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連載 物流の読解術 第28回:宅配便の午前中の時間帯指定の難しさ -効率化を考える(7)-

2025年07月28日/コラム

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テレビのバラエティ番組での話

いままで、時刻指定や配送日指定を扱ってきたが、今回は消費者にもなじみのある宅配便を取り上げてみよう。

だいぶ昔のことであるが、テレビのバラエティ番組に呼ばれたことがある。

司会はくりぃむしちゅーの上田晋也さんで、タレントが「なぜ、こんなことができないのか」と憤慨し、専門家が「それは無理ですよ」とたしなめる構成である。

筆者に与えられた課題は、「宅配便は、午後の時間帯指定があるのに、なぜ午前中にはないのか。不便で仕方ない」というものだった。そこで、「午前中に時間帯を指定されたら、あちこち行ったり来たりになるので、多くの貨物を届けられない。だから無理」と答えた。

そこで今回は、「宅配便の、午前中の時間帯指定の難しさ」について考えてみたい。

宅配便の仕組み

宅配便は、夕方にオフィスや店や個人宅で貨物を集荷し、夜中に長距離を輸送し、早朝に到着地の配送センターで仕分けしてから、午前中に配達先に届けることになる。

このため、配送センターでは、深夜から早朝にかけて各地から集まってきた貨物を午前中に配達し、午後から夕方にかけては担当地域の貨物を集荷して、全国向けに発送する。このように配送センターでは、深夜から午前中の配達する貨物と、午後から夕方の発送する貨物が入れ替わることで、スペースを使い分けていることになる。

これが逆になると、大変なことになる。午前中に集荷して午後に配達となると、集荷と配達の両方の貨物が一緒になってしまい、配送センターは貨物だらけになってしまう。だから、「午前配達、午後集荷」は、宅配便の原則なのである。

宅配便の配達の工夫

宅配便の配送センターでは、配送ルートを考慮しながら、順番に回れるように貨物を積み込む。配送車両の奥には配送ルートの最後の方に配達する貨物、手前は早い時間に配達する貨物を積み、冷凍の貨物やゴルフバッグなどの置き場も考慮する。

そして、配達時に効率よく走れるように、原則として市街地の街区を左回りに走行していく。こうすれば、右折を避けることもでき、停車後に道路を渡らなくても配達先に行ける。

宅配便の午前中の配達状況

宅配便では、午前中だけで100個以上の貨物を配達することが一般的である。だからこそ、1個あたりの配達時間も多く取れない。

1個あたりの配達時間を短くできるケースは、一つの配達先に何個も同時に届ける場合や、置き配で済ませられる場合などがある。宅配ボックスの使用を指定することも、時間短縮に貢献するだろう。

逆に、1個あたりの配達時間が長くなるケースは、玄関に到着してもなかなか出てこない場合や、再配達を繰り返す場合である。そして、今回のテーマである午前中の時間帯指定も、あっちこっちに行ったり来たりとなって1個あたりの配達時間が長くなってしまえば、「顧客には便利だが、配送業者は配達の効率が悪い」ということになるだろう。

これについての詳細は、補論で考えてみる。

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【補論】:数字とグラフで読み解く「物流の課題」
(その13) 宅配便で午前中の時間帯指定が難しい理由

中央大学経済学部教授 小杉のぶ子​

時間帯指定による配送についての考え方

午前中の時間帯指定については、最初に「時間帯指定なし」の場合を考え、次に「時間帯指定あり」の場合を考える。

簡単にするために、以下のような事例で考えることにする。
(1)配達個数は90個として、配達先の不在はないとする(宅配ボックスも使用しない)。
(2)配送センターを8時30分に出発したドライバーは、すべての配達先を回った後、12時30分に配送センターに戻るとする。配送センターから配達地域までは片道30分、すなわち往復1時間かかるとする。したがって、配達に利用できる時間は3時間(9時00分~12時00分)となる。
(3)午前中の指定時間帯は2つ(第1時間帯:9時00分~10時30分、第2時間帯:10時30分~12時00分)とする。
(4)配達地域では左周りで周回する。

午前中の時間帯指定がない場合

午前中の時間帯指定がない場合、配送センターから配達地域に向かい、左回りに1周することで、すべての配達先を回ることができる(図1参照)。

配達個数が90個、配達時間が180分なので、貨物1個あたりに許される配達時間は2分となる。

<図1 午前中の時間帯指定がない場合>
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時間帯指定が貨物1個あたりの配達時間に影響を及ぼさない場合

午前中に2つの指定時間帯があっても、先に述べた時間帯指定がない場合と同様に、貨物1個あたりに許される配達時間が2分となるのは、
(1)2つの指定時間帯において配達する貨物の個数が均等であること
(2)配達先の並び方において、第1時間帯のすべての配達先が第2時間帯の配達先よりも前に位置すること
の2つが満たされているときである。

ここで、(1)、(2)のそれぞれの条件を満たす場合について、簡単にするため配達先数が6か所である図を例に用いて確率を考えていくことにする。

2つの指定時間帯において配達個数が均等になる場合

午前中に2つの時間帯を指定できるとき、第1時間帯(前半)と第2時間帯(後半)で配達する個数が大きく異なれば、貨物1個あたりに許される配達時間も短くなり、配達が困難になる可能性がある。よって、2つの時間帯で貨物の個数が均等であることが望ましい。現実には、まったく均等でなくても、ほぼ同じであれば配達は可能かもしれないが、ここでは厳密に考えてみることにする。

均等であるとは、たとえば2つの指定時間帯あわせて6個の貨物を配達するならば「前半3個、後半3個」、90個の貨物を配達するならば「前半45個、後半45個」のような場合である。

均等でない例として「前半30個、後半60個」の場合は、後半の時間帯において1個あたりの配達時間は1.5分となってしまう。さらに極端な例として、「前半0個、後半90個」になれば、1個あたりの配達時間は1分となってしまい、事実上配達することは不可能に近い。

以上のことから、1個あたりの配達時間が大きく変わらないのは、2つの時間帯で配達する貨物の個数が均等になっている場合である。

なお詳細な説明は省くが、均等になる確率を計算すると、配達先が6か所の場合は31.25%、10か所の場合は24.61%、90か所の場合は8.39%となる(表1参照)。このように配達個数が多くなると、2つの時間帯で均等になる確率は小さくなる。

時間帯指定と周回数

2つの指定時間帯で配達する貨物の個数が均等であっても、配達先の並び方によっては配達地域を2周することになる(図2(1) 参照)。このときは走行時間が増加し、それにともない配達に費やせる時間も短くなる。

ここでは、2つの指定時間帯における配達個数の偏りは考慮せず、時間帯指定がある場合に配達地域を1周してすべての貨物を配達できる確率について考えてみる。

たとえば配達個数が6個で配達先が6か所のとき、左回りに1周してすべての貨物が配達できるように配達先が並ぶ例は、「1,1,1,1,1,1」「1,1,1,1,1,2」「1,1,1,1,2,2」・・・「2,2,2,2,2,2」の7通りである(図2(2)参照)。この状態は、6か所の配達先における配達時間帯の組合せ全64(=26)通りのうちの7通りであり、その確率は10.94%(=7/64)である。

配達個数が10個で配達先が10か所になると、1周で配達できるのは、2つの配達時間帯の組み合わせ全1024(=210 )通りのうちの11通りであり、その確率は1.07%(=11/1024)である。そして配達個数が90個で配達先が90か所になると、1周で配達できる確率は限りなくゼロに近くなる。

すなわち、2つの指定時間帯があると、ほとんどの場合配達地域を2周することになるので、それだけ1個当たりの配達時間が短くなる。

<図2 指定時間帯別の配達個数と、配達地域の周回数>
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<表1 時間帯指定があるときの配達先数別の配達状況の確率>
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指定時間帯ごとの配達個数が均等でかつ1周で配達できる場合

最後に、指定時間帯ごとの配達個数が均等で、かつ配達地域を1周することですべての貨物を配達できる場合を考えてみる。この場合に限り、時間帯指定がないときと同様に、貨物1個あたりに許される配達時間を2分とすることができる。

たとえば配達個数6個で配達先が6か所のとき、「配達個数が前後半で均等で、かつ1周で配達できるように配達先が並ぶ例」は、「1,1,1,2,2,2」の場合のみである。この状態は、6か所の配達先における配達時間帯の組合せ全64通りのうちの1通りだけであり、その確率は1.56%(=1/64)である(図2(3) 参照)。つまり、1周で配達できることは極めてまれであり、多くは2周し走行時間も長くなる。

これが配達先10か所になると、2つの時間帯の貨物の個数が均等で、かつ1周で配達できるのは、2つの配達時間帯の組み合わせ全1024通りのうちの1通りであり、その確率は0.098%(=1/1024)である。そして配達先が90か所になると、条件を満たす確率はほぼゼロに等しくなる。

午前中の時間帯指定の困難さ

以上のように、午前中に2つの時間帯指定を設ければ、片方の時間帯に貨物が集中する、あるいは配達時に周回する距離が2倍になるということが起こり、1個あたりの貨物の配達時間が短くなってしまう。よって、配達個数の多い午前中に配達時間帯を指定することは極めて困難であるということになる。

一方で、午後になると配達個数も少なくなるので、時間を調節しながら集荷の合間に指定された時間帯に配達することができるようになる。ただし、午後の時間帯指定についても、個数が多くなると指定された時間帯を守ることが難しくなるはずである。

連載 物流の読解術 第27回:緩やかな配送日指定の可能性(N-1) -効率化を考える(6)-

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