Z世代の活かし方・育て方(15)
前回に続き、トラック運行部門での改善提案制度を活用した改善事例を紹介します。
トラックドライバーの職場は、お客さんの事業所(職場)が主です。訪問先での応対や作業内容は、基本部分は同じでも、訪問先の職場状況や運営ルールにより千差万別。臨機応変な対応も要求され、訪問先ごとの特殊要因をも熟知しておかないと、スムーズに遂行できない場合が多いです。
同じお客さんを同じドライバーが専属的に担当することも難しく、新人ドライバーやリリーフ的に代役ドライバーが訪問、作業せざるを得ない場合もあり、この時 、往々にして顧客クレームのようなトラブルが発生するものです。
昨年、大みそか前の繁忙期に発生した例を紹介します。
スーパーマーケットに野菜類を納品する際のことです。荷降ろし場がスロープ傾斜しており、不慣れなドライバーがRBP(ロールボックスパレット)を転倒させてしまい、キャベツなどが地面に散逸、販売不能になりました。
RBPは便利ですが重心が高く、転倒の危険性がある納品作業なので、特にスロープ状の場所では細心の注意を払わなければいけませんでした。
当日は代行ドライバーで、納品先スーパーの受け入れ場の危険性が伝わっていなかったということでした。ちょっとしたコミュニケーション・ミスの結果が重大クレームに至った失敗事例です。
トラックによる産業材の納品作業は、個人家庭向け(ラストワンマイル)配送と比べて、物品によっては作業上の取り扱い注意事項が多くなります。
お客さん側の要望として、例えば「我が社では、到着時の守衛所への届け出から始まって、物品受入部門への届け出、さらには、このような作業方法・やり方で注意して納品してほしい。最後に、受入検査担当者の立会いによる納品物検収確認も」などなど。
日ごろ訪問するドライバーには作業訓練をして、注意事項を周知し、当人がポイントを熟知して問題なく納品作業できていても、別のドライバーが訪問すると、しっかり業務指導を受けていなくて、失敗してお客さんに迷惑をかけてしまう(最悪クレーム発生)ケースが時たま発生します。
そこで、納品作業が難しい(高度な商品知識や作業専門知識、納品先の特殊事由など)場合、ドライバーたちには訪問のつど、経験したり知り得た最新情報をフィードバックしてもらい、次の納品作業に生かすPDCA改善活動が大変重要になります。
一般生活雑貨でも納品作業は簡単ではありませんが、生産財(産業材)の場合はさらに難しくなりますから、特に注意したオペレーションが要求されます。
このような要求に的確かつ確実に、安心感を与えられる納品作業が遂行できるドライバーは、「物流会社の価値を生み出す宝人財」になります。
ドライバーを1人でも多く教育訓練し、業務従事させることができる会社が当然、高い評判を得て、競合他社よりも事業成長可能になります。
事業を遂行しつつ人財を育てる仕組みを、オペレーションの中に構築しなければなりません。ドライバーのやる気、工夫する意識を喚起し、モラルを高めながら業務改善を進めるために、改善提案制度(顧客情報カード:ドライバーズメモ)が大変有効なのです。
図1をご覧ください。食品用生産材を輸配送する3PL企業が運用している顧客情報カード(ドライバーズメモ)です。
日々の納品先(着荷主)で発生する問題、困りごと、顧客からの改善要望事項、ドライバー自ら気付いたこと、などをフィードバックしてもらって、対応すべき内容については、職制マネジメント層が改善アクションを実施していく活動になります。
自分がフィードバックしたり提案したりした内容が採用され、会社の作業標準に選定され、社内研修などで紹介されると、うれしい気持ちになり、また次もがんばろうと好循環のスパイラルが生まれますね。
改善提案制度はまさに、草の根の改善PDCA活動そのものです。トヨタ自動車が世界トップの高品質自動車生産メーカーとして存在感を発揮できているのも、創業以来70年間継続している改善提案制度(提案は年間約92万件に及ぶ)のたまものです。
物流業界も見習って改善提案活動を継続し、世界に誇る日本物流業界(ワールドクラスと呼称)にしていきましょう。
図1の内容は、某社関西工場に食品原材料納品で訪問した運転手(〇〇博一さん)が着荷主から聞いた作業に関する入手情報です。
職制マネジメント層からも適切な内容だと判断され、納品作業マスターに全社標準として登録されました。そして全社で貯蔵タンクのレベルメーター研修会も開催され、当人が説明しました。
自分の名前が紹介され、顕彰されるのですから、悪い気はしませんよね。ドライバーの働きがいを高め、次もがんばろうという前向きな気持ちが沸き起こり、より良い作業を提供できるようになろうと、さらに励んでくれます。
この事例の3PL企業は、オペレーションのQCDSSが素晴らしく荷主からも評判で、健全な経営で成長しています。
トラック運行部門の改善提案制度は
価値を生み出す「宝人財」を育てる
トラック運行部門での改善提案制度は顧客満足度を高め、競争力を向上するという事例を紹介してきました。
3PL企業のトラック運行部門では、ドライバーの退職や入れ替わりが多いといわれ、なかなか専門的なスキル・ノウハウが蓄積できず、全員に伝わらない状況です。
ベテラン勢の属人化ノウハウを、いかに新人に分かりすいように形式知化していくか? かれらの協力を仰ぎ、モチベーションを高め、新人へのノウハウ共有化を進めていくか? 職場への帰属意識を醸成することも大切と考え、「 顕彰(称賛)文化の醸成を兼ねた改善提案制度」を推奨してきました。
図2のように、ベテラン勢のオペレーションに関する個人ノウハウを全社ノウハウにする「標準化+人財育成の活動」を展開していくべきですね。
私は、物流部門に異動する前はOA機器メーカーの生産技術者でした。生産部門は、高品質製品を安定的にローコスト量産するために、人による作業の不具合(バラツキ)が発生しないよう、誰もが正しい標準作業を繰り返せる工夫をすることが重要でした。
ところが物流部門に異動して驚いたのは、教育訓練するツール類と教育機会の少なさです。資料も少なく、ほとんど口頭説明だけ。輸配送部門オペレーションは特にそうで、何もないと言ってもいい状況でした。
これでは顧客が安心・信頼する、安定的に高水準の物流サービスは提供できないと、作業マニュアル整備や教育訓練機会の充実に努めてきました。
暗黙知のスキル・ノウハウを提供してくれたベテラン勢が先生役となり、専門知識やスキル・作業のコツを習得できる場をつくりました。その改善結果を追跡把握するKPI評価を進め、最後に社内発表・顕彰の場づくりもしました。
これらの考え方をサマリーしたのが、人財育成サイクル(図3)です。
人を育て、組織を活性化し、物流サービスのQCDSSを向上、結果として業績が向上する方策に私は腐心してきました。次回は物流KPIについて紹介します。