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物流最前線 MUJIN 物流倉庫自動化への挑戦

2019年10月18日/物流最前線

「ピッキングの自動化は無理」という固定観念が自動化を妨げている

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――   実際にやり取りしてみて、物流事業者の自動化に対する姿勢は。

滝野  この2年位でだいぶ前向きになってきていると感じます。物流の現場が人手不足で相当きついので、そこに対して投資しようという意識が高くなっていますね。

――   その中でも自動化に積極的な分野はどこですか。

滝野  ECの大手などは、事業の拡大に合わせて積極的に自動化を始めています。それに牽引されて、卸売業など自らが商品を扱う事業体で自動化の流れが起こりはじめました。一方、3PLや運送業ではいまだ自動化に消極的な企業が多いように感じます。

――   3PLや運送業で自動化が進まない理由は。

滝野  3PLだと荷主が変わる度に扱う商品が変わってしまい、それまで構築してきたマテハンシステムが役に立たなくなる恐れがあるためです。荷主側と3PL側のどちらが投資を負担するかで話が進まないといったことも多々あります。

それに、これは物流業界全般で言えることなのですが、ピッキングを自動化できるという認識を持っている方がまだ少ないことも大きな問題です。歴史上、ピッキングは人間がやってきたものなので、ピッキングが自動化できないことが問題視されていないのです。物流業の方に業務で改善したい問題点をヒアリングしても、ピッキングを挙げる方はほとんどいません。ピッキングはロボットでは絶対できないものだというのが刷り込まれているからです。

――   この問題を乗り越えるために何が必要でしょう。

滝野  まずは、自動化するということがどういうことなのかを知ることから始めるべきです。ロボットというのは人間と比べて出来ないことだらけなのです。ですから、自動化で先行している自動車メーカーなどは、ロボットに出来ることと出来ないことを見極めて、ロボットにあわせて生産ラインを組んだり、生産計画を立てています。

ですが、物流業の場合は、ただ人をロボットに入れ替えるものだと思っている方がまだまだ多いようで、これでは自動化しても現場の生産性を上げることはできません。物流の現場にはまだ自動化に精通したスペシャリストは少ないのが現状です。ですので、私たちがアドバイスして自動化を手助けできればと思っています。

――   物流業全体に自動化が普及するにはどの程度の期間が必要でしょうか。

滝野  まだまだ時間がかかるでしょう。大企業で一般的に採用されるようになって、そこから中堅企業へと普及し、最後に小規模の企業がチャレンジする流れになりますが、そこに到達するまで最低でも5年以上はかかるのではないでしょうか。

――   顧客とのやりとりで完全自動化を望む声は。

滝野  極力省人化したいという要望はありますが、完全無人化を望んでいる企業は今のところないですね。我々としても完全無人化に拘っている訳ではありませんので、顧客にとって一番良いものが入ればいいと思っています。

迫る自動化のタイムリミット、MUJINがその受け皿になる

<東京都辰巳に開設した新社屋>

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――   辰巳にオフィスを拡大移転しました。ここでの今後の取り組みについて構想を教えてください。

滝野  MUJINは2011年7月に私とロセンCTOの2人で設立して以来、毎年2~3倍のペースで事業規模を拡大しており、これまで1~2年周期でオフィスを移転してきました。以前、押上にあったオフィスも2017年5月に立ち上げたものですが、人員増で手狭になったため、現在、江東区の辰巳にある物流倉庫の2フロアを貸し切った新オフィスへの移転を進めています。

新オフィスには、MUJINコントローラを使って実際のピッキングロボットを操作し、顧客と一緒に自動化について検証するテストセンターを併設するため、広大なスペースを確保しました。テスト機能を本社に置くことで、提案から試験、納入までのリードタイムを短縮できるようになります。

それと、ロボットのショールームも併設する予定です。MUJINコントローラを採用してもらうには、実際にちゃんと動いているのを見て納得してもらうのが一番なのですが、物流システムの展示会は年に数回しかありません。ですので、新オフィスでいつでも展示会ができるようにして、物流関係者がロボットに触れる機会を増やすことで、MUJINコントローラの普及拡大につなげたいと考えています。

――   今後、海外への事業展開は。

滝野  国外では、すでに中国の広州に支店を構えています。今後は米国や欧州にも進出していきたいです。東南アジアからも引き合いは多いですが、実際のところ、現状では人件費が安すぎて投資原資が少ないので、まだ自動化事業を始めるには早いと感じています。

――   アクセンチュアとも協業することになりました。MUJINにとってメリットは。

滝野  アクセンチュアさんは日本でロジスティクスとサプライチェーンにとても力を入れていて、彼らには顧客から物流コストを削減するための相談が寄せられています。その際、自動化を提案しなければならないのですが、彼らはERPなど上流のシステムが専門で、ターミナルなど実際の物流現場については知らないところが多いので、私たちが入ってMUJINコントローラによる自動化を提案することで、彼らをサポートすると同時に販売機会を獲得できると考えています。

それと、アクセンチュアさんはコンサルティングで企業の経営層と繋がっているため、上層部に自動化の投資を直接アプローチできるようになります。自動化投資は費用が高額なので、上層部でないと決済できません。我々は現場から、アクセンチュアさんは経営層から、自動化について上下両方からアプローチをかけることが可能になります。

――   アクセンチュア側のメリットは。

滝野  MUJINコントローラを使って現場が自動化されることで、アクセンチュアさんが提供しているERPのサービスが強化されます。現場では、さまざまな業務が属人化しているため、担当者の勘に頼っている部分が多く、ERPで吸い上げた情報の精度にムラが出ることがあります。吸い上げた情報が間違っていると、せっかくERPを導入しても生産性の改善が見込めません。現場の作業を自動化することが情報精度の向上につながり、サプライチェーン管理サービスの効果を最大限発揮できるようになります。

――   読者へのメッセージを。

滝野  ロボットというものは完璧ではありません。ただし、以前とはだいぶ違うというのを物流関係者の皆さんに知って頂きたい。昔は資金と決断があっても技術がなかったので、自動化投資の効果に懐疑的だったかと思います。ですが、今は技術が揃っているので、資金と決断さえあれば自動化が実現可能な状態になっているのです。ですから、駄目だと思っても一度、MUJINに問い合わせてみて下さい。

中短期的にみて人口が減少していくのは必然です。1年で日本の労働人口が1%ずつ少なくなっていますし、これからもこの傾向が続くのは間違いないでしょう。それに伴って人件費もどんどん上昇していますが、このまま上がっていった時に今のビジネスが成り立つでしょうか。もう時限爆弾が発動しているのです。そこで必ず自動化が必要になってきます。僕らとしてはその受け皿になることで、物流の未来に寄与していきたいと思っています。

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■プロフィール
MUJIN CEO兼共同創業者
滝野一征(たきの・いっせい)

製造業の中でも世界最高の利益水準を誇る超硬切削工具メーカー、イスカル社の日本支社で、生産方法を提案する技術営業として活躍。営業成績1位となるなど輝かしい実績を残す。その後、ロボットの知能化により世界の生産性を向上に貢献したいという想いを胸に、2011年に出杏光魯仙(であんこう・ろせん)博士とMUJIN を設立。

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