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特別インタビュー 坂村 健氏/東京大学大学院 情報学環教授

2016年04月20日/物流最前線

IoTは身近に進展している

<坂村 健氏>
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―― 先生は以前、RFIDの研究も行っていました。
坂村 IoTの「モノのインターネット」という言葉は、じつは元々RFIDを使ってモノをインターネットから識別できるようにするという流通業関係のマーケティング用語でした。インターネットと繋ぐのは何もコンピューターを組込まなくても、インターネットとIDでリンクするだけでもいいわけで、当然RFIDも含まれますしQRコードでもいいのです。

―― トレーサビリティ―でも活用が進んでいます。
坂村 青森のリンゴをアジア地区へ輸出しようということになった時に、放射能とかいろいろ気にして、そのリンゴの履歴が欲しいとアジア各国から言われるということで、システムを開発し、コスト面からQRコード(二次元バーコード)を利用したのですが、実際に台湾まで行ってスマホで確認しました。今や、ハンディスキャナすら要らなくなって、スマホのカメラで十分対応できるんですね。また、中国のある病院では、医師や看護師の衣服すべてにRFIDを付けています。何時洗濯したか、細菌性の病人と接しているかいないか等、即座にわかり、院内感染予防に役立てています。洗濯にもアイロンにも耐えるRFIDで、洗濯袋ごとトンネルリーダーで読めるので、こういう目的にはQRコードよりRFIDが向いています。実際、RFIDは知らないうちに、毎年倍増の勢いです。特に海外のアパレル業界では、RFIDのタグをつけることが当たり前になっています。アンチコリジョン(同時複数認識)機能の付いたタグで、在庫管理は格段に効率化しコストも大幅に下がりました。RFIDのリーダーも、ほとんどのスマホにNFC(近距離無線通信)が付いていますからね。アップルのiPhoneではApplePayなどアップルのためにしか使えないようにロックされていてせっかくのNFCリーダーも自由に使えませんが、別付ですがアダプターで対応できます。

―― これらもIoTと言ってよいのですね。
坂村 そうです。IoTはこれから始まるのではなく、すでに始まって一定の期間を経ているものなのです。現実に動いているからこそ、ビッグデータも集まってきているわけです。さらに、最近はクラウド環境が進歩していることから、ビジネスモデルも以前のようにパソコンを買って、パッケージソフトをインストールして使うビジネスモデルとは全く違ってきています。

―― IoTの進展によって人間の働き方も違ってきますね。
坂村 少子高齢化の今、どの産業も人手不足と聞きます。その意味でも、IoTを活用することは、企業経営者としては必須の策となるはずです。工場のロボット化でも、単純労働がようやくロボットでできるようになった。しかも長時間安定して働き、そのうち減価償却でコストは下がる。しかし、人間の能力は非常に高くロボットには出来ないことがまだまだあります。今後は人間にしかできない労働をやっていく時代になったということです。これは、労働者も経営者も十分に自覚しないといけないことです。

―― そのために必要なことは。
坂村 やはり教育でしょう。私も教育者の立場ですから、たとえば40歳くらいになると、全員が再度大学教育を受けるなんてどうでしょう。これは、政府なり企業が保障して、本人の学びたいことを学ぶ。受験時代とは違い、40歳ともなると、ある程度の人生経験を踏んできているわけですから、学習意欲は高いはずです。ネットの社会ですので、大学に通わなくてもできます。期間も2年程度で良いと思います。

―― 再生産に向けてのエネルギーになりますね。
坂村 そういうことです。IoTという言葉でも、その言葉面に惑わされず、業務改善、売り上げ増ができる新しい道具のひとつと思って、積極的に導入してほしいですね。その時代が確実に来ていますし、今がやるべき時です。特に、世界と戦うには、日本の進んだ情報技術を活用しない手はありません。

<ITU150周年記念賞の受賞者。左より坂村健氏、マーク・I・クリボシェフ氏(ロシア)、ロバート・E・カーン氏(米国)、トーマス・ウィーガンド氏(ドイツ)、マーチン・クーパー氏(米国)>
20160420sakamura5 500x332 - 特別インタビュー 坂村 健氏/東京大学大学院 情報学環教授

■プロフィール
坂村 健(さかむら けん)
1951年東京生まれ
工学博士、東京大学大学院情報学環教授、ユビキタス情報社会基盤研究センター長、2002年からYRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長を兼任。2003年に紫綬褒章、2006年に日本学士院賞受賞。
なお、2015年5月ITU(国際電気通信連合)より150周年記念賞が贈られた。受賞者はマイクロソフトのビル・ゲイツ、TCP/IPの仕組みを考えたロバート・E・カーン、セルラー方式を考えたマーチン・クーパー、デジタルテレビのデータ規格のマーク・I・クリボシェフ、マルチメディアデータ圧縮方式のトーマス・ウィーガンド、オープンな組込みシステム開発環境TRONの確立とIoTのコンセプトを世界に最初に提示したことで、坂村健の6人が受賞している。

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