インドシナ半島において急速な経済発展を遂げているタイ。バンコク市内を流れるチャオプラヤー川沿いには高層ビルが建ち並び、混雑する道路にはトヨタやマツダなど日本車が連なる。その合間をバイクがすり抜けていく。「微笑みの国」として観光やビジネスなど日本と広く交流があり、自動車産業をはじめ流通・小売業にも多くの日系企業が進出。消費の拡大とともに越境輸送が増加し、中国からインドまでを含む多様な物流ネットワークが形成されつつある。さらに近年コールドチェーンも伸長し、タイは陸送におけるインドシナ半島の物流ハブとして、重要な役割を担っている。今回の物流最前線では8月15日~17日、バンコクで開催されたタイ国際物流フェア「TILOG-LogistiX 2024」をレポートする。
国際色豊かな物流見本市
最新機器やEVが一堂に
東南アジアで最大級となる物流産業の見本市「タイ国際物流フェア(TILOG-LogistiX 2024)」は、バンコクの国際展示場「BITEC」で開催された。タイ商務省国際貿易振興局(DITP)とRX Tradex社の共催により、国内外から160社以上が参加、最新の物流サービスや機器など415ブランドが出展した。また今回、ASEAN各国からメディアを招致する視察プログラムを実施し、テーマとして掲げている「Connecting the Logistics Future」を世界に発信。訪れた報道陣も中国、マレーシア、台湾、韓国、フィリピンなど国際色豊かで、物流展を通じ交流を図った。
<挨拶するVannaporn ketudat 商務省副事務次官>
初日の15日にはオ-プニングセレモニーが開催され、3日間にわたるイベントの幕を開けた。主催者を代表してVannaporn ketudat 商務省副事務次官が挨拶に立ち、「毎年、物流フェアの規模が大きく強力になり、改めてタイと世界中の物流ビジネスにとって重要な見本市となっていることを感じる。物流がいかに重要か、今さら説明する必要はないでしょう。現在、世界で多くの障害が起こっているが、一緒に乗り越えられることを願っている」と呼びかけた。
また同日、今年上半期の「ベストコンテナ船社」も選出され、オーシャンネットワークエクスプレス(ONE)のタイ法人が豪州、中東の2航路で表彰された。
広々とした会場ではワンフロアをA~Lのエリアに分け、各企業がそれぞれ趣向を凝らした展示を行っている。最新のマテハン機器や包装、倉庫システムやロジスティクスIT関連事業のほか、海陸運のサービスプロバイダーなどが一堂に会し、各種セミナーやビジネスマッチングの場も設けられた。
出展企業はタイを中心に、中国も多い印象だ。日本からはキーエンスタイランドが最新のハンディターミナル等を展示。このほか、ロボット関連では日本の物流拠点でも見かける中国製の倉庫ロボットやノルウェーの「オートストア」、IHIアジアパシフィックの3Dピッキングロボット「Skypod」も実機を展示していた。EV関連ではタイのNEX POINT社の大型EVトラックやドイツの商用EVなどが展示され、各ブースではタイ語をはじめ英語、中国語などが飛び交い、熱心な商談が行われていた。
主催者のRX Tradex社によると、今回のフェア開催の目的は「物流に関する最新テクノロジーの展示とネットワークの拡大、ビジネスマッチングの場としての活用」の主に3つ。ハイライトとしてはAIを使ったデジタル化やEV導入による環境負荷低減を挙げており、日本と同様、課題となっている環境問題に対応し、持続可能でグリーンな物流を目指す姿勢をアピールした。
メインゲートを入ってまず目を引くのは、タイの大手物流ソリューションプロバイダー「SCGJWDロジスティクス」だ。今回の展示では危険化学物質や自動車部品向けの専門倉庫ソリューション、食品、医薬品、コールド チェーンソリューション等についてパネル展示するとともに、Chat GPTを活用した書面管理やAIを使ったルート配送など、2050年までにネットカーボンゼロ達成を目指す最新テクノロジーを紹介した。
また「Logizall」は、タイのスタートアップが開発した物流デジタルプラットフォームにより、DX化のイノベーションに挑む。物流のあらゆる情報、ステップを1か所に集約し、ユーザーがワンクリックで船会社、航空貨物会社、海上貨物運送会社、陸上輸送会社、倉庫会社など、複数の物流プロバイダーの価格をリアルタイムで比較することができるというアプリケーションで、物流の強化を促進する。
IHIアジアパシフィックはピッキング作業効率を飛躍的に向上させる3Dピッキングシステム「Skypod」をタイで初展示。「Skypod」はフランスのユニコーン企業Exotecが開発した自動倉庫システムで、IHIは2014年に現地法人を設立。これまで自動車や食品・飲料、ヘルスケアなど様々な業界に納入実績があるという。
同社の北川蒼太アシスタントマネージャーは、近年のコールドチェーン需要の増加を見込み「弊社の移動ラックは-50℃まで対応できることが強み。タイはもちろんインドネシアやマレーシアでも需要が増えてきているので、アジア市場を取り込んでいきたい」と話す。
中国の「リビアオ・ロボティクスホールディングス(Libiao Robotics Holdings)」は、モジュール式仕分けロボット「AirRob(エアロボ)」の実機を展示。フロアの形状や天井の高さに合わせて設計でき、独自のロボットトート処置システムで1時間あたり600個のトートの入庫と出庫が可能だという。日本ではプラスオートメーションが8月26日から同機の取り扱い開始を発表している。
EV関連では、タイの商用EVメーカーNEX POINT社が大型EVトラックを展示し、注目を集めていた。タイの国内輸送のほとんどはトラックが担っており、特に渋滞が発生するバンコクでは大気汚染等に影響している。同社によると、タイの物流業界への導入は現状ではまだ少ないながら、今年2月にNXタイロジスティクスが、GVW15tの大型EVトラックをバンコクのLCに初導入している。
隣のブースにはドイツのe.volution MAX社が小型商用EVトラック(旧称 ストリートスクーター)を展示。 耐久性の高い車両コアと使用時の多様性が特徴で、日本では2019年にヤマト運輸へ車両500台を納入した実績がある。同社は「タイで車両を共同開発し、ASEAN地域に車両レンタルを展開したい」と目論む。
このほか、リチウム電池フォークリフトやスケール付き電動パレットトラック、荷物を積むロボットハンドなど、効率化を促進する最新の物流機器が勢揃い。会場内の商談スペースも賑わっており、3日間で荷主企業の生産・物流担当者ら約9000人が訪れ、盛況となった。
■「TILOG-LogistiX 2024」ハイライト(動画)
コールドチェーン需要に応える
タイ最先端の冷凍冷蔵倉庫
<パシフィックコールドストレージ社(Googleマップより)>
翌日は、SCGJWDロジスティクスグループのパシフィックコールドストレージ社の冷凍冷蔵倉庫を視察した。バンコク市内から車で約1時間、タイの魚介類の産地として知られるサムットサーコーン県にある。
同社は冷凍品、冷蔵品、常温温度管理品の保管サービスを事業とし、食品やヘルスケア、薬品管理などのコールドチェーン物流を手掛けている。25℃から-40℃まで厳密な温度管理に対応し、現在7か所に冷凍冷蔵倉庫を展開している。
<ダイフクの自動倉庫システムを導入 資料:DITPより提供>
コールドチェーンには20年前に参入し、15年前から自動化を推進。実際に倉庫の中を見学させてもらったが、日本のマテハン機器メーカー「ダイフク」の自動倉庫システムが導入されていた。また温度管理についても自社で管理システムを開発し、HACCPやハラール認証などの取得にも積極的に取り組んでいる。さらに屋根にソーラーシステムを設置することで環境負荷低減や顧客のESGにも貢献する。
今後、自動フォークリフトを使用しさらなる省人化を図るとともに、物流をトータルで管理・監視できるシステムを開発し、将来的にはASEANの国々の協力も得ながら、こうしたコールドチェーンサービスを拡大していく考えだ。
■プログラムを終えて
取材中、他国の記者からよく言われたのは「日本のテクノロジーは素晴らしい」という言葉。実際、宿泊先のホテルから現地までの移動中、道路を走るのは日本車がほとんどで、郊外では日野のトラックもよく見かけた。通訳を担当してくれたPaineさんによると、最近では中国の安価なEVも増えてはいるが、充電スタンドがまだ十分でなく、スコールなどによる渋滞に巻き込まれ、停まってしまうケースもあるようだ。
道路インフラはかなり発展しており、至るところに「工事中」の看板があり、高速道路料金も日本よりかなり安い。タイの物流は陸送が中心で長距離輸送も多いが、日本でいう「2024年問題」は存在しないそうだ。
一方、道路の高架下ではマーケットがあり、昔ながらの生活用品などを売っている。郊外へ行くにしたがって街並みは長閑になり、荷物を載せて走る多くのトラックや、セブンイレブンなどコンビニも見かけた。入ってみると品揃えは日本とほぼ同じだったが、バンコク市内では渋滞を避けて夜中に商品を搬入しているそうだ。
アジアの多くの国と国境を接し、発展するタイ。タイ人は「マイペンライ」という言葉をよく使う。「大丈夫、何でもない」という意味だそうで、南国らしい、おおらかな国民性を象徴している。例えば時間に遅れてきても「マイペンライ(次は間に合うから大丈夫)で、ハッピーに生きる方が大切」とPaineさんは微笑む。冷凍冷蔵倉庫見学からの帰り道、さっきまで晴れていた空が突然暗くなり、スコールが降り出した。道路は渋滞し車はかなりゆっくりペース。脇から出てきた2人乗りバイクが、スイスイと追い抜いていく。それでもプロラムは無事終了、急ぐ理由はない。マイペンライだ(了)。取材・執筆 近藤照美