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「適温相場」の物流施設市場
賃料上昇には消費拡大がカギ

2021年12月14日/物流最前線

<坂口社長>
20211211cbre 03 520x347 - 物流最前線/トップインタビュー CBRE 坂口英治 社長

さまざまな価格高騰に危機感

――  さて、本題に入りますが、このコロナ禍の中、Eコマースの活況を受けて、物流施設開発は順調ですし、リーシングも好調なように感じますが。

坂口  株式市場でよく言われる言葉に「適温相場」というものがあります。経済が、過熱せず冷めすぎてもいない状況を指してのものです。我々は物流施設の賃貸とか売買が主な業務でやっていますが、確かに今はその状態がとても良い状況です。空室率がとても低く、低いにも関わらず賃料はそこそこにしか上がらない。普通、空室率が低いと極端に賃料は上がるものです。ですので、借りる立場からすれば、賃料が大きく上がらないなら、まずはスペースを確保しておこう、そこから荷主を探そうという思考にぴったりな環境なんですね。まさに「適温相場」というわけです。

――  リスクがあまりないということですね。

坂口  そうです。多少リスクをとったとしても、あまり上がらないだろう、という安心感。現在は、Eコマースで需要が伸びているので、多少高くてもまだまだ伸びるだろうと考え、今確保しておくという流れになっています。ですので、テナントを見つける、買い手を見つける立場からはとても良い環境です。

――  落とし穴はありませんか。

坂口  そこです。すごく良い環境だからこのままいくかといえば、ちょっと危機感を覚えだしています。それは、物価の上昇です。石油や軽油、原材料の価格が軒並み上がっています。それに伴い、物流施設の建設価格も上がってきています。我々は、工場跡地や遊休地等を売り手側のエージェントとして売却することを得意としていますが、すごい高値となります。建築費も上がっており、賃料上昇をもう少し見込まないと、ビジネスとして成り立たなくなります。賃料を上げていくためには、力強い消費の需要がなければなりませんが、世界に比べて日本はまだまだ弱いですね。

――  消費が弱いというのは、賃料等の価格に跳ね返りますね。

坂口  弱いですね。米国とか欧州では消費は結構強いんですね。日本のこの弱い消費マーケットで、どこまで最終価格に転嫁できるのかが、今後のカギです。例えば、エネルギーコストの上昇はまさに「不都合な真実」そのものです。CO2削減に努めようとすればするほど、電気代とかエネルギーのコストは高くなるという現実が目の前に見えています。しかし、そこから逃げ出せないとなると、エネルギーコストは上がる一方です。さらに、人件費も建設費もすべて上昇しているので、これをどうやって賃料に転嫁していくのか、ということをよく顧客から尋ねられます。今は、物流事業者もメーカーもエンド価格を上げきれずに、我慢している状況だと思います。物流施設開発も右肩上がりという前提を置いておいて、また、別の観点から違った見方をしていく時期ではないかと考えています。

――  確かに、エネルギーについては自然エネルギーや非化石エネルギー等の普及までは、コストは当分上がらざるを得ない状況ですね。

坂口  環境対応が今後は必須ですからね。もう一つ、これまでの常識を変えないといけないのが、先ほどのインフレ傾向の経済と共に「グローバルサプライチェーン」の課題です。これは、東北大震災の時も叫ばれたのですが、日本だけの話ではなく、世界的な視点で見ないといけません。以前、中国が「中国製造2025」という習近平指導部が掲げる産業政策を出して、2025年までに、世界の製造強国の先頭グループ入り、自分たちだけでサプライチェーンを構築するという話です。これは西側諸国に衝撃を与えました。現在、半導体の問題で課題が明らかになりましたね。コロナ禍の中で、半導体不足が起き、それに対して、TSMCが日本に、サムソンが米国に新工場を作ると表明しました。何らかの対策をしないと、半導体のサプライチェーンが中国に握られてしまうということで、西側諸国が「グローバルサプライチェーン」の見直しを始めたわけです。

――  グローバルなサプライチェーンのリスク管理が必要ということですか。

坂口  その通りです。これまではグローバライゼーション一辺倒で、とにかく安く生産できる国・地域でということが中心でしたが、奇しくもコロナ禍での半導体不足で「グローバルサプライチェーン」の脆弱さがあらわになったということですね。グローバライゼーションは今後も進むでしょうが、日本だけで、生産を完結できるように一部の工場を国内に戻そうとか、リスク回避するために、在庫はある程度持たなくては、という動きにつながるものと思います。それが、新しいニーズとして、物流事業の中にも徐々に表れてくると思います。我々も、そういうニーズを見逃さないようにしていきたいと思っています。

――  半導体の供給不足の影響が国家間の軋轢、貿易戦争まで生む流れというのは危険ですね。

坂口  危険ですけど、この流れは当分続くと思います。ブロック経済を成立させようとする動きは、中国が頑張れば頑張るほど、米国が脅威を感じて独自のグローバルサプライチェーンを築いていこうとします。その中に当然日本も含まれているので、そこで生まれるニーズにも対応が必要です。また、インフレが本当にしばらく続くのなら、在庫を今のうちに多く抱えていたほうが何か月か先に購入するより有利という発想もありますから、デフレに慣れ切ったメンタリティーを我々自身も変えていかないと、顧客に良いアドバイスができないものと考えています。

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