日産陸送からゼロに社名変更して24年、車両輸送ではスペシャリストの企業だ。全国に拠点を設け、キャリアカーによる全国輸送体制を確立し、日産だけではなく、ほぼすべてのメーカーの車を取り扱うようになっている。2024年問題でドライバー不足が深刻化する中、特殊車両を扱う高度な技術が必要とされるキャリアカー輸送とドライバー育成の現在の姿を、ゼロの拠点の一つ、埼玉県上尾市にある埼玉カスタマーサービスセンターを訪れ、現地取材した。
取材:6月10日 於:埼玉カスタマーサービスセンター
月間2万台の車両を輸送
キャリアカー36両を駆使する
「キャリアカーを運転するドライバーをとても尊敬しています。今は研修中ですが、早くキャリアカーを運転して戦力になりたいです」と目をキラキラと輝かせながら話してくれたのは、今年高校を卒業して、ゼロに就職した池田涼馬さんだ。大のクルマファンということで、「まず乗ることのない高級外車とか珍しい車など、毎日が新しい車との出会いで、とても楽しい」、と若干照れながらも力強く話してくれた。積み込み、積み下ろしで、実際に乗車し運転操作するだけに、なおさらだろう。池田さんを夢中にさせるゼロの自動車輸送とはどんなものなのか。
埼玉県の中東部地域に位置する上尾市は人口約23万人、埼玉県内では7番目の人口を擁する市だ。JR高崎線の上尾駅から車で十数分、旧中山道の国道17号線からも近い場所にゼロのグループ会社「ゼロ・プラス関東」の「埼玉カスタマーサービスセンター」がある。通称、CSセンターと呼ばれる自動車輸送の拠点である。
最初に話を伺ったのは、埼玉CSセンターの小嶋晃一センター長と、配車責任者でもある統括運行管理者の岩﨑勝馬チーフパイロット。両者ともに、キャリアカーのドライバーとして実績を積み、現在は管理監督者として後進の指導に当たっている。
「日産陸送からゼロになって24年、創業が1965年なので、もうすぐ65周年を迎えます」と感慨深そうに語るのは小嶋センター長。創業当初は日産の子会社として、日産の車を主体に運んでいたが、現在では様々なメーカーの車を運んでいる。
全国48か所にあるゼロのCSセンターの一つが埼玉CSセンターで、営業所・受注センターも同じ場所のことが多く、まさにゼロの自動車輸送の拠点となっている。「埼玉CSセンターにはキャリアカーが36両、ドライバーは研修中を含めて38人います。自走員(キャリアカーを使用せず、自ら運転して目的地まで届ける業務を担当する人)を含めて月間約2万台の車を輸送しています。1日当たり500台から600台程度。埼玉CSセンターでは新車と中古車が2対8の割合です」と小嶋センター長。
輸送する車の種類は多彩だ。高級外車から軽トラックまで大きさも形も様々。キャリアカー輸送の特徴を「新車だけ運んでいればある程度パターンもできて、積み込み、積み下ろしもスムーズなのですが、中古車が多いと、まるでパズルを解くときのような感覚で、対応することになります」と岩﨑チーフパイロットが話すように、中古車の場合、車高・車幅・車長・重量等の車両のサイズだけでなく、エアロパーツやホイール、ローダウンなどカスタムされた車が多いということもあり、積み込み場所や順番に頭をひねることになる。例えば、重量等がある一定の場所に偏ると、走行中のドライビングにも影響を与える可能性がある。ひいては、「車」という商品に損傷を与え兼ねないことになる。キャリアカーの構造が2段になっているため、車高も問題となる。
埼玉CS配車センターの場合、配車担当者もドライバー出身なので、ある程度の予測ができるが、ドライバーから無理だという申し入れがあるときもあり、配車担当者もドライバーもそこが一番苦労する点だという。また、季節波動も大きい。自動車メーカーの年度末に加え、引っ越しシーズンが重なる3月、4月には、車の保管場所が満杯になるという。
実際の積み込み、積み下ろしもドライバーがそれぞれの車を操作し、キャリアカーの様々な装置を作動させて、丁寧に積み込み、積み下ろしを行う。「キャリアカーに6台の車を載せるだけでも相当な時間がかかります。まず、ドライバーには運ぶ車が保管施設のどこにあるのかを記された伝票を自分で探し、その伝票を元にドライバーが1台ずつ車両を探し出して、積み込むことになります」と岩﨑チーフパイロット。
保管施設に運び込む「車」については、川崎港や品川・有明などの港からが多いという。現在、約650台程度の保管能力を持っている。
<積み下ろし時の様子(動画)>
帰り荷なしの片道運行
自動車輸送の大きな課題
埼玉CSセンターは埼玉県を含む関東全域から関西、中部、北陸、上信越まで担当しているという。小嶋センター長は「例えば、北陸方面は行き荷と帰り荷のバランスが悪く、帰り荷が少ないことが多いのが悩みどころとなっている。2024年問題で課題とされている貨物の積載率については、何らかの解決策が必要ということで、様々なトライをしている最中です」と話す。
具体的には、途中にあるオークション会場に立ち寄るとか、長野にある拠点に立ち寄るとか、案はいろいろあるが、「日帰り運行が難しくなってしまいます。そのため、北陸方面の途中にある当社の近隣部署での中継輸送を行うことで、日帰り運行が可能となりますので、そのような輸送方法についても挑戦していこうと考えています」と小嶋センター長も岩﨑チーフパイロットも意欲を見せている。
もう一つの課題が、2024年問題でも指摘されている時間外労働の規制だ。ドライバーの実際に走る時間は削減できないが、それ以外の部分で時間を削減できないか、を「36(サブロク)協定」に従って、車両保管場所での車の積み込みにかかる時間の削減にも動いている。
岩﨑チーフパイロットは「ドライバーの負担軽減策の一つに『スタンバイ』と呼ばれるものがあります。ドライバーが車の積み込み時に、積み込むべき車をほかの要員が、近くに並べて準備しておくという試みを行っています。ドライバーが1台1台車を保管場所から探し出してくる時間を削減しようというものです」と説明する。広いオートオークション会場から車を探し出して1台の車を積み込む時間は平均で30分はかかることから、あらかじめ車を用意しておく『スタンバイ』はとても有効だ。もちろん、ドライバーからの評判も当然良いだけに、増やしたいのはやまやまながら、場所と要員の問題をクリアしなければならないのが課題だという。
車好きにはたまらない職場
若い人に自動車の楽しさを
ここで、実際にキャリアカーを運転しているドライバーに登場してもらおう。ゼロに入社して20年という石田誠一さんだ。「最初は1台積みのセーフティローダーでした。荷台が後方にスライドし、傾斜をつけることで、車両を比較的容易に積み降ろしできますし、傾斜角度が浅く、ウインチやリアゲートなどを活用することで、安全に積み降ろし作業ができます。現在は6台積みのトレーラータイプのキャリアカーに乗車しています」と小雨の降る中で、石田さんは語ってくれた。
入社については「元々、自動車が好きで、特にキャリアカーは合体ロボの雰囲気があって子供のころからあこがれていました。入社するときもゼロが車を運ぶ会社ということは知っていましたが、まさか自分がキャリアカーを運転できるとは思っていませんでした」と笑顔があふれる。
運転は難しいのではとの質問には「難しいことは分かっていましたし、それより乗ることができるんだという喜びや楽しさが勝っていました」と石田さん。その楽しさの理由を「あらゆる種類の車に接し、実際に運転することができます。カウンタックやベンツ、BMW、ボルボなどの高級外車から、日本の軽自動車まで、自分が運転して積み込むわけですから、それぞれの違いが比較検討できます。車好きにはたまらないでしょう」と、至極納得できる答えだった。
ただ、楽しいだけではないのがキャリアカーの運転だ。「やはり事故には最も注意しています。大切な車を傷つけることがあってはなりませんし、ましてや人身事故などは社会的な影響も大きく、論外です」と言い切る。
その事故につながる要素にも敏感だ。「最近の車は車種が同じでも、徐々にサイズは大きくなっています。また、EV車も増えており、バッテリーの重量で、非常に重くなっています。これらを、バランスのとれた配置にして、一番運転のしやすい形にしないと、思わぬ事故につながる可能性があります」と真剣な表情で話す。
キャリアカーも含めたドライバー不足について、「国や業界を挙げて、車の楽しさをもっともっとアピールしてほしい。そうしないと、若者の車離れは止まりませんし、運転免許証がただの身分証明書だけになってしまいます。職業ドライバーの数も減ることになります」と今後に向けての不安と期待を述べてくれた。
次に、冒頭で登場した今年の春入社したばかりの池田涼馬さんにも同様な質問をした。「車に囲まれた職場にはあこがれがありました。子供のころから車が好きでしたので、迷わず飛び込みました」と話す。続けて、「今は、キャリアカー運転の研修期間ですが、覚えることが多くて大変なことは確かです。現在運転している先輩のドライバーの方には尊敬しかないですね」と実感を込めて語ってくれた。
若いドライバーの成長に小嶋センター長も岩﨑チーフパイロットも目を細める。同社で今、一番重要な課題は何かと質問すると、即座にコンプライアンスと返ってきた。「コンプライアンスは企業の信頼性や透明性を高め、不正行為やリスクを回避するために不可欠な要素です。そのため日々安全輸送に徹して、顧客に正確に車が届けられることが我々の役割となります。安全については新人教育においても徹底しています。この原点を忘れず、日々精進していきたいと思っています」と話す。
実際、埼玉CSセンター内のあちこちに、無事故を呼びかけるステッカーや、グラフ、さらには小集団活動の各班の取り組みなどを紹介する手作りのポスター等も掲示されている。班の取り組みの中には、新しく気づいた運転時の具体的な注意事項なども、詳細に書かれており、日常的にドライバー全員に注意を喚起する施しが工夫されていた。
キャリアカーという特殊車両での車の輸送の難しさとともに、働くドライバーの楽しさの両面がひしひしと伝わってきた取材となった。
取材・執筆 山内公雄、鳥羽啓太
<キャリアカーの前で 小嶋センター長と岩﨑チーフパイロット>
※登場人物の肩書は取材時のもの
■会社概要
商号:ゼロ
事業内容:自動車を主体とする輸送、自動車の整備、中古車オークションの開催・運営、一般貨物輸送 他
資本金:33億9000万円
東証スタンダード市場(9028)
創業:1961年10月
本社:神奈川県川崎市幸区堀川町580番地ソリッドスクエア西館6階
売上収益(連結):1407億円(2024年6月期)
■埼玉カスタマーサービスセンター
住所:埼玉県上尾市上野45-1
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