連載 現場が変わる人財育成 第23回 菅田 勝

2025年11月19日/コラム

20230911sugata - 連載 現場が変わる人財育成 第23回 菅田 勝

Z世代の活かし方・育て方(23)

労働力不足が深刻化し、物流部門もドライバーを中心に採用の困難さが増し、私たちは「選ぶ側」から「選ばれる側」に変わりつつあります。

やっと採用できても、簡単に退職されてしまう時代。昔ながらの「石の上にも三年」「我慢して耐えろ」「先輩の仕事のやり方を盗め」式の接し方・育て方は通用しません。

Z世代が主流となりつつある今、新人の受け入れや育成・定着の仕方も、個性を尊重し自律的な成長を促す、彼らに寄り添った対応が求められます。

「人」が最も重要な経営資源

連載の第0回で、「People are the heart of Business」という考え方があると述べました。

企業が成長していく上で、「人」が最も重要な経営資源であることは疑いようがありません。物流経営の中心には「人財の育成・確保策」があり、広義の物流サービス力を向上し、この優位性で競争に打ち勝つ必要があります。

この連載では「物流現場の若手やパートも含め全従業員が楽しく学び、明るく元気の出る、そして人が育ち、改善が進むイキイキ職場の構築」を目標に、管理監督職(+班長主任リーダー)クラスの人財育成に焦点を当てた「強くて良い物流現場のつくり方」を紹介してきました。

「さっそく実行してみよう」と感じていただけるよう、実践的内容を紹介してきたつもりですが、いかがでしょうか?

まず組織運営の改善から

人財育成の前に、私たち自身がメンバーから信頼され、この人に協力しようと思ってもらい、個人の価値観と会社の目指す価値観がマッチするよう対話しなければ、何も始まらず、成果も出ないと私は考えています。

そのためには、彼らを理解するように接し方を変えたり、コミュニケーションを活発化したりして、組織運営を参加型にしていく必要があります。

まず職場の風土(雰囲気:チームワークがあり、明るく、前向きなど)を変えることから始めましょう。初期段階では次の3つが重要です。

(1)信頼関係が築ける明るい職場づくり

相互コミュニケーションの率先活動が重要です。例えば、あいさつやねぎらい、名前で呼ぶ対話、えこひいきや差別・放置をしない、など。私たちが明るく、元気で、素直な、分け隔てなく接する実践行動が重要です。

自分はまだ不十分と感じる場合は、第4回(職場活性化5点盛りセット)で述べたように、こちらからメンバーに毎日、最低30回は働きかけてみてください。

これを地道に実践した北関東エリアの某社管理職Nさんは、評判の人気者管理者に変身し、業績も急進しました。営業所の全員から信頼され、かつ、若手や新人が孤独感や疎外感を感じないような明るく活気ある職場づくりを実現したのです。退職者は減り、チームワークも改善、荷主からの評価も好転しました。

このほか第2回で紹介した「あいさつ、褒める、承認する」の実践も、活気ある職場づくりにドンピシャですよ。

(2) モチベーションが高まる職場づくり

一般的な声かけだけでは、人のやる気は長続きしません。例え小さくても具体的な業務の中で、当人がうれしく感じたり、自信を持てたりするように、成長を伝え、積極的に褒めたり顕彰(表彰)したり、コーチング、感謝の声を発し、動機付けしてください。OJTを通じて次のステップの成長につながるモチベーションアップを図ることです。

その効果的方法として連載では、改善提案活動を導入し活発化するようお勧めしてきました。毎月1人1件の改善提案を出すよう働きかけ、提案に対する謝意のインセンティブとして、私は1件当たり100円の報奨金を準備したことがあります。その成果を個人間(1on1)や朝昼礼、会議などを通じ意見交換したことも。顕彰の方法や次ステップへのサポート方法は、いくらでもあります。

毎月1件の改善提案書があれば、身近な業務の中でメンバー自ら目標に取り組んだり、結果に達成感を得たりできます。主体性ある永続的モチベーション活動へと、誘導もできます。

これらの対話行動が活発化してくると、モチベーションが高まり、第5回で述べたように、全員が「元気に出社、笑顔で帰宅」できる組織チームに育ってきます。

(3) 自己実現が進む職場づくり

信頼関係が築ける明るい職場づくりができてきたら、次のステップです。第2回で紹介した「マズロー欲求5段階説」を思い出してください。

アメリカの心理学者マズロー博士は、レベル3水準を「職場における友情、愛情、組織のつながり・チームワークを感じられる水準」と定義しています。最近の言葉でいえば「職場エンゲージメントが醸成され始めた状態」です。

職場への不満感ややる気の無さが引き、退職者も減少。組織運営上、望ましい基盤状態に進み始めたと判断できます。

ここで歩みを止めてはいけません。本来、私たちには組織のパフォーマンスを向上し、顧客価値や企業価値を最大化して、荷主の期待に応え、企業の成長発展を図る役割があります。

マズロー欲求5段階説のレベル4以上(自我欲求が満たされつつある状態)へ、さらには全員をレベル5(自己実現の欲求、やりがい感の獲得、個々人の可能性を最大限に引き出し、個人も組織も業界トップ級で自己成長を実感できる状態)に上げねばなりません。

では、どのように組織運営の改善に取り組めば良いか。

<図1>
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ヒントをくれる有効な考え方が、図1の活動図です。この図は、新人・若手を育成する時に有効とされる概念行動図で、分かりやすく、非常によくできているので紹介します。

まず、「WILL:Focusステップ」。メンバーの主体性を引き出すため、自分の人生のビジョンをどう考えているのか、問いかけるステップです。

私たちがこうしてあげたいと願っても、当人にその気がなかったら響きません。1on1やチームミーティングで「自分はこうなりたい、こうしたい」という気持ちを引き出しましょう。信頼関係を築くための重要な初期、「聴く力」が必要です。

次は、「MUST:Learnステップ」。ビジョンを実現するために、どうスキルアップ・専門性獲得に取り組んでいくのか。上長である私たちリーダーが、アドバイスしたりヒントを与えたりして、当人が自ら学ぶよう誘導するステップです。

私は、スキルは今一歩でも真面目で努力しそうな人(特に若手)には、思い切って勉強会などの先生役や、標準マニュアル・教材制作などのリーダー役を任命していました。彼らが自己研さんに努め、職場をリードできる人財に到達できるよう、自走できる人財の育成に腐心しました。

3番目は、「CAN:Actionステップ」。蓄積した専門性を生かして成果を出すための業務を任せるなど、活躍の場を提供するステップです。

小さなタスクでもいいので、当人の将来を見据え、ノウハウ蓄積のレベルに応じた業務を準備し、チャレンジすることを薦め、結果を認め、賞賛するPDCA育成サイクルを回してきました。

CAN活動の事例としては、改善提案制度の表彰式を継続し、個人やチームの努力をたたえるようにしてきました。

また、荷主に誤出荷で迷惑をかけた際は、クレームを出した作業者全員が荷主の責任者の前で一人ずつ再発防止策を直接説明する場を設け、2度と失敗しない決意と仕組みづくりを説明してもらいました。責任者の私にとっては、荷主に納得してもらえるか冒険でしたが、作業チーム全員にとっては、大変緊張しつつも生涯忘れられない学びの場になったと思います。

<図2>
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図2は、某社の小集団活動で、改善結果報告会の様子です。常に良いことばかりではなく、活動プロセスや結果が思わしくない場合は、信頼関係を崩さないような𠮟り方で、指導サポートをすることもありました。

「CAN」の結果、当人の自信(Confidence)にもなるし、より重要度の高い職責や業務に任命(Assign)される好循環につなげていきます。「自分は期待されている。評価(尊敬)されている」と感じられると、仕事がおもしろくなり、さらに頑張って工夫しようとする動機も生まれ、自走できるプロフェッショナル専門人財に育ちます。定着もしてくれます。

いよいよ次回は最終回。まとめとして人財育成について述べます。

■連載 現場が変わる人財育成

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