マテハン機器大手メーカーの豊田自動織機トヨタL&Fカンパニーは、この秋注目のフォークリフトの新製品を発表した。現在、3つのゼロを目標に据え、物流現場改善や環境への対応、そして人手不足対応としての自動化を積極的に進めている。同社技術面での責任者の一人でもある経営役員の一条 恒R&Dセンター長は「物流の質的な変化、そして2024年問題と、人手不足問題は待ったなしの状況。労働負荷を減らし、人間のパートナーとなる物流機器の開発は喫緊の課題。そして、単なる機器メーカーからシステム全体を提案する企業として様々な機器開発に力を注いでいる」と話す。同社の持つ次世代フォークリフトや様々なマテハン機器類の開発でのポリシーと、次代となる自動化のキーワードとは何かなどを伺った。
取材:10月6日 於:豊田自動織機 東京支社
3つのゼロ目標でフォークリフト新製品
―― この秋の新製品で、注目のフォークリフト「トラック荷役対応自動運転フォークリフト(参考出品)」と、水素を利用した「燃料電池フォークリフト」(FCフォークリフト)を発表しました。
一条 新製品の説明の前に、フォークリフトについては、3つのゼロにチャレンジしています。3つのゼロとは、事故ゼロ、カーボンゼロ、そして自動化によるオペレーターゼロということです。最初の事故ゼロですが、厚生労働省の調べでは、実は2007年から2021年の間に、フォークリフトが関係する事故が年間約2000件も報告されています。その中で、作業中に年間約20人の方が亡くなられています。その多くは、フォークリフトの講習を受けていない人たちによるものですが、これは業界を挙げて取り組まなければならないことです。
―― 年間20人とは多いですね。その原因とは。
一条 例えば、これまではフォークリフトが急旋回した場合に、傾いて転倒するといった事故が多かったのです。そこで、アクティブ・サスペンションといったシリンダーで抑えて、車体が傾かないようにする機能の搭載を始めました。また、後方の安全確認も大切です。昨年発表した後方作業を確認するカメラを装備し、作業者を検知すると走行スピードを制御したり、発進時には走行しないようにするSEnS+(後方作業者検知運転支援システム・車両連動タイプ)という機能も開発しました。開発には、乗用車の安全装置とは違う、フォークリフトならではの難しさがありました。フォークリフトは倉庫や工場において、作業者と協働で作業するものもあり、乗用車と同じ検出能力を持つ機能を設けると、検出し過ぎてその場から動けなくなるケースがあります。そこで重要になるのが、作業者との協働作業に支障のない検出範囲を持つことができるアルゴリズムの開発・研究です。この技術が安全なフォークリフト実現のキーとなります。
―― アルゴリズムというソフト的技術が重要なのですね。そして、二つ目のゼロがカーボンニュートラルへのチャレンジですね。
一条 2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。そのため、カーボンニュートラルは今後避けては通ることのできないことですし、日本中の多くの企業で取組を強化しています。現在、カーボンニュートラルを宣言している日本企業は200社以上にのぼります。また、乗用車と比べてフォークリフトにおいては電動化が進んでおり、現在は63%が電動フォークリフトとなっております。そのなかで、当社の製品に関しても物流事業者のCO2削減に貢献できるものとして、水素による燃料電池フォークリフトを開発したわけです。
―― 新しい倉庫では、最初から電動フォークリフト用やAMR用に充電設備を整えているケースが多くなっています。
一条 そうですね。我々のビジネスドメイン(企業が持続的な成長を可能とする自社特有の事業活動の領域)は構内物流ですから、乗用車やトラックほどインフラ整備が大変ではありません。乗用車の場合、充電ステーションをどこに作るか、誰が作るか等から始まりますが、構内という決められた場所に備えればよいわけですから、倉庫や工場などでのフォークリフトの電動化は以前から進んでいました。今後、電動化ではさらなる高出力化・高性能化を目指していきます。また、エンジン自体は非常に優れたデバイスなので、化石燃料を使うのではなく、水素やバイオ燃料、合成燃料でCO2の出ないエンジン車の展開も進めています。
―― CO2削減対策としてフォークリフトについては、今後、電動化とFC化と新エンジンの開発が中心になるわけですね。
一条 環境については全方位で技術開発に取り組んでいます。新エンジンはまだ完成していませんが、燃料電池車のフォークリフトについては、第2世代機を発表したばかりです。これは2020年にトヨタ自動車のMIRAIが新型となったため、そのMIRAIと同じセルを採用してフォークリフトもブラッシュアップさせました。システムコストを大幅に減らし、価格も従来比で30%ほど下げています。さらに、従来機に比べて耐久性を2倍に高めています。購入時には国からの補助もあります。すでに、国内では400台ほどの販売数となっており、物流事業者からも高い興味を示していただき、問い合わせも多くなっています。実は、米国では、4万台が燃料電池車になっており、日本ではやはり水素ステーションの設置が遅れていることが大きいですね。しかし、構内用の水素ステーションのコストは、乗用車やトラックの水素ステーションに比べて約半額ほどで設置できます。今後もトヨタ自動車の技術を活用して、より品質の高いものを作っていくつもりです。
―― 今後、電気を利用するに際してもクリーンエネルギーを使う必要性が指摘されています。
一条 そうです。井戸からタイヤまで、ウェル・トゥ・ホイール(原油の井戸から化石燃料を吸い上げた後、車輪が動作するのに要する燃料の総量や効率、CO2の排出を計算するべきという概念)という言葉がありますが、電気を作るときにいかにCO2を排出しないように、太陽光や再生可能エネルギー等の利用をすることも併せて提案していきたいと思っています。
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