過去は卸不要論が唱えられていた時期もあったが、宅配クライシス、コロナ禍を経て、その存在感をより一層高めている食品卸業界。その最大手の一つが三菱食品だ。2024年問題が間近に控えている中、食品という人間にとっては欠かすことのできない商品を扱っているだけに、課題はより深刻だ。この問題に対して同社取締役の田村幸士 常務執行役員SCM統括は「卸機能は必要なときに、必要なものを必要な形態で届けるということ。これは当社の最も重要な基盤」と言い切る。2024年、そして2030年問題の『届けられない危機』に対し、「大きな変革期だけに物流は今が一番面白い時代」と捉える田村常務に次の一手を聞いてみた。
取材日:11月21日 於:三菱食品本社
ケースをピースにすること
メーカーと小売りを結ぶ
―― 食品卸大手の立場から物流機能をどのように捉えていますか。
田村 以前、卸という中間流通はいらないと言われた時代がありましたが、中間流通には様々な機能があります。特に食品の業界は非常に多数の食品メーカーがおり、最終的に販売する小売りの部分には、スーパーマーケット、コンビニ、ドラッグストア等があり、外食産業もあります。珍しい部分では、映画館でスナックを販売していますが、その部分にも私たちが商品供給しています。食は人間生活に欠かすことのできない部分ですし、多数のメ―カーと多数の小売り販売店を結ぶ機能というのはどうしても必要になります。
物流の観点からは、食品を工場で製造した段階では、ほぼ段ボールに入って出荷されます。つまりケースで出荷されるわけです。でも、消費者が店頭で商品を手に取るときは、一つ一つがピースになっています。工場でケースの形で出荷されたものを必要な時に、必要なだけピースの形でお店に並べているわけです。実は、それが中間流通の物流が果たしている役割なのです。
―― ケースをピースにすることですか。
田村 とても単純な話で、卸について私がよく話していることなのですが、極端に言うと、まさにケースをピースにして供給しているだけなのです。しかし、単純とは言ってもケースをピースにするのは結構大変なことです。しかも、必要な時に必要な量を求められる形でピースにしなくてはなりません。特に食べ物には賞味期限があり、決められた時間とか様々な条件の中で、求められる形で提供するというのは、メーカーさんだけではなかなかできない機能です。御存知のように、食品メーカーは大企業ばかりではありませんし、日本では中小の食品メーカーさんにも有名で優良な企業が数多くあります。その方たちの、ある意味ではお手伝いという観点もあり、また、小売店が必要な形で店頭に並べるお手伝いという側面もあり、我々中間流通が重要な社会的機能を果たしていると自負しています。
―― ロジスティクスの観点からはいかがですか。
田村 よく「ロジスティクスは何だ?」というときに、「必要なときに必要な量だけ必要な形で届ける」と言われています。そういう機能はやはり誰かが果たしていかなければなりません。自然な市場メカニズムだけでは達成できないので、誰かが調整するという機能・役割を持つことは間違いなく必要ですし、それが社会的なコストの低減にもつながっていると思います。時間と空間、そして情報や形状、そういったものをコンバート(変換)していく役割というのは、日本の流通業界、あるいは食品流通においてはまだまだ必要だと思っています。
―― 自然な市場メカニズムだけでは達成できないとは。
田村 現在、当社が扱っている食品メーカーさんは約6500社、小売店が約3000社あります。それを各社の要望通り千差万別に組み合わせて対応しなければなりません。この機能は誰かが果たさなくてはなりません。特に食品の場合、商品の入れ替わりがすごく早くて激しいので、それにも対応しなければなりません。おいそれとは実現できない機能です。
―― スピードだけではなく、季節波動やチラシ、マスコミの影響、社会情勢と様々な要素が絡んできます。
田村 その通りです。2024年問題でも話題になっている「ジャストインタイム」という言葉が産業界にもありますが、食品の場合は少し違ってきます。例えばスーパーのチラシがあります。これは効果的でその時だけ売れるものが増えてきます。でも、どのくらい増えるのかはなかなか分からないので、計画的な物流ということに関してはとても難しいことです。最近では、SNSでバズるとその食品だけが急に売り切れてしまうこともよくあります。このような波動は物流の敵というと言い過ぎですが、物流を安定的に行う上ではとても難しい課題だと思っていて、これをどうやって満たしながら、持続可能性を維持するのかというところが、我々の腕の見せ所かな、と思っています。
―― 卸という中間流通の立場だと、着荷主であり発荷主でもあります。
田村 従来からすると、発荷主としての顧客は誰かというと小売りさんです。小売りに販売するために、物を届け、在庫もする。これが我々の主たる業務だったわけです。中間にいるのにもかかわらず、下流側ばかりを見ていました。上流側であるメーカーさんには、ただ「持ってきてね」とあまり関心を払っていませんでした。
―― 今、2024年問題も出てきて、持続的に「持ってきてもらえない」可能性も出てきました。
田村 十分にあり得ますね。我々も中間に位置しているわけですから、上流にも目を向けよう、サプライチェーンで考えないとだめだ、と考えるようになりました。特に中小の食品メーカーさんは、社員数も多くないし、物流の専門家もいないわけです。トラックが見つかりませんでした、となるとどうしようもなくなります。先ほど申しましたように、卸が調整役というかコーディネーターを標榜しているのなら、上流側のメーカーさんの物流に対してもお手伝いをしていかなければならないと思っています。
―― 他の商品とは違い、食品はライフラインの大きな要素ですから、届かなくなると大きな混乱を生じますね。
田村 大手のメーカーさんならまだしも、中小の企業が多い食品業界ではなおさらです。皆さんそのようにおっしゃっていただいています。
フルカテゴリーで展開
部分最適はもう限界
―― 現在、三菱食品さんの売り上げ規模は。
田村 日本アクセスさんがトップで当社が若干少ないのですが、両社ともほぼ2兆円程度ですね。この業界では4カテゴリーと言いますが、常温の加工食品、低温の冷凍食品やアイス、お酒、そしてお菓子です。そのすべてをやっている全国規模の卸売業は三菱食品だけです。フルライン、フルカテゴリー、フルエリアとバランスよくやっているので、逆に物流はとても大変です。
―― コロナ禍を経て、冷凍食品が伸びたと聞きますが。
田村 コロナ禍の影響は大きかったと思いますが、冷凍食品はこれからも伸びていくものと考えています。当社の立場ですと、低温物流をどう強化していくのかが一つのテーマです。フードロスも冷凍食品になってくるとだいぶ軽減されますし、保存も長くできます。大きな流れとしては現在冷蔵食品と言われるものも、いずれは冷凍食品になるのかなと思っています。
―― 冷凍冷蔵倉庫の開発もかなり活発になっています。
田村 そうですね。冷凍食品の伸びの割には冷凍冷蔵倉庫の供給はまだ少ないかなと感じています。普通の倉庫に比べて大きな投資になりますからね。マルチテナント型の冷凍冷蔵倉庫もでていますが、どこまで浸透するかですね。
―― 冷凍食品の場合は、冷凍冷蔵倉庫での作業の進め方もパレットも企業によって大きく違うと聞いています。
田村 これも2024年問題に絡んできますが、部分最適でやっていく物流はもう限界かなと思っています。右肩上がりで市場が大きくなっているときは、部分最適の集積が全体最適に結構近いという部分はありました。現在のように少子高齢化を迎えた日本のマーケットにおいて、どういう物流を作っていくのかというと、やはりできるだけ全体最適化することです。部分最適の罠に陥らないように、閉じたサプライチェーンより、オープンなサプライチェーンをどう作っていくかだと思います。どんな会社も組織も部分最適の集団、つまり当社を含めて「たこつぼ」に入りたがる「たこつぼ集団」だったと思いますね。
―― 部分最適が多くのパレットの種類を生み出し、一貫パレチゼーションを困難にしました。
田村 パレチゼーションの話になると、長くなりますが、日本でパレットの標準化をやろうとしたのが1966年です。当時の産業構造審議会の答申書に、日本のパレットの数が多すぎると書いています。そこから60年近くたっていますけど、標準化には至っていません。T11パレットかT12パレットが揃ってきて、当時より種類が減ったことは確かです。しかし、標準化できないという現実から出発すれば、そこを統一しようとするやり方に無理がある。むしろ、それらを同様に扱えるテクノロジーはないのかと考える逆転の発想も必要だと思います。
―― 現実的で面白い考え方です。
田村 例えば当社の自動倉庫ですが、最近改造しました。以前のパレット自動倉庫は、ある形のパレット(庫内管理用パレット)しか扱えませんでした。ですので、違ったパレットで入荷したものは載せ替えていました。それはあまりにもばかばかしいということで、自動倉庫側に入ってきたパレットをそのまま使えるように改造したわけです。だからパレットを揃える活動より、違うパレットでも同じように扱えるような仕組みを考えたほうが、むしろ現実的かなと思っています。
―― 仕組みを変えるということですね。
田村 つまり多様なものを受け止められるようにする。今考えていることの一つですが、様々な業界の中でいまだに紙による取引が多いと思います。しかし、フォーマットが違う、書いてある内容の場所が違うといったように紙同士の互換性は低いのに、いまだに使用されています。それを例えば進化した「AI-OCR」の機器等で読み取ってデータ化すれば良いわけです。フォーマットを揃える運動をするよりも、データ化できる仕組みさえあれば結果は同じなのです。もちろんフォーマットを簡単に統一できればベターですけれども、非常に難しい。ならば、多様な形のものを一つの同じデータフォーマットに載せ替えるような仕組みのほうが、むしろ合理的で意味があるのかなと思っています。
―― 海外では一貫パレチゼーションが普通だと聞きますが、日本は相手の要望に応えるきめ細かなサービスが徹底していますし、商慣習自体も違いますからね。
田村 そうですね。ただ、品質に関していうと、やはり日本は少し過剰だということも多いのですが、では品質ランクを落とすということも現実的ではありません。ここまで作り上げてきた物流品質ですので、これを保ちながらどうやって持続させていくのかということにチャレンジしていくのが、我々業界人の役割かなと思っています。
物流最前線/世界の100円ショップを支える大創産業の「物流力」とは