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物流最前線/国土交通省 平澤課長に聞く 2024年問題、物流改革の実効性

2024年05月14日/物流最前線

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「物流の2024年問題」が静かに幕を開けた。社会インフラである物流機能を維持するため、国土交通省は関係省庁と一体となって対策に取組み、政策パッケージの策定をはじめ、今年2月には2024年問題に対応する法案も閣議決定された。荷主・消費者を巻き込んだ物流改革の大きな一歩となるが、2024年問題は始まったばかり。対策にどう実効性をもたせていくのか。物流・自動車局物流政策課長の平澤崇裕氏に改めて今後の物流政策への考えを聞いた。取材日:4月12日 於:国土交通省

物流改革へワンチーム
現場の声聞き継続して取組む

――  平澤崇裕課長は2022年、コロナ禍に着任しその後2024年問題と、いわば物流の大改革期を過ごされました。4月を迎えていかがですか。

平澤  4月だからというより、ここ1年以上、2024年問題は多くのメディアで取り上げられ、最近では「2024年問題は物流だけの問題ではないんです!」という話もされるぐらい、ある程度知名度が上がったかなという気がしています。ただ、それがすぐ対策に結びついているかというと、また違うところなので、そこはしっかりとやっていかなくてはいけないと思っています。

――  着任されて2年、物流改革に手ごたえを感じたできごとは。

平澤  経産省と農水省と連携して「持続可能な物流の実現に向けた検討会」を2022年9月に立ち上げ、そこで非常にオープンな議論が行われたことですね。関係省庁と一体感を持って進めていくなかでメディアでも少しずつ取り上げられるようになりました。年が明けて2023年になると「もうあと1年しかない」となり、また一段と皆さまに関心を持っていただき、行政でも「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」が6月に立ち上がりました。そういう意味で、本当に関係省庁、事業者の方々と一緒になって進めてきたなという感じがします。

――  物流に関する関係閣僚会議というのは初めてですか?

平澤  そうですね。3省合同での検討会は、官民物流標準化懇談会もそうですし、「総合物流施策大綱」も関係省庁で策定してきていますので、土台はあったと思いますが、今ほど緊密に連携しているのは、ここ最近の流れです。やはりお互いの立場で「物流を変えていかなくてはいけない」という共通の問題意識を持っていたということだと思います。私が入省したのは1995年ですが、その頃と今も全く違いますね。分野によって差はあるのかもしれませんが、こと物流の、今やっている経産省、農水省と私ども、これは本当にワンチームでやっているという感じです。

――  関係閣僚会議で「物流改革に向けた政策パッケージ」が決定し、そこからガイドライン策定と大きく動き出しました。

平澤  政策パッケージについて簡単におさらいすると、目的は荷主と物流事業者と消費者が一体となって物流を支えるための環境整備です。それを「商慣行の見直し」と「物流の効率化」と「荷主・消費者の行動変容」の3本柱でやっていこうということです。

「商慣行の見直し」のところは、今年2月に「流通業務総合効率化法」と「貨物自動車運送事業法」の改正案が閣議決定され、今、国会で審議中です。法律で荷主・物流事業者間の物流負荷軽減への規制的措置を導入すること、担い手の賃金水準向上に向けた「標準的運賃」の見直し、荷主・元請の監視を強化するトラックGメンの設置(2023年7月)などに取り組んでいます。

――  法案化の概要と進捗は。

平澤  衆議院での議論が終わり、今後参議院に舞台が移るという状況です。法律では、一定規模以上の特定事業者に中長期計画や定期報告を義務付け、自社に役員クラスの「物流統括管理者」を置き、責任の所在を明確にします。対象企業の規模感や罰則などについては法律が成立した後、政令で定めることになります。併せて「判断基準」として取り組むべき事項のガイドラインを作成しますが、これも関係省庁と一緒に検討し、法案成立後、1年以内にお示しできると思います。

――  経済産業省では、荷主側の物流統括管理者(CLO)の選定義務の対象を3000社程度と想定し、既に任命している企業もあります。物流事業者で規制対象となるのは何社くらいですか。

平澤  中長期計画の作成となるトラック事業者は400社程度、倉庫事業者は150社程度、また、運送利用管理者の選任を義務付けられる事業者は150社程度、大手元請事業者100~200社くらいになると想定しています。

――  物流事業者の統括管理者にはどのような責務がありますか。

平澤  ガイドラインには今回、「下請け利用の適正化」という項目を入れています。要は「下請けを出すときに、概算を把握したうえで申し込みましょう」「(運賃が)足りなければ荷主に交渉しましょう」ということを努力義務としています。一定規模以上の事業者に社内マニュアルなどの作成をお願いし、体制を整備することを管理者として担っていただくこと、実運送体制管理簿の作成を監督するなどの義務があります。

――  実運送体制管理簿はどのように運用するのですか。

平澤  多重下請け構造の是正に向けて、実運送事業者が適正運賃を収受できるための環境整備を目的としています。そのための見える化と把握ですね。途中でいわゆる中抜きのような実態があるのであれば、そこを是正していくという方向につながることは期待しています。

――  標準的運賃についても見直しをされました。これをどう浸透させますか。

平澤  標準的運賃については、年度末に告示でお示しをしましたが、これはいわゆる参照価格という位置づけです。これを見て、交渉していだければというものでもあります。今回、「下請け手数料」という項目を入れましたが、これは実運送事業者の方がしっかりと標準運賃を収受できるという観点から、下請け手数料10%を上乗せして、荷主に請求しましょう、というものです。

――  驚きました。中抜きから上乗せ、とは。

平澤  そこはおそらく、荷主側からも交渉があるとは思います。そのまま言い値で通るかどうかはわかりませんが、交渉の場が生まれて、物流事業者側も改善できるところはしていく、となれば結果として実運送事業者が適正運賃を収受できる環境につながると考えています。

――  物流事業者側からは荷主に交渉しづらいという声もあります。

平澤  やはり厳しいという声も当然あります。そこは荷主を所管する経済産業省や、さらに公正取引委員会や中小企業庁とも連携しながら対応していきます。例えばトラックGメンに関しては「目安箱」のようなものを設けています。相談内容には、「長時間の荷待ち」のほか「価格交渉に応じない」という項目もあります。そういった情報をもとに、荷主への働きかけや要請、勧告をしっかり行っていくことだと思います。

――  トラックGメンは、継続的に行っていくのですか。

平澤  もちろんです。昨年の夏に162名体制で発足し、11月・12月を集中管理月間として取組み、飛躍的に荷主への「働きかけ」が増えています。その結果、昨年末には「勧告」が2件あり、引き続きしっかり取り組んでいきます。

――  ほかにも相談窓口があれば教えてください。

平澤  年度末に、よろず相談窓口のようなホームページを立ち上げて、そこに情報が寄せられると関係省庁に情報が共有できるようにしました。今、現場で何が起きているのか、ということを把握できる窓口を作ったので、活用していきながら実態把握を恒常的に進めていかなければならないと思っています。

主な相談窓口
倉庫事業者・貨物利用運送事業者向け相談窓口の設置(労務費の転嫁に係る価格交渉等)
hqt-souko_riyou@gxb.mlit.go.jp

目安箱(輸送・荷待ち・荷役などに関する輸送実態把握のための意見等)
https://www.mlit.go.jp/jidosha/yusou-jittai/index.html

物流改革へ予算490億円
ピンチをチャンスと捉え活用を

<平澤 物流政策課長>
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――  中小企業に向けた物流改革への補助などはありますか。

平澤  政策パッケージの「物流の効率化」の関係では、令和5年度の補正予算や令和6年度当初予算の中で、DXの推進のための予算や、モーダルシフト推進のための予算、さらには担い手確保のためのテールゲートリフターの支援など、約490億円の予算を付けています。まさに今、補助金の執行団体を決めたところで、募集に向けて作業を進めているという状況です。

<物流革新に向けた予算概要 出典:国土交通省>
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――  物流効率化へ「即効性のある設備投資」とは、何から取り組むべきでしょうか。

平澤  物流事業者が抱えている課題に応じて、どれをやっていくかというのはあると思います。例えば倉庫業者であれば、パース予約システムを導入していただいて、荷待ち時間の削減に努めていただきたいと思いますし、一方トラック事業者であれば、例えばテールゲートリフターのような形で、力のない方でも荷下ろしができるように、ということだと思います。また荷主との関係で言えば、例えばパレットの導入を提案し、機械荷役ができるような環境を整えていただくなど、抱えている課題によって、どこを優先していくかだと思います。

――  荷待ち・荷役時間についてはガイドラインで2時間以内と示されていますが、時間は誰が測るのですか。

平澤  昨年6月に策定した「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」では、荷主事業者の方に把握してください、ということをお願いしています。誰がどう計るかというのは、いろんなやり方があると思います。例えば、スマホで物流事業者の方が「今入りました」と送るだけで把握できるシステムもあります。そういったDX機器も活用しながら、把握を進めていただきたいと思います。

――  最近、共同配送も増えていますが補助の対象ですか。

平澤  共同輸配送はここには細かく出ていませんが、標準化したデータを使って、データ連携をして共同輸配送を促進するものに対して支援するものや、物流総合効率化法の認定に向けた計画策定支援に対する補助金も、間もなく募集すると思います。さらに大規模な話であれば、例えば財政融資・支援も含めてメニューを用意しています。

――  パレットの標準化についても長年の課題ですね。

平澤  われわれも2021年9月からパレットの標準化について検討していて、2022年6月に中間とりまとめを出しています。これからパレットを導入する方は11型(1100×1100mm)、運用方式としてはレンタル方式、という方向で皆さん一緒にやっていきましょうということで、今、報告書をまとめる最終段階となっています。

――  パレットは多くの種類があります。集約していくためのポイントは。

平澤  荷主も交えて、関係者が一緒になってやっていくということだと思います。あとは、今回提出している法案のスキームも活用しながら、具体的には判断基準の中に入れていくとか、そういうところも含めて標準仕様のパレットが導入促進される形は作っていきたいと思っています。

もちろん、パレットに載らないものみたいなのは当然物理的に難しいわけですから、とりまとめの中でもしっかり明記していますが、何がなんでも、ではなく可能な限り集約していきたいということです。過去からずっと続いている課題ではあるのですが、今回が最後のチャンスだと思っています。商慣行の是正というのは、2024年問題があったからこそ、みんなでやっていこうと、さらには規制的措置まで導入しよう、とまで来ているわけですよね。私の上司もよく「ピンチをチャンスに」と言いますが、まさにそういう状況だと思います。これをチャンスと捉え、長年変えられなかったことを変えていく、そういうことが今求められていると思います。

――  消費者の行動変容については。

平澤  本当に、消費者の皆さま方を含めて、物流をわが事として捉えていただきたいですね。そこが一番難しいところではありますが、再配達削減や、さらには意識改革、行動変容にどうつなげていくかということで、年度末に「ちびまる子ちゃん」を使った政府広報をしましたが、これが好評でした。皆さまに広く関心を持っていただくというのが第一歩、そこからだと思います。

■ちびまる子ちゃんTVCM(出典:政府広報オンライン)
物流革新「まるっと減らそう!再配達」篇
https://www.gov-online.go.jp/useful/202402/video-278763.html

物流の未来は「明るい色」
魅力ある産業にしていきたい

<平澤 物流政策課長>

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――  「2024年問題」は始まったばかりですが、どのような未来を描いていますか。

平澤  大臣からはもう2024年を「物流革新元年にする」と言って頂いています。まさにここから始まっていく話ですから。物流は構造的な問題で、2024年が終わったら終わりではないので、しっかりやっていきます。物流の未来については、4月上旬の国会の質疑でも同じような質問があり、大臣から「明るい色」というご回答をいただいております。それを目指して魅力的な産業に変えていければと思っています。

――  魅力ある産業とは。

平澤  お答えになっているかどうか分かりませんが、例えば日帰りが可能、と申しますか、ちゃんと毎日家に帰れるとか、しっかり稼げる、そういう職業にしないと人も入ってこないですね。そういうふうに変えていくということだと思います。そのために、まずはしっかり運賃交渉ができるような環境を整えていくというのが基本です。荷主側にも今の物流が置かれている現場というのを理解していただいた上で、しっかり適正運賃収受できるような環境を整えていく。具体的には今回、標準的運賃を改正したわけですから、それを浸透させていくということだと思っています。持続可能な物流改革に向けて、関係省庁の連携も継続していきます。

――  平澤さんが、今後さらに重要となると考える対策は?

平澤  いろいろな課題がありますが、関係省庁と連携していく中で私が一つ挙げるとするとデータ連携、標準化が必須かもしれません。これはガイドラインに示していますので、ぜひ荷主と物流事業者を含め、データ連携ができるような環境を意識してやっていただけるとありがたいなと思います。

――  そこができればサプライチェーン全体が効率化しますがどう進めていけばよいでしょうか。

平澤  どこまでカスタマイズするかということだと思いますが、データ連携を意識し、その必要性を理解していただいた上で、標準仕様のようなものを作っていますので、それをぜひご理解いただけるとありがたいなと思います。そのための支援などもあります。デジタルを使えるところは使わないと、今後、人はどんどん減っていきます。そうすると効率的に話を進めなければなりません。今までできていたことを少しでも効率化するための手段の一つとして、データ連携が必要となります。

――  そこに未来のポテンシャルがあるということですね。最後に、フィジカルインターネットについて一言お願いします。

平澤  フィジカルインターネットではロードマップをしっかり示しています。これは経済産業省と国土交通省が取りまとめたものですが、ロードマップを意識しながらしっかり進めていく、その一歩が標準化だと思っています。

<フィジカルインターネットロードマップ 国土交通省HPより>

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取材・執筆 近藤照美・山内公雄

■プロフィール
国土交通省 物流・自動車局物流政策課長
平澤 崇裕(ひらさわ たかひろ)

1995年4月  運輸省入省(自動車交通局技術安全部整備課)
2014年7月  国土交通省 関東運輸局自動車技術安全部長
2016年7月  同 自動車局審査・リコール課リコール監理室長
2018年7月  同 自動車局技術政策課自動運転戦略官
2020年7月  環境省水・大気環境局総務課調査官(環境管理技術室長併任)
2021年7月  鉄道・運輸機構施設管理部長
2022年4月  国土交通省 総合政策局物流政策課長
2023年10月 国土交通省 物流・自動車局物流政策課長

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