「コンセプチュアルスキル」の役割です。

自分が所属する組織における現状や問題を分析整理し、その原因(真因)を特定、効果的な改善策を考え出して、それを推進達成する能力が要求されます。

しかし山積する問題に頭が混乱し、施策や進め方をまとめきれない場合もあるでしょう。日頃から市場や事業環境の探求分析(例:PEST分析、市場3C分析、SWOT競合分析等)を怠らず、そして、全体最適視点から将来の戦略テーマ考察(例:STP&USP考察やマーケティングMIX 4P考察)を経て、優先度の高い重点施策と必達目標水準KPIを決定、推進します。

このスキルの獲得は、一朝一夕には困難。10年以上におよぶ粘り強い活動が要求されます。ちまたでセミプロ以上に到達するには1万時間以上の研さんが必要と言われるゆえんです。チャレンジし続ける以外に方策はありません。

(4)強い会社は良い物流現場から

私は講演会や企業支援コンサル開始時のあいさつで、常々「強い会社は良い物流現場から」と、以下のように伝えています。

「管理監督職やリーダーの皆さんの率先垂範(リーダーシップ)しだいで、企業の現場力は見違えるように改善でき、結果として荷主の満足度も大きくアップします。同業他社と比べてNo.1の信頼を獲得できれば、協力要請が優先的に着電するファースト・コール・パートナー会社となり、同じ物流サービスなら、売価を1割高く請求しても荷主は受容してくれます。業績が向上すると仕事が大変面白くなります。部下も職場も明るく、イキイキ、楽しい職場に変身できます」

この連載でも何度も述べましたが、改善提案活動やKPI活動を通じてメンバーのモチベーションを上げ、探求心を刺激し、活躍できる場面を提供することです。全員がやる気を出して・育つ・活躍する・辞めない・荷主に喜ばれる、優れもの物流現場に変わっていきます。

<図2>
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図2をご覧ください。「強い会社の共通4項目」とありますが、現場運営は特に3と4が重要です。

物流は労働集約型産業です。経営方針が素晴らしくても、実行するのは現場のメンバーですから、彼らの意識の持ち方、行動の仕方で結果は大きく変わってきます。

顧客に提供できる物流サービスQCDSS指標は大きく影響を受けます。大手物流会社であっても、このオペレーションでは荷主が困っているだろうなあ、などと感じる残念な職場は多数存在します。

そこで管理監督・リーダー職の皆さんは、特に3と4に意識を集中し、改善活動に取り組んでほしいと思います。「得意技を磨く」とは、会議室に集合して知識やスキル訓練(座学研修:Off-JT)するようなやり方ではなく、なるべく現場で、立ったまま短時間(5~10分程度)で行う全員共有化、ロープレ訓練(模範作業やダメ作業のやり方を実演観察して、全員がその重要性を再確認する等)といったことです。

私はこれをTBM会議(OJT訓練、Tool Box Meeting、工具箱ミーティング)と呼び、推奨実践してもらいました。サッとやって、サッと終わる周知徹底化です。これならば、忙しくてもやれるはずです。

特に、出荷前検査工程での作業ミス発見時や、顧客クレーム、商品破損の発生が着電した場合には、原因発生の該当部署だけでなく、類似業務をしている全部署を対象に、ワンクール以内(1時間)再確認TBM活動を要請。全員・全部署に再周知し、気を引き締め、再発させないよう、標準作業ルールを順守するように努めてきました。

午前中や日中に発生した不具合ミスを、夕方の終礼時や翌週の全体朝礼などで周知するのではなく、スピード感を持って、即やる・すぐやる・PDCA改善サイクル活動を早く回すのです。その結果が、第19回(図3)、第20回(図2)のような、短期間での目覚ましい改善効果につながったと言えます。

1969年に千葉県柏市で、当時の松本市長(現マツキヨ創業者)が始めた「すぐやる課」が評判を呼びましたが、私もこれにならって、高速のPDCA改善サイクル活動を実践してきました。今でも私は支援先企業に対し、このやり方を促しています。

<筆者 菅田勝 ロジスティクス革新パートナーズ代表取締役>
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最後に、読者の皆さん、長いお付き合いありがとうございました。物流現場の若手やパートを含む全従業員が楽しく学び、明るく元気の出る、そして人が育ち、改善が進むイキイキ職場を構築することを目標に、管理監督職(+班長主任リーダー)クラスの人財育成に焦点を当てた「強くて良い物流現場のつくり方」を紹介してきました。「参考になった、即実行してみよう」と感じていただけたら、最高に幸せです。頑張ってください。 Good luck with your new job.     <終わり>

■連載 現場が変わる人財育成

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