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DXは可視化がスタート
部分最適から全体最適へ

2024年01月22日/物流最前線

<田村常務執行役員SCM統括>
20231213mitsubishif5 - 物流最前線/三菱食品 田村幸士取締役常務執行役員SCM統括に聞く

広がり見せる2024年問題
可視化することがスタート

――  2024年問題は2024年で終わりではなく、スタートしたばかりで、この課題はこれからもずっと続いていきます。すでに2030年問題に対応していこうとする企業もあります。

田村  我々も2024年問題に関してはよく小売りさんとも協議させてもらっています。例えばリードタイム一つにしても、当日配送は勘弁してほしいですし、本当に翌日配送が必要なのか、2日後ではだめなのか、週5日間毎日配送しないとだめなのか、よく話し合わなければならないと思っています。決してこれまでの慣習だからでは、解決しない問題ですので、小売りさんにも理解を求めています。また、日本加工食品卸協会でも、メーカーさん、小売りさん、卸と3者で、全体のサプライチェーンを維持するための議論を行っている最中です。まさに、サプライチェーンの上流、中流、下流で総合的な対策を行っています。その代表として当社の小谷(小谷光司 執行役員SCM統括 統括オフィス室長)が調整役として奮闘しています。

――  上中下でまとめ上げることは至難の技ですね。辛い役割ではないですか。

小谷  もっと辛いことはこれまでも多くありましたから、気にはしていません。現在、小売業さんの理解が進んで良い方向に進展しています。2024年問題も広がりを見せています。

田村  2024年問題がここまで国民一般にまで広がってきたことは大きいですね。これまででしたら、物流の世界だけの話題で流されていたように感じます。今回は「運べない」「運んでもらえない」というキーワードが、多くの人たちの危機感を生んだものと思われます。ただ、2017年には宅配クライシスが起こったわけですから、もう少し早く気付くべきでしたね。

――  2024年問題の政策パッケージが発表されました。その中には標準化と共に、協業・共同という政策も挙がっています。

田村  物流協業という点については、同業他社さんも同じような状況にあり、競争関係の中での協業・共同といった協調は非常に難しい話ではあります。ただ、他の食品卸さんとは過疎地というか、人口の少ない地域で苦労していることから、こういったところで組めるのではないかと、思っています。まずは組めるところで組んでいこうとお話をさせてもらっています。

――  異業種との共同化については。

田村  食品以外の全く違ったコモディティーを扱っている異業種企業とは、お互いこれまで話す機会も少なかったわけです。ところが、話してみると、物流という点でやはり同じような悩みをかかえていることがわかりました。お互い目的がはっきりしているので、そこからまずは一緒にやりましょうということで、こうした試みは、水面下で話を進めています。

――  2024年問題の輸送力不足の大きな要因の一つにトラックの積載率が低いことが問題になっています。

田村  トラックの積載率というか、回転率、稼働率を上げなければなりません。24時間100%で運べれば一番理想的ですね。しかし実際には、トラックの現在の積載率は4割を切っていますし、つまり6割は空気を運んでいるわけです。そして、積載率自体も年々下がってきています。原因は、物流自体が複雑になってきて、小口化や時間指定等の様々な理由があり、それが物流の質の問題にも絡んでくる話なので、質をあきらめずに積載率を上げていくのはすごく大変なことです。当社でも、チャーターしているトラックは1日約7600台程度ありますが、このトラックの積載率を上げていくためには、イロハのイとして、まずはその実態をきちんと把握できるように可視化していかなければなりません。

――  積載率改善のスタートが可視化ということですね。

田村  そういうことです。これまでは、輸送業者さんに「AからBまで運んでください」ということで、何%空いているのかには思いが至っておらず、全くお任せの状況でした。そのトラックがどれだけの量を積んでいるのか、どこまで運んで、その後の帰り荷はどうなのかまでは考えていませんでした。この部分の把握が結構時間と手間がかかるのですが、最近では動態管理システムが導入されているトラックも多く、このようなシステムを100%整えようと思っています。そこではじき出されたデータを基にすることで可視化ができます。共同配送等で、他社と話すときにトラックの荷台の何%が空いているのかすぐに答えられないのでは話になりません。まずは可視化。これがスタートだと思っています。物流DXという言葉が氾濫していますが、「難しいことは言わずにDXは可視化だよ、見えた結果がデータになっていれば、それを使って様々な対策が打てるよ」と話しています。

――  荷主側になると、輸送実態をつかんでいない企業が多いようです。

田村  輸送事業者さんは当然初めから積載率の向上を研究しています。我々は荷主ということで、輸送事業者さんに任せきりになっていた面は否めません。そこはもう一歩踏み込んでいこうとしています。

――  このところ共同物流とか合積みが話題になっています。

田村  共同物流や合積みとは、同じ車両の中に複数の荷主の荷物を積み合わせるわけですが、それに関しては大手の荷主間では人間が考える範囲では、ほぼ実現できていると思います。ニュースになること自体が不思議です。A社とB社がたまたま似たような方向に行くので一緒にしましょうという程度の変数ならば人間の頭で組み合わせができます。そこに、数社が参入してきたり、ルートも数ルートになってくると人間の手に負えません。荷主同士が集まって共同物流をやりましょうと言っても、限界があります。さらに、スポット配車がある場合はどうするのか、話し合っている暇はありません。そこはマッチングとかシェアリングという仕組みでやらないとできません。全体のアセットの稼働率を上げていくための仕組みを例えば、AIの力を借りてやっていくことを目指すべきだと思います。

――  可視化してデータを集めて、それを分析してそれをAIの力でどうすれば一番効率的な運び方ができるのかを打ち出していくと。

田村  そういうことです。可視化の次のステージは最適化です。弊社でも物流DX部隊を作ったのですが、私は「まず可視化をして、可視化した結果を最適化しなさい」と伝えています。この考え方ができると、これはありとあらゆるアセット、例えば人的リソースでも同じで、倉庫スペースの問題も同じです。どこにでも使えるようになるので、我々の物流DXの解は「可視化と最適化」というように割り切っています。

<三菱食品の「総合報告書2023」>
20231213mitsubishif6 - 物流最前線/三菱食品 田村幸士取締役常務執行役員SCM統括に聞く
https://www.mitsubishi-shokuhin.com/ir/library/annualreport/

<「trucking」取り引きの流れ>
20231213mitsubishif7 - 物流最前線/三菱食品 田村幸士取締役常務執行役員SCM統括に聞く

待機時間削減、配送効率改善
進む三菱食品の物流改革

――  御社では持続可能な物流構築のため、現在具体的にいくつかの取り組みを展開しています。

田村  限られたリソースを最大限活用して、4つの取り組みをスタートしています。まずやり方の部分で1.ドライバーの待機・荷下ろし時間削減、2.車両の配送効率改善、3.車両の積載効率改善、そして商慣習の取り組みとして、4.製配販の連携によるリードタイム延長・納入条件見直しを行っています。

――  まず、ドライバーの待機、荷下ろし時間の削減に対する御社の取り組みとは。

田村  これは先ほどお話した業界団体である日本加工食品卸協会の入荷受付/予約システムであるN-Torusを活用して可視化を進めていく方針です。ただ、まだ50か所程度なので展開を急ピッチで進め、アナログ手法も織り交ぜて、全国の物流センター各々の入荷待機時間や荷下ろし時間の実態を日々把握しています。また、長時間待機・荷下ろし時間の削減の打ち手として、入荷予約システムだけでは充分ではなく、個々のセンターにより事情が異なるため入荷時間枠の拡大や入荷時間の分散、パレット入荷・カゴ車入荷拡充、入荷作業員の増員、入荷頻度の低減、ハイ組入荷(パレットに効率的に商品を積みつけるための組み合わせパターン)をセンター毎に組み合わせて入荷時間削減に取り組んでいます。

――  基幹センターの白岡DCではすでに大きな効果を生んでいるようですね。

田村  今年2月から5月を比較した数字ですが、荷待ち時間30分以上が25%から7%に、パレット荷下ろし時間60分以上が66%から26%にそれぞれ大幅に減少しています。さらなる入荷作業の効率化に向けて引き続き取り組み、モノを運ぶ時間を創出し、限りある配送車両の回転率を上げて輸送能力向上をめざします。

――  車両の配送効率改善に対する取り組みについて。

田村  Hacobuとタイアップして配送実績可視化ツール、つまり車両動態管理と積載情報を常時把握できる仕組みを関東エリアの約3500台に導入を進めています。早期に全国の配送車両に展開する予定です。

――  これまでの導入からどのような効果を期待されていますか。

田村  これまで、定期的に配送ダイヤの組み替えを実施するなど、個々の物流センターでは効率的な配送の実現に取り組んできましたが、各物流センターの配送要件の範囲内での効率化にとどまっており、一定の非効率な配送便が発生していました。そこで、同一エリアで全く同じ仕組みを導入することにより、各物流センターの非効率な配送便が一元的に可視化され、エリア全体での配送効率改善を目指しています。これにより、モノを運ぶ時間と空間を活用し、限りある配送車両の配送効率を向上して、輸送能力アップを目指しています。

――  車両の積載効率改善については。

田村  2024年問題の対応として、従来活用が困難とされてきたトラックの空きスペースなどを、配送実績データの活用と、運送事業者との相互協力により有効活用する取り組みを進めています。2022年4月、メーカーの課題解決と新たな価値創造を実現するため、当社のトラック輸送ネットワークの空きスペースなどをシェアリングする「余剰シェアリングサービス」をスモールスタートしました。2023年9月「トラック輸送を現在進行形でトランスフォーム」したいという思いを込めて、名称を「Trucxing」(トラクシング)とするとともに、Webサイトも立ち上げ、正式なサービスとしてスタートしました。この取り組みがトラックの空きスペースに課題のある運送事業者やトラック調達に困っていたメーカーの一助になれればと思っています。

――  製配販の連携によるリードタイム延長・納入条件見直しについては。

田村  2021年度から食品物流未来推進会議に参画されているメーカーと日食協の物流問題研究会で、メーカー、卸間のリードタイム延長を実現するために課題を共有して議論してきました。リードタイムを1日延長するに際し、メーカーと卸が少しずつ歩み寄りできる条件を調整した結果、メーカーの受注時刻の後ろ倒し、緊急対応への許容と、卸の緊急対応の抑制、需要予測精度の向上、一定の在庫増加リスクへの対応を落としどころとして、リードタイム延長実施の合意を図る事が出来ました。

――  小売業界との取り組みについてはどうでしょう。

田村  小売業界団体3団体に声掛けを行い、フードサプライチェーンサスティナビリティプロジェクト(FSP)という取り組みに発展しました。小売業界においても、2023年3月に首都圏大手スーパー4社による持続可能な物流に向けた取り組みを行う首都圏SM物流研究会が発足しています。

――  さまざまな改革を実行していますね。ところで最近では、キユーソー流通システムとの物流事業統合の発表がありました。

田村  実は自社で運営している冷凍倉庫は1か所だけでして、それまではフローズンは全部営業倉庫事業者さんにお願いしていました。しかし、今後は自分たちでやっていく必要があるだろうということで、ゼロから始めるのはなかなか難しいので、戦略的なパートナーシップを探していました。これまでキユーソーさん、キユーピーさんとも付き合いが深く、親和性もあることから、お声がけさせていただいたわけです。お互いにメリットあるパートナーシップを築いていきたいと思っています。

――  最後になりますが、LNEWSの読者に対してメッセージをお願いします。

田村  物流マーケットの需要と供給のバランスが偏っていたこともあってか、これまで荷主は物流事業者を「使い倒せばいいんだ」みたいな話をよく聞きました。本当は物流事業者は戦略的パートナーであるはずなのに、その認識が持てないまま、今はもうそんな時代じゃないことを理解できてなかったのですね。荷主側から物流事業者に当然要求することもありますが、物流事業者側からもどんどん要求してほしいと思っています。物流事業者が電気代の値上げ、軽油の値上げ等はコントロールできないですからね。「言うと切られる」なんてことは今はあり得ません。それと共に、我々はパートナーですので、現場の物流事業者は我々の代理人となります。立ち振る舞い1つで良くも悪くも一蓮托生の関係になります。良い意味でのパートナーシップをお互いに醸成したいと思っています。

――  物流の責任者として、この時期は結構ストレスがたまるのでは。

田村  一番のストレス解消法は未来の物流の話をすることです。仕事じゃないですよ。今は、様々な技術が進歩して、物流をどう変えていくかという選択肢が非常に多く、妄想も含めて考えているのがとても楽しいです。よく部下から相談や質問をされたときに「ドラえもんに頼んでごらん」と言います。そうするとドラえもんが何を出してくれるか、それがソリューションなのですね。タケコプターからドローンの発想が生まれたかもしれない。こういうことをあれこれと考えています。物流業界は今が一番面白い時です。ですので、もっともっと多くの人が物流業界に入って活躍して欲しいですね。

――  田村さんが今ドラえもんにお願いするとしたら。

田村  1日が3日くらいあるといいですね。やはり時間です。世の中時間を掛ければ円滑にできることでも、やはり時間制限がありますからね。時間の問題はどうしても最終的に残る課題です。

――  2024年4月まで時間はとても貴重ですね。卸独自の視点での改革を期待しています。

取材・執筆 山内公雄、近藤照美

<田村常務執行役員>
20231213mitsubishif8 - 物流最前線/三菱食品 田村幸士取締役常務執行役員SCM統括に聞く

■プロフィール
田村 幸士(たむら こうじ)
取締役(兼)常務執行役員
SCM統括
職歴
1988年4月 三菱商事入社
2018年4月 同社物流事業本部長
2020年6月 三菱食品取締役
2021年4月 同社取締役(兼)常務執行役員
SCM統括(現任)

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