CBREは10月5日、首都圏の大型マルチテナント型物流施設(large multi-tenant、LMT)の今後竣工する予定の物流施設の内定率が低下していることを受けて、内定率のトレンドと、その背景要因について検証した。
それによると、首都圏では大型マルチテナント型物流施設(large multi-tenant、LMT)の新規供給が2021年から2023年にかけて3年連続で過去最高を更新する見込みとなっている。そして、この大量供給を背景に、空室率は2023年にかけてもう一段上昇することが想定される。さらに、今後竣工する予定の物流施設の「内定率」が低下していることを受けて、テナント需要が弱含んでいるのではないかと懸念する声が一部から聞かれるようになった。
<向こう一年の竣工予定物件の内定面積と内定率推移(四半期)>
「内定率」とは、今後竣工する物件の貸室総面積のうち、竣工前にテナントが決定している面積の割合を指す。CBRE調べでは、2022年第2四半期(Q2)時点で向こう1年に竣工する予定の物件の貸室総面積は90万坪と、過去に例をみない水準となる見込みである。これに対してテナントが内定している面積は25.4万坪で、内定率は27.0%だった。
Figure 2では、ある時点から1年の間に竣工する物件の内定率を、四半期ごとの時系列で示している。2020年Q3に62.3%のピークを付け、その後もしばらく高い水準が続いたが、2021年Q3以降は低下傾向が鮮明となっている。直近3四半期はグラフで示した期間の平均(約40%)を下回っている。
ただし、内定率が下がったからテナント需要が後退しているとは必ずしも言えない。当然ながら、先々の新規供給が増えると計算の分母が大きくなるため、内定面積が減らなくても内定率は低下する。本年Q2時点の向こう一年の内定面積は約25万坪と、グラフで示した期間の平均である約20万坪を上回っている。内定面積は決して少なくない。
また、2023年にかけて大量供給が予定されていることから、テナント企業の選択肢は広がっている。このような局面においては、テナント企業がより選別的になると同時に、急いで今後竣工する物件を押さえる必要がなく、契約締結までに時間をかけることが考えられる。このこともまた、直近において内定率が下がっている理由として挙げられる。
2021年下期以降、内定率は低下局面に入っている。先に述べた通り、その根本的な要因はコロナ禍で高まった人気を背景に物流施設の開発が進み、その多くが2023年までに竣工することにある。一方、テナント需要は2018年から2020年にかけてみられたような過熱した状況ではないものの、内定面積の絶対量からも減退しているとは言えない。CBREが2022年3月に実施したテナントアンケート調査でも、テナント企業の75%が向こう3年間で倉庫の面積を、63%が拠点数を増やす計画だと回答しており<物流施設利用に関するテナント調査 2022>、物流企業を中心としたテナントの拡張意欲は依然強いとみられる。
つまり、内定率は需要の潮目の変化を判断する指標の一つにはなり得るが、それだけで需要の強弱を判断することはできない。供給量や空室率もさることながら、内定面積や、その背景事情などを総合的に検証する必
要がある。
<内定率(年平均)、竣工物件のECの荷物割合、1万坪以上の契約の割合>
なお、ECの荷物の割合が直近で下がっているように見えるが、EC事業者の拡張意欲も決して後退していない。CBREの集計値は大型マルチテナント型の賃貸物件が対象であり、テナントの求める仕様に合わせて開発される物件(built-to-suit、BTS)を含まない。最近ではEC事業者がさらなる自動化・効率化を図るためにBTS型物件に入居するケースも複数確認されている。そのような物件が集計に含まれないことも、最近の内定率低下のもう一つの要因として考えられる。
いずれにしても、首都圏における新規供給の調整には時間がかかることから、内定率は来年前半までは低い水準で推移することが想定される。このこと自体は懸念材料とはならないが、特に2023年Q1以降において、国道16号エリアと圏央道エリアでの竣工が多くなることには留意すべきである。中には茨城県のつくば市や古河市などの新しい立地、しかもより都心から離れた地域での開発が含まれており、この点で2016年ごろの状況と似ていると言えるだろう。
そのような立地が物流エリアとして定着するかどうか次第で、内定率はさらに押し下げられる可能性もある。そして、内定率が下がると競合が激しくなり、物件のスペックや立地によってテナント誘致に違いが出てくることが想定される。今後は個別物件のパフォーマンスの差がより鮮明になるだろう、としている。