日常生活に欠かせないECとなったAmazonのラストワンマイル配送で、DSP(Delivery Service Partner)と呼ばれる独自プログラムが広がりを見せている。会社を興したり事業を立ち上げたり、法人であることを条件に、Amazonと直接契約する仕組みだ。全国に60社以上あるDSPの1つ、山梨の運送会社ディー・ティー・エル(D.T.L)藤田社長は「この仕組みを使えば、思い描いたように仕事ができる」と話す。どんなことに期待し、DSPを志向したのか。D.T.Lのケースを追った。 (取材日:2025年6月18日、於:山梨県甲府市)
■積み込み15分で出発
甲府市にある、Amazonデリバリーステーション。県道106号に面し駐車場は広く、物流の好立地だ。
デリバリーステーションは、Amazonの大型物流拠点フルフィルメントセンターとは異なり、地域でラストワンマイルを担う配送拠点となる。D.T.Lは配送サービスパートナーとして、甲府のステーション内にスペースを構えている。
午後4時、管理者がD.T.L所属のドライバーたちに合図を出すと、大きな庇の下に軽バン10台が次々に入ってきた。
甲府盆地の夏の暑さは強烈だ。年齢も性別も様々なドライバーたちの服装はみんな軽く、機能性重視と見える。
仕分け済みのカゴ台車とバッグから手際よく、おなじみのAmazonロゴが入った箱や紙袋など、商品を積み込む。ものの15分で、次々と配達へ出発していった。
この後、D.T.Lの軽バンがさらに14台、商品を積み込みに来る。近々行われるセール時は、荷量増に合わせ、計26台に増やし対応する予定だ。
てきぱき動くドライバーたちを見送り、「かっこいいですよね」と藤田社長は目を細めた。
<Amazonの配送チャネルはFlex、Hub、DSPの3種類>
■地域に根差すDSP
Amazonのラストワンマイル配送の仕組みには、大手運送会社へ委託するルートのほかに、「Flex」「Hub」「DSP」の3種類がある。
Flexは、個人事業主が黒ナンバーの軽貨物車で配送。Hubは、例えば生花店など、地元に明るい商店が副業として、徒歩や自転車などで配送する。
DSPは、法人であることが条件。会社を興す、あるいは既存の会社が新規事業を立ち上げ、Amazonと直接契約(貨物運送委託契約)して配送サービスパートナーとなる。もちろん、応募内容の審査や面談といったプロセスがある。
DSPは小さなエリアでの地域に根差した運送事業を想定しており、D.T.Lのケースは、実績を生かし新たにAmazonの配送プログラムに参加した形だ。
AmazonはDSPへの委託を推進しており、オーナーになりたい人を後押しするため、昨年からは起業家育成プログラム「Road to Ownership」も開始している。
■直接的に関わりたい
D.T.Lは創業1984年、法人化2005年と、山梨での宅配・運送業の歴史は古い。既に大手との取引も多かったのに、なぜDSPプログラムに参加しようと考えたのか。
藤田社長は現在の状況を、「Amazonとの直接契約なら安定した荷量が見込め、ドライバーに好条件を示せます。配送サービスパートナーになったことでAmazonと直に話ができるようになり、お互いの熱量が伝わるところも、やりがいを感じます」と満足そうに話す。
以前は、地元の協力会社として間接的に、Amazonの商品の配送に携わっていた。商品の受け入れや仕分け業務にも関わっていた。ただ、配送品質や業務体制などについて、Amazonとより詳しく情報共有したいと思うことが多かった。
ドライバーの待遇改善も悩みだった。「下請けの下請けみたいな仕事だと、どうしてもドライバーの手取りは減ってしまいます。同じ場所から同じ商品を運んでいるのに、報酬に差があるのは、やっぱり変。頑張ったら頑張った分だけ、きちんとドライバーに支払いたかったんです」。
そんな時、社員のほうから「AmazonがDSPを募集している。うちにも門戸は開かれているのでは」と知らされ、迷わず応募に踏み切った。
応募後は、何度も繰り返される事業計画の提出を通じ、Amazonに思いのたけをぶつけた。
審査と面談を通過し、2024年1月、Amazonと契約。「D.T.Lのビジネスプランに理解を得られたのだと思います。正式にオファーを受け、本当にうれしかったです」。
藤田社長がそう語る背景には、1歳半の時に両親が離婚した複雑な生い立ち、母が軽1台で創業した宅配業、極貧生活、会社設立後、死にもの狂いで働いて完済した借金など、これまでに乗り越えた数々の困難があった。
「宿命だと思っています。私がまだこの世でやるべきことがあるから、生かしてもらっているのでしょう。自分の欲のためではなく、誰かのために。結果がついてきたら、みんなでシェア。そしてより良いものに。そんな思いでこの会社を経営しています」。
実は、Amazonからの最初のオファーは、「需要の大きい都心部でやらないか」という内容だった。「地元でこそ、やらせてほしい」と藤田社長が強く志願したことで、またしても壁を突破したのだった。
■ドライバーに報いたくて
D.T.Lのドライバーは、個人事業主に業務委託する形を取っている。DSPとして毎日20数台が稼働するとなると、週2日休む人、代わりに出る人など含め、人数は倍ぐらい必要になるため、現在は40~45人ほどが所属する。
そのドライバーたちに自社所有の車両を1台ずつ用意し、会社全体では100台以上ある中、半分をAmazonの事業に充てている。
DSPは、毎日20台稼働することが目安。D.T.Lの場合は15台から事業をスタートし、現在は20台を超え、年間売上は約2億円になる。
事業開始時はイニシャルコストがかかるため、最初の2か月は持ち出しもあったが、3か月目以降は、すぐに単月黒字になった。これからさらに売上を伸ばしたいという。
ラストワンマイルの宅配業では、業界構造としては、協力会社に依頼してドライバーを確保する方法が一般的だ。しかしDSPとドライバーが契約することで多重構造から解放され、ドライバーは適正な報酬を受け取れるようになる。
これを藤田社長は「閑散期などがあっても、ドライバーは『今日は商品が少ないから収入も減る』といった日々の不安を抱えなくて済みます」とメリットに挙げる。Amazonオフィシャル配送サービスパートナーであることを活用した求人広告は、反応も良いという。
■夢のようなテクノロジー
DSPになるメリットは、安定した荷量と収入のほかにも、まだある。
中でも、特に藤田社長が「夢のように進化したテクノロジー」と表現するのが、ドライバーたちがスマホに入れて使う専用アプリだ。
デリバリーステーションでは、カゴ台車に付いた2次元コードをスマホで読み込むだけで、カゴ内すべての商品の種類や形状、伝票番号、住所まで、情報が一瞬でスマホに入る。
ドライバーは、スマホに表示されるルートを見ながら配達すればよい。ルート通りに配達するかどうかはドライバーの任意。お客さんへの「置き配」報告も、スマホでできる。
以前なら、ドライバーが紙の地図を広げて、何枚もある商品の伝票を並び替えて、番地と宛名を見て地図に印を付けて、といった職人技のような作業が日常だった。Amazonのテクノロジーを使えば、配達経験のない人でも、すぐできるようになるという。
またDSPは、Amazonが外部ベンダーと交渉した価格で、様々な付加価値サービスを利用できる。
D.T.Lの場合は、外部ベンダーによる報酬管理サービス、バックグラウンドチェック、給油カードを利用。会社を興して一から始めるパターンだと、必要に応じ、軽バンリースサービス、自動車保険、ドライバー募集広告、業務用衣類、法務システム、会計システムなどを利用する。
Amazonのアカウントマネージャーとは週1回、オンラインミーティングも行う。集車状況の確認、収支が安定するための情報共有など、サポートは手厚い。
D.T.Lを担当する、Amazonラストマイルアカウントマネージャーの近藤周一さんは、こう話す。
「藤田社長は『まっとうにやっている人が、まっとうな評価を受けるべき』という思いの強い人。反骨精神というか、立ちはだかる壁を次々に乗り越えていく力があります。そして、その先に進むと、必ず新しい仲間が増えていく。まさにAmazonが配送サービスパートナーに求める人物像です。こうして地場の企業が活躍することで、地域活性化につながるとうれしいです」。
この日、近藤さんは東京からの出張。九州や東北の担当DSPを訪問することも、しばしばだ。「手前みそですが、こうして担当がサポートに付く体制は、他にないプログラムだと思います。意外と泥臭いことをやっているんです」。
■初の2拠点目、M&Aも
取引したい相手とは直接契約する。地元でこそ貢献する。ここまで道を切り開いてきたD.T.Lは今後、どんなステージを目指すのか。
D.T.Lは今、Amazonから誠実な仕事ぶりを評価され、拡大プログラムの選定プロセスを経て、DSPとして埼玉県秩父市で2拠点目をやらないかというオファーを受けている。配送だけでなく、商品の仕分けも含め、デリバリーステーションの管理運営すべてを担う内容だ。
さらには、M&Aを実施する計画も。大型トレーラーと大型トラックを約50台所有している運送会社から、事業譲渡してもらう話を進めている。
EC拡大により、ますますドライバー需要が高まっている。「物流業界においでよ」「ドライバーとして一緒に働かないか」と呼び掛ける上で、どんなふうに言えば、魅力が伝わるだろうか。
藤田社長は語る。「かっこつけた言い方になりますが、われわれは、ただ商品を運んでいるのではありません。商品を心待ちにしている人がいる。その商品で何かを新たに始めるのかもしれない。それを使ってプロポーズするつもりの人だっているかも。これって、ものすごく夢とやりがいのある仕事です。だからプライドを持って運ばせてもらおう、と日頃からよく話すんです」。
その思いが、会社の名前「Dream Transport Life Group」すなわちD.T.Lに込められている。Amazonとの直接契約をきっかけにロゴを新しくし、「ますます皆さんの暮らしに夢を届け続けたいという思いを強くしています」と言う。
取材・執筆 稲福祐子 石本融藝
■ディー・ティー・エル
社長:藤田尚晋(ふじた・たかゆき、1974年生まれ)
本社:山梨県中巨摩郡昭和町河西1023-1
甲府営業所:山梨県甲府市徳行2-3-24
法人設立:2005年8月24日(創業1984年)
事業内容:一般貨物運送事業、貨物軽自動車運送事業、第一種利用運送事業、産業廃棄物収集運搬業、仕分け・梱包・発送・配送業務請負業、引越業
アマゾン/配送パートナーの開業を後押し、起業家育成プログラム開始