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連載 物流の読解術 第2回 東京海洋大学名誉教授 苦瀬 博仁

2023年05月18日/コラム

202305 rensai02 - 連載 物流の読解術 第2回 東京海洋大学名誉教授 苦瀬 博仁

ロジスティクスにおける商流と物流

ビジネスにおけるロジスティクス(Logistics)は、商品や物資を顧客の要求に合わせて届けるとき、「商流(商取引流通:発注から受注まで)」と、「物流(物的流通:受注から出荷を経て入荷まで)」で構成されている。

そしてロジスティクスの目標は、「必要な商品や物資を、適切な時間・場所・価格・品質・量(Right Time, Place, Price, Quality, Quantity)」のもとで供給すること」である。これを5Rと称することも多いが、商品(Commodity)や印象(Impression)を含めて7Rとすることもある。また、5Rを「製品、場所、時間、状態、コスト(product, place, time, condition, cost)」とすることもある。

このとき、ロジスティクスを実践するのは、商流を担う荷主(製造業、卸小売業者、消費者など)と、物流を担う物流事業者(輸送業者、保管業者など)である。

「商流」:本源的需要、拡大原理

ロジスティクスを構成する商流と物流には、大きな違いがある。

商流では、受発注により取引を行い、この結果、商品や物資の所有権が移動し、対価として金銭が移動することになる。商流の特徴は、ロジスティクスにおける「本源的需要」ということである。なぜなら、物資や商品の受発注(商流)があってこそ、物流(輸送、保管など)が生じるからである。

また、商流は「より遠く・より高く・より多く」という「拡大原理」とされている。これは、商流を担当する荷主企業(製造業者、卸売業者など)が、「広い市場を求め、多くの利益を求め、多くの販売量を期待すること」で、自らの事業と経営の拡大を目指すからである。

「物流」:派生需要、縮小原理

物流(物的流通)では、「輸送(商品の空間的移動)と保管(時間的移動)を基礎に、流通加工・包装・荷役・情報機能とともに、商品や物資を受注者から発注者に届けること」である。

物流の特徴は、ロジスティクスにおける「派生需要」ということである。なぜならば、物流は、本源的需要である商流(受発注)の結果ないし期待してのみ生じるからである。

また、物流は「より近く・より安く・より少なく」という「縮小原理」とされている。これは、「より短い時間で輸送し、より保管面積を少なくし、より流通加工・包装・荷役などの作業時間を短くすること」で、物流の効率を高めることができるからである。

物流にみる「拡大と縮小」のジレンマ

荷主企業にとって、「商流は拡大原理、物流は縮小原理」の考え方は、受け入れやすい。なぜならば、本源的需要である商流(受発注)の拡大が最優先であり、これにともなう物流の多少の増加は厭わないものの、できるだけ縮小(効率化)したいからである。

一方の物流事業者にとって、「いったん受注した物流業務は、効率化を図って利益向上に結び付けたい」という点では、確かに物流は「縮小原理」である。しかし、ビジネスとしては、「受注できるはずの物流業務が減少し売り上げが減っては困る」し、「荷主企業への物流業務の提案を通じて、売り上げの増加につなげたい」という点では「拡大したい」という面もある。言い換えれば、「物流の縮小原理」と「物流事業者の事業拡大」が併存していることになる。

極めて当然のことではあるが、拡大と縮小の原理が正しいとしても、ビジネスの世界では、状況や立場によって対応も変わることになる。だからこそ、単純に決めつけるのではなく、多様な視点を持つ必要があると思うのである。

<表2-2-1 商流(商取引流通)と物流(物的流通)の違い>
20230516kuse1 - 連載 物流の読解術 第2回 東京海洋大学名誉教授 苦瀬 博仁
出典:苦瀬博仁、サプライチェーン・マネジメント概論、白桃書房、2017年、P.29-35)

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