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物流の危機感共有化が
業界と常識の“壁”越える力

2023年05月25日/物流最前線

20230516 ajinomoto icatch3 - 物流最前線・味の素の物流戦略、危機感共有化で改革の“壁”越える

加工食品物流は納品先での待機時間が全産業中ワースト1。ドライバーの附帯作業が多くリードタイムが短い、小ロット多品種多頻度納品など“嫌われる”要素が満載。加えてドライバー不足による物流クライシス、働き方改革(2024年問題)と、3つの危機が押し寄せていた。そんな2014年、53歳にして物流企画部長に任じられたのが、堀尾仁氏だ。ミッションは「100人でやってきた仕事を、50人でまわす」という難題。本人曰く“物流素人”の挑戦が始まった。それまでブラックボックスだった物流費を見える化し、日清オイリオ・カゴメなど食品メーカー5社で「競争は商品で、物流は共同で」をスローガンに19年F-LINEを設立(現取締役)、共同配送に取り組んできた。こうした水平連携に加えて、製配販の課題解決へ向けたFSP会議(垂直連携)や、行政や業界団体との協議(斜め連携)など10年かけて物流改革の土壌を作り上げた。その間、何度も立ちはだかった業界や常識の“壁”。堀尾部長はどのように乗り越えてきたのか、業界課題解決へ荷主と物流事業者が手をとりあうヒントなどについて聞いた。
取材日:4月26日 於:味の素本社

<堀尾部長>
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<味の素本社外観>
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「物流の公器」をつくる
食品メーカー水平連携の壁

――  堀尾さんが物流企画部長になられた当時、味の素の物流はどんな状況でしたか?

堀尾  物流費が前年の1.4倍に膨らんでいましたが、原因はよく分かりませんでした。それまで人事労務や医療事業、経営企画などに携わっていて、物流については素人でしたからね。いろんなところへ行って教えてもらいながら、まずは「配送業者に選ばれる荷主」になろうと物流費を見える化し、モーダルシフトや積載率の向上に取組みました。ところがそれだけでは全然うまくいかなくて、食品メーカー6社(カゴメ、ハウス、日清オイリオ、日清フーズ(現:日清製粉ウェルナ)、ミツカン、味の素)で、翌年2月にF-LINEプロジェクトを立ち上げました。持続可能な物流体制を構築していくために、共同配送と共同幹線輸送、製配販の諸課題について話し合うきっかけとして、スタートはここから始まりました。

――  F-LINEプロジェクトは2019年に法人化されていますね。組織構成は?

堀尾  当時、カゴメ物流サービスやハウス物流サービスなど各社の下に子会社があり、味の素にも味の素物流という会社があったんですが3社統合し、日清フーズ(現:日清製粉ウェルナ)さん、日清オイリオさんにも出資していただいて5社でF-LINE株式会社を立ち上げました。プロジェクトの旗揚げから4年、これが水平連携としてハードのプラットフォームになりました。組織構成の一番のポイントは何かというと味の素の出資が45%だということ。つまり過半数を取ってないということです。それはなぜか、当時旗振りをしていた味の素の伊藤社長(当時)が「これからは物流の『公器』、公の器を作るんだ」という考えを持っていたからです。そういう意味でも本当に、皆でやる、荷主と物流会社が一緒になってやるような会社を作ろうと、必死で4年間頑張って何とかここまできました。

――  共同配送としては先駆的な取組みですね、どのような成果がありましたか?

堀尾  伝票統一と納品先の条件、標準化KPI(「引き取りはしない」「緊急追加をしない」などの「荷主べからず」項目)に基づいた共同輸送を16年から北海道で、19年から九州で開始しました。その結果、北海道では積載率+11%の88%になり、配車台数、CO2ともに減少。幹線輸送共同化では車両滞在時間が45%減、受入センターの車両滞在時間は50%減少しました。九州エリアでは初めて共同在庫拠点を設立し、完全共同配送に取り組んでいます。もちろんこれらはハード面のメリットとしてもちろん大切なことですが、実は伝票統一や納品課題の改善などソフト面での成果が大きいと感じています。

<F-LINEでの共同配送の様子>
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――  具体的にはどんな改善効果が?

堀尾  それまでの伝票はA4の縦分割もあれば、5枚つづりもあって各社バラバラ。当時はいきなり電子化とはいかず、まずは紙のF-LINE伝票に統一しました。納品伝票が統一化されれば、倉庫での待ち時間やドライバーの作業時間が短くなり、効率化につながります。「味の素さんの持って行き方はこうだった」「ハウスさんはこうだった」「じゃあ、2社で一緒に持っていくんだから、こういうふうにしてよ」というような話をするわけです。納品先と協議し、改善していくきっかけになるし、目立たないところではありますが、そういうプラスメリットがあると思います。

――  逆に、共同輸送をやっていくなかで失敗したり、もめたりしたことはありますか?

堀尾  いやそれはもう、今だってもめていますよ(笑)。会社の方針も違えば考え方も違う、もっと言うと、例えば会社の中の、物流部門の位置づけの低さみたいなものも微妙に違います。「営業にそんなことは言えない」というところもあれば、僕みたいに一切構わず、至るところでかみついて喧嘩を売ってしまう人間もいる。紙の伝票を統一化するだけで、ずいぶんと骨が折れました。伝票を変えることによって、版を変えて機械を変えるから0.0何円ちがうとか、そんな世界です。それをどうやって社内に通せばいいか?と。それに対しては、絶対やるんだと。こんなバラバラなのはおかしい、6社の伝票を見せてこれでやれと言うのかと。これはもう絶対やる。もし反対があったら俺が行くからって言いながら、強引にやりました。伝票一つでさえそうですから、他のことはもう大変。まだまだ今でも、考え方の違いからいろんな軋轢はあると思いますね。

――  なるほど。同じ食品メーカーといってもやり方が違う。そうした壁を乗り越えていくためには?

堀尾  やはり「危機感の共有化」が鍵だと思います。水平連携といっても、個社、個社のポリシーは違いますから。そこでトップマネジメントをどう巻き込むか、社長同士のコミットというのも大きいと思います。2015年2月のF-LINEプロジェクト立ち上げの時もちょっと芝居じみた演出をしました。帝国ホテルのエグゼクティブフロアの一室を借りて、6社の社長がテーブルを囲み、ペンが立っているような調印台をまわして1人ずつサインするんです。血判に近いですよね、何の法的拘束力もないんですが、こんなことをやります、という理念を書いた紙にサインしてもらって、終わった瞬間にプレスリリースを流しました。法的拘束力がなくても、トップにはプライドがありますから、理念と反することはもうこれ以上できなくなるわけです。そうすると中間層にいるような物流担当の役付き役員や物流部長も、とにかくトップが「これをやるんだ」と言ってくれていることが後押しになる。あともう一つ、「競争は商品で、物流は共同で」という理念の共有が、実はとても大切だと思っています。やっぱり紛糾するんですよ、100のうち99は紛糾するんです。だからこそ、経済的な価値と社会的価値を両立させる、という理念を最初に決めて、立ち返るための物差しを持つべきだと思います。

あとは、個社ごとの事情を共有化することも大切です。なかにはものすごく堅い会社があるわけです。何かを決めるときに、例えば20何か所のハードルがあるとして、「全体最適やれよ」と言うとちょっと遠くなってしまいますが、「それをクリアするにはこの資料を使った方がいいよ」とか、「うちも似たようなところをこれで使ったよ」と資料の共有化をやっていく。個社事情を共有化すると、実は事務局がみんな仲間になって、個社ごとの壁にぶち当たっていくことができるようになっていきます。

―― 共同配送を現在の6社から、さらに増やしていくという構想はあるのでしょうか。

堀尾  あります。もともと2015年2月にF-LINEプロジェクトを立ち上げたときも、理念と考え方が同じ企業にどんどん門戸を開きますので来てくださいということは言っています。ただ、現実的に2015年、もしくは2019年から参加は増えていないので、もう1回原点に戻って拡大シフトにチェンジしたいと思っています。

――  F-LINEでは今年4月に「物流未来研究所」を立ち上げられたそうですね。ここでは何を?

堀尾  荷主と物流企業が一体となった「F-LINEプロジェクトだから実現できる」ユニークで魅力的な戦略、施策を議論し、物流課題解決へ向けた取り組みを拡大、加速させることが目的です。実は2024年問題を前に、昨年の春に参加メーカーと新たに「F-LINEプロジェクト第2期」をスタートしています。新設した未来研究所では、現在の参加企業6社以外の荷主との連携も視野に入れて、荷主と物流会社と納品先がいいなというものをつくって、それをみんなに開放する。「持続可能な加工食品物流の構築から、日雑業界ふくめ日本全体へ」を念頭に、ライオンさんや花王さん等他業種の方々とも話をしています。

<これまでの連携活動の概観>

20230516 ajinomoto fig01 - 物流最前線・味の素の物流戦略、危機感共有化で改革の“壁”越える<F-LINEとSBM会議>
2015年に6社(カゴメ、ハウス、日清オイリオ、日清フーズ(現:日清製粉ウェルナ)、ミツカン、味の素)でスタートしたF-LINEプロジェクト。これにキューピーとキッコーマンを加えた8社は、製配販の課題解決を目的に「SBM会議(食品物流未来推進会議)」を2016年5月から開始している。主な検討内容は、手待ち時間や附帯作業、納品方法などの共通課題への対応。こうした水平連携の動きが、2018年5月の「持続可能な加工食品物流検討会」(製配販3層+行政)や、同6月の「加工食品における生産性向上及びトラックドライバーの労働時間改善に関する懇談会」(加工食品業界団体+行政)などへと垂直連携、そして斜め連携へとつながっていく。

「製・配・販」連携への壁
共同目標の腹落ちがポイント

<堀尾部長>
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――  SBM会議ではどんなことに取り組んでいるのですか?

堀尾  外箱表示の統一化や賞味期限年月表示化、フォークリフト作業の安全確保、リードタイム延長、附帯作業の定義、長時間待機などの課題解決に取り組んでいます。一番大きいのはリードタイムの延長ですね。これは一度にはなかなかできないんですが、今キユーピーさんが先行して、キッコーマンさんがやって、次に味の素がやってというところまできています。それらも7~8割まではOKなんですが、残りの3割の納品先とも共同で検討しており、あと一歩のところまできています。

物流改革はメーカーの水平連携だけではどうしても無理で、食品物流に携わっているサプライチェーン全体の製(メーカー)・配(卸)・販(小売)の3層で垂直にも連携していかなくてはいけないと、日食協や各小売団体と一緒に課題解決に取り組んでいます。さらにこれを深掘りしていくと、食品業界以外にもいろんな方々と連携していく必要があり、私は水平、垂直、斜めと言っていますが、行政当局や業界団体と一緒に、商慣行の見直しを含めて日本の物流そのものが少し変わっていかないといけない、加工食品だけ良くても駄目だろうなということ頭の中に置きながら、動いています。

――  商慣行自体も製造と卸と小売りでは、全く違いますね。そこを串刺しにしていくのは並大抵のことではないように思いますが。

堀尾  その通りです。難しくしている1つの要因は、例えば卸さんでもメーカーでも実は物流担当者はわかっていても、判断する立場の人は物流担当者ではない。営業系だったり事業系だったり、調達系だったり。すると、そこはそこの理屈で判断するし、物流関係者は物流関係者で苦しんでいる。卸さんのなかでもおそらく2つに分かれるんです。それはメーカーも同じで、物流担当者は横でつながりますが、営業担当者とは意見が合わないわけで、そこを埋めていく作業というのは、結構な骨ですね。

――  そこをどう、埋めていかれたのですか?

堀尾  やってみてわかったのは、実はお互い全く実態を知っていなかったということ。小売さんはなおさらで「えっ、そんなことになっているの」と。それはやはり場を持って、データを見せて、やり取りしてというところでだいぶ変わってきました。第一は実態、事実の共有からだと思います。すると「そりゃそうだよね」「それは無理だよね」となる。どこに共通の目標を置くのか、何を目指すのかというのは、卸さんとメーカー間では「持続可能な加工食品物流の構築」という合言葉で語っていて、お互いの共通目標を腹落ちさせていると言っていいと思います。

――  長年行ってきた実態を「知らなかった」と?

堀尾  モノが言える関係になかった…という感じですね。それでも、これまでは問題なくなんとか運べていたからだと思います。物流の危機感というのがお互いのベースとして生まれた瞬間、「ちょっと聞いてみようかな」という感じに変わったのではないかと思います。今までは当たり前のように、長時間待たせて附帯作業をさせても、物流会社は一生けん命やってきたわけです。だから経営のリスクとして考えなかった。これがもう常習化して常態化してしまっている。だから物流の情報なんてお互い知らなくてもよかった。ところが、運べないかも、という話になったときに、ちょっと耳を貸してくれる。徒党を組んで何かいっているぞと、そんな感じに変わってきていると思いますね。

――  物流革命は今こそチャンス、ということですか。

堀尾  いろんなところで、今回で変わらなかったら、変わらないですよと言っています。これは絶対、ラストチャンスだと僕は思っています。それは僕が、物流にかぶれていなかったから言えることかもしれません。改革の一歩目は、おかしいことはおかしい、というところから始まりますから。

ただ、実際にやってみて、社内他部門にも壁があることがわかりました。実は知らないんです。営業は私たちが騒いでいるほど、物流のことは知らない。そこで社内広報のありとあらゆるものを使って、物流というものを、物流現場で何が起こっているかというのを、非常に小さな事例でも公にしました。僕は月1回、食品事業本部全体でやっている事業部長と営業のトップが出てくるような会議で、こんなことを言っています。「△△の●●物産では、6時間待って、持ち戻って次の日行ったら7時間待って届けた」。そういう話をすると「そんなことが起こっているの!」と驚かれます。社内でも物流に関心を持ってもらうことは、非常に大切だと思いますね。

――  最近では2024年問題をふまえ、持続可能な物流に向けた動きも活発化し、追い風になっているのでは?味の素さんではどう取り組まれていますか。

堀尾  味の素としては、行政の動き(総合物流大綱、フィジカルインターネット実現ロードマップ)をふまえて、目指すべき姿をあらためて設定し、取組みを再整理しています。大きく3つにわかれますが、とにかく安定した物流をしなくてはいけないということで「止めない物流」。これらは総合物流施策大綱の3つのカテゴリーに沿っていて、我々、物流企画部としての仕事が、国の政策と関係あるんだよということを内部でマネジメントしています。物流費マネジメントの高度化というと、よく「メリットシェア」と言われますが、改善してもメリットが見えないような、ひと山いくらの物流費ではなく、ちゃんと改善が反映される料金体系にしないとメリットなんて算出できないということで、味の素で今先行してやっているところです。2つ目は「BCP対応、安定した物流オペレーション」。これだけ災害が多くなってくると、実はここはとても大きなポイントになります。あとは「担い手にやさしい物流」、いわゆる足元課題ですね。納品リードタイムの延長、長時間待機・附帯作業をなくす、ASN検品レス、納品期限の緩和(1/2ルール)の採用などですね。

<味の素の「持続可能な加工食品物流構築」に向けた取り組み>
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一番のポイントはここ、足元課題です。実は2019年2月に、リードタイムを延長したという文書を出して、70%は2日になっていますが、残り30%はノーと言われている。その30%を何とかしたいということで、SBM会議と日食協、製-配の間で検討を本格化しました。それが去年、小売さんを入れたFSP(フードサプライチェーン・サステナビリティプロジェクト)会議で、私たちの意見に賛同してくれた小売業協会の日本スーパーマーケット協会の幹事会社の4社(サミット・マルエツ・ヤオコー・ライフコーポレーション)が、今年3月に「持続可能な食品物流構築に向けた取り組み」を宣言した、という流れになっているわけです。共同会見の壇上には、そこに関わってきたキユーピーの前田さん、日食協の時岡さん、それから三菱食品の小谷さん、それからSBM会議代表として僕も一緒に参列し、「やっとここまできた」と感慨深いものがありました。

<持続可能な食品物流に向けた取り組みを宣言>

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2023年3月16日、安定的な食品提供の維持と食品物流構築へ、サミット・マルエツ・ヤオコー・ライフコーポレーションの大手スーパー4社が共同で取り組むことを宣言した。主な内容は加工食品における発注時間の見直しや、特売品・新商品のおける発注・納品リードタイムの確保、納品期限の緩和(1/2ルール)の採用など。また、2024年問題をふまえ、物流分野を各社の「協力領域」と捉え、各社の協力による物流効率化を研究する「首都圏SM物流研究会」を発足した。記者発表には、大手スーパー4社の代表とともに日本加工食品卸協会、行政(経産省・農水省)担当者らが一堂に会し、宣言を見守った。

物流改革は葛藤の連続
官民の壁や立場の壁

<堀尾部長>
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――  これから業界の枠を越えてサプライチェーン全体の物流効率化に取り組まれていくわけですね。どういう未来を描いていますか?

堀尾  これは少し先の話です。先々の物流ということで「スマート物流」に持っていくためには、やっぱり軸は標準化だと思っています。そのために今、我々がやらなくてはいけないのは、納品伝票の電子化ですね。そして外装サイズの標準化、コード体系。これ実は本当に厄介でバラバラなので、これを合わせていきたい。

今はアナログで紙・目・手・鉛筆なんです。その次の段階にいくとデジタル化で、個別業務ごと、個社ごとにシステムを入れるって、予約受付システムというのはまさにそうですが、システム会社によって仕様と使い方がバラバラで、個別最適にはなるけど全体最適にはならない。伝票電子化も、実は出し側の物流会社は、納める先の入れているシステムによって違う作業をするとなると、全く非効率的になる。そこを何とか合わせたいということで、「エコシステム」という名前をつけて取り組んでいます。データプラットフォームができれば、もっと究極に効率的な物流ができる。それを食品だけではなく日雑系団体と結べば物流そのものが変わっていく、というようなことを頭の中に描いています。相当難しいと思いますが、言い方を変えると、この世界が所謂「フィジカルインターネット」だと思っています。

――  フィジカルインターネットは、国も力を入れていますね。

堀尾  そうですね、最後のポイントは行政側との連携です。経産省、農水省、国交省は今まさに連携して、「持続可能な物流に向けた検討会」をやっている。国交省が推進するホワイト物流運動や2021年度から総合物流政策大綱策定にも僕は関わっていて、経産省のフィジカルインターネット実現アクションプラン(2022~2030年)のワーキンググループには、私たちSBMの代表が入っているんです。そこから一歩、二歩進めてFSPや小売4社の共同宣言に結びついた。その底辺には、私たちが水平連携でやってきたSBM会議や、F-LINEプロジェクトというメーカーの水平連携がある、そういう構図になっています。

こうして今、メーカーの水平連携と日食協という卸の水平連携同士を縦でつなぐ、というスキームがやっとできたなと。これで社会標準を作っていける形ができた。だから嬉しくて仕方がないんです。それに行政側を巻き込みながら(斜め連携)見てもらっている。彼らが立てた方針に従って、持続可能な物流の実現に向けた検討会を中心に、一体になってやっているという意識を皆が持って取り組んでいます。

<今、そしてこれからの改革活動への全体スキーム>
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――  官民の間に、壁は感じませんか?

堀尾  この間、よい言葉を見つけました。「以民促官」、民を持って官を促す。すこし偉そうに聞こえるかもしれませんが、これは日中国交回復のときの周恩来の言葉です。国交回復は政治の世界ではなく、民間外交をしながら既成事実を作っていくということですね。この20年、30年を自分の感覚でみると、民は官のせいにして、官はガイドラインを作って終わり、というのがいけなかったんだろうと。ただ、最近の「持続可能な物流に向けた検討会」で、物流改革に対し法的措置まで一歩も二歩も踏み込んだというのは、実効性向上に向けて僕は大賛成なんです。

ただ、省エネ法と同じように個別単位で規制をかけて、その進捗を追いかけるのだけはやめてほしいと思っています。なぜなら、例えば「予約システムをいれれば1点あげる」といわれたら水平、垂直でそのサプライチェーン全体でどんな不都合が起きているのかを無視して、個別最適を助長することになりかねないからです。物流課題の解決は製配販が連携しなければいけないことはご存じの通り。だから個別ではなく、全体の物流改善に対する1点にしてもらわないと、と思っています。とりまとめ案発出以降、どうやって改革を進めていくかが最大のポイントで、改革進捗管理を担う方々と製配販3層メンバーで連携を密にして進めていきたいと思っています。

―― 堀尾さんは、メーカー(味の素)の上席理事であり、F-LINEの役員でもありますね。板挟みになったりしないのですか。

堀尾  そこはやはり壁がありますね。荷主と委託事業者なんですから、利害は一致していなくて当然です、垂直連携と同じように。僕の頭の右半分は荷主で、左半分は物流事業者なので、これについては悩みに悩むしかないんです。どこかに物流を投げるのではなく、自分たちで運ぶという選択をしたんだから、どの解が正しいのかということを、2つの脳でバチバチやりながら、ずっと悩んでいくしかないと思っています。

――  難しいですね。判断に迷ったとき、堀尾さんの原点となる思いとは。

堀尾  物流をどう社会に必要不可欠な機能であるか、インフラであるかという認識を、きちんと社会全体でもってもらうということはしていきたい。それは味の素の仕事か、と言われてしまいますけれども、やっぱりそれが返ってきて、自分たちが開発した商品をちゃんと届けてもらえるようになる。かなり遠いですし、壁は何層もありますが、このままこの物流が持続可能かというのは相当厳しい状況ですから、それをずっと言い続けて、物流そのものの大事さみたいなものを、世の中にもっともっと訴えていかないといけないと思っています。味の素には社会価値と経済価値を協創する「ASV(Ajinomoto Group Shared Value)経営」という基本方針があります。この思いが、物流改革の原点となっていることも大きいと思います。

(取材・執筆:近藤照美)

■プロフィール
味の素 上席理事
食品事業本部 物流企画部長
堀尾 仁
1985年4月 味の素入社
1989年7月 本社調味料部需給管理グループ
1993年7月 医薬事業部
2002年7月 人事部人事グループ、翌年労務グループに異動
給与業務シェアドサービスに出向(2007年から2年間)
2014年7月 食品事業本部 物流企画部長

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