技術革新の重力の中心に
―― ところで、国内外問わず物流の自動化事例で驚かれたようなことがあれば教えてください。
久夛良木 例えばYouTubeでも挙がっていますが、フランスのスタートアップ企業でEXOTEC Solutions SAS社という企業があります。全自動のストッカーが立体構造なのですね。そこにSkypodというAGVが自動倉庫の中を縦横だけでなく上下にも移動していきます。XYZの広大な空間の中で、システム全体がWMSにつながっているのです。ここには、マテハン機器としてよく使われるコンベアシステムがほとんど見当たりません。唯一、最後に人間の受け手の腰の高さにコンテナが来る場所に短いベルトコンベアが使われています。この会社のソリューションは、特にアパレル業界を中心とした領域に強みを発揮していて、日本ではユニクロが1000台余りを導入したと報じられています。他にも、イオンとオカドが組んだニュースがありましたよね。八王子市に巨大なロジ倉庫とイオンモールを併設して、リアルとネットの店舗を融合した新形態の店舗を誕生させようとしています。オカドは、イギリスを代表する巨大ネットスーパーです。また、中国の深センでもネットとリアルの融合が急速に進んでいます。これらは、AIやロボットを活用したコネクティビリティが競争領域になってくるでしょう。情報を一気通貫で通して、あらゆるものがエンドトゥエンドで活用可能な時代が始まろうとしています。
―― 情報と言えば、久夛良木さんは4月から近畿大学の情報学部の学部長に就任されるそうですね。
久夛良木 新規学部開設案内のポスター等で、今は広告塔に使われています(笑)。情報技術というものは、今後戦略としてさらに利活用しなければならないのにもかかわらず、日本ではまだ十分に育成できていない状況があります。まずは教育の面からも変えていこうという事です。
―― さて、今回10億円の資金調達ですが、これはどのようなことに活用されますか。
久夛良木 まずはR&D(研究開発)の強化ですね。世界中の優秀な人材を採用していくのはもちろんのこと、オープンコラボレーションで一緒に取り組む人々が自然に集まる組織にしていきたいですね。まさに重力に引き付けられるように。
―― 現在の社員数は。やはり中国、インド系の方が多いのですか。
久夛良木 現在、30人弱ですが、日本人が数名程度で後は海外からのメンバー構成ですね。中国系、インド系に偏るというよりも、欧州も含めて様々な国々から集まっている状況です。女性も6人くらいですね。
―― 最後になりますが、ストレス解消法は。
久夛良木 ストレスは基本溜めないようにしています。健康面では、まずはしっかり寝ることですね。寝不足には弱いので、日々熟睡を心がけています。それと、毎日きちんと栄養のバランスを考えて、楽しい方々と楽しく食べること。人間も生物ですから、家でも外でも快眠快食を心がけています。スポーツは以前はいろいろとやりましたが、最近は時間配分的にまとまった時間が少なくて、現在は近隣のジムに定期的に通っています。
―― 年をとるごとに好奇心が薄れてくるのですが。
久夛良木 自分の場合は、おそらく逆ですね。今が一番好奇心旺盛なのかも、と思っています。日々面白いことや興味が惹かれることが多くて、ワクワクする時間や、妄想や発想が止めどなく溢れて出てくる感じかな。年齢に従って落ちるような感じが、今のところしない。現在は情報社会なので、さまざまな情報に簡単にアクセスすることができるのも大きいですね。新しい情報に触れる頻度も高くなり、さらに好奇心が広がっていくイメージです。
―― 今回は新しい製品の開発内容の発表を楽しみにしていたのですが。
久夛良木 それはもう少し先になるかな。春頃にはその一部を発表できるかもしれませんが、昔からぜひ手掛けてみたかったテーマでもあるので、楽しみにしていてください。
■プロフィール
久夛良木 健(くたらぎ けん)
プレイステーションの父として世界的に著名。一連の開発および事業全体の立ち上げを指揮し、ソニーグループのゲーム部門であるソニー・インタラクティブエンタテインメント(旧ソニー・コンピュータエンタテインメント)の代表取締役会長兼グループCEOを2007年まで務める。2000年にソニーの取締役、2003年から2005年副社長兼COOに就任。ソニー退任以降、複数の上場企業の社外取締役を担う一方、ベンチャーコミュニティにも深く関わり、これまでも情熱を持つ若き起業家たちを支援してきた。アセントロボティクスにおいても2017年より社外取締役として経営陣への助言や指導を行ない、2020年に代表取締役社長兼CEOに就任してからは開発と経営の陣頭指揮を担う。
物流最前線/「Safety Driving Award 2024」 進化・深化する交通事故対策



