ヒト型ロボット(ヒューマノイド)が10月30日、初めて東京納品代行(千葉県市川市)の物流現場に試験導入され、その様子が公開された。山善とINSOL-HIGH(インソルハイ)が、ことし4月から取り組んできた共同プロジェクトで、人手不足が加速する製造業・物流業へのヒューマノイド実装を目指している。
会場となった東京納品代行の施設内では、ヒューマノイドが倉庫の自動棚から流れてきたボックスの中の荷物を取り出す様子を初公開。未来の物流現場を体験できる機会とあって多くの報道陣が集まり、注目度の高さが伺えた。
<左から、東京納品代行 嶋田常務、山善 北村課長、INSOL-HIGH 磯部CEO>

ヒューマノイドとは「ヒト型ロボット」、つまり人間に近い動作が可能なため汎用性が高く、現状の人手による作業現場に導入しやすいのがポイント。大規模な施設・設備改修を必要とせず昼夜を問わず作業を行え、既存の自動倉庫やAGV等とも親和性が高いという。今回、使用されているのは中国のユニコーン企業、AGI BOT社のヒューマノイド。機体に加え学習データのプラットフォームを構築しオープン化しているのが特徴だ。
東京納品代行では、繁忙期や夜間などの人手不足に課題があり、今回の試験導入に参画した。試験導入のデモンストレーションでは、ヒューマノイドがボックスの中から次々とぬいぐるみを取り出し、別のボックスに入れる「ピック&ドロップ」の作業をお披露目。事前に施設内で行った検証結果によると同作業の成功率は97%、10個ごとケースから取り出す平均タクトタイムは130秒というスピード。アームは可変でき、公開モデルでは片腕3㎏までの荷物に対応可能となっている。
<ヒューマノイド試験導入の様子 初見でもピックでき、追従機能も>
デモでは、ヒューマノイドがぬいぐるみをピックすることができなかった場合も、掴む角度を変えながら調整し、作業を止めずクリアしていく様子も公開。また、ぬいぐるみ以外のモノを入れた場合も初見でピック&ドロップでき、ボックスの中で転がったり、動いたりするモノも追従しピックするなど、自律的な動きや反応に「ヒト型」らしさが垣間見えた。
山善とINSOL-HIGHはことし4月に業務提携を締結。主に生産財と消費財の専門商社である山善は、工場や倉庫でのロボット化、省人化に注力し、ユーザーの課題ワンストップで解決する事業を展開している。ヒューマノイドについて、「他の設備との親和性が高いことが一番の特徴。これまで人手に代わることが難しかった作業にも柔軟に対応でき、今後の新たな選択肢となる。今回の現場実証により、改めて社会実装への自信ができた」と語る。
パートナーとして協業するINSOL-HIGHは、ヒューマノイドに特化したプラットフォームを構築。WES開発など物流に特化したサービスを展開しており、両社で早期の社会実装を加速。今回の試験導入により、磯部宗克 代表取締役(CEO)は「8合目までたどり着いた」という。その上で、今後の重要なポイントとして「ヒューマノイドを自律的に動かすためには、高品質かつ大量の学習データが不可欠となる。まさにこのデータ収集こそが、日本のヒューマノイドロボットの活用への勝ち筋となる」と考えている。
そこで両社は、「フィジカルデータ生成センター」の稼働を2026年春に計画。センターは最大50台のヒューマノイドが同時稼働する大規模なトレーニング施設で、場所は選定中。10社の参画企業を目標に、製造・大手物流関連企業との業界横断コンソ―シアムとして運営しデータを収集。26年度中の社会実装を目標に「人とロボットが共存、協働する社会の実現を目指したい」という。
東京納品代行の嶋田亮司 常務は「物流を止めることは社会的なリスクになる。ヒューマノイドにAIを搭載して学習させていくということに非常に期待している。物流はまだまだ労働集約的な現場でヒューマノイドがどれくらい未来に貢献するのか。課題もあるが今、取り組むことが将来に向けての足がかりとなる」と未来を見据える。ヒューマノイドが物流を動かすのは、遠い未来の話ではなく、その一歩は既に始まっている。
INSOL-HIGH/製造・物流大手と協業、ヒューマノイド稼働へプロジェクト始動

