CBREは5月21日、海外レポート「U.S. Import Tariffs and Asia Pacific Real Estate」の和訳版「トランプ関税とアジア太平洋地域の不動産」を発刊した。
<トランプ関税(アジア太平洋地域の一部の国・地域について掲載)>
それによると、トランプ大統領は米国への輸入品に対する関税を相次いで発表しており、米国の加重平均関税率は1930年代以降でもっとも高くなっている。4月上旬には相互関税の一時停止が発表されたものの、アジア太平洋地域の多くの市場が10%以上の関税に直面している。
経済への影響では、米国への輸出に対して相互関税が課せられる見通しの下、アジア太平洋地域の本年の経済成長は年初想定を下回ることになろう。地域全体の2025年のGDP成長率について、 2025年4月時点のCBRE予想では、従前の予想を約0.5ポイント下回る前年比3.5%増としている。ただし、関税の影響は国・地域によって異なり、中国と東南アジア諸国が最も影響を受けるとみている。
<アジア太平洋地域における2024年成約面積のセクター別内訳(物流施設)>
そのような中、物流市場への影響についても言及。アジア太平洋地域における物流施設のテナントは、米国の関税政策の公表を受け、以前に比べて慎重になっている。新規開設の延期や、拠点の統合などを実施した企業も既に一部ではみられている。しかし、殆どの企業はまだ様子見姿勢を保っている。
業種としては、越境EC、自動車、電子業界が最も影響が大きいだろう。しかし、自動車業界と電子業界については、その企業の多くが自社保有の施設を利用しており、アジア太平洋地域の賃貸物流施設に占める割合は2024年実績でそれぞれ2%と1%に過ぎない。テナント需要のほぼ半分は、トランプ関税の影響が限定的とみられる3PLと国内向けEC関連が占めている。
中国では、複数のテナントが拡張計画の延期を決定した。中国で対米輸出が最も多いのは華東エリアだが、物流施設の需要への影響という点では、越境EC企業が集中する華南エリアの方が大きい。越境ECセクターは、米国への輸出に対する少額貨物免税の恩恵を受けてきたため、華南エリアの物流施設の過去2年間の新規需要のおよそ半分を占めていた。新たな関税政策による影響は、ある程度は内需の回復で相殺されるとみられる。実際、2025年Q1には、越境EC業者が退出したスペースに地場の3PLやEC業者が入居した事例がいくつかみられている。
一方、日本と韓国の自動車関連業界が米国の関税政策の影響を最も受けるとみられるものの、当業界の企業の多くは自社施設を利用している。また、日本と韓国に加えてシンガポールも、米国に対して電気機械、電子部品、ハイテク製品を多く輸出しているが、いずれの国においてもこれらのセクターは物流施設の賃貸面積の大きな割合を占めるテナントではない。オーストラリアの物流施設のテナント需要も、対米輸出への依存度は低い。
世界の貿易政策をめぐる不確実性は、短期的には多くのテナントのセンチメントを押し下げるだろう。案件の成約も従前に比べて時間がかかるようになると考えられる。関税を回避するために、生産拠点の移転も含め、サプライチェーン・ネットワークの再構築を図るテナントも出てくるだろうと総括している。
TDB景気動向調査/運輸・倉庫2か月ぶりに悪化 トランプ関税の影響大