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連載 物流の読解術 第0回 東京海洋大学名誉教授 苦瀬 博仁 

2023年04月07日/コラム

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プロローグ  危機を克服するための「物流の読解術」

東京海洋大学 名誉教授 苦瀬博仁

物流の「浸透」

物流を学び始めたのは、いまから約半世紀前の大学院生のころだった。当時は、「物流」とともに「物的流通」という用語も使われていたが、どちらも一般的な言葉ではなかったように思う。このため、専門書や文献などを通じて理解を深めていった昔と違って現在は、「物流」という用語が、一般の人々の間でも浸透しているように思う。

たとえば、テレビのニュースや新聞では、「降雪により物流が止まっています」、「宅配便の物流では配送ロボットが活躍しています」などは、よく耳にするフレーズである。また、物流事業者のテレビCMには、男子アイドルグループをはじめ、有名女優やプロゴルファーなどが出演しているが、これも世間に受け入れられている証だろう。

日常生活においても、デジタル化の進展によるネット通販の普及やデリバリーサービスによって、多様な商取引の普及にともなう物流の需要増大につながっている。

「物流」は、言葉としても日常生活においても、人々に浸透し定着しつつある。

物流の「危機」

物流が浸透するにつれて、「危機」にも直面するようになっている。環境問題や燃料高騰問題などもあるが、物流事業者にとって最大の危機は「労働力不足と2024年問題」だろう。

政府の資料によれば、道路貨物運送業の運転従事者は、2015年の76.7万人から2030年の51.9万人と、15年間で24.8万人(約32%)減少するとしている。このような問題を抱えているなかで、働き方改革の一環として「物流の2024年問題」(トラックドライバーの時間外労働の上限規制)が導入されることになっている。

一部で、「人手不足なのだから、上限規制は逆行している」という意見もあるようだが、むしろ筆者は「過酷な労働条件を解消しない限り、労働者不足は解消しない」という趣旨と理解したい。

2024年問題の解決策の例
1.サプライチェーン全体の効率化(生産計画と輸配送計画の調整など)
2.物流の効率化(積載率の向上、共同輸送、リレー輸送、共同配送など)
3.物流システムの活用(待機時間の解消、過剰在庫の削減、多頻度配送の削減など)
4.人材確保(女性・高齢者の登用、長時間労働の是正、時短勤務制度など)
5.物流に関する広報強化(物流問題への理解)

2024年問題とは何か
1.ドライバーの時間外労働時間、960時間/年
2.不足の実態:2017年度10.3万人、2025年度20.8万人、2028年度には27.8万人
充足率:   90.5%、        81.9%、        76.3%
3.物流業界:売り上げ減少、ドライバーの収入減少、運賃上昇
4.労務管理:規程、給与体系、勤怠管理、安全管理、コンプライアンス
5.荷主リスク:運賃値上げ、長距離輸送のりードタイム延長配送ルートの見直し、
集荷締め切り時間の繰り上げ、宵積みの再検討

物流の「混乱」

2024年問題に端を発する「物流の危機」に対して、「物流の混乱」も起きているように思う。

第1は、「物流の解決策に関する混乱」である。たとえば、2024年問題では、しばしば表に示すような解決策があげられている。これらの対策は正しいと思うが、その一方で従来からの対策でもあるように感じてしまう。解決策としての目標を描くとき、仮に「積載率の向上」を掲げたとしても、その目標に至る「具体的な道筋」が描かれないことには、実現性は乏しくなる。また、数少ない先進的事例の紹介も多いが、目標が実現できなかった過去を問い返すことは少ない。このため、目標と現実の乖離に戸惑うこともあれば、事例と現状の違いに溝を埋められないこともある。

第2は、「新たな専門用語がもたらす混乱」である。物流の分野では、新たなカタカナやアルファベットの用語が、登場しては消えていく。少し前であれば「デマンドチェーン」や「ロジスティクス4.0」もあった。今では「デジタル化」に代わって「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」の花盛りである。しかし、不勉強もあってか、新しい用語に追いつけないことも多い。

物流の「読解」

物流が「浸透」しつつも「危機」と「混乱」が存在するならば、これらを克服しなければならない。そして、混乱と危機を克服するためには、第一歩として業界や企業の垣根を越えた「物流に対する、正確な理解」が不可欠である。だからこそ、業界や企業ごとの「物流の方言」を「標準語」に翻訳し、「文化の違い」を「相互理解」につなげたい。見方や立場の違いを理解してこそ、真の解決策に近づくのではないかと考えている。

そこで本連載は、「物流の読解術」と題して、「物流に対する多様な考え方や受け取り方の違いを、少しずつ解きほぐしていきたい」と考えている。
これから暫くの間、お付き合いいただければ、幸いである。

解決策の提案の例
(1)いちよし経済研究所
1. 輸送効率の改善、
2. サプライチェーン全体の効率化、
3. ドライバーの負担軽減
(2)船井総研
1. 人材確保(女性・高齢者の登用、長時間労働の是正、時短勤務制度)
2. システムの活用(予約受付で荷待ち解消、過剰在庫の削減)
3. 物流に関する広報強化(物流問題への理解)

苦瀬の見解
より本質的な解決のためには
1. 賃金の上昇(→運賃の上昇→需給バランスの調整→運転手車両の不足解消)
2. 受発注の改善とサービスレベルの調整(例、JITである限り解決不可能)
3. 物流効率化は荷主次第(→荷主責任の追及→省エネ法と同じ扱いは可能か)

プロフィール
苦瀬博仁(くせ ひろひと)
1973年早稲田大学理工学部土木工学科卒業、同大学院博士課程修了、工学博士。日本国土開発(株)を経て、1986年東京商船大学助教授、1994年同教授、2003年大学統合により東京海洋大学教授、理事・副学長を経て、2014年から流通経済大学教授。現在、東京海洋大学名誉教授。この間、社会資本整備審議会臨時委員など、政府自治体の委員を多数。代表的な著書に、「ソーシャル・ロジスティクス」、「物流と都市地域計画」、「ロジスティクス管理3級・2級」など。

資料:経済産業書・国土交通省・農林水産省、『我が国の物流を取り巻く現状と取組状況』、2022年9月2日、p8、p9、p16~p18
https://www.mlit.go.jp/common/001354690.pdf

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