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AIによる物流自動化への挑戦
技術革新の重力の中心に

2022年02月15日/物流最前線

20220214 kutaragi icatch 520x293 - 物流最前線/トップインタビュー アセントロボティクス 久夛良木 健CEO

アセントロボティクスの久夛良木 健CEOが、プレイステーション産みの親でもあり元ソニー副社長だったことはよく知られている。ソニーでは異端と言われながら、ゲーム事業をソニー本体を支える主力事業にまで成長させたのみならず、新たな世界産業にまで育て上げた。その久夛良木CEOがスタートアップ企業として、いまAI搭載ロボットによる物流の自動化に注目している。同氏は特に日本の物流分野の自動化の遅れに強い危機感を抱いており、「今や世界最先端の潮流から急速に引き離されつつある。欧米のみならず中国にも後塵を拝し始めているのでは」と苦言を呈する。これらの新領域では最先端のAI、ロボティクス、センシング技術の融合が必要になるが、そのすべてを一社で担うのはもはや現実的ではなく、オープンなコラボレーションが必要になる。今後の展開から目が離せそうにない。
取材:1月26日 於:アセントロボティクス本社

<久夛良木健CEO>
20220214kutaragi2 520x347 - 物流最前線/トップインタビュー アセントロボティクス 久夛良木 健CEO

<アセントロボティクス 消費財を青い容器に仕分けている動画>

AI技術の進歩に未来を描く

――  物流分野に久夛良木さんが参入するとは思いませんでした。その経緯についてお聞かせください。

久夛良木  AIの急速な進化です。人工知能という表現が初めて登場したのは今から半世紀以上も前に遡りますが、その間何度となく挫折を繰り返してきました。それが今日のようなAIの隆盛は、トロント大学のジェフリー・ヒントン教授による、人間の脳を模した深層学習に関わる論文が契機となっています。この理論の登場により、既存手法を圧倒して画像認識能力が格段に向上しました。同時期スタンフォード大学のフェイ・フェイ・リー博士が呼びかけて開催された画像認識率を競うコンペティションにおいても飛躍的な認識率を叩き出し、遂に人間の認識精度95%を超えるという逆転現象が起きました。新たなAIのフレームワークである深層学習の可能性が一気に花開いたのです。

――  人間の目を上回ったということですね。

久夛良木  これはびっくりしました。AIは人間の目と同等か、それ以上の能力を持つことになったということです。当社も含めて、AI関連で多数のスタートアップが誕生しました。アセントロボティクスも自動運転やAIロボティックス領域の技術開発を目指し、2016年にスタートしました。

――  AIに関しては、以前から興味があったのですか。

久夛良木  ソニー時代はデジタル技術の研究開発から手がけましたが、コンピュータや人工知能、それにSF的なものには、やはり昔から興味がありました。今や最新のソニーのミラーレス一眼αシリーズを例にとると、遠く離れた小鳥の小さな瞳にまで瞬時にピントが合うまでに画像処理技術が進化しています。ロボットやさまざまなモビリティシステムに、AIの頭脳と人間を超えるような最先端のセンサー群が入れば、近未来にすごいことができそうだなと、夢見ていました。

――  AIの進歩に期待が膨らんだということですね。しかし、当初はアセントロボティクスは、自動運転の車を目指していたのですよね。

久夛良木  最初の目標として、自動運転とロボティクスの領域を目指しました。しかし自動運転技術の開発には巨額の資金と、自動車メーカーとの強力なパートナーシップが必須になります。既に欧米や中国では、何兆円もの巨額の資金を背景に開発を進めていますので、当社のようなスタートアップ企業として取り組む領域を既に超えていると判断し、AIロボティクスに集中することにしました。

――  AIの進化に着目したわけですが、そこから物流関係に興味を持たれた経緯は。

久夛良木  新型コロナウイルスの急速な拡大により、世界中の人々のライフスタイルが一気に激変したことが大きな契機になっています。リモートワークやオンライン授業などが要請される状況となり、外出制限などで近隣のレストランも時短や休業を強いられた結果、ネット経由で食料や生活必需品を購入する流れが世界規模で一気に加速しました。消費者としても便利な消費スタイルなので、ここに爆発的な需要が生まれましたが、これを支えておられる人々はさぞや大変だろうなと、その物流の裏側に興味がわきました。

――  通常は大変だろうなで終わるのですが、その裏側に興味を持たれるというのは。

久夛良木  そうですね。プレイステーションの生産を事例に取ると、ピーク時には月産300万台というソニー始まって以来の生産体制とサプライチェーンの構築が必要になりました。多種多様な半導体をどこに発注し、いかに生産ラインに効率的に投入するか、また機構部品類はどことどこにといった具合に、まさに世界規模の生産システムとサプライチェーンの統合的な最適化が求められたのです。ゲームソフトの生産と物流も手掛けていましたから、当然今回の新たな物流オペレーションについても大きな関心を持っていました。それがコロナによって一気に顕在化したことで、まずは物流現場の実態調査から始めました。

――  調べて分かったこととは。

久夛良木  AGVとかGTPなどの自動搬送システムは、既に各所で活用が進んでいます。しかしそれ以外の部分では、未だロボットの活用や、最新の物流ソリューションの導入が進まず、自動車産業や電子機器の製造現場と比べると驚くほどオートメーション化や情報化への対応が遅れているという事実でした。アマゾンの物流センターでさえも、ピッキングはいまだ人手に頼っています。確かに、多種多品種にわたる日用品にも器用に対応可能なロボットは、現時点でも難しいタスクです。しかし、最新技術を駆使すれば、やってやれないことはない。喫緊の社会課題となりつつあるロジスティクス領域の世界規模の逼迫を考えると、ロボットによるオートメーション化は、今後避けて通れないチャレンジだと感じました。

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